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外伝5 ハヌマ王国及び軍船カッパールスの受難3
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「我名は、ガッソル・ド・ルブランド・シャルル!栄えあるガッソル海賊団の団長である!」
長い名前をしているが、その実ガッソルが貴族であった事は無く、彼自身が自称しているに過ぎない。
ガッソル海賊団の船は、万全であった頃のカッパールスと比べると幾分小ぶりな船だ。しかし、その分快速性を重視しているので船足が速いのが特徴になっている。
ガッソルは、船の縁の上に立ち、マストへとつながるロープを掴んでいた。
服は立派だが、長い間着古しているのか、そこかしこが擦り切れ、あまり洗濯もしていない薄汚い様相だ。それもそのはずその立派な服もかつて襲撃した船長の服を奪ったものだ。
その後ろには、ニヤニヤと笑うよく日に焼けた半裸の男達が、武器を手に並んでいる。
「ハヌマ王国の諸君!そのボロ舟は一体どうした事かね?我々は、まぁいい。漂流しているというのなら、慈悲深い我々は、助けてやろうではないか!だが、対価は頂こう。…そうだな。対価はそのボロ舟と、諸君らを奴隷として売り払った代金でまかなうとしよう。何、生きてはいけるのだ。十分だろう?」
「そうだ!」
「優しく奴隷商のところまで案内してやるぜ!」
「ヒャハハァ!」
背後の海賊団員達がはやし立てた。
「ハヌマ王国海軍は、貴様ら海賊などには屈しない!現在の状況では我々は勝てぬかも知れぬ!だが!最後の一人になろうとも、最後の一兵にいたるまで、貴様らの喉笛を食いちぎらんと戦うだろう!」
「そうかい!よく考えるんだな!」
そう言うと、そのままカッパールスの横を通り過ぎていった。今回の接近は、降伏勧告と実際に船にいる戦力の確認だったのだろう。これで、カッパールスの船上に大した戦力がいない事が海賊に知られた。
次に接近した時、奴等は確実にカッパールスへと襲い掛かってくる。
副長は、海賊船が通り過ぎるのを確認すると、甲板に居る乗組員達方を向いた。
「聞いたな!奴等はこの後攻めてくるだろう。ハヌマ王国海軍軍人として断固として屈するわけには行かぬ!それがたとえ我等の全滅という結果になったとしてもだ!諸君らの奮戦を期待する!」
剣を抜き、乗組員達へと激を飛ばす。
その時、アドランの先輩であるアートンがするりと副長の背後に回ると、そのまま拘束し、首にナイフを突き付けた。
「全員動くな!武器を捨てろ!」
いきなりの凶行に甲板上に居た乗組員達が固まる。
「なっ何をするんですか!アートンさん!」
アドランは、思わず声を上げた。
「何のつもりだアートン。気でも狂ったか!」
突き付けられた。副長も問いただす。
「申し訳ありません。副長。ですが、私は死ぬわけには行かないのです」
「貴様!それでもハヌマ王国海軍の軍人か!ぐっ!」
「黙れ!私は本気です!」
そう言うと、アートンは、副長の首筋に突きつけた短剣を少し引いた。副長の首筋から血が流れる。
「副長!アートン!お前ぇ!!」
信じていた先輩の突然の凶行を見たアドランが頭に血を上らせて剣をアートンへと向けた。
そこへ、ガッソル海賊団の船が戻ってきた。
「ふはははははは!面白い状況になってるじゃないか!いいだろう!そちらが降伏するというのであれば、命の保障はしよう!さぁどうする?」
ガッソルは、カッパールスで起きている状況を面白そうに囃し立てた。
その時、アドランの腕が横から伸びた手に止められる。
「止せ!アド坊!」
「ダダ爺!」
それは、ダダ爺だった。ダダ爺は、首を横に振りながら言った。
「降伏するしかあるまい…」
ダダ爺のその一言で、武器を持っていたほかの乗組員達が、武器を捨て始めた。
「クソッ!」
アドランとアートン以外の乗組員が武器を甲板に捨てるとアドランも武器を甲板に叩きつけるように捨てた。
