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外伝5 ハヌマ王国及び軍船カッパールスの受難2
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「うっ暑い。ぐっ痛っ!」
(なんだ?全身のそこかしこがいてぇ)
アドランは気がつくと全身に走る痛みに身を縮めた。痛みになれると彼の思考が回り始める。
(そっそうだ。津波が起きて俺は…ともかく、みんなは…どうなった)
痛む頭を振りつつ、アドランはふらふらと立ち上がった。
太陽は中天にあり、津波が起きてから大分時間が立っていることが察せれた。
甲板は酷い有様だった。甲板においてあった物資はなくなっており、のマストはすべてへし折れてない。船の縁はマストを固定していたロープを結んでいた船の場所は壊れていた。
何人か同僚が倒れている。
アドランは、それを横目にそのまま縁に立って周囲を見た。
「嘘だろ」
アドランの目の前には、見慣れた光景である海原が広がっていた。
それから、反対側の縁に、そして船首、船尾へと追われているかの様に、確認していく。だが、それでも見えるのは海ばかり。彼の見たかった大地は何処にも見当たらなかった。
カッパールスは、大海原で漂流していた。
「くそっくそっどうする!」
絶望的状況に、アドランは、頭を掻き毟る。その時、倒れた同僚達の姿が目に入った。
(何をするにもとにかく皆を起こさないと!)
アドランはそのうちの先輩乗組員に近づくと、起こすために体をゆする。
「起きてください!アートンさん!!起きて!おい!起きろ!」
「うぅ。うわぁあああああああ!津波が!」
アドランの先輩乗組員であるアートンは、気がつくと同時に、手足を場立つかしえて暴れ出した。
「くっ落ち着いてください!津波はもう終わりました!」
それを甲板に押さえつける。しかし、アドランを上回る、体格を持つアートンを押さえつけるのは一苦労だ。
「えっあっ…アドランか…ぐっ!」
我を取り戻したアートンは、右手の激痛に気がついた。
アドランが、アートンが押さえた彼の右手を見ると、指があらぬ方向に曲がっているのが見えた。
「先輩大丈夫ですか!」
「ぐぐイテェ。アドラン。今どうなってる?ここは何処だ?」
「わかりません。四方を確認しましたが、陸地は見えません。それより指を!」
「そうか…俺の事はいい。そんなことより生きている奴を全員叩き起こせ!命令だ!」
「ぐっ!了解です」
アドランは、先輩に従い船のくまなく周り、生存者を探した。
アドランの見つけた同僚の全員が大なり小なり怪我を負いた。中には、船の構造物にぶつかり死んでいるものも居た。
アドランは、見つけた怪我人を甲板に集める。甲板では、比較的軽症だった者が出来うる限りの治療を行っていた。
動ける乗組員は手分けして船内から、死んだ同僚の死体を甲板へ運んだり、船内を回って損害の確認をしている。
怪我人を甲板に集め終えるとアドランは、船内の廊下で座り込んだ。
今甲板では、怪我人達のうめき声が、そこかしこで上がり、とても休める場所ではなかったからだ。
そこで災害によって麻痺していた感情があふれ出す。故郷が津波に飲まれ、同僚も多くがその衝撃で死んだ。その現実がアドランの心を塗りつぶす。
体がガタガタと震え、涙がとめどなく流れ出る。声を必死に押し殺し。身を縮めて一人慟哭する。
その時、船底に向かう階段から、上ってくる足音がした。
アドランは、はっと顔を上げると慌てて顔を拭い、パン!と気合を入れるために叩く。
幼い頃、彼の爺さんに男の泣き顔など、人に見せられるものではないと言われたからだ。
足音の主は、老人の船員だった。老人の頭には、血の滲んだ包帯が巻かれているが、その目には、力強い光があった。
「ダダ爺。どうだった」
アドランは、ただ休憩しただけという風にだらしなく壁に寄りかかり、声が震えないように注意しながら聞いた。
「アド坊か。見てきたが船底は無事じゃ。沈むことは無い」
ダダ爺は、このカッパールスで一番年長の乗組員だ。船の事を知り尽くしており、船長であってもダダ爺の意見に対しては無下にには出来ないほどだ。
