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14話 要塞都市カルナート
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輸送隊と合流した僕達は、アバドンを撃退した場所から少し離れた場所で休憩する事になった。連日の移動と、全速力の逃亡で走竜達の限界が近かったのだ。
竜車を止めると御者達が大急ぎで竜車からおり、本人達も疲れているだろうに走竜達の面倒を見始める。水の入った桶を運び、体をマッサージする。少しでも早く疲労を抜く為だ。
僕達もザムに膝を付かせ、下りる。
「セリア様!」
すると竜車からフォニアさんが飛び出し、セリアさんへと抱きついた。
「城が、ハイレルゲンが!」
「知ってるわ。ここに来る途中で、私達も見てきたから…」
セリアさんは、優しくフォニアさん頭を撫でる。フォニアさんは大声で泣き出した。
ここは彼女に任せるしかないよな…。そう思って突っ立っていると男性が一人僕に近づいてきた。
「あのデアフレムデ殿…貴方もご無事で何よりです。そしてセリア隊長を助けていただき誠にありがとうございました。あと私達も助けられました。本当にありがとうございました」
その男性は、輸送隊の護衛をしていたパイロットの一人だ。赤茶けた髪を短髪に刈り込んだ熱血そうなお兄さんだ。
その人が僕に向かって勢い良く頭を下げる。
「もう少し早く来れれば、良かったのですが…。えっと貴方は…」
「お気にになさらずに。申し送れました。私はアランと言います。セリア隊長の部下をしております」
「どうも、ヒデユキ・アマタです。アマタと呼んでください。デアフレムデって言いにくいでしょう?」
「では、アマタ殿と呼ばせていただきます。それでですね。あのセリア隊長が乗っていたのは…」
「僕が召喚したザムです」
「やはり!セリア隊長が乗れたという事は、私でもザムと言う機体に乗れるのでしょうか?」
「それは、多分出来ます。セリアさんもザムのコックピットシートに座っただけで使い方が分かったって言ってましたし…。同時に何体召喚出来るかは、まだわかりませんが…」
「もし、新たにそのザムが召喚出来た場合は自分をお呼び下さい。喜んで協力させていただきます」
そういうと僕に深々と頭を下げた。
「分かりました。その時は、お願いしますね」
それから一時間くらい休憩すると、僕達は再びカルナートへと進み始めた。しかし、その足取りは重い。スベン公国の首都がアバドンによって落とされていたのだからそうなっても不思議は無い。それにカルナートに向かう道には、ダロスの残骸や、竜車の残骸。そして人々の死体が所々に放置されており、困難な脱出口であった事が容易に想像できた。
僕は、足元ではなく遠くを見て、近くにある無残な死体をなるべく見ないようにした。
そんな道を誰もが黙って竜車を歩みを進めていく。
まるで地獄を歩いている葬列に加わっているみたいだ…。
僕は輸送隊の先頭で進みながら思った。彼らにはあの街に仲間や大切な人々が居たんだろう。だけど、僕にはあの街に何の思いいれも無ければ、友人知人すらいない。そんな状態で悲しむことなんて僕には出来なかった。僕は薄情なのだろうか?
代わりに僕の心を占めるのは未来への不安だった。
カルナートへ行ったとしても、もはやジリ貧。国家滅亡まで秒読み段階に入っているんじゃないだろうか?
