量産型英雄伝

止まり木

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8話 小国からの誘い

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「何ですか?僕に何か御用で?」
「私は、スベン公国の公女フォニア・ダリル・スベンと申します。今年で16なります」
 そう言うとフォニア名乗った少女は、丁寧にカーテシーをして僕に頭を下げた。
 殆どの貴族が僕に簡単なあいさつすらしていないのに、僕に頭を下げるなんて珍しい人だなぁ。えっとスベン公国ってたしか・・・。最前線四カ国の中で一番小さい国だったな。座学で習った。この世界の世界地図を見たけど、他の三カ国と比べると豆粒ほどに小さい国だった。でもそのお陰で、アポリオンの被害も他の四カ国に比べて一番少なかった国のはずだ。

 その丁寧な礼に僕も持っていたお皿をテーブルの上に置いて挨拶する。
「どうもご丁寧に。僕は、ヒデユキ・アマタと申します。同じく16です。神霊機を持っていない僕に何の用のかな?あっ!ケンジさん…勇者さんに紹介して欲しいの?無理無理。あんな中に僕が突撃したってはじき出されるだけだよ」
 僕は、両手を彼女の前で振りつつ、早速予防線を張る。僕をだしに、ケンジさん達に近づこうと考える人が出てくる事は、一応は想定済みだ。
「そうではありません!私は、貴方様にお伺いしたい事があるのです」
 だけど、僕に話しかけてきたフォニアさんは、首を振って答えた。
「僕に?」
「あの!デアフレムデ様は、何処に行かれるのか、お決めになられているんでしょうか?」
「いや、どうなるんだろうねぇ?僕の召還するザムは、どんなに壊れても翌日になれば直るって特性があるけど、ケンジさん達の神霊機みたいな圧倒的な攻撃力なんてないからねぇ。欲しがる所なんて無いでしょ」
 ケンジさん達は、一緒に行こうと言ってくれているが、着いて行ったとしてもそこでの暮らしが良いものになるとは思えない。そうなると教会に居残りという事になるが、それもゴメンだ。それこそガウス大司教に暗殺される可能性すらありうると僕は考えている。なので僕は、先輩達が、勇者として派遣されたら、どこかに雲隠れする予定だった。
「でしたら我が国に来ていただけませんでしょうか?」
「えっ?僕に来て欲しいの?何で?ケンジさん達の方が圧倒的に強いよ?」
「お恥ずかしい話なんですが、我が国は小国なのです。その為、アポリオンの支配地域と多く接している三国に勇者を譲れ、代わりに色々と支援する。それに要請があったら勇者を派遣するのもやぶさかでは無いと他の三国に言われておりまして…。ですが、防衛戦力が多いに越した事はありません」
 なるほど、そういう事か。戦力を増やしたいけど勇者は取り決めで招聘する事は出来ない。だけど、勇者では無いけどそれなりの力を持ち、且つあまり物である僕に話しかけてきたと。
「はっきり言うけど僕は、死にたくないんだ。僕の場合、与えられた力も大した事無いから、大量のアポリオンには対処できないよ?」
「だっ大丈夫です。我が国は、他の国よりアポリオンが襲ってくる頻度は少ないですし、そもそも襲ってくる数も頻度も、他国と比べると少ないです。教会の方に聞いていただければ分かります!」
 何かあやしいけど、下手に歓迎されない所に行くより、歓迎される場所に行った方が居心地が良さそうってのは、あるなぁ。
 その提案は、僕にとって魅力的ではあった。
「それにデアフレムデ様…」
「ああ、僕を呼ぶときはアマタでいいです。デアフレムデって呼ばれても、僕が呼ばれてるって思えないんで」
「分かりました。アマタ様」
 様もいらないけど、他の人に舐められるのは嫌だしなぁ。
「もし、我が国にアマタ様がいらっしゃったら、我が国の首都であるハイレルゲンの守備をお願いする事になっています。それに精一杯歓待させていただきますし!お願いします!」
 フォニアさんは、両手をぐっと握りこんで押してくる。
 首都か、それならその国で一番防御が固い場所だろう。なら比較的安全かな?
「まぁそれなら危険も少ないか…。いいよ」
「本当ですか!」
 フォニアさんの顔が眩しいくらいに笑顔になる。こんなかわいい女の子の笑顔を見たのは初めてだ。
 その時、ワッ!と会場が騒がしくなった。
 何だと騒がしくなった方を見ると、そこでは、誰かを殴り飛ばしているケンジさんの姿があった。
「貴様!皇帝陛下を殴るとは一体何を考えている!」
 皇帝の警護をしていたと思われる兵が剣を抜き、ケンジさんへと向ける。それをケンジさんは黙ってニヤニヤと見ている。手の平を上にした状態で上げて、指をクイクイッと曲げて「来いよ」挑発していた。
「キサマァ!」
 挑発された兵は、顔を真っ赤にして剣を振り上げた。
「待てい!」
 その時、会場に渋い男の声が響いた。止めたのはケンジさんが殴り飛ばした皇帝だった。盛大に仰向けに倒れていた皇帝は、ムクリと起き上がり膝立ちになる。
「くくく、レグオン帝国の皇帝たる余を殴り飛ばすか!いい度胸だ!小僧!」
 膝立ちの状態からゆっくりと立ち上がると皇帝は、目にも留まらぬ速さでケンジさんを殴り飛ばした。

