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13話 数の力 二機のザム
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セリアさんは、迷い無くコックピット内のボタンを押し、スイッチを入れていく。コンソールに光が灯り、各種システムのチェックが開始された事を示す文が流れる。
ドゥン!と、ザムが起動した音がする。
最後に、MRヘッドセットをセリアさんが被る。
「どう?使えそうですか?」
「行ける!行けるわ!凄い凄いわ!」
たずねるとセリアさんは、興奮に声を震わせながら答えた。
分かる。僕も最初にそのMRヘッドセットを被った時の興奮は忘れらない。
「そうですか。なら僕を下ろして下さい。僕は、もう一機のほうに乗りますから」
「大丈夫よ。そこまで送ってあげるわ!掴まってて」
「えっ?うおお!?」
するとザムが動き出し、隣に立っているザムのコクピットへと手を伸ばす。今度は僕は揺れる掌の親指に掴まる。
「ほら」
「あっああ、ありがとう」
コックピットハッチを開け、中に乗り込む。シートに座りザムを起動させている時に僕は気付いた。気付いてしまった。
「何てこった!やっちまった…!?」
そう。美人のお姉さんと狭いコックピットで二人きりと言う、おいしいシチュエーションが露と消えた事を。
「しょうがないか」
セリアさんと一緒のコックピットに乗ったとしてもてんぱって操縦すら失敗しそうだし、コレでいいんだし。そう思おう。
気を取り直すとセリアさんの乗るザムへと通信を繋いだ。
「セリアさん」
「わっ本当に見えるし聞こえる!使い方は分かるけど、本当そうなるなんてびっくりだわ」
僕のMRヘッドセットの画面に仮面のようなMRヘッドセットを着けたセリアさんの顔が映る。
仮面の女性って蠱惑的だね。これはこれで…。
「これからどうします?上に戻りますか?」
「えっああ、戻らないわ。上に居た皆は、もう出発しているはずよ。私達は別ルートで行くわ」
「道は分かりますか?」
「大丈夫よ。遠回りなるけど、これに乗っていけば、多分ハイレルゲンに着く前に隊に追いつけるはず。急ぎましょう!」
ザムの走行速度は75kmほど、竜車と比べるとこちらの方がかなり早い。
「わかりました」
セリア機が、先行して走り始めた。
谷底は、雨季に川になるだけあって、平らだった。しかもザムが普通に走れる程度の幅がある。
走っていると、ふと疑問に思ったことをセリアさんに聞いた。
「あそこで襲われるのは普通なんですか?」
「そんな訳無いじゃない。襲われる様な場所を野営地にすると思う?危ないのは今日通る場所のはずだったのよ…」
「えっ?今日からってもうスベン公国の首都であるハイレルゲンの周辺なんでしょ。安全じゃないの?」
「何言ってるのよ。ハイレルゲンは今スベン公国の最前線よ?4カ国の中で一番押されてる場所。今はハイレルゲンにある城壁のお陰で何とか持ってるけど」
あーこれ、僕完全に騙されたわ。…いや、確認不足と言った方が良いのか…。
「…まさか、あなたそんな事も知らないでスベン公国に来たの?」
驚いた様子のセリアさん。もちろん調べたけど、本には最新情報なんてないし、教会の人に聞いても最新の戦況情報なんて知らなかったのだろう。唯一知っていたのは…。
「あはは、フォニアさんは、首都が危険な場所なんて言ってなかったんだ。首都で防衛だけをしてくれれば良いって言ってましたし…」
まぁ嘘は言ってないか…。首都が最前線で常に危険に晒されているって言っていないだけで…。
「私達が運んでいたのは、首都防衛で破損したフォルスの部品と、医薬品や武器とかを輸送していたのよ。…ごめんなさい。あの子も国を守りたくて必死だったのよ…。どうする今から引き返す?」
「約束しちゃったからにはとりあえず行きますよ。それに、何にもしないで逃げ出したら、ケンジさんにぶっ飛ばされますよ。はぁ」
ここで取り乱さなかったのは、文句を言うべき相手が居なかった事と、アポリオンと戦える力がザムには、あったおかげだろう。そうでなければ、僕はみっとも無く喚いていただろう。
