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60話 オペレーション・シーボウズ
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真っ暗な海を、巡航形態のマザムリンが進む。仮面に表示されるグリッドの座標が目的地に着いた事を示している。
「目標海域に到着しました。では、海坊主作戦開始します」
僕は用意していた機能を起動させた。
背面の一部が開き、中にあったカプセルがゆっくりと海面へと上昇していく。このカプセルの下にはワイヤーがついており、マザムリンとつながっている。
海面に到着するとカプセルの頭頂部が開く。中には元の世界でも見た事のある四つのプロペラを持つドローンが一機納まっていた。
ドローンは完全に扉が開くと、プロペラが回転し、そのまま一気に空中へと飛び出す。
仮面の視界内にウィンドウが開いた。ドローンに付いたカメラからの映像が映っている。ドローには簡易的ではあるもののレーダーも付いているので、その情報も元々あったレーダーに表示される。
このドローンには近くで見れば分かるものの、遠くから見れば肉眼では見えない程度の簡易的な光学ステルス迷彩システムが積んであるので、カッパールスに居る人間に見つかる心配は無い。
(ああ、やっぱり海賊に制圧されてる)
カメラをカッパールスへと向け、ズームすると、そこにはカッパールスの船員達がロープで拘束され甲板に一塊にされて座らされているのが見えた。
「見ての通り、カッパールスの船員達は、既に海賊達に制圧されています。なので、予定通り襲います」
この映像は、キャビンにあるモニターにも映し出されている。
『ほっ本当にやるのですか?』
「ええ、ですから、皆さんは席についてしっかりとシートベルト締めておいて下さい」
『…了解しました』
キャビンの中を映すカメラの映像を呼び出すと、そこにはシートベルトをしっかり締め、且つそれをしっかりと握っているハヌマ王国の兵士の姿があった。うちの国の兵士も同じ事をしているが、その表情には幾分余裕がある。
僕は、ドローンを飛ばしたまま、カプセルを回収する。そして操縦桿を一気に引き、フットペダルを踏み込む。マザムリンが海上に機首を向け、一気に機体を浮上させていく。
機体が斜めになった事と加速により、ぐっと座席に押さえつけられる。
この感触!
口が引きつり、自分が笑みを浮かべているのが分かる。
目の前には、キラキラと光る水面があり、それが表示されたグリッドと一緒にどんどん近づいてくる。
「行きますよ!」
機首がザバァ!っと海面から突き出す。
けれどもそれだけじゃインパクトが薄い。という事で…。
「胴部ブースター点火!」
海面から突き出すと同時に、マザムリンの胴回りにあるブースターを全開に吹かしてロケットのように空中へと飛び出す。
『ヒィ!』
キャビンからは、押し殺した悲鳴の様な物が聞こえた。
からのぉ!ブースター停止!変形開始!
一瞬の無重力。
コクピットの向きが変わり、目の前の光景が回る。
太陽光を浴びながら人型へと変形したマザムリンは、そのまま重力に引かれて海面に向かって落下する。
「衝撃が来ますよっ!歯を食いしばれ!」
『ひゃあああああ!』
さすがに自由落下の感覚は、生理的恐怖を呼ぶのかキャビンから悲鳴が聞こえた。
衝撃。
着水の衝撃は、たとえ緩和装置が働いていたとしても相当なものだ。着水と同時に悲鳴が止まる。
キャビンのお客さん達が舌を噛まなかったことを祈るばかりだ。
視界が真っ白に変わり、マザムリンによって、作られた泡が水面へと向かって上っていく。
変形の際に離していたフットペダルを再び踏み込む。今度は別に飛び出すわけでは無いのでそれほど。スピードは出ていない。
チャプンと言う音が聞こえそうな感じでかわいく胴体を海面上へと出す。
さぁて、ここから演技だ。
僕は、マザムリンのモノアイをキョロキョロと左右に動かし、いかにも周りを確認している演技をする。そして、今見つけたかのようにぴたりとモノアイをカッパールスの方へと向けた。
じーっと見つめた後は、胴体をその方向へと向け、ゆっくりと前進を開始する。スピードはとてもゆっくりだ。
途中で腕を海面から出して爪を伸ばし、いかにも攻撃しますよと意思表示する。
そこで、カッパールスの方も動き出した。海賊と思しき連中が、大急ぎで海賊船に戻り、渡し板をはずしてカッパールスから離れていく。