僕は、これから一体どうなるんだろう?いや、どうすべきかを考えるべきなんだろう。
この世界で何度したか分からない問いが僕の頭の中によぎる。
そんな時、遠くに都市の様な物が見えた。この道はずっと一本道だったから。あれがカルナートなのだろう。
『前方に都市が見えました』
輸送隊に先行して歩いていた僕が外部音声をONにして言うと。輸送隊の面々から歓声が上がった。
僕達は、カルナートと到着した。
カルナートは、スベン公国を囲む山脈の山すそを背に作られた都市だ。ハイレルゲンと同じように城壁に囲まれており、城壁の上には何体ものダロスが立ち、周囲を警戒している。
最初彼らが、僕のザムを発見した時は大慌てで警報と思われる鐘がうるさい位に鳴らされた。
門は、中世のお城とかでよく見る鉄格子のあるタイプの門だ。門の高さはフォルスでも問題なく通れるほど高い。だがフォルスは8m級のロボットだ。18m級のロボットであるザムでは、街に繋がる城門を通る事が出来ない。城壁の高さがジャンプで飛び越すことの出来る高さではあるが、いきなり城壁をジャンプしてお邪魔しますも失礼だろう。
ゆっくりとザムを門に進める。門の前には、槍を持ったダロスが2機、門番として配置されていた。
「とっ止って下さい!」
近づくと、二機のダロスがこちらに槍を向けてきた。ダロスとザムでは背の高さが倍以上違う。威圧感は相当な物だろう。
「失礼ですが、デアフレムデ様でありましょうか?」
片方のダロスが先頭を歩いていた僕に震えた声で問う。僕の事はセリアさんが本国に伝えていたのだろう。
『はい。デアフレムデのヒデユキ・アマタです』
「では、もう一機の方は?」
『私よ』
「そのお声は、セリア様!セリア様がそれに乗られているのですか!?」
『ええ、色々あってね。ここに来る途中でハイレルゲンを見たわ。私達はどうすればいいかしら?』
「とりあえず、この機体から下りて、カルナートにお入り下さい。詳しい話は、城でお願いします。現在の状況もそちらでお聞き下さい」
「分かりました」
「分かったわ」
門番の言葉に従って門の脇にザムを止めて降りる。
降りると、ザムに乗っていた時は、カルナートが小人の城のように見えたが、ちゃんと人間用の巨大な街である事が分かる。
門には、ケンジさん達の神霊機に似た物のレリーフが、彫られていた。向かって左にククノチのような機体が、左にアクアヴィーネ様な機体が、扉のアーチの部分にフレイムソスの様な機体が彫られている。
見上げていると、後ろから声を掛けられた。
「どお。立派な門でしょ。この城壁は、人類同盟が最初に締結された時に対アポリオン用にと作られた城壁なの」
その声に振り返るとザムを降りたセリアさんがいつの間にか立っていた。
「たしか、アポリオンが再び現れるまで、数百年時間があったんですよね?よく、残っていましたね」
「本当にね。私の母国も対アポリオン用の城壁とか施設とかあったんだけど、国が発展すると土地がなくなってきてね。それで土地を確保する為に殆ど取り壊されちゃったわ」
フォニアさんが乗った竜車が目の前に止った。
「さっ行くわよ」
セリアさんに促されて竜車に乗ると、そこには不安にそうに両手を握り締めているフォニアさんが居た。
「フォニアさん。大丈夫?」
きっとケンジさんたちならもっと気の利いた事を言えたのかも知れない。でも僕は、そんなありきたりな事しか言えなかった。
「心配してもらってありがとうございます。大丈夫ですよ」
それでも彼女は、青い顔をしながら無理に微笑んだ。鈍感な僕でもそれは分かった。いたたまれなくなった僕はそれ以上彼女に声を掛ける事は出来ない
。
門周辺から少し離れると、そこには幾つものダロスの残骸が転がっていた。殆どの機体が手足が無く、付いていたとしても使い物になりそうもない物ばかりだ。
「私達の持ってきた物資で、どれだけ使えるダロスが増やせるのかしら?」
同じように窓から外を見ていたセリアさんが言った。