「だっ大丈夫よ。貴方には、資材ポイントを使ってこれを量産する事が出来るじゃない!そうすれば絶対に勝てるわ!」
そうは言うが、まだ把握しきれない力を頼りにするのはどうかと思う。
「はぁどうしよう…」
日本のビル街でも無いのに狭い空を見上げながら僕は思った。
しばらく無言の行軍が続いた。
僕はこれから、アバドンとの戦闘の最前線へと向かっているらしい。
無理だと思う自分と、このザムを量産することの出来る力があれば出来るんじゃないか?と思う自分が、僕の思考をグチャグチャにする。
「スベン公国はね。元々は、神霊機がこの地に蔓延っていたアポリオンを滅した時に出来たクレーターの中に作られた国なの」
無言が、嫌だったのか、僕を気遣ってくれたのか、セリアさんが言った。
「今通っている山も、そのクレーターの縁なのよ?」
「えっ!?あの高い山がクレーターの縁なんですか?」
信じられない。ケンジさん達が訓練で見せてくれた攻撃の威力より何倍も下手したら何百倍の威力の攻撃が出来ればそんな事が可能なんだろうか。
「凄まじい攻撃力よね。一体どんな攻撃をしたらこんな事になるのかしら?」
谷を抜け、切通しの様な山の合間を通ると視界が開けた。出た場所は山の中腹辺りで、眼下には広大な平地が広がっていた。背後の山脈が、半円を描いて地平線の向こうまで伸びている、この場所がクレーターである証拠だ。夕暮れとあいまって神秘的な光景だった。
これがクレーターの内側?広すぎないか?
遠くには、平原に建てられた城と城下町、そしてその城下町を守る二重の城壁が見えた。
本来であれば、見事な町並みだっただろう。
だがそれらは、徹底的に破壊されていた。
「そっそんな!ハイレルゲンが落ちてる!?」
外敵から人々を守るはずだった外壁は、何か巨大なものによって破壊されたのか大穴が開けられ、そこを基点として、無数のアバドンが侵入したのだろう。そこから扇状に破壊の後が広がっている。中には真っ赤に血の跡や、破壊されたダロスの残骸などが無数に転がっていた。
僕が始めて訪れるはずだった街は、無残な廃墟へと変わっていた
ハイレルゲンの周りには、既に無数のアバドンが徘徊している。まだアバドン達はこちらに気付いてはいないが、とてもではないが近寄れるような状況じゃなかった。
「どっどうします?たっ助けに行きますか!?」
「待ちなさいっ!あの数の敵をこの機体で倒せるの?」
混乱する僕に、セリアさんが一喝する。
ザムなら昨日戦ったアバドンの集団程度なら倒す事ができる。しかし、ハイレルゲンの周りには、昨日とは比べ物にならない数のアバドンが蠢いている。あの中に無策に突っ込んで行ったら、すぐに弾切れになり、返り討ちにあうのは目に見えている。
「…」
「それに、ハイレルゲンが落ちたのは、アポリオンの様子からして昨日今日の話じゃないわ」
確かに、ハイレルゲンの中には殆ど砂煙などは上がっておらず、アポリオンも暴れていない。生きた人が近くに居れば絶対に襲い掛かると言う性質上、あそこには生きた人間が居ないという事だ。
「はぁふぅ。…ではどうします?」
「フォニア達もハイレルゲンが落ちた事には気付いたと思う。なら、行く所は一つよ。要塞都市カルナート」
「何処です?それ」
「スベン公国の最東端にある街よ。この国で最初に作られた街でもあるの。あそこならここからある程度距離があるし何より、首都にも負けないほどの城壁を持ってるわ。私達も行くわよ」
「分かった」
僕達は、瓦礫の山と化したスベン公国の首都から離れた。
「チクショウ!また!また、奴等に奪われた!」
首都から離れる時。セリアさんが震える声で小さくそう言ったのが聞こえた。
僕は、そんな彼女に何も言う事が出来なかった。
ハイレルゲンから、離れつつカルナートへと向かう。
首都が落とされた事に、消沈したセリアさんは、沈んでおり、先ほどから一言も喋らない。僕も、そんなセリアさんにかける言葉が見つからず無言の行軍が続く。
「見つけた!輸送隊よ」
そこで輸送隊を発見した。
僕らから数キロ先の平原を猛スピードで輸送隊が走っている。余計なものを引き連れながら。
「アバドンに追われてる!」
