量産型英雄伝

止まり木

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9話 この世界の人型兵器 フォルス

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 先輩たちと違って僕は、竜車に乗ってスベン公国に行く。
 ザムは空は飛べないし移動は徒歩だ。同行者が居る今の状況でザムに乗っていく事は出来ない。

 僕の前には、いかにも頑丈そうな竜車で、しかも使い古されているらしく、そこかしこに傷がある。いかにも実用品な竜車だ。繋がれている走竜の体にも無数の傷があり、なんというかまるで歴戦の兵のよう風格がある。
 まるで戦場の中を走り抜けた馬車のようだった。
 竜車の扉を開けると中には、旅装束を着たフォニアさんとお付の人が先に乗っていた。

「これからよろしくお願いしますね」
「はい。こちらこそよろしく願いします。じゃあ出発しましょう。これから、私達は街道に出て、そこでそこで帝国からの支援物資を載せた輸送部隊と合流します。そして、彼らと一緒にスベン公国へと向かいます。多分1週間ほどの旅になると思います」
「一週間の旅かぁ。そんなに長い間旅するのは初めてだなぁ…」
「そうなのですか?」
「元の世界じゃ、空飛ぶ機械、飛行機ってのがあってね。有名な国なら海を隔てて遠く離れていても大抵一日二日でついてしまうんですよ」
 教会から出発して、夕暮れになるまで道を進んだがずっと木々に囲まれた山道だった。

 随分と教会は、人里離れた場所に建っていたんだな。
 今日の野営地についたので竜車から降りてバキバキになった体を伸ばしながら思った。
 きっと神霊機がうまく扱えない時に攻撃が暴発したりした時に、回りに村や町があれば大惨事だからといってこんな場所に作ったんだろうな。と竜車の中から外を眺めながら思った。


 竜車の旅と言うのは暇なものだ。特に客の場合は、初日は、フォニアさんと色々話したりもしたが、元々あまり会話は得意では無いのですぐに話のネタが切れた。
 僕の前に座っているフォニアさんとお付の人は、揺れる車内で器用に編み物を編んでいた。
 時折、こちらを申し訳なさそうにこちらを見る事があったのが不思議だった。まぁ戦場に連れて行こうとしているんだからそれも普通か。
 あーあ、暇つぶしの物でも何か持ってくるんだった。時折ザムを召喚して行軍訓練モドキをしたりする。それでも歩いているだけなので、コックピット内でも結構暇だ。
 一応スマホがあるが、これは緊急時にケンジさん達と連絡を取るための非常手段。ソーラー充電器を持っていない僕が暇つぶしでスマホの電池を使い切るなんて自殺行為だ。
 なのでする事が無い。これから行くスベン公国についておさらいをしておくか…。

 スベン公国は元は、別の国の属領的な国だったそうだ。元々一つの国だったのだが、立地がかなり特殊で、周囲から隔絶された場所にあった為、同じ国として統治したらかなり面倒だった。それ故に別の国家として運営させ、その国家を緩やかに支配する、国の子会社のような国だったそうな。いわゆる属国。
 だが、その宗主国たる国家がアポリオンの再襲来により滅ぼされてしまった。スベン公国は隔絶された立地のお陰でアポリオンの侵攻を何とか防げているが、否がおうも無く完全独立国家となってしまったのだ。
 
 元々軍備に関しては宗主国頼みだったスベン公国は、すぐに軍備を揃えようとしたが、既に物資の高騰は始まっており、公国の国庫にあるお金だけでは足りなかった。人類同盟から支援が来るとは言っても、それには時間が掛かる。そこで公王は苦肉の策に出た公王家の私財を売り払って、どうにか中古のフォルスを買い集めたのだ。
 フォニアさん達が、他の国の要人達と比べて、ぱっとしない衣装を着ているのは、家宝以外全ての宝飾品や美術品を売り払ったせいだった。
 
 現在は何とか支援も届き始め、人類同盟軍からの増援の到着。それに宗主国から逃げてきた避難民をフォルスに乗って護衛してきた部隊があり、その人達が義勇兵となった事もあり、なんとか形にはなってきたらしい。

 それでもまだ戦力が足りなかった所に今回の勇者召喚の話が来たのだそうな。 
 もし、僕が神霊機並みに強いロボットを召喚できていれば、勇者として絶対に他国に取られた。今回の事は、僕には悪いが幸運でしたとフォニアさんは微笑んでいた。