門から少し離れると道の周りは畑へと変わった。とは言え、収穫が終わっているのか、禿げ上がった農地が一面に畑が広がっているだけだったけど。そこからさらに進んだ所に街があるのだそうだ。
竜車は、ガタゴトと進み市街地へと入る。
僕が始めて目に入れる異世界の街だ。
街の中に入ると竜車の車輪の音が変わる。むき出しの地面から石畳に変わったようだ。
窓から外を覗くと石、漆喰、木をつかった洋風の家々が見える。窓には洗濯物が干され、道には多くの人々があふれていた。殆どの人達は、つかれきった様子で道の端に座り込んでいる。彼らの傍には荷物と思われるものは無く、着の身着のまま、首都から逃げ出してきたのだろう。
街を抜け、城へと到着した。
城は昔話に出てくる尖塔が沢山生えたファンタジーな城ではなく、チェスの駒であるルークのような形をした塔を多く持つ城だ。
城と言うよりは砦とか要塞だな…。
城の前には、革鎧を着た背の高い男とメイドさんが立って、竜車の到着を待っていた。坊主頭で髭もじゃ、筋骨隆々としたいかにもの武人という雰囲気を持った人だった。
「ガルロックおじ様!お父様は!お父様は無事なの?何処にいるの?」
フォニアさんは、まだ止りきっていない竜車から飛び出し、その偉丈夫に掴みかかった。
「姫様。ご無事で何より、落ち着いてくだされ。陛下は、この城におります」
ガルロックと呼ばれた偉丈夫を、フォニアさんが全力でゆすっているが、彼は小揺るぎもせずに受け止めていた。
「無事なのね?会わせて!お父様に会わせて!」
「お待ち下さいフォニア様。今のお姿のまま陛下の前にお連れする事は出来ません」
それをガルロックと呼ばれた人の隣に立っていたメイドさんが止めた。
今フォニアさんが着ているのは旅装だ。旅程の殆どを竜車の中で過ごしてきたといっても、それなりに汚れている。
湯浴みをする必要があると聞いて僕は嫌な予感がした。相手が健常であれば多少汚れていたって会うのに何も問題は無い。しかし、体を清潔にした状態で会わなければならないという事は…つまりそういう事なのだろう。
「今湯浴みの準備をさせています。陛下に会うのは湯浴みの後になさって下さい。デアフレムデ様とセリア様も同様にお願いいたします」
言われたとおり湯浴みを済ませ着替えると、メイドさんに案内され、僕達は、公王様の居る部屋へと向かう。城の中には、多くの人が働いており、足早に僕達の横を通り過ぎていく。誰も彼も必死な表情をしている。
スベン公国がいかに切羽詰った状態であるかが如実に分かった。
「こちらになります」
そして、王様が待つという部屋に着いた。するとフォニアさんが部屋に真っ先に飛び込んだ。
「お父様!ご無事ですか!っ!いやぁああああ!お父様!」
部屋に入ったフォニアさんが叫び声を上げる。何事かと部屋に入ると、そこには右手右足を失い。体の殆どを血の滲んだ包帯に包まれた男の人がベットの上で横になっていた。その人がスベン公国の公王様なのだろう。
「お父様。起きて!お父様!ねぇ!」
「フォニア様お止め下さい!陛下のお体にさわります!」
「お嬢様!お止め下さい!」
部屋に居た医師と思われる男性とメイドさんが、フォニアをベットから引き剥がす。
「フォニアか…グッガフッ!」
目を覚ました公王様が首を横に向けてフォニアさんを見た。医師を振り払うとベットの横にひざま付いた。
「お父様!そうですフォニアです!帰ってまいりました」
公王様は、左手をフォニアさんに伸ばし、それをフォニアさんは両手で掴んだ。
「ご…苦労だった。グッ無事で…何よりだ」
そこで視線が横にずれ、静かに部屋に入った僕を見た。
「ようこそ、ゲフッ!君がデアフレムデ殿だな?私…が公王ダリル・ガレイロス・スベンだ。この様な…格好で申し訳ない」
「いえ…僕はヒデユキ・アマタと申します。よっよろしくお願いします。公王様」
公王様は、さらに視線を移してセリアさんを見る。
「セリアも良く帰ったな…ゴフッ」
「はっ勿体無い御言葉。恐縮です。どうかご自愛下さいませ陛下」