「確認したわ。構成は昨日と一緒アバドンにバグリザド!行くわよ!」
輸送隊を注視し、それを察知したヘッドセットが輸送隊の姿を拡大する。輸送隊の先頭は、フォニアさんが乗っている竜車だ。竜車を操っている御者の人達は全員必死な顔をしてヴェロに鞭を打っている。その後ろに、他の竜車が並び、殿には、ダロスが付いていた。
輸送隊の後ろにはもうもうと砂煙を上げながら、昨日見たのと同じ獣型のアバドンの群れが追いかけている。
「クソ!うちの連中がやられてる!」
セリアさんが、苦しそうに言う。
殿に三機のダロスと、車列の左右を守るダロスが二機が居るが、それ以外のダロスが見当たらない。少なくとも昨日までは10機は居た筈だ。
状況から考えると、逃走中にやられた可能性が高い。
「輸送隊に合流して、逃走を援護するわよ!」
「マシンガンの扱いには気を付けてください。下手に撃ち続けると変な方向に飛びます!」
僕達はザムのスピードを一気に上げた。
巡航速度は、大体時速75kmだが、短時間なら時速90kmで走る事が出来る。これはフォルスや、竜車と比べると圧倒的に早い。
神霊機である先輩達は普通に音速超えて移動出来るんですけどね。
僕達に気がついた御者達が、驚いた様子でこちらを見る。御者が大声を出したのだろう。フォニアさんが乗っている竜車の窓が開き、フォニアさんが顔を出した。
レーダーには、30体のアバドンと、またあの反応がある。
アバドン達は、徐々に輸送隊と距離を縮めており、最後尾まで後ちょっとの所まで来ていた。
先ほどから敵をロックオンしたと告げる電子音がコックピット内に木霊しているが、トリガーを引く事ができない。
「このまま撃ったら、輸送隊の連中にも被害が出ちゃいます!」
追っているアバドンと輸送隊の距離が近すぎて、下手に攻撃できない。このまま撃てば、その攻撃の余波で竜車ごと吹き飛びかねないからだ。
その時、ちらりと殿をしていたダロスがこちらを見た。そして、何かこちらに腕を振って合図をした。
「待って!やめて!走れ!走れ!走れ!走って!」
それに何かを察したセリアさんが叫ぶ。
だが、次の瞬間、殿をしていたダロスが反転、追跡していたアバドンに対して突撃を仕掛けた。
「なっ何を!」
あまりにも無謀な突撃に思わず僕も声を上げた。
「あいつら、輸送隊とアバドンとの距離を広げる為に、足止めする気なのよ!」
「そんな!あの数じゃ…」
「急ぐわよ!」
僕達は、全力でザムを走らせる。
護衛のダロスは、多勢に無勢と言う状況で勇敢に戦った。
武器が壊れ、盾を弾かれ、それでもダロスは戦った。腕をもがれ、足を砕かれても、ダロスはアバドンに対して腕を、足を動かせる物を全て動かし足止めしようと足掻いていた。
僕達はそれを見ていることしか出来なかった。アバドン共にダロス達がメキメキとバキバキと力任せに引き裂かれる姿を…。
昨日まで僕は彼らと会話していた。そんなに親しい仲の人達ではなかったけど、彼らは焚き火を囲み楽しそうに話していた。それが僕の目の前で化け物に食い尽くされている。
人が死んでいく。笑っちゃうくらい呆気なく。
竜車が、攻撃に巻き込まれない程度にアバドンとの距離を伸ばす。
「撃てます!集団の外側から!」
「ああああああああああああああああああ!」
二機のザムの75mmマシンガンが発射される。75mmの弾丸の雨が集団へと降り注ぎ、集団の外側に居たアバドン達が一気に粉砕される。
集団の中心部に居た、バグリザドも二機の集中砲火で頭を完全に粉砕する。これなら、完全にくたばっただろう。
一機で大変だった敵集団が二機になるとこれ程まで楽になる。数の大事さを痛感する。
アバドンの掃討が終わるとセリア機は、アバドンの死体を乱暴に掻き分けてダロスの残骸を掘り出す。
胴体を齧り取られたもの、バグリザドの鎌で突き刺されたもの、最後は胴体部だけ無事だったものを見つけた。
セリアが、大急ぎで、ザムから降りて、「今助けるわ!」と声を掛けながら胴体ハッチを開ける。だが、ハッチを開けて固まったかと思うとセリアさんは、静かにハッチを閉めた。
鈍感な僕にも分かる。生存者は居なかったという事は。
「行きましょう。フォニア達が待ってるわ」