それを確認すると、アートンは海賊船に向かって叫んだ。
「聞け!ガッソル海賊団団長ガッソル・ド・ルブランド・シャルル!我々は降伏する!ゆえに命の保障を要求する!」
「ククク!いいだろう!野郎共!やれ!」
その声にあわせて海賊船からかぎ爪付きのロープがカッパールスに多数投げ込まれた。投げ込まれたロープは、そのまま海賊たちによって引かれ、鉤爪がカッパールスの縁に引っかかる。さらに引っ張る事により、二隻の距離を縮めて接舷した。
「全員おとなしくしろよ。うちの連中は、いい奴等だが俺とは違い気が短い。うっかり殺しちまうかもしれんからな」
「ははは!」
「そりゃねぇですよ!団長!一番は…」
「うるせぇ!いいから全員ふん縛っちまえ!」
「「「へいっ!」」」
手際よく渡し板を渡すと海賊達がカッパールスへと乗り込んでくる。海賊達の手には武器とロープが握られていた。
「おら手を出せや奴隷共!」
海賊達は船に乗り込むと手馴れた様子で次々と乗組員達を拘束していく。
「お前も武器をよこせ!」
アートンは、副長を海賊に押し付けると、おとなしく武器を海賊に渡し、腕を差し出す。
副長も観念したのかおとなしいものだ。
「くそっ!」
アドランは、海賊を睨みつけるもおとなしく腕を差し出した。
「あっ!何だその目は!むかつくんだよ」
その瞬間、アドランの目に火花が散った。海賊の持った短剣の柄で殴られたのだ。
そのまま背中を踏みつけられると乱暴に腕を取られて腕を縛られる。
「クッ」
そしてカッパールスの乗組員達は甲板上に集められた。
「この規模の船で半舷休息だったとしても、この程度の人数ではあるまい。他の連中は何処だ」
「動く事も出来ない怪我人達が船内の食堂で寝かせている」
ガッソルの質問に縛られたアートンが答える。するとガッソルはにやりと笑った。
「そうか。お前ら怪我人は海に捨てろ。邪魔なだけだ。抵抗するなら殺しても構わん。だが船は汚すなよ。掃除が面倒だからな」
「へい!」
「ひゃあ!待ってましたぜ!」
その命令を聞いた海賊達が船内へと向かう
「船員の命は保障すると言っただろう!」
それに対しアートンが立ち上がる。
「そんな事言ったか?おい!お前!俺はそんな事言ったか?」
「いえ!団長はそんな事言ってませんぜ!そいつが勝手に降伏しただけでさぁ!」
ガッソルは、耳の穴ほじりながら近くに居た子分に聞く。子分は、にやにやと笑いながら答えた。
「奴隷として売らないのか!損をするぞ!」
説得する為にアートンは攻める方向を変える。怪我人を殺せば損をするぞと。
「はぁ?不要だ。この船とあなた達で十分な収穫。怪我人なんぞ面倒なだけだ」
「怪我人の世話は、我々がすればいいだろう!」
「はっ」
ガッソルは馬鹿にしたように笑う。はなから怪我人は殺すつもりだったのだ。
それを聞いていたアドランは、縛られながらも立ち上がり、ガッソルへと体当たりしたした。
「やめろ!仲間を殺すなんて許さねぇぞ!」
「ぶっ!」
咄嗟の事に、完全に気を抜いていたガッソルは、体当たりをモロに食らった。
「野郎!優しくしてやりゃ付け上がりやがって!」
アドランはすぐに子分の海賊達に取り押さえられた。
子分たちは、取り押さえられたアドランに容赦なく暴行を加える。
「ぐっ!かはぁ!」
「このガキ!ふざけやがって!どけっ!」
そこに立ち直ったガッソルが、アドランを取り囲んでいた海賊を掻き分け、ずらりと抜いたカトラスを振り上げた。
太陽光を反射してカトラスがきらりと光る。それが振り下ろされれば、押さえつけられているアドランに購うすべは無い。
(へへっ。俺ここまでみたいだ…爺ちゃん)
ガッソルがカトラスを振り下ろそうとした時、突如、聞きなれない轟音が響いた。
「!」
「団長大変だ!あれ!」
指差す海賊に釣られて、押さえつけられたアドランが首を動かして見たのは、黒い魚の様な何かが胴体から何かを噴出しながら海を突き破るように飛び出した姿だった。
(でかい。鯨か?いや、鯨はあんな変な所から潮はふかねぇ。!?なんだありゃ!?)