これで一応は安全は確保できたが、まだカッパールスの船上に海賊が残っていないとも限らない。
カッパールスの横付けして、腕を振り上げる。このまま振り下ろせば、カッパールスは真っ二つになり、海の藻屑となるだろう。
そんな事しないけど。
視界内には、呆然と見上げているもの、叫んでいるもの、少しでもマザムリンから離れようと反対側の舷へと逃げようとしている人も居た。
うんまぁ。初見でマザムリンは怖いよね。
「カッパールスの横につけました。海賊は居ませんか?」
『ううう。…ええ、おりません。甲板上に居るのはうちの連中だけです』
「了解しました。では、これから海賊の無力化に向かいます」
視線を海賊船に向けると、海賊船は一目散にこちらから離れる航路を取っている。だけどそれは、マザムリンの出せるスピードと比べるとかなり遅い。
マザムリンを潜水させると、カッパールスの下を潜り、海賊船へと向かう。
ターゲットである海賊船の帆を注視すると、それを感知した仮面が、帆に対してピコッとアイコンを表示させ、対象をロックした。すり抜けざまに爪の届く距離に入る。操縦桿の攻撃トリガーを引くと、マザムリンは鋼鉄の爪によって薄紙のように軽々と帆は破壊した。帆は、破壊された勢いのまま海へと落下した。
(ついでに。舵も壊しておこう)
爪で軽く小突くと、海賊船の舵はいとも簡単に壊れた。これで海賊船は、完全に漂流。船はそのまま逃げることの出来ない牢獄になった。どうせ食料も積んでいるだろうからしばらくは放置していても問題ないだろう。
さて、本来の目的に戻ろう。
驚かせないようにマザムリンをゆっくり近づける。
それでも、恐怖を抑えられなかった乗組員がパニックを起こす。甲板上を逃げる者、号泣し絶望する者、そしてマザムリンを睨みつけ叫ぶ者。
「チクショウなんだってんだ!何なんだお前は!」
僕は、なるべく相手を刺激しないように言った。
『こちら、スベン公国軍所属GMマザムリン。水の勇者水上紗枝の要請により、津波に被災したハヌマ王国の救援活動をしています。皆さん。助けに来ました』
そう言った瞬間、甲板上の動きが止まった。
甲板にはしばらく沈黙が下りた。返事が返ってくるとは思わなかったからだ。
あのっと声をかけようと思った時、カッパールスの甲板上に歓喜の声が上がった。
マザムリンを巡航形態にして、カッパールスに横付けする。キャビンからうちの国の兵士とバッザム十人隊長達が出て、カッパールスへと乗り移る。その中には、メリナさんも含まれている。
その様子は、飛ばしたままだった偵察用ドローンからの映像でコクピットに居る僕からでも見ることが出来た。
船に乗り込んだ人達は、縛れていた乗組員を解放していく。
『この野郎!よくも裏切りやがったな!』
ドローンが、大きな怒声を拾った。声のしたほうにドローンを向けるとロープを解かれた若い乗組員の一人が、未だに縛られたままの乗組員の一人に殴りかかっている様子だった。
乗組員は、黙って殴られた。
『おい!何やってんだ!』
バッザム十人隊長の部下が、後ろから羽交い絞めにするがそれでも怒りが収まらないのか暴れている。
『この野郎!この野郎!』
『止めんかっ!このばか者が!』
その時、偉そうな服を着た男が、暴れる乗組員の顔を殴った。
ハヌマ王国の人達が真っ先に縄を解いた事からこの船のお偉いさんなのだろう。
『がふっ!?副長!?だって、だってこいつは!副長を人質にとって俺たちを海賊に売ったんですよ!副長だって見たでしょう!』
どうやら、彼らが一人の死者も無く海賊に捕まっていたのは、船の中に裏切り者が居たせいらしい。
『アートンが裏切ったのは、こういう時は、裏切るように事前に命令してあったからだ!』
『えっ?』
『あの時、我々があのまま海賊と戦っていたら、奴等に皆殺しにされていただろう。だが、我等はハヌマ王国の軍人であり、海賊に無抵抗で屈する訳にはいかない。そのような場合、最上級指揮官が戦闘を指示し、次席指揮官が裏切り降伏する。これで無抵抗な面目が立つ。裏切った次席指揮官は、敵の懐に入り、捕まった者の脱出や食事の支援をする。そういう風になっていたのだ!』
『そんな事しら…』
『お前のような新人が知るわけ無いだろう!これは、船の一部の者しか知らん極秘事項だからな!』
『アートン…さん…』
信じられないという目で若い乗組員は、アートンと呼ばれた乗組員を見た。