振り返ったセリアさんの顔には陰りが見えたが、涙は無かった。
慣れてしまったのだろうか?その陰った顔の裏で彼女は泣いているのだろうか?僕には分からない。
僕が居るこの世界は、紛れもなく争いの中にあり、人の命など簡単になくなってしまう世界なんだと改めて身を持って実感した。
ドゥン!と、ザムが起動した音がする。
最後に、MRヘッドセットをセリアさんが被る。
「どう?使えそうですか?」
「行ける!行けるわ!凄い凄いわ!」
たずねるとセリアさんは、興奮に声を震わせながら答えた。
分かる。僕も最初にそのMRヘッドセットを被った時の興奮は忘れらない。
「そうですか。なら僕を下ろして下さい。僕は、もう一機のほうに乗りますから」
「大丈夫よ。そこまで送ってあげるわ!掴まってて」
「えっ?うおお!?」
するとザムが動き出し、隣に立っているザムのコクピットへと手を伸ばす。今度は僕は揺れる掌の親指に掴まる。
「ほら」
「あっああ、ありがとう」
コックピットハッチを開け、中に乗り込む。シートに座りザムを起動させている時に僕は気付いた。気付いてしまった。
「何てこった!やっちまった…!?」
そう。美人のお姉さんと狭いコックピットで二人きりと言う、おいしいシチュエーションが露と消えた事を。
「しょうがないか」
セリアさんと一緒のコックピットに乗ったとしてもてんぱって操縦すら失敗しそうだし、コレでいいんだし。そう思おう。
気を取り直すとセリアさんの乗るザムへと通信を繋いだ。
「セリアさん」
「わっ本当に見えるし聞こえる!使い方は分かるけど、本当そうなるなんてびっくりだわ」
僕のMRヘッドセットの画面に仮面のようなMRヘッドセットを着けたセリアさんの顔が映る。
仮面の女性って蠱惑的だね。これはこれで…。
「これからどうします?上に戻りますか?」
「えっああ、戻らないわ。上に居た皆は、もう出発しているはずよ。私達は別ルートで行くわ」
「道は分かりますか?」
「大丈夫よ。遠回りなるけど、これに乗っていけば、多分ハイレルゲンに着く前に隊に追いつけるはず。急ぎましょう!」
ザムの走行速度は75kmほど、竜車と比べるとこちらの方がかなり早い。
「わかりました」
セリア機が、先行して走り始めた。
谷底は、雨季に川になるだけあって、平らだった。しかもザムが普通に走れる程度の幅がある。
走っていると、ふと疑問に思ったことをセリアさんに聞いた。
「あそこで襲われるのは普通なんですか?」
「そんな訳無いじゃない。襲われる様な場所を野営地にすると思う?危ないのは今日通る場所のはずだったのよ…」
「えっ?今日からってもうスベン公国の首都であるハイレルゲンの周辺なんでしょ。安全じゃないの?」
「何言ってるのよ。ハイレルゲンは今スベン公国の最前線よ?4カ国の中で一番押されてる場所。今はハイレルゲンにある城壁のお陰で何とか持ってるけど」
あーこれ、僕完全に騙されたわ。…いや、確認不足と言った方が良いのか…。
「…まさか、あなたそんな事も知らないでスベン公国に来たの?」
驚いた様子のセリアさん。もちろん調べたけど、本には最新情報なんてないし、教会の人に聞いても最新の戦況情報なんて知らなかったのだろう。唯一知っていたのは…。
「あはは、フォニアさんは、首都が危険な場所なんて言ってなかったんだ。首都で防衛だけをしてくれれば良いって言ってましたし…」
まぁ嘘は言ってないか…。首都が最前線で常に危険に晒されているって言っていないだけで…。
「私達が運んでいたのは、首都防衛で破損したフォルスの部品と、医薬品や武器とかを輸送していたのよ。…ごめんなさい。あの子も国を守りたくて必死だったのよ…。どうする今から引き返す?」
「約束しちゃったからにはとりあえず行きますよ。それに、何にもしないで逃げ出したら、ケンジさんにぶっ飛ばされますよ。はぁ」
ここで取り乱さなかったのは、文句を言うべき相手が居なかった事と、アポリオンと戦える力がザムには、あったおかげだろう。そうでなければ、僕はみっとも無く喚いていただろう。
「だっ大丈夫よ。貴方には、資材ポイントを使ってこれを量産する事が出来るじゃない!そうすれば絶対に勝てるわ!」
そうは言うが、まだ把握しきれない力を頼りにするのはどうかと思う。