「そうは言ってゴフッゴフッ」
公王様は、その時口から血を吐いた。口からあふれた血が、包帯とシーツを赤く染める。それはまるで命がこぼれていくようだった。
「お父様大丈夫ですか!」
「陛下無理をなさってはいけません。フォニア様もこれ以上は陛下に無理はさせられません。皆様退出を」
慌てた医者が、公王様の様子を見つつ、僕達に言う。フォニアさん以外の僕達はその指示に従い出て行こうとした。
「嫌です!私も!私もここに残ります!」
「ダメですフォニア様。お医者様がそうおっしゃっているのです。聞き分けでください!第一ここに居てフォニア様に何が出来るのですか!邪魔になるだけです!」
「でもっ!リーリア!」
後ろを振り向いてメイドさんに抗議するフォニアさんだった。
「でももだってもありません!」
「姫様!ご容赦下さい!」
が、最後は、メイドさんとガルロックと呼ばれた人が羽交い絞めにして部屋の外まで連れ出された。
竜車を止めると御者達が大急ぎで竜車からおり、本人達も疲れているだろうに走竜達の面倒を見始める。水の入った桶を運び、体をマッサージする。少しでも早く疲労を抜く為だ。
僕達もザムに膝を付かせ、下りる。
「セリア様!」
すると竜車からフォニアさんが飛び出し、セリアさんへと抱きついた。
「城が、ハイレルゲンが!」
「知ってるわ。ここに来る途中で、私達も見てきたから…」
セリアさんは、優しくフォニアさん頭を撫でる。フォニアさんは大声で泣き出した。
ここは彼女に任せるしかないよな…。そう思って突っ立っていると男性が一人僕に近づいてきた。
「あのデアフレムデ殿…貴方もご無事で何よりです。そしてセリア隊長を助けていただき誠にありがとうございました。あと私達も助けられました。本当にありがとうございました」
その男性は、輸送隊の護衛をしていたパイロットの一人だ。赤茶けた髪を短髪に刈り込んだ熱血そうなお兄さんだ。
その人が僕に向かって勢い良く頭を下げる。
「もう少し早く来れれば、良かったのですが…。えっと貴方は…」
「お気にになさらずに。申し送れました。私はアランと言います。セリア隊長の部下をしております」
「どうも、ヒデユキ・アマタです。アマタと呼んでください。デアフレムデって言いにくいでしょう?」
「では、アマタ殿と呼ばせていただきます。それでですね。あのセリア隊長が乗っていたのは…」
「僕が召喚したザムです」
「やはり!セリア隊長が乗れたという事は、私でもザムと言う機体に乗れるのでしょうか?」
「それは、多分出来ます。セリアさんもザムのコックピットシートに座っただけで使い方が分かったって言ってましたし…。同時に何体召喚出来るかは、まだわかりませんが…」
「もし、新たにそのザムが召喚出来た場合は自分をお呼び下さい。喜んで協力させていただきます」
そういうと僕に深々と頭を下げた。
「分かりました。その時は、お願いしますね」
それから一時間くらい休憩すると、僕達は再びカルナートへと進み始めた。しかし、その足取りは重い。スベン公国の首都がアバドンによって落とされていたのだからそうなっても不思議は無い。それにカルナートに向かう道には、ダロスの残骸や、竜車の残骸。そして人々の死体が所々に放置されており、困難な脱出口であった事が容易に想像できた。
僕は、足元ではなく遠くを見て、近くにある無残な死体をなるべく見ないようにした。
そんな道を誰もが黙って竜車を歩みを進めていく。
まるで地獄を歩いている葬列に加わっているみたいだ…。
僕は輸送隊の先頭で進みながら思った。彼らにはあの街に仲間や大切な人々が居たんだろう。だけど、僕にはあの街に何の思いいれも無ければ、友人知人すらいない。そんな状態で悲しむことなんて僕には出来なかった。僕は薄情なのだろうか?
代わりに僕の心を占めるのは未来への不安だった。
カルナートへ行ったとしても、もはやジリ貧。国家滅亡まで秒読み段階に入っているんじゃないだろうか?