アドランも、この船に配属されてからは毎日のように怒鳴られながらも世話になっていた。
「よかった。でも、俺達生きてかれるかな?沈む心配が無くても何処にもいけないんじゃ…」
「不安になるのも分かるが、そんな事考えても無意味じゃぞ。助かる時は助かるし、助からん時は助からん。じゃが、生き延び続ければ助かる可能性は常にある。そんな事考える前に出来ることするんじゃ」
「でも…」
「ええい!デモもクソもあるか!馬鹿者!休憩はしまいじゃ!動け!働け!余計な事を考えれるのは、余裕がある証拠じゃ!おら!動け!働け!じゃ無ければワシが殺してやる!」
「はいぃぃぃ!」
老人とは思えない声量で怒鳴られたアドランは、飛び跳ねるように立ち上がると、甲板へと走る。
甲板に戻ると、そこには、副長がアートンに治療されながら難しい顔をして話し合っていた。
生存者の中には、副長もいた。彼は、舵に自身の体をロープで固定していたお陰で助かっていた。
「副長。ご無事で何よりです」
「ふん。無事だったとしても、船がこの状態ではな…。つつつ」
副長は、部下であるアートンに労われたが、顔は渋い。
彼は左腕を骨折していたものの、それ以外は無事だった。しかし、無事だった乗組員達から上がってくる船内の状況は、芳しいものではなかった。
カッパールスの自慢であった快速を生み出すマストは、すべて折れた。折れているだけならまだ良い。最悪なのは折れたマストが津波に流されてしまった事だ。マストが折れてしまっても、それでも繋ぎなおせる可能性があった。だが、なくなってしまってはさすがに無理だ。さらには、舵も破壊されている。もはや船が浮かんでいること事態が奇跡だといえる。そのほかに、船に積まれていたカッターボートは、一艇の除いてほかはすべて使用不能になっていた。
「副長!重傷者を一箇所に集め終わりました!」
そこへ、ダダ爺に怒鳴り飛ばされ船尾楼から飛び出してきたアドランが報告する。
「そうか。で人数は?」
「8名です」
アドランをねぎらうことも無く、副長は聞く。
「死亡したのは3名で行方不明が4名か…カッパールスの乗組員は50名。半舷休息で25名に減り、そこからさらに死亡、怪我人、行方不明者を引くと…」
「動けるのは、副長と自分を含めて10名になります」
「ふん。貴様は指を折っているだろうが、怪我人に数えておけ」
「既に、治療しましたんで問題ありません」
そう言うとアートンは、自身の手を見せた。その辺に落ちていた木の破片を添え木にして、折れた指を継ぎなおした手を見せた。
「それで水と食料は?」
「はっ。現在の生存者からすると四日から五日程度かと…」
アートンが残りの食料からすばやく計算する。
「それだけなのか…。確かに寄港して、残っていた食料はほとんど食ってしまったからな。新鮮な水があるだけマシというものか。救助は…無いだろうな」
「あれだけの津波です。本国もそれ所では無いでしょう。唯一希望があるとすれば勇者様ですが…」
「勇者様にはアポリオンの撃退をしてもらわねばならんから無理だ」
副長は唯一とも言えるすっぱりと希望を切り捨てた。
副長は水平線のほうへと目を向けた。
「現状我等に出来ることは無いな。それにもう日も落ちる」
既に太陽は水平線に消えかけ、これから夜になるという時間だった。
「今日はもう寝るしかあるまい。怪我人は食堂に寝かせておけ。あと、夜は最低限の見張りを残すのを忘れるな」
「はっ。ではアドラン。お前が最初の見張りだ。交代時間はいつも通り。いいな?」
「えー!えっいや、はっ!了解しました!」
全身の痛みで目を覚まし、それからずっと働き通しだったアドランは嫌だったが、上官からの命令は絶対だ。
その見張りの最中に、カッパールスのはるか上空をザムイーワックを乗せたトブタイが通過したのだが、アドランは気付かなかった。
翌日、アドランは、節約の為、量の足らない朝食をもそもそと食べ終えると、食堂に居る怪我人の世話する。動ける人数が少ないので、一通りの世話を終えるのに昼まで掛かった。
配給された朝と変わらぬ昼食を取ると、アドランは、日差しの強い甲板に出た。
アドランは、そのまま船尾楼の壁にもたれるとずるずると背中を壁にこすりながら座り込んだ。
(俺達このまま死ぬのかな?なぁ爺ちゃん)
食料は少なく、仲間もほとんど死んだ。故国も大きな被害を出し、船も動かせない。唯一救いといえるのが王城が無事という事だが、それでもこちらに救援を出せる余裕は無い。
その時、船の縁で見張りをしていた同僚が叫んだ。
「左舷!接近する船影あり!」
「何だと!何処だ!」
アドランは、立ち上がって、見張りの隣に並び、指差したほうを見る。
「あそこだ!」
確かに、まだ小さいが船影が見えた。
「やった助かる!」
思わず助かると思ったアドランが歓声をあげる。
だが、隣で望遠鏡を覗き込んでいた見張りは否定した。
「そう、うまくは行かねぇようだぜ!チクショウ海賊だ!あの旗は…ガッソル海賊団!」
「よこせっ!」
船室から出てきた副長は、見張りが覗いていた望遠鏡をひったくると、覗きこんだ。
「クソッタレが!動ける奴は戦闘準備!」
敵船を確認した副長はつばを飛ばしながら命令する。
「副長!現在使用可能なバリスタはありません!それに武器庫にある武器も津波のせいでほとんど使いものになりません!」
「ならば、モップでも鍋でも何でもいいから持たせろ!」
「たとえ武装があったとしても、現在の戦力では、奴等に勝てるとは思えません!」
「そんな事は分かっている!だが、こちらが戦う意思を持っていると思わせなければ、交渉も出来んだろうが!あと、いざとなったら船尾楼に立てこもる準備もして置け!」
「了解しました!」
海賊船は、ゆっくりとだが、着実にカッパールスの方へと来ていた。
「やはり見逃してはくれないようですね」
「ふん。私とて海賊船が、今のカッパールスの様であれば迷わず襲い掛かる」
副長が後ろを振り返る。そこには、折れたモップの柄にナイフをくくりつけた物や、壊れた船の破片で武装した乗組員が不安な表情をして集まっていた。
数少ない怪我らしい怪我をしていないアドランは、数少ない無事な武器の一つである短剣を持たされた。
攻撃が来ないことを確認すると海賊船が悠々と近づいてきた。
ガッソル海賊団は、ハヌマ王国周辺の海を縄張りとする海賊だ。商船であれば、そのすべてを奪い去る極悪非道の海賊だとして有名であった。ハヌマ王国としても討伐すべく、何度も軍船を差し向けているが、軍船の姿を見つけるとすぐに逃げに周り捕まえることも出来ず、おとりの船団を使用した作戦も何度か行われたが、その際は姿すら見せないかった。ハヌマ王国内部から情報が漏れているという噂されていた。
以前は、帝国との戦争を後ろから脅かされては適わないと、大規模な討伐作戦が極秘裏に進んでいたが、それもアポリオンの再来によってそれ所では無くなった。
「よう!栄光あるハヌマ王国海軍の諸君!元気かね?ハハハッ」
それは、ガッソル海賊団の団長であるガッソルの声であった。
(なんだ?全身のそこかしこがいてぇ)
アドランは気がつくと全身に走る痛みに身を縮めた。痛みになれると彼の思考が回り始める。
(そっそうだ。津波が起きて俺は…ともかく、みんなは…どうなった)
痛む頭を振りつつ、アドランはふらふらと立ち上がった。
太陽は中天にあり、津波が起きてから大分時間が立っていることが察せれた。
甲板は酷い有様だった。甲板においてあった物資はなくなっており、のマストはすべてへし折れてない。船の縁はマストを固定していたロープを結んでいた船の場所は壊れていた。
何人か同僚が倒れている。
アドランは、それを横目にそのまま縁に立って周囲を見た。
「嘘だろ」
アドランの目の前には、見慣れた光景である海原が広がっていた。
それから、反対側の縁に、そして船首、船尾へと追われているかの様に、確認していく。だが、それでも見えるのは海ばかり。彼の見たかった大地は何処にも見当たらなかった。
カッパールスは、大海原で漂流していた。
「くそっくそっどうする!」
絶望的状況に、アドランは、頭を掻き毟る。その時、倒れた同僚達の姿が目に入った。
(何をするにもとにかく皆を起こさないと!)
アドランはそのうちの先輩乗組員に近づくと、起こすために体をゆする。
「起きてください!アートンさん!!起きて!おい!起きろ!」
「うぅ。うわぁあああああああ!津波が!」
アドランの先輩乗組員であるアートンは、気がつくと同時に、手足を場立つかしえて暴れ出した。
「くっ落ち着いてください!津波はもう終わりました!」
それを甲板に押さえつける。しかし、アドランを上回る、体格を持つアートンを押さえつけるのは一苦労だ。
「えっあっ…アドランか…ぐっ!」
我を取り戻したアートンは、右手の激痛に気がついた。
アドランが、アートンが押さえた彼の右手を見ると、指があらぬ方向に曲がっているのが見えた。
「先輩大丈夫ですか!」
「ぐぐイテェ。アドラン。今どうなってる?ここは何処だ?」
「わかりません。四方を確認しましたが、陸地は見えません。それより指を!」
「そうか…俺の事はいい。そんなことより生きている奴を全員叩き起こせ!命令だ!」
「ぐっ!了解です」
アドランは、先輩に従い船のくまなく周り、生存者を探した。
アドランの見つけた同僚の全員が大なり小なり怪我を負いた。中には、船の構造物にぶつかり死んでいるものも居た。
アドランは、見つけた怪我人を甲板に集める。甲板では、比較的軽症だった者が出来うる限りの治療を行っていた。
動ける乗組員は手分けして船内から、死んだ同僚の死体を甲板へ運んだり、船内を回って損害の確認をしている。
怪我人を甲板に集め終えるとアドランは、船内の廊下で座り込んだ。
今甲板では、怪我人達のうめき声が、そこかしこで上がり、とても休める場所ではなかったからだ。
そこで災害によって麻痺していた感情があふれ出す。故郷が津波に飲まれ、同僚も多くがその衝撃で死んだ。その現実がアドランの心を塗りつぶす。
体がガタガタと震え、涙がとめどなく流れ出る。声を必死に押し殺し。身を縮めて一人慟哭する。
その時、船底に向かう階段から、上ってくる足音がした。
アドランは、はっと顔を上げると慌てて顔を拭い、パン!と気合を入れるために叩く。
幼い頃、彼の爺さんに男の泣き顔など、人に見せられるものではないと言われたからだ。
足音の主は、老人の船員だった。老人の頭には、血の滲んだ包帯が巻かれているが、その目には、力強い光があった。
「ダダ爺。どうだった」
アドランは、ただ休憩しただけという風にだらしなく壁に寄りかかり、声が震えないように注意しながら聞いた。
「アド坊か。見てきたが船底は無事じゃ。沈むことは無い」
ダダ爺は、このカッパールスで一番年長の乗組員だ。船の事を知り尽くしており、船長であってもダダ爺の意見に対しては無下にには出来ないほどだ。
アドランも、この船に配属されてからは毎日のように怒鳴られながらも世話になっていた。
「よかった。でも、俺達生きてかれるかな?沈む心配が無くても何処にもいけないんじゃ…」
「不安になるのも分かるが、そんな事考えても無意味じゃぞ。助かる時は助かるし、助からん時は助からん。じゃが、生き延び続ければ助かる可能性は常にある。そんな事考える前に出来ることするんじゃ」
「でも…」
「ええい!デモもクソもあるか!馬鹿者!休憩はしまいじゃ!動け!働け!余計な事を考えれるのは、余裕がある証拠じゃ!おら!動け!働け!じゃ無ければワシが殺してやる!」
「はいぃぃぃ!」
老人とは思えない声量で怒鳴られたアドランは、飛び跳ねるように立ち上がると、甲板へと走る。
甲板に戻ると、そこには、副長がアートンに治療されながら難しい顔をして話し合っていた。
生存者の中には、副長もいた。彼は、舵に自身の体をロープで固定していたお陰で助かっていた。
「副長。ご無事で何よりです」
「ふん。無事だったとしても、船がこの状態ではな…。つつつ」
副長は、部下であるアートンに労われたが、顔は渋い。
彼は左腕を骨折していたものの、それ以外は無事だった。しかし、無事だった乗組員達から上がってくる船内の状況は、芳しいものではなかった。
カッパールスの自慢であった快速を生み出すマストは、すべて折れた。折れているだけならまだ良い。最悪なのは折れたマストが津波に流されてしまった事だ。マストが折れてしまっても、それでも繋ぎなおせる可能性があった。だが、なくなってしまってはさすがに無理だ。さらには、舵も破壊されている。もはや船が浮かんでいること事態が奇跡だといえる。そのほかに、船に積まれていたカッターボートは、一艇の除いてほかはすべて使用不能になっていた。
「副長!重傷者を一箇所に集め終わりました!」
そこへ、ダダ爺に怒鳴り飛ばされ船尾楼から飛び出してきたアドランが報告する。
「そうか。で人数は?」
「8名です」
アドランをねぎらうことも無く、副長は聞く。
「死亡したのは3名で行方不明が4名か…カッパールスの乗組員は50名。半舷休息で25名に減り、そこからさらに死亡、怪我人、行方不明者を引くと…」