「はぁどうしよう…」
日本のビル街でも無いのに狭い空を見上げながら僕は思った。
しばらく無言の行軍が続いた。
僕はこれから、アバドンとの戦闘の最前線へと向かっているらしい。
無理だと思う自分と、このザムを量産することの出来る力があれば出来るんじゃないか?と思う自分が、僕の思考をグチャグチャにする。
「スベン公国はね。元々は、神霊機がこの地に蔓延っていたアポリオンを滅した時に出来たクレーターの中に作られた国なの」
無言が、嫌だったのか、僕を気遣ってくれたのか、セリアさんが言った。
「今通っている山も、そのクレーターの縁なのよ?」
「えっ!?あの高い山がクレーターの縁なんですか?」
信じられない。ケンジさん達が訓練で見せてくれた攻撃の威力より何倍も下手したら何百倍の威力の攻撃が出来ればそんな事が可能なんだろうか。
「凄まじい攻撃力よね。一体どんな攻撃をしたらこんな事になるのかしら?」
谷を抜け、切通しの様な山の合間を通ると視界が開けた。出た場所は山の中腹辺りで、眼下には広大な平地が広がっていた。背後の山脈が、半円を描いて地平線の向こうまで伸びている、この場所がクレーターである証拠だ。夕暮れとあいまって神秘的な光景だった。
これがクレーターの内側?広すぎないか?
遠くには、平原に建てられた城と城下町、そしてその城下町を守る二重の城壁が見えた。
本来であれば、見事な町並みだっただろう。
だがそれらは、徹底的に破壊されていた。
「そっそんな!ハイレルゲンが落ちてる!?」
外敵から人々を守るはずだった外壁は、何か巨大なものによって破壊されたのか大穴が開けられ、そこを基点として、無数のアバドンが侵入したのだろう。そこから扇状に破壊の後が広がっている。中には真っ赤に血の跡や、破壊されたダロスの残骸などが無数に転がっていた。
僕が始めて訪れるはずだった街は、無残な廃墟へと変わっていた
ハイレルゲンの周りには、既に無数のアバドンが徘徊している。まだアバドン達はこちらに気付いてはいないが、とてもではないが近寄れるような状況じゃなかった。
「どっどうします?たっ助けに行きますか!?」
「待ちなさいっ!あの数の敵をこの機体で倒せるの?」
混乱する僕に、セリアさんが一喝する。
ザムなら昨日戦ったアバドンの集団程度なら倒す事ができる。しかし、ハイレルゲンの周りには、昨日とは比べ物にならない数のアバドンが蠢いている。あの中に無策に突っ込んで行ったら、すぐに弾切れになり、返り討ちにあうのは目に見えている。
「…」
「それに、ハイレルゲンが落ちたのは、アポリオンの様子からして昨日今日の話じゃないわ」
確かに、ハイレルゲンの中には殆ど砂煙などは上がっておらず、アポリオンも暴れていない。生きた人が近くに居れば絶対に襲い掛かると言う性質上、あそこには生きた人間が居ないという事だ。
「はぁふぅ。…ではどうします?」
「フォニア達もハイレルゲンが落ちた事には気付いたと思う。なら、行く所は一つよ。要塞都市カルナート」
「何処です?それ」
「スベン公国の最東端にある街よ。この国で最初に作られた街でもあるの。あそこならここからある程度距離があるし何より、首都にも負けないほどの城壁を持ってるわ。私達も行くわよ」
「分かった」
僕達は、瓦礫の山と化したスベン公国の首都から離れた。
「チクショウ!また!また、奴等に奪われた!」
首都から離れる時。セリアさんが震える声で小さくそう言ったのが聞こえた。
僕は、そんな彼女に何も言う事が出来なかった。
ハイレルゲンから、離れつつカルナートへと向かう。
首都が落とされた事に、消沈したセリアさんは、沈んでおり、先ほどから一言も喋らない。僕も、そんなセリアさんにかける言葉が見つからず無言の行軍が続く。
「見つけた!輸送隊よ」
そこで輸送隊を発見した。
僕らから数キロ先の平原を猛スピードで輸送隊が走っている。余計なものを引き連れながら。
「アバドンに追われてる!」
「確認したわ。構成は昨日と一緒アバドンにバグリザド!行くわよ!」