『…まぁそういう事だ。それにしてもいいパンチだった。今後の指導は覚悟しとけよ』
見つめられた乗組員は、仏頂面にそう言った。
すると、新人と呼ばれた乗組員の体から力が抜けた。
どうやら一件落着したようだ。それにしても、味方を助ける為に裏切り者になるってすごいな。もし僕が何かあってスベン公国の皆から裏切り者!って罵られたら一生引きこもる自信がある。
それからバッザム十人隊長とカッパールスの代表である副長とで話し合いがされた。とは言っても、こちらにはハヌマ王国の女王からの命令書があるので断られることは無いだろう。
その間に、マザムリンに乗っていたメンバーはキャビンに積んでいた医療品や食料などの支援物資をカッパールスへと運ぶ。
コクピットでそれらが終わるのを待っているとメリナさんから通信が入った。
『ご報告します』
「メリナさん何です?」
『問題無くこの船を接収できました』
「それは良かった。…一応確認しておくけど緊急で陸に運ばなきゃならない怪我人とか居ない?」
『おりません。確認しましたが、重傷者は既に死亡しているか、たとえ陸に連れて行ったとしてもこれ以上の治療は出来ない者たちばかりです。このまま遭難者の救出に向かうのがよろしいかと』
「そう…なんだ」
言われると結構つらい。それにしてもメリナさんは淡々と報告してくるなぁ。
『それより、現在カッパールスの船内にある水が不足しております。補給をお願いします』
「ん。分かりました。じゃあ、入れ物の準備をさせておいてください」
『かしこまりました』
コンソールを操作すると、マザムリンの背部にあるハッチの一つが開く。その中からフレキシブルパイプが伸びた。フレキシブルパイプは、高く伸び上がり、カッパールスの甲板へとその先端を曲げた。
パイプの先には、メリナさんが待っており、その隣には大きな空樽が置かれていた。その周りには、喉を乾かせた乗組員達が列を成していた。
メリナさんはパイプの先を掴んで樽の中に入れた。
『準備できました。お願いします』
「了解」
最後に放水スイッチを押すとパイプの先端から水が勢い良く流れる。
マザムリンには、海水を真水にすることが出来る淡水化装置が付いている。これにより、救出作業中に水が足りなくなることは無い。
甲板から再び歓声があがった。
これでようやくハヌマ王国の遭難者を救出する準備が整った。
「目標海域に到着しました。では、海坊主作戦開始します」
僕は用意していた機能を起動させた。
背面の一部が開き、中にあったカプセルがゆっくりと海面へと上昇していく。このカプセルの下にはワイヤーがついており、マザムリンとつながっている。
海面に到着するとカプセルの頭頂部が開く。中には元の世界でも見た事のある四つのプロペラを持つドローンが一機納まっていた。
ドローンは完全に扉が開くと、プロペラが回転し、そのまま一気に空中へと飛び出す。
仮面の視界内にウィンドウが開いた。ドローンに付いたカメラからの映像が映っている。ドローには簡易的ではあるもののレーダーも付いているので、その情報も元々あったレーダーに表示される。
このドローンには近くで見れば分かるものの、遠くから見れば肉眼では見えない程度の簡易的な光学ステルス迷彩システムが積んであるので、カッパールスに居る人間に見つかる心配は無い。
(ああ、やっぱり海賊に制圧されてる)
カメラをカッパールスへと向け、ズームすると、そこにはカッパールスの船員達がロープで拘束され甲板に一塊にされて座らされているのが見えた。
「見ての通り、カッパールスの船員達は、既に海賊達に制圧されています。なので、予定通り襲います」
この映像は、キャビンにあるモニターにも映し出されている。
『ほっ本当にやるのですか?』
「ええ、ですから、皆さんは席についてしっかりとシートベルト締めておいて下さい」
『…了解しました』
キャビンの中を映すカメラの映像を呼び出すと、そこにはシートベルトをしっかり締め、且つそれをしっかりと握っているハヌマ王国の兵士の姿があった。うちの国の兵士も同じ事をしているが、その表情には幾分余裕がある。
僕は、ドローンを飛ばしたまま、カプセルを回収する。そして操縦桿を一気に引き、フットペダルを踏み込む。マザムリンが海上に機首を向け、一気に機体を浮上させていく。
機体が斜めになった事と加速により、ぐっと座席に押さえつけられる。
この感触!