黒い魚の様なものは、空中で頭が真っ二つに割れ、下半身も二つに割れた。
「なんだありゃ?人か?いや、頭がない?」
人のような形。しかし、その人型には、頭部がない。
海賊の一人がそうつぶやいた瞬間、重力に引っ張られた黒い何かは、海中へと巨大な水しぶきを上げながら落ちた。
ガッソルもその子分である海賊達も、囚われの身になっているカッパールスの乗組員達ですら突然現れた異形のものにあっけに取られている。
「浮いてきたぞ!」
何かには、胴体には目の様な物がついており、それをきょろきょろと動かしまわりを見ている。
その場に居た誰しもが押し黙り、浮き上がってきた何かの動向を見守る。
(あれは…爺ちゃんが言ってた。何だっけ?…そうだ)
「ケルンバッサ…ケルンバッサだ」
思わずアドランが呟く。
「お前何か知ってるのか!言え!あれは何だ!」
ガッソルが、倒れているアドランの襟首を掴んで無理やり立たせる。
「俺だってしらねぇよ!けど、爺ちゃんから聞いたんだ。海にいる巨大な人型の化け物。それがケルンバッサだって。船をおもちゃの様にもてあそんで沈める化け物だって!」
「ちっ使えねぇ!」
もう用はないとアドランは甲板へと打ち捨てられた。
アドランが膝立ちで海を見ると、ちょうどきょろきょろと動いていた目が、ぴたりと止まった。それは明らかにカッパールスの方を見ていた。
そして体をカッパルスのほうへと向けるとゆっくりと進み始めた。
「こっち来る!」
海賊達がパニックに陥る。
こちらに近づくにつれ、ケルンバッサは、速度を増していく。海面に両腕を出すと、そこから鋭く長い爪を伸ばす。明らかにカッパールスに害意を持っている。
それを見た瞬間ガッソルは決断した。
「ちっ!しゃあねぇ!野郎共撤退だ!」
「奴隷共はどうしやす?」
「ほっとけ!息が良い方が奴のいいおもちゃになるだろうよ!急げ!」
「「「ヘイッ!」」」
「俺たちも連れてってくれよぉ!」
それを聞いたカッパールスの乗組員が叫ぶ。
だが、帰ってきたのは、うるせぇ!の一言と蹴りだった。
海賊達は、すばやく海賊船へと戻っていくと、渡し板を引き戻し碇をあげる。
「俺たちが逃げ切るまでせいぜい囮を頼むぜ!」
「ありがとう!お前達の事は忘れねぇぜ!最っ高についてない奴等としてな!ひゃははは!」
船乗りとしての腕は良いらしく、海賊達は、すばやく帆を張ると、捨て台詞をのこしてカッパールスから離れていく。
拘束されたままのカッパールスの乗組員達は、それを見送る事しかできない。
「もうおしまいなのか…」
アドランはボーとした様子で、こちらに迫り来るケルンバッサを見た。
すでにケルンバッサは、カッパールスの目の鼻の先だ。
そしてカッパールス到達した。
下半身は海の下だというのに、ケルンバッサは見上げるほど大きい。逆光になり、アドランがその影に入る。ピンク光る一つ目と目が合った。
「うぁああああああああ!」
「オタスケェ!」
甲板上には絶望があふれ、大声が響く。カッパールスに振り下ろすべくケルンバッサは、大きく腕を振りあげた。
(人というよりカニの化け物だな!)