輸送隊を注視し、それを察知したヘッドセットが輸送隊の姿を拡大する。輸送隊の先頭は、フォニアさんが乗っている竜車だ。竜車を操っている御者の人達は全員必死な顔をしてヴェロに鞭を打っている。その後ろに、他の竜車が並び、殿には、ダロスが付いていた。
輸送隊の後ろにはもうもうと砂煙を上げながら、昨日見たのと同じ獣型のアバドンの群れが追いかけている。
「クソ!うちの連中がやられてる!」
セリアさんが、苦しそうに言う。
殿に三機のダロスと、車列の左右を守るダロスが二機が居るが、それ以外のダロスが見当たらない。少なくとも昨日までは10機は居た筈だ。
状況から考えると、逃走中にやられた可能性が高い。
「輸送隊に合流して、逃走を援護するわよ!」
「マシンガンの扱いには気を付けてください。下手に撃ち続けると変な方向に飛びます!」
僕達はザムのスピードを一気に上げた。
巡航速度は、大体時速75kmだが、短時間なら時速90kmで走る事が出来る。これはフォルスや、竜車と比べると圧倒的に早い。
神霊機である先輩達は普通に音速超えて移動出来るんですけどね。
僕達に気がついた御者達が、驚いた様子でこちらを見る。御者が大声を出したのだろう。フォニアさんが乗っている竜車の窓が開き、フォニアさんが顔を出した。
レーダーには、30体のアバドンと、またあの反応がある。
アバドン達は、徐々に輸送隊と距離を縮めており、最後尾まで後ちょっとの所まで来ていた。
先ほどから敵をロックオンしたと告げる電子音がコックピット内に木霊しているが、トリガーを引く事ができない。
「このまま撃ったら、輸送隊の連中にも被害が出ちゃいます!」
追っているアバドンと輸送隊の距離が近すぎて、下手に攻撃できない。このまま撃てば、その攻撃の余波で竜車ごと吹き飛びかねないからだ。
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「待って!やめて!走れ!走れ!走れ!走って!」
それに何かを察したセリアさんが叫ぶ。
だが、次の瞬間、殿をしていたダロスが反転、追跡していたアバドンに対して突撃を仕掛けた。
「なっ何を!」
あまりにも無謀な突撃に思わず僕も声を上げた。
「あいつら、輸送隊とアバドンとの距離を広げる為に、足止めする気なのよ!」
「そんな!あの数じゃ…」
「急ぐわよ!」
僕達は、全力でザムを走らせる。
護衛のダロスは、多勢に無勢と言う状況で勇敢に戦った。
武器が壊れ、盾を弾かれ、それでもダロスは戦った。腕をもがれ、足を砕かれても、ダロスはアバドンに対して腕を、足を動かせる物を全て動かし足止めしようと足掻いていた。
僕達はそれを見ていることしか出来なかった。アバドン共にダロス達がメキメキとバキバキと力任せに引き裂かれる姿を…。
昨日まで僕は彼らと会話していた。そんなに親しい仲の人達ではなかったけど、彼らは焚き火を囲み楽しそうに話していた。それが僕の目の前で化け物に食い尽くされている。
人が死んでいく。笑っちゃうくらい呆気なく。
竜車が、攻撃に巻き込まれない程度にアバドンとの距離を伸ばす。
「撃てます!集団の外側から!」
「ああああああああああああああああああ!」
二機のザムの75mmマシンガンが発射される。75mmの弾丸の雨が集団へと降り注ぎ、集団の外側に居たアバドン達が一気に粉砕される。
集団の中心部に居た、バグリザドも二機の集中砲火で頭を完全に粉砕する。これなら、完全にくたばっただろう。
一機で大変だった敵集団が二機になるとこれ程まで楽になる。数の大事さを痛感する。
アバドンの掃討が終わるとセリア機は、アバドンの死体を乱暴に掻き分けてダロスの残骸を掘り出す。
胴体を齧り取られたもの、バグリザドの鎌で突き刺されたもの、最後は胴体部だけ無事だったものを見つけた。
セリアが、大急ぎで、ザムから降りて、「今助けるわ!」と声を掛けながら胴体ハッチを開ける。だが、ハッチを開けて固まったかと思うとセリアさんは、静かにハッチを閉めた。
鈍感な僕にも分かる。生存者は居なかったという事は。
「行きましょう。フォニア達が待ってるわ」
振り返ったセリアさんの顔には陰りが見えたが、涙は無かった。
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