口が引きつり、自分が笑みを浮かべているのが分かる。
目の前には、キラキラと光る水面があり、それが表示されたグリッドと一緒にどんどん近づいてくる。
「行きますよ!」
機首がザバァ!っと海面から突き出す。
けれどもそれだけじゃインパクトが薄い。という事で…。
「胴部ブースター点火!」
海面から突き出すと同時に、マザムリンの胴回りにあるブースターを全開に吹かしてロケットのように空中へと飛び出す。
『ヒィ!』
キャビンからは、押し殺した悲鳴の様な物が聞こえた。
からのぉ!ブースター停止!変形開始!
一瞬の無重力。
コクピットの向きが変わり、目の前の光景が回る。
太陽光を浴びながら人型へと変形したマザムリンは、そのまま重力に引かれて海面に向かって落下する。
「衝撃が来ますよっ!歯を食いしばれ!」
『ひゃあああああ!』
さすがに自由落下の感覚は、生理的恐怖を呼ぶのかキャビンから悲鳴が聞こえた。
衝撃。
着水の衝撃は、たとえ緩和装置が働いていたとしても相当なものだ。着水と同時に悲鳴が止まる。
キャビンのお客さん達が舌を噛まなかったことを祈るばかりだ。
視界が真っ白に変わり、マザムリンによって、作られた泡が水面へと向かって上っていく。
変形の際に離していたフットペダルを再び踏み込む。今度は別に飛び出すわけでは無いのでそれほど。スピードは出ていない。
チャプンと言う音が聞こえそうな感じでかわいく胴体を海面上へと出す。
さぁて、ここから演技だ。
僕は、マザムリンのモノアイをキョロキョロと左右に動かし、いかにも周りを確認している演技をする。そして、今見つけたかのようにぴたりとモノアイをカッパールスの方へと向けた。
じーっと見つめた後は、胴体をその方向へと向け、ゆっくりと前進を開始する。スピードはとてもゆっくりだ。
途中で腕を海面から出して爪を伸ばし、いかにも攻撃しますよと意思表示する。
そこで、カッパールスの方も動き出した。海賊と思しき連中が、大急ぎで海賊船に戻り、渡し板をはずしてカッパールスから離れていく。
これで一応は安全は確保できたが、まだカッパールスの船上に海賊が残っていないとも限らない。
カッパールスの横付けして、腕を振り上げる。このまま振り下ろせば、カッパールスは真っ二つになり、海の藻屑となるだろう。
そんな事しないけど。
視界内には、呆然と見上げているもの、叫んでいるもの、少しでもマザムリンから離れようと反対側の舷へと逃げようとしている人も居た。
うんまぁ。初見でマザムリンは怖いよね。
「カッパールスの横につけました。海賊は居ませんか?」
『ううう。…ええ、おりません。甲板上に居るのはうちの連中だけです』
「了解しました。では、これから海賊の無力化に向かいます」
視線を海賊船に向けると、海賊船は一目散にこちらから離れる航路を取っている。だけどそれは、マザムリンの出せるスピードと比べるとかなり遅い。
マザムリンを潜水させると、カッパールスの下を潜り、海賊船へと向かう。
ターゲットである海賊船の帆を注視すると、それを感知した仮面が、帆に対してピコッとアイコンを表示させ、対象をロックした。すり抜けざまに爪の届く距離に入る。操縦桿の攻撃トリガーを引くと、マザムリンは鋼鉄の爪によって薄紙のように軽々と帆は破壊した。帆は、破壊された勢いのまま海へと落下した。
(ついでに。舵も壊しておこう)
爪で軽く小突くと、海賊船の舵はいとも簡単に壊れた。これで海賊船は、完全に漂流。船はそのまま逃げることの出来ない牢獄になった。どうせ食料も積んでいるだろうからしばらくは放置していても問題ないだろう。
さて、本来の目的に戻ろう。
驚かせないようにマザムリンをゆっくり近づける。
それでも、恐怖を抑えられなかった乗組員がパニックを起こす。甲板上を逃げる者、号泣し絶望する者、そしてマザムリンを睨みつけ叫ぶ者。
「チクショウなんだってんだ!何なんだお前は!」
僕は、なるべく相手を刺激しないように言った。
『こちら、スベン公国軍所属GMマザムリン。水の勇者水上紗枝の要請により、津波に被災したハヌマ王国の救援活動をしています。皆さん。助けに来ました』
そう言った瞬間、甲板上の動きが止まった。
甲板にはしばらく沈黙が下りた。返事が返ってくるとは思わなかったからだ。
あのっと声をかけようと思った時、カッパールスの甲板上に歓喜の声が上がった。