アドランも思わず目をつぶる…が一向に痛みも衝撃も来ない。
恐る恐る目を開けて見上げる。そこにはケルンバッサがそのまま居た。
グレーの胴体。目はらんらんと輝きアドランが生まれてから一度も見た事のない瞳がぐりぐり動いている。視線を上げると胴体から伸びる不思議な間接をした白い二の腕が目に入った。二の腕の先にはいびつな形をした腕があり、振り下ろされれば、カッパールスの船体を軽々と真っ二つに出来そうな爪を生やしている。
腕を振り上げたままの姿勢でケルンバッサが固まっていた。いや、違う。先ほどまでアドランたちを捉えていた目が、ヂュィンと不思議な音を響かせながら動いて、別の方向を向いている。
(俺たちを見ていない?)
視線の先を追うと、そこには逃げ出した海賊船が合った。ケルンバッサは腕を下ろすと、海へと潜った。
「うおっ!」
その時の波でカッパールスが揺れる。揺れが収まった時、アドランの居る反対側の舷に居た乗組員が大声で言った。
「おい、ケルンバッサとか言う奴が、ここから離れてガッソルの海賊船に向かってるぞ!」
「本当か!」
聞いた乗組員達が、反対側の舷に集まる。
ケルンバッサは、あっという間に海賊船に追いつくと、その大きく長い爪で海賊船のマストを叩き切った。
その瞬間、カッパールスの乗組員達は歓声を上げる。
「ざまぁみろ」
「やった!」
だが、それもすぐに引っ込む。ケルンバッサが再びこちらに向かってきたのだ。
「おい!戻ってくるぞ!」
「あっあいつは、逃げる奴の足を止める為に行ったんだ。今度こそ。俺たちを…」
再び絶望に支配された甲板にケルンバッサが戻ってきた。だが、今度は腕を振り上げる事はなく。ゆっくり近づいてくる。
「チクショウなんだってんだ!何なんだお前は!」
いい加減。絶望と希望の乱高下に耐えられなくなったアドランは、ケルンバッサに叫んだ。
『こちら、スベン公国軍所属GMマザムリン。水の勇者水上紗枝の要請により、津波に被災したハヌマ王国の救援活動をしています。皆さん。助けに来ました』
甲板にはしばらく沈黙が下りた。返事が返ってくるとは思わなかったからだ。
ゆっくりと、頭が回り始め、ケルンバッサ…マザムリンから聞こえてきた声の意味を理解する。
甲板に本当の歓声が響いた。
長い名前をしているが、その実ガッソルが貴族であった事は無く、彼自身が自称しているに過ぎない。
ガッソル海賊団の船は、万全であった頃のカッパールスと比べると幾分小ぶりな船だ。しかし、その分快速性を重視しているので船足が速いのが特徴になっている。
ガッソルは、船の縁の上に立ち、マストへとつながるロープを掴んでいた。
服は立派だが、長い間着古しているのか、そこかしこが擦り切れ、あまり洗濯もしていない薄汚い様相だ。それもそのはずその立派な服もかつて襲撃した船長の服を奪ったものだ。
その後ろには、ニヤニヤと笑うよく日に焼けた半裸の男達が、武器を手に並んでいる。
「ハヌマ王国の諸君!そのボロ舟は一体どうした事かね?我々は、まぁいい。漂流しているというのなら、慈悲深い我々は、助けてやろうではないか!だが、対価は頂こう。…そうだな。対価はそのボロ舟と、諸君らを奴隷として売り払った代金でまかなうとしよう。何、生きてはいけるのだ。十分だろう?」
「そうだ!」
「優しく奴隷商のところまで案内してやるぜ!」
「ヒャハハァ!」
背後の海賊団員達がはやし立てた。
「ハヌマ王国海軍は、貴様ら海賊などには屈しない!現在の状況では我々は勝てぬかも知れぬ!だが!最後の一人になろうとも、最後の一兵にいたるまで、貴様らの喉笛を食いちぎらんと戦うだろう!」
「そうかい!よく考えるんだな!」
そう言うと、そのままカッパールスの横を通り過ぎていった。今回の接近は、降伏勧告と実際に船にいる戦力の確認だったのだろう。これで、カッパールスの船上に大した戦力がいない事が海賊に知られた。