 きっと、僕がロボットを召喚できなければ教会預かりとなったはずだ。どの国も勇者では無い戦力にもならない異邦人に無駄飯を食わせる余裕は無い。そうであれば僕はずっとあのガウス大司教と顔を付き合わせる羽目になっていただろう。考えるだけでぞっとする。
 
 
 教会を出発してから三日目、ようやくスベン公国に繋がる街道とやらに出ると、そこには既に大量の竜車が並んでいた。
 この時僕はザムではなく竜車に乗っていた。さすがにザム乗ったまま行けば余計な混乱を招くからだ。
 窓から外を見れば、何か大きな物にに布をかぶせた物や木箱を幾つも積んだ物、穀物が入っていると思われる麻袋を積んだ物など、竜車の積荷は様々だ。
 そこで僕は、フォルスを初めて見た。並んでいる車列の所々に警備する為に立っていたのだ。
 全長は約8mくらい。手足が普通の人間と比べると短く、いわゆるドワーフ体型とでも言うのだろうか、それに、西洋甲冑っぽい装甲をしていたので、昔のアニメに出てきたSDロボみたいな感じもする。
 神模石(しんもせき)と呼ばれる鉱石を動力源とし、その石に溜まった神力を引き出し、その力を、術式と呼ばれる回路を刻み付けたフレームに流す事によって四肢を動かしているのだという。
 神力とは、この世界に満ちている奇跡の力なのだそうだ。
 僕の理解では、魔力とかマナとそんな感じのものだろうと思っている。

 武装は剣、盾、槍などがメインで、数は少ないけどボーガンやボルトアクション式と思われるライフルを持った機体もあった。
 どれも、装甲に大小さまざまな傷がつき、薄汚れている。
 
 僕の乗った竜車は長い車列の横を通り、先頭の竜車へと向かう。
 先頭の手前まで来ると竜車は止った。
「輸送隊の皆さんにご紹介するので、降りて貰ってもいいですか?」
「いいですよ。それにあのフォルスってロボも気になるからね。紹介が終わったら近くに見に行っていいですか?」
 この世界で作られた量産型のロボットだ。凄い興味がある。
「ええ、大丈夫ですよ」
 扉が御者によって開けられ、フォニアさんが降りる。僕もついていく。フォニアさんは、キョロキョロと車列の中を見回しながら歩く。
 輸送隊の責任者を探しているのだろう。
 近くに居た兵士にフォニアさんが話しかけると、かしこまった様子で駐機されたあるフォルスを指差し、答えた。
「あちらです」
 指で示されたフォルスは、今までこの車列を警備していたフォルスとほぼ同じ外見をしていたが、胸部装甲だけエングレーブが施された赤い装甲が取り付けらていた。
 指揮官機かな。
 