 なんだ。ケンジさんが主人公イベントを発生させただけか。

 ケンジさんはそのまま壁まで吹き飛び激突、そのままずるずると尻餅を付いた。
「立てい。神霊機が呼べるからと偉そうに…。光栄に思え。余自らが若造に礼儀と言う物を、叩き込んでやろう!」
 皇帝は、纏っていた豪奢なマントを固定していた紐を解き脱ぎ捨てると、今度は上着も脱いだ。その下にあったのはシャツの上からでも分かる鍛え上げられた肉体。
 国家のトップが持ってる体じゃないよそれ!
 口の中を切ったのか口の端から流れる血を袖で拭いながらケンジさんは立ち上がる。その顔は、獰猛に笑っていた。
「へっ!言うじゃねぇかおっさん。面白くなってきやがった!」
 完全に台詞が主人公です。ありがとうございます。
「皆の物。これは余興だ。誰の手出しも許さぬ。これは命令だ」
「いいのかおっさん?」
 ボタンを煩わしそうに外し、上着を脱ぎながらケンジさんも聞く。
「これでも武帝と呼ばれた身よ。貴様如き小僧を拳一つで下せなくて何が皇帝かっ!」
「そうかっよっ!」
 そこからは肉体言語の応酬だった。
 パーティ会場には似つかわしくない肉弾音が響く。
 ガウス大司教が止めようとしたが、漏れなく拳の応酬に巻き込まれてノックダウンしていた。
 僕は、もちろん我関せずと眺めている。水上先輩、木下先輩も呆れたように眺めている。二人もとめる様子は無い。
 周りはいつの間にか、二人の戦いに熱い声援を送っていた。
 その後、二人仲良くダブルノックアウトすると、お披露目会は、お開きになった。
 
 お披露目から二日後、僕らの出向く先が決まった。
 ケンジさんは、お披露目で喧嘩した皇帝が収める帝国へと行く事が決まった。あの後、夕暮れの河川敷で殴りあった様に、両者は互いの健闘を称えあい和解したそうだ。皇帝である自分に対し五分で殴りあったケンジを気に入った皇帝が「奴は、うちで貰う」と、腫れた顔のまま出席した勇者の派遣先会議で言い放ったそうだ。
 水上先輩は、女王が収める王国へ、女性同士で気があったそうな。
 そして自動的に、木下先輩は共和国へ。
 僕?
 僕は、勇者じゃないし、ザムの性能が低い事から、話題にも上がらず、会議の最後にスベン公国に僕が行っても問題ありませんよね?って聞いたらえ?ああ、うん、いいよで決まったそうだ。
 僕のここでの評価なんて、そんなもんだろう。