マザムリンを巡航形態にして、カッパールスに横付けする。キャビンからうちの国の兵士とバッザム十人隊長達が出て、カッパールスへと乗り移る。その中には、メリナさんも含まれている。
その様子は、飛ばしたままだった偵察用ドローンからの映像でコクピットに居る僕からでも見ることが出来た。
船に乗り込んだ人達は、縛れていた乗組員を解放していく。
『この野郎!よくも裏切りやがったな!』
ドローンが、大きな怒声を拾った。声のしたほうにドローンを向けるとロープを解かれた若い乗組員の一人が、未だに縛られたままの乗組員の一人に殴りかかっている様子だった。
乗組員は、黙って殴られた。
『おい!何やってんだ!』
バッザム十人隊長の部下が、後ろから羽交い絞めにするがそれでも怒りが収まらないのか暴れている。
『この野郎!この野郎!』
『止めんかっ!このばか者が!』
その時、偉そうな服を着た男が、暴れる乗組員の顔を殴った。
ハヌマ王国の人達が真っ先に縄を解いた事からこの船のお偉いさんなのだろう。
『がふっ!?副長!?だって、だってこいつは!副長を人質にとって俺たちを海賊に売ったんですよ!副長だって見たでしょう!』
どうやら、彼らが一人の死者も無く海賊に捕まっていたのは、船の中に裏切り者が居たせいらしい。
『アートンが裏切ったのは、こういう時は、裏切るように事前に命令してあったからだ!』
『えっ?』
『あの時、我々があのまま海賊と戦っていたら、奴等に皆殺しにされていただろう。だが、我等はハヌマ王国の軍人であり、海賊に無抵抗で屈する訳にはいかない。そのような場合、最上級指揮官が戦闘を指示し、次席指揮官が裏切り降伏する。これで無抵抗な面目が立つ。裏切った次席指揮官は、敵の懐に入り、捕まった者の脱出や食事の支援をする。そういう風になっていたのだ!』
『そんな事しら…』
『お前のような新人が知るわけ無いだろう!これは、船の一部の者しか知らん極秘事項だからな!』
『アートン…さん…』
信じられないという目で若い乗組員は、アートンと呼ばれた乗組員を見た。
『…まぁそういう事だ。それにしてもいいパンチだった。今後の指導は覚悟しとけよ』
見つめられた乗組員は、仏頂面にそう言った。
すると、新人と呼ばれた乗組員の体から力が抜けた。
どうやら一件落着したようだ。それにしても、味方を助ける為に裏切り者になるってすごいな。もし僕が何かあってスベン公国の皆から裏切り者!って罵られたら一生引きこもる自信がある。
それからバッザム十人隊長とカッパールスの代表である副長とで話し合いがされた。とは言っても、こちらにはハヌマ王国の女王からの命令書があるので断られることは無いだろう。
その間に、マザムリンに乗っていたメンバーはキャビンに積んでいた医療品や食料などの支援物資をカッパールスへと運ぶ。
コクピットでそれらが終わるのを待っているとメリナさんから通信が入った。
『ご報告します』
「メリナさん何です?」
『問題無くこの船を接収できました』
「それは良かった。…一応確認しておくけど緊急で陸に運ばなきゃならない怪我人とか居ない?」
『おりません。確認しましたが、重傷者は既に死亡しているか、たとえ陸に連れて行ったとしてもこれ以上の治療は出来ない者たちばかりです。このまま遭難者の救出に向かうのがよろしいかと』
「そう…なんだ」
言われると結構つらい。それにしてもメリナさんは淡々と報告してくるなぁ。
『それより、現在カッパールスの船内にある水が不足しております。補給をお願いします』
「ん。分かりました。じゃあ、入れ物の準備をさせておいてください」
『かしこまりました』
コンソールを操作すると、マザムリンの背部にあるハッチの一つが開く。その中からフレキシブルパイプが伸びた。フレキシブルパイプは、高く伸び上がり、カッパールスの甲板へとその先端を曲げた。
パイプの先には、メリナさんが待っており、その隣には大きな空樽が置かれていた。その周りには、喉を乾かせた乗組員達が列を成していた。
メリナさんはパイプの先を掴んで樽の中に入れた。
『準備できました。お願いします』
「了解」
最後に放水スイッチを押すとパイプの先端から水が勢い良く流れる。
マザムリンには、海水を真水にすることが出来る淡水化装置が付いている。これにより、救出作業中に水が足りなくなることは無い。
甲板から再び歓声があがった。
これでようやくハヌマ王国の遭難者を救出する準備が整った。
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