僕は、これから一体どうなるんだろう?いや、どうすべきかを考えるべきなんだろう。
この世界で何度したか分からない問いが僕の頭の中によぎる。
そんな時、遠くに都市の様な物が見えた。この道はずっと一本道だったから。あれがカルナートなのだろう。
『前方に都市が見えました』
輸送隊に先行して歩いていた僕が外部音声をONにして言うと。輸送隊の面々から歓声が上がった。
僕達は、カルナートと到着した。
カルナートは、スベン公国を囲む山脈の山すそを背に作られた都市だ。ハイレルゲンと同じように城壁に囲まれており、城壁の上には何体ものダロスが立ち、周囲を警戒している。
最初彼らが、僕のザムを発見した時は大慌てで警報と思われる鐘がうるさい位に鳴らされた。
門は、中世のお城とかでよく見る鉄格子のあるタイプの門だ。門の高さはフォルスでも問題なく通れるほど高い。だがフォルスは8m級のロボットだ。18m級のロボットであるザムでは、街に繋がる城門を通る事が出来ない。城壁の高さがジャンプで飛び越すことの出来る高さではあるが、いきなり城壁をジャンプしてお邪魔しますも失礼だろう。
ゆっくりとザムを門に進める。門の前には、槍を持ったダロスが2機、門番として配置されていた。
「とっ止って下さい!」
近づくと、二機のダロスがこちらに槍を向けてきた。ダロスとザムでは背の高さが倍以上違う。威圧感は相当な物だろう。
「失礼ですが、デアフレムデ様でありましょうか?」
片方のダロスが先頭を歩いていた僕に震えた声で問う。僕の事はセリアさんが本国に伝えていたのだろう。
『はい。デアフレムデのヒデユキ・アマタです』
「では、もう一機の方は?」
『私よ』
「そのお声は、セリア様!セリア様がそれに乗られているのですか!?」
『ええ、色々あってね。ここに来る途中でハイレルゲンを見たわ。私達はどうすればいいかしら?』
「とりあえず、この機体から下りて、カルナートにお入り下さい。詳しい話は、城でお願いします。現在の状況もそちらでお聞き下さい」
「分かりました」
「分かったわ」
門番の言葉に従って門の脇にザムを止めて降りる。
降りると、ザムに乗っていた時は、カルナートが小人の城のように見えたが、ちゃんと人間用の巨大な街である事が分かる。
門には、ケンジさん達の神霊機に似た物のレリーフが、彫られていた。向かって左にククノチのような機体が、左にアクアヴィーネ様な機体が、扉のアーチの部分にフレイムソスの様な機体が彫られている。
見上げていると、後ろから声を掛けられた。
「どお。立派な門でしょ。この城壁は、人類同盟が最初に締結された時に対アポリオン用にと作られた城壁なの」
その声に振り返るとザムを降りたセリアさんがいつの間にか立っていた。
「たしか、アポリオンが再び現れるまで、数百年時間があったんですよね?よく、残っていましたね」
「本当にね。私の母国も対アポリオン用の城壁とか施設とかあったんだけど、国が発展すると土地がなくなってきてね。それで土地を確保する為に殆ど取り壊されちゃったわ」
フォニアさんが乗った竜車が目の前に止った。
「さっ行くわよ」
セリアさんに促されて竜車に乗ると、そこには不安にそうに両手を握り締めているフォニアさんが居た。
「フォニアさん。大丈夫?」
きっとケンジさんたちならもっと気の利いた事を言えたのかも知れない。でも僕は、そんなありきたりな事しか言えなかった。
「心配してもらってありがとうございます。大丈夫ですよ」
それでも彼女は、青い顔をしながら無理に微笑んだ。鈍感な僕でもそれは分かった。いたたまれなくなった僕はそれ以上彼女に声を掛ける事は出来ない
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門周辺から少し離れると、そこには幾つものダロスの残骸が転がっていた。殆どの機体が手足が無く、付いていたとしても使い物になりそうもない物ばかりだ。
「私達の持ってきた物資で、どれだけ使えるダロスが増やせるのかしら?」
同じように窓から外を見ていたセリアさんが言った。
門から少し離れると道の周りは畑へと変わった。とは言え、収穫が終わっているのか、禿げ上がった農地が一面に畑が広がっているだけだったけど。そこからさらに進んだ所に街があるのだそうだ。
竜車は、ガタゴトと進み市街地へと入る。