次に接近した時、奴等は確実にカッパールスへと襲い掛かってくる。
副長は、海賊船が通り過ぎるのを確認すると、甲板に居る乗組員達方を向いた。
「聞いたな!奴等はこの後攻めてくるだろう。ハヌマ王国海軍軍人として断固として屈するわけには行かぬ!それがたとえ我等の全滅という結果になったとしてもだ!諸君らの奮戦を期待する!」
剣を抜き、乗組員達へと激を飛ばす。
その時、アドランの先輩であるアートンがするりと副長の背後に回ると、そのまま拘束し、首にナイフを突き付けた。
「全員動くな!武器を捨てろ!」
いきなりの凶行に甲板上に居た乗組員達が固まる。
「なっ何をするんですか!アートンさん!」
アドランは、思わず声を上げた。
「何のつもりだアートン。気でも狂ったか!」
突き付けられた。副長も問いただす。
「申し訳ありません。副長。ですが、私は死ぬわけには行かないのです」
「貴様!それでもハヌマ王国海軍の軍人か!ぐっ!」
「黙れ!私は本気です!」
そう言うと、アートンは、副長の首筋に突きつけた短剣を少し引いた。副長の首筋から血が流れる。
「副長!アートン!お前ぇ!!」
信じていた先輩の突然の凶行を見たアドランが頭に血を上らせて剣をアートンへと向けた。
そこへ、ガッソル海賊団の船が戻ってきた。
「ふはははははは!面白い状況になってるじゃないか!いいだろう!そちらが降伏するというのであれば、命の保障はしよう!さぁどうする?」
ガッソルは、カッパールスで起きている状況を面白そうに囃し立てた。
その時、アドランの腕が横から伸びた手に止められる。
「止せ!アド坊!」
「ダダ爺!」
それは、ダダ爺だった。ダダ爺は、首を横に振りながら言った。
「降伏するしかあるまい…」
ダダ爺のその一言で、武器を持っていたほかの乗組員達が、武器を捨て始めた。
「クソッ!」
アドランとアートン以外の乗組員が武器を甲板に捨てるとアドランも武器を甲板に叩きつけるように捨てた。
それを確認すると、アートンは海賊船に向かって叫んだ。
「聞け!ガッソル海賊団団長ガッソル・ド・ルブランド・シャルル!我々は降伏する!ゆえに命の保障を要求する!」
「ククク!いいだろう!野郎共!やれ!」
その声にあわせて海賊船からかぎ爪付きのロープがカッパールスに多数投げ込まれた。投げ込まれたロープは、そのまま海賊たちによって引かれ、鉤爪がカッパールスの縁に引っかかる。さらに引っ張る事により、二隻の距離を縮めて接舷した。
「全員おとなしくしろよ。うちの連中は、いい奴等だが俺とは違い気が短い。うっかり殺しちまうかもしれんからな」
「ははは!」
「そりゃねぇですよ!団長!一番は…」
「うるせぇ!いいから全員ふん縛っちまえ!」
「「「へいっ!」」」
手際よく渡し板を渡すと海賊達がカッパールスへと乗り込んでくる。海賊達の手には武器とロープが握られていた。
「おら手を出せや奴隷共!」
海賊達は船に乗り込むと手馴れた様子で次々と乗組員達を拘束していく。
「お前も武器をよこせ!」
アートンは、副長を海賊に押し付けると、おとなしく武器を海賊に渡し、腕を差し出す。
副長も観念したのかおとなしいものだ。
「くそっ!」
アドランは、海賊を睨みつけるもおとなしく腕を差し出した。
「あっ!何だその目は!むかつくんだよ」
その瞬間、アドランの目に火花が散った。海賊の持った短剣の柄で殴られたのだ。
そのまま背中を踏みつけられると乱暴に腕を取られて腕を縛られる。
「クッ」
そしてカッパールスの乗組員達は甲板上に集められた。
「この規模の船で半舷休息だったとしても、この程度の人数ではあるまい。他の連中は何処だ」
「動く事も出来ない怪我人達が船内の食堂で寝かせている」
ガッソルの質問に縛られたアートンが答える。するとガッソルはにやりと笑った。
「そうか。お前ら怪我人は海に捨てろ。邪魔なだけだ。抵抗するなら殺しても構わん。だが船は汚すなよ。掃除が面倒だからな」