 示された機体に近づくとフォニアさんが声を掛けた。
「セリア様いらっしゃいますか?フォニアです」
 駐機していたフォルスの胴体部にある装甲が、跳ね上がり中から人が出てきた。どうやら正面装甲そのものが搭乗ハッチを兼ねているようだ。
 中から出てきたのは、ズボンに赤い革鎧を着た迫力ある金髪美人さんだ。金髪で髪を一つにまとめて肩の辺りから前にたらしている。大きな胸を革鎧で無理矢理抑えているのか、胸元辺りで深い魅惑の谷間が出来ている。
 狭いコックピットに居たせいか、肌はしっとりと濡れており、少々僕には刺激が強い。
「あはは。もう私の国は滅んじゃったんだからセリアでいいって言ってるでしょ」
 コックピットから出てきた美女は二カッと笑いながら言った。
 滅んだ?つまり彼女はアポリオンの再侵攻で滅んだ国の人間という事か。一国の王女であるフォニアさんが様付けするって事は、元の国では結構なお偉いさんだったって事なのかな?
「そうは。参りません。貴方様は由緒正しき、セイラン王家の方ですから」
 セイランって確かスベン公国の滅んだ宗主国の名前じゃなかったか?その王家の娘って事はお姫様?改めてセリアと名乗った女性を見ると、姫と言うよりは姉御!といいたくなる気風の良い人だ。深層の令嬢と言った雰囲気はまったく無い。
「頭固いねぇフォニアは」
 セリアと呼ばれた人は苦笑した。
「アマタ様、ご紹介します。彼女が、今回の輸送隊の責任者をして貰っているセリア・セイラン様です」
「よろしくね。フォニアが様付けて呼んでるけど私は、もうそんな偉い人間じゃないから普通に接してね」
「ヒデユキ・アマタです。よろしくお願いします」
「へぇあんたが勇者なんだ?なんだかパッとしない顔してるけど…」
 はっきり言うなぁ。モブ顔してるのは認めますよ。
「僕は勇者じゃないですよ。教会いわくデアフレムデだそうです。一応ロボットの召喚は出来ますが…」
「ロボット?」
「フォルスみたいな物ですよ。正確には量産型ギアソルジャーGS-06Bザム。長いんで僕はザムって呼んでますけど」
「見せてもらっていいかしら?」
 そう言ったセリアさんの目はキラキラとしていた。この人もロボット好きなのかな?
「いいですよ」
「じゃあ、ちょっと待ってて」
 そう言うとセリアさんは、トトトッと駐機しているフォルスの上に登ると大声で言った。
「全員傾注!今からデアフレムデ殿が召喚なさる!驚いてパニックになるなよ!以上だ!」
 周囲から了解という返事がされる。暇な兵士などは、野次馬をしようと近づいてくる。
 適当に広い所に移動すると僕は集中する。最近は召喚にも慣れ自然と出来るようになっていた。
「コール!GS-06Bザム!」
 召喚の声に答え、奇妙な設計図のような四角い召喚陣が立ち上がる。
 召喚陣が奥へと滑るとザムが姿を現す。何時もの召喚風景だ。
 周囲の野次馬達からおおーと言う歓声が上がる。
 教会に厄介になっていた時は、誰も僕の召喚を見ても大したリアクションが無かったのでこう言うのはちょっと嬉しい。
「はぁー!大きいわねぇ。それにいい面構えだわ」
 セリアさんは手でひさしを作って仁王立ちしているザムを見上げる。
 ザムは、つや消しグレーに塗られた装甲に黒光りするマシンガンを手に持った状態で仁王立ちしている。
「これでもケンジさん達の神霊機よりは一回り小さいんですけどね」
 それでも、フォルスと比べると背が二倍以上高い。
「手に持っているのはマシンガンかい?こりゃまた珍しい物を…」
「はい。神霊機の攻撃と比べると豆鉄砲ですけどね」
 自嘲気味に言うと、とんでもないと首を振る。
「いやいやいや、こんだけ口径がでかければ私達の使ってるライフルより威力はありそうだわ」
 やっぱり神霊機が規格外すぎるだけで、ザムもこの世界基準なら十分強い部類のロボットなのだろう。
「うんうん。パワーも有りそうだし、ちょっと一仕事頼まれてくれない?」
「セリア様!そんな事をアマタ様に頼むなんて!」
「いいですよ。ただ馬車に乗っているのも暇なので出来る事があればお手伝いしますよ」
 フォニアさんが恐縮して言うが、僕はそんな事気にしない。というか、戦闘以外の仕事ならドンとこいだ。
 そう言うとセリアさんの顔は嬉しそうに笑った。
 それに僕の力が使えるものである事を見せないと、また教会の時のような扱いになるかもしれない。あんな腫れ物のように扱われる生活はゴメンこうむりたい。荷運びでも何でも仕事さえしてれば白い目で見られる事は無いだろう。
「そお!竜車を引っ張ってたヴェロがここに来る途中に死んじゃったのよ。帝国の連中が死に掛けのヴェロを寄越したのよ!公国だからって舐めてるのね!ホントむかつくわ。おっとごめんなさいね。それでね。ここまではダロスで無理して引っ張ってきたんだけど、限界みたいなのよ」
「ダロス?」
「ああ、このフォルスの名称さ。ロットン社製のダロス。最新鋭の機体じゃないけど、ここまで一緒に戦ってきた自慢の愛機よ」
 セリアさんは、自分の乗っていた機体を指差して言った。
 ロボットの総称としてフォルス。機体名としてダロスね。なるほど。
「その竜車をザムで引っ張れば良いんですね?」
「ゴメンね。本来こんな事頼める立場じゃないんだけど」
「かまいませんよ。僕は別に戦闘がしたい訳ではないんで…。出発は何時です?」
「そうね。引っ張ってもらう竜車の準備もあるから30分後位ね」
「こっちも準備しておきます」

 僕らは予定より少し遅れて大体40分後出発した。時間が掛かったのは、ザムのリアアーマーに竜車をくくり付けていたからだ。元の計画では、竜車にロープを繋いでそのロープをザムで引っ張る予定だったのだが、ザムのリアアーマーにあるフックの配置が、何かをくくり付けられるように設計されていたのに気付いて、急遽その様にしていたのだ。ただ、何分全員初めて作業だったのでちょっと時間が掛かった。
 準備が終わると改めてスベン公国へと向かって出発した。
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