僕が始めて目に入れる異世界の街だ。
街の中に入ると竜車の車輪の音が変わる。むき出しの地面から石畳に変わったようだ。
窓から外を覗くと石、漆喰、木をつかった洋風の家々が見える。窓には洗濯物が干され、道には多くの人々があふれていた。殆どの人達は、つかれきった様子で道の端に座り込んでいる。彼らの傍には荷物と思われるものは無く、着の身着のまま、首都から逃げ出してきたのだろう。
街を抜け、城へと到着した。
城は昔話に出てくる尖塔が沢山生えたファンタジーな城ではなく、チェスの駒であるルークのような形をした塔を多く持つ城だ。
城と言うよりは砦とか要塞だな…。
城の前には、革鎧を着た背の高い男とメイドさんが立って、竜車の到着を待っていた。坊主頭で髭もじゃ、筋骨隆々としたいかにもの武人という雰囲気を持った人だった。
「ガルロックおじ様!お父様は!お父様は無事なの?何処にいるの?」
フォニアさんは、まだ止りきっていない竜車から飛び出し、その偉丈夫に掴みかかった。
「姫様。ご無事で何より、落ち着いてくだされ。陛下は、この城におります」
ガルロックと呼ばれた偉丈夫を、フォニアさんが全力でゆすっているが、彼は小揺るぎもせずに受け止めていた。
「無事なのね?会わせて!お父様に会わせて!」
「お待ち下さいフォニア様。今のお姿のまま陛下の前にお連れする事は出来ません」
それをガルロックと呼ばれた人の隣に立っていたメイドさんが止めた。
今フォニアさんが着ているのは旅装だ。旅程の殆どを竜車の中で過ごしてきたといっても、それなりに汚れている。
湯浴みをする必要があると聞いて僕は嫌な予感がした。相手が健常であれば多少汚れていたって会うのに何も問題は無い。しかし、体を清潔にした状態で会わなければならないという事は…つまりそういう事なのだろう。
「今湯浴みの準備をさせています。陛下に会うのは湯浴みの後になさって下さい。デアフレムデ様とセリア様も同様にお願いいたします」
言われたとおり湯浴みを済ませ着替えると、メイドさんに案内され、僕達は、公王様の居る部屋へと向かう。城の中には、多くの人が働いており、足早に僕達の横を通り過ぎていく。誰も彼も必死な表情をしている。
スベン公国がいかに切羽詰った状態であるかが如実に分かった。
「こちらになります」
そして、王様が待つという部屋に着いた。するとフォニアさんが部屋に真っ先に飛び込んだ。
「お父様!ご無事ですか!っ!いやぁああああ!お父様!」
部屋に入ったフォニアさんが叫び声を上げる。何事かと部屋に入ると、そこには右手右足を失い。体の殆どを血の滲んだ包帯に包まれた男の人がベットの上で横になっていた。その人がスベン公国の公王様なのだろう。
「お父様。起きて!お父様!ねぇ!」
「フォニア様お止め下さい!陛下のお体にさわります!」
「お嬢様!お止め下さい!」
部屋に居た医師と思われる男性とメイドさんが、フォニアをベットから引き剥がす。
「フォニアか…グッガフッ!」
目を覚ました公王様が首を横に向けてフォニアさんを見た。医師を振り払うとベットの横にひざま付いた。
「お父様!そうですフォニアです!帰ってまいりました」
公王様は、左手をフォニアさんに伸ばし、それをフォニアさんは両手で掴んだ。
「ご…苦労だった。グッ無事で…何よりだ」
そこで視線が横にずれ、静かに部屋に入った僕を見た。
「ようこそ、ゲフッ!君がデアフレムデ殿だな?私…が公王ダリル・ガレイロス・スベンだ。この様な…格好で申し訳ない」
「いえ…僕はヒデユキ・アマタと申します。よっよろしくお願いします。公王様」
公王様は、さらに視線を移してセリアさんを見る。
「セリアも良く帰ったな…ゴフッ」
「はっ勿体無い御言葉。恐縮です。どうかご自愛下さいませ陛下」
「そうは言ってゴフッゴフッ」
公王様は、その時口から血を吐いた。口からあふれた血が、包帯とシーツを赤く染める。それはまるで命がこぼれていくようだった。
「お父様大丈夫ですか!」
「陛下無理をなさってはいけません。フォニア様もこれ以上は陛下に無理はさせられません。皆様退出を」
慌てた医者が、公王様の様子を見つつ、僕達に言う。フォニアさん以外の僕達はその指示に従い出て行こうとした。
「嫌です!私も!私もここに残ります!」
「ダメですフォニア様。お医者様がそうおっしゃっているのです。聞き分けでください!第一