「へい!」
「ひゃあ!待ってましたぜ!」
その命令を聞いた海賊達が船内へと向かう
「船員の命は保障すると言っただろう!」
それに対しアートンが立ち上がる。
「そんな事言ったか?おい!お前!俺はそんな事言ったか?」
「いえ!団長はそんな事言ってませんぜ!そいつが勝手に降伏しただけでさぁ!」
ガッソルは、耳の穴ほじりながら近くに居た子分に聞く。子分は、にやにやと笑いながら答えた。
「奴隷として売らないのか!損をするぞ!」
説得する為にアートンは攻める方向を変える。怪我人を殺せば損をするぞと。
「はぁ?不要だ。この船とあなた達で十分な収穫。怪我人なんぞ面倒なだけだ」
「怪我人の世話は、我々がすればいいだろう!」
「はっ」
ガッソルは馬鹿にしたように笑う。はなから怪我人は殺すつもりだったのだ。
それを聞いていたアドランは、縛られながらも立ち上がり、ガッソルへと体当たりしたした。
「やめろ!仲間を殺すなんて許さねぇぞ!」
「ぶっ!」
咄嗟の事に、完全に気を抜いていたガッソルは、体当たりをモロに食らった。
「野郎!優しくしてやりゃ付け上がりやがって!」
アドランはすぐに子分の海賊達に取り押さえられた。
子分たちは、取り押さえられたアドランに容赦なく暴行を加える。
「ぐっ!かはぁ!」
「このガキ!ふざけやがって!どけっ!」
そこに立ち直ったガッソルが、アドランを取り囲んでいた海賊を掻き分け、ずらりと抜いたカトラスを振り上げた。
太陽光を反射してカトラスがきらりと光る。それが振り下ろされれば、押さえつけられているアドランに購うすべは無い。
(へへっ。俺ここまでみたいだ…爺ちゃん)
ガッソルがカトラスを振り下ろそうとした時、突如、聞きなれない轟音が響いた。
「!」
「団長大変だ!あれ!」
指差す海賊に釣られて、押さえつけられたアドランが首を動かして見たのは、黒い魚の様な何かが胴体から何かを噴出しながら海を突き破るように飛び出した姿だった。
(でかい。鯨か?いや、鯨はあんな変な所から潮はふかねぇ。!?なんだありゃ!?)
黒い魚の様なものは、空中で頭が真っ二つに割れ、下半身も二つに割れた。
「なんだありゃ?人か?いや、頭がない?」
人のような形。しかし、その人型には、頭部がない。
海賊の一人がそうつぶやいた瞬間、重力に引っ張られた黒い何かは、海中へと巨大な水しぶきを上げながら落ちた。
ガッソルもその子分である海賊達も、囚われの身になっているカッパールスの乗組員達ですら突然現れた異形のものにあっけに取られている。
「浮いてきたぞ!」
何かには、胴体には目の様な物がついており、それをきょろきょろと動かしまわりを見ている。
その場に居た誰しもが押し黙り、浮き上がってきた何かの動向を見守る。
(あれは…爺ちゃんが言ってた。何だっけ?…そうだ)
「ケルンバッサ…ケルンバッサだ」
思わずアドランが呟く。
「お前何か知ってるのか!言え!あれは何だ!」
ガッソルが、倒れているアドランの襟首を掴んで無理やり立たせる。
「俺だってしらねぇよ!けど、爺ちゃんから聞いたんだ。海にいる巨大な人型の化け物。それがケルンバッサだって。船をおもちゃの様にもてあそんで沈める化け物だって!」
「ちっ使えねぇ!」
もう用はないとアドランは甲板へと打ち捨てられた。
アドランが膝立ちで海を見ると、ちょうどきょろきょろと動いていた目が、ぴたりと止まった。それは明らかにカッパールスの方を見ていた。
そして体をカッパルスのほうへと向けるとゆっくりと進み始めた。
「こっち来る!」
海賊達がパニックに陥る。
こちらに近づくにつれ、ケルンバッサは、速度を増していく。海面に両腕を出すと、そこから鋭く長い爪を伸ばす。明らかにカッパールスに害意を持っている。
それを見た瞬間ガッソルは決断した。
「ちっ!しゃあねぇ!野郎共撤退だ!」
「奴隷共はどうしやす?」
「ほっとけ!息が良い方が奴のいいおもちゃになるだろうよ!急げ!」