 僕達の担当国が決まってから数日がたった、ある晴れた日。僕達は、旅立つ事になった。
 僕らを召還した教会の前でしばしの別れの挨拶をする。
 先輩達はそれぞれのイメージカラーを前面に出した特注の鎧を着ている。鎧と言っても神霊機に乗る事を前提としたパイロットスーツの様なものだ。
 敵からの攻撃を防ぐというよりは、コックピット内にぶつけて怪我をしないのを重視しているので、トゲトゲとした演出過剰な鎧ではない。どっちかって言うとプロテクターに近いものだろう。だが形で派手に出来ない分、鎧のいたる所に宝玉を埋め込んだり、エングレーブが掘り込まれており、とても豪華でかっこいい。
 変わって僕に用意されたのは、何か一般兵が着そうな普通の革の鎧だ。けど、先輩達の来ているアニメに出てくるヒーローっぽい鎧を着たいか?問われると僕は遠慮したいと答える。僕には、これでいいんだろう。ガウス大司教いわく、フォルスに乗る兵士に支給される革鎧を特別に・・・取り寄せたそうだ。
 派手好きではない木下先輩は僕の鎧を見てうらやましそうにしている。
「お前らもがんばれよ。絶対に死ぬんじゃねぇぞ」
「私だって、まだ死にたくないわよ。熱田君もあまり向こうに迷惑かけない様にね?」
「死なん様にするさ」
「敵に突っ込んでいの一番に死にそうなのは、ケンジさんですけどね」
 そう言うと三人の視線が僕に集中した。それは明らかに「何言ってんのお前」って目をしていた。
「なっ何ですか、その目は?」
「あのなぁ。ヒデ。お前が一番心配なんだからな?お前のロボは弱っちいから…」
「いやいやいや、先輩達の神霊機が強すぎるだけなんですよ!それに僕のザムは、いくら壊れたって翌日には直るんですから!それに僕が行くのは最前線国家の中でも一番アポリオンの被害が少ない場所ですし、僕自身無茶する気はありませんよ」
「でも、心配だわ」
 水上先輩が頬に手を当てて言った。鎧を着ている事もあり、水上先輩は長い髪をアップに纏めていたそのお陰でうなじが見えとても色っぽい。
 仕草も合わさり、正直ドキッとしました!
「でもまぁ、その危機に晒されているのは、この大陸の何処に居ても変わりませんよ。何処に居ても同じだったら、少しでも待遇のいい場所に行きたいと思うのは自然な事でしょう?それに僕のザムも神霊機みたいに戦えば、成長とかするかもしれませんしね。幸いアポリオン相手でも数が多くなければザムでも勝てるだろうって聞いてますし、遠くからちまちま撃って戦う事にしますよ」
「そうだな。お前が決めたんだ。今更とやかく言っても仕方あるまい」
 心配性の二人に対し、木下先輩は僕の決断を尊重してくれた。そしてポンと僕の方に手を置いて「がんばれよ」と言ってくれた。
「しゃーないか。またな!」
「気をつけてね!」
 ケンジさん達は自身の神霊機を呼び出し、案内役の人間を乗せた駕籠を持ってそれぞれの国へと向かって行った。空を飛べるフレイムソスとアクアヴィーネは、数日もあれば、目的の国の首都へ付くそうだ。本当なら一日でいける距離なのだが、駕籠に乗せた人間が神霊機の出すスピードに耐えられないそうだ。
 飛べないククノチも数日は掛かる。こちらの場合は、陸路を遠回りしなければならない場所もあるので二人よりは時間が掛かるのだそうな。それでも竜車乗って行くのとでは、段違いに速いらしい。

 さて、僕も出発するとしようかな。
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