「動けるのは、副長と自分を含めて10名になります」
「ふん。貴様は指を折っているだろうが、怪我人に数えておけ」
「既に、治療しましたんで問題ありません」
そう言うとアートンは、自身の手を見せた。その辺に落ちていた木の破片を添え木にして、折れた指を継ぎなおした手を見せた。
「それで水と食料は?」
「はっ。現在の生存者からすると四日から五日程度かと…」
アートンが残りの食料からすばやく計算する。
「それだけなのか…。確かに寄港して、残っていた食料はほとんど食ってしまったからな。新鮮な水があるだけマシというものか。救助は…無いだろうな」
「あれだけの津波です。本国もそれ所では無いでしょう。唯一希望があるとすれば勇者様ですが…」
「勇者様にはアポリオンの撃退をしてもらわねばならんから無理だ」
副長は唯一とも言えるすっぱりと希望を切り捨てた。
副長は水平線のほうへと目を向けた。
「現状我等に出来ることは無いな。それにもう日も落ちる」
既に太陽は水平線に消えかけ、これから夜になるという時間だった。
「今日はもう寝るしかあるまい。怪我人は食堂に寝かせておけ。あと、夜は最低限の見張りを残すのを忘れるな」
「はっ。ではアドラン。お前が最初の見張りだ。交代時間はいつも通り。いいな?」
「えー!えっいや、はっ!了解しました!」
全身の痛みで目を覚まし、それからずっと働き通しだったアドランは嫌だったが、上官からの命令は絶対だ。
その見張りの最中に、カッパールスのはるか上空をザムイーワックを乗せたトブタイが通過したのだが、アドランは気付かなかった。
翌日、アドランは、節約の為、量の足らない朝食をもそもそと食べ終えると、食堂に居る怪我人の世話する。動ける人数が少ないので、一通りの世話を終えるのに昼まで掛かった。
配給された朝と変わらぬ昼食を取ると、アドランは、日差しの強い甲板に出た。
アドランは、そのまま船尾楼の壁にもたれるとずるずると背中を壁にこすりながら座り込んだ。
(俺達このまま死ぬのかな?なぁ爺ちゃん)
食料は少なく、仲間もほとんど死んだ。故国も大きな被害を出し、船も動かせない。唯一救いといえるのが王城が無事という事だが、それでもこちらに救援を出せる余裕は無い。
その時、船の縁で見張りをしていた同僚が叫んだ。
「左舷!接近する船影あり!」
「何だと!何処だ!」
アドランは、立ち上がって、見張りの隣に並び、指差したほうを見る。
「あそこだ!」
確かに、まだ小さいが船影が見えた。
「やった助かる!」
思わず助かると思ったアドランが歓声をあげる。
だが、隣で望遠鏡を覗き込んでいた見張りは否定した。
「そう、うまくは行かねぇようだぜ!チクショウ海賊だ!あの旗は…ガッソル海賊団!」
「よこせっ!」
船室から出てきた副長は、見張りが覗いていた望遠鏡をひったくると、覗きこんだ。
「クソッタレが!動ける奴は戦闘準備!」
敵船を確認した副長はつばを飛ばしながら命令する。
「副長!現在使用可能なバリスタはありません!それに武器庫にある武器も津波のせいでほとんど使いものになりません!」
「ならば、モップでも鍋でも何でもいいから持たせろ!」
「たとえ武装があったとしても、現在の戦力では、奴等に勝てるとは思えません!」
「そんな事は分かっている!だが、こちらが戦う意思を持っていると思わせなければ、交渉も出来んだろうが!あと、いざとなったら船尾楼に立てこもる準備もして置け!」
「了解しました!」
海賊船は、ゆっくりとだが、着実にカッパールスの方へと来ていた。
「やはり見逃してはくれないようですね」
「ふん。私とて海賊船が、今のカッパールスの様であれば迷わず襲い掛かる」
副長が後ろを振り返る。そこには、折れたモップの柄にナイフをくくりつけた物や、壊れた船の破片で武装した乗組員が不安な表情をして集まっていた。
数少ない怪我らしい怪我をしていないアドランは、数少ない無事な武器の一つである短剣を持たされた。
攻撃が来ないことを確認すると海賊船が悠々と近づいてきた。
ガッソル海賊団は、ハヌマ王国周辺の海を縄張りとする海賊だ。商船であれば、そのすべてを奪い去る極悪非道の海賊だとして有名であった。ハヌマ王国としても討伐すべく、何度も軍船を差し向けているが、軍船の姿を見つけるとすぐに逃げに周り捕まえることも出来ず、おとりの船団を使用した作戦も何度か行われたが、その際は姿すら見せないかった。ハヌマ王国内部から情報が漏れているという噂されていた。
以前は、帝国との戦争を後ろから脅かされては適わないと、大規模な討伐作戦が極秘裏に進んでいたが、それもアポリオンの再来によってそれ所では無くなった。
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