「「「ヘイッ!」」」
「俺たちも連れてってくれよぉ!」
それを聞いたカッパールスの乗組員が叫ぶ。
だが、帰ってきたのは、うるせぇ!の一言と蹴りだった。
海賊達は、すばやく海賊船へと戻っていくと、渡し板を引き戻し碇をあげる。
「俺たちが逃げ切るまでせいぜい囮を頼むぜ!」
「ありがとう!お前達の事は忘れねぇぜ!最っ高についてない奴等としてな!ひゃははは!」
船乗りとしての腕は良いらしく、海賊達は、すばやく帆を張ると、捨て台詞をのこしてカッパールスから離れていく。
拘束されたままのカッパールスの乗組員達は、それを見送る事しかできない。
「もうおしまいなのか…」
アドランはボーとした様子で、こちらに迫り来るケルンバッサを見た。
すでにケルンバッサは、カッパールスの目の鼻の先だ。
そしてカッパールス到達した。
下半身は海の下だというのに、ケルンバッサは見上げるほど大きい。逆光になり、アドランがその影に入る。ピンク光る一つ目と目が合った。
「うぁああああああああ!」
「オタスケェ!」
甲板上には絶望があふれ、大声が響く。カッパールスに振り下ろすべくケルンバッサは、大きく腕を振りあげた。
(人というよりカニの化け物だな!)
アドランも思わず目をつぶる…が一向に痛みも衝撃も来ない。
恐る恐る目を開けて見上げる。そこにはケルンバッサがそのまま居た。
グレーの胴体。目はらんらんと輝きアドランが生まれてから一度も見た事のない瞳がぐりぐり動いている。視線を上げると胴体から伸びる不思議な間接をした白い二の腕が目に入った。二の腕の先にはいびつな形をした腕があり、振り下ろされれば、カッパールスの船体を軽々と真っ二つに出来そうな爪を生やしている。
腕を振り上げたままの姿勢でケルンバッサが固まっていた。いや、違う。先ほどまでアドランたちを捉えていた目が、ヂュィンと不思議な音を響かせながら動いて、別の方向を向いている。
(俺たちを見ていない?)
視線の先を追うと、そこには逃げ出した海賊船が合った。ケルンバッサは腕を下ろすと、海へと潜った。
「うおっ!」
その時の波でカッパールスが揺れる。揺れが収まった時、アドランの居る反対側の舷に居た乗組員が大声で言った。
「おい、ケルンバッサとか言う奴が、ここから離れてガッソルの海賊船に向かってるぞ!」
「本当か!」
聞いた乗組員達が、反対側の舷に集まる。
ケルンバッサは、あっという間に海賊船に追いつくと、その大きく長い爪で海賊船のマストを叩き切った。
その瞬間、カッパールスの乗組員達は歓声を上げる。
「ざまぁみろ」
「やった!」
だが、それもすぐに引っ込む。ケルンバッサが再びこちらに向かってきたのだ。
「おい!戻ってくるぞ!」
「あっあいつは、逃げる奴の足を止める為に行ったんだ。今度こそ。俺たちを…」
再び絶望に支配された甲板にケルンバッサが戻ってきた。だが、今度は腕を振り上げる事はなく。ゆっくり近づいてくる。
「チクショウなんだってんだ!何なんだお前は!」
いい加減。絶望と希望の乱高下に耐えられなくなったアドランは、ケルンバッサに叫んだ。
『こちら、スベン公国軍所属GMマザムリン。水の勇者水上紗枝の要請により、津波に被災したハヌマ王国の救援活動をしています。皆さん。助けに来ました』
甲板にはしばらく沈黙が下りた。返事が返ってくるとは思わなかったからだ。
ゆっくりと、頭が回り始め、ケルンバッサ…マザムリンから聞こえてきた声の意味を理解する。
甲板に本当の歓声が響いた。
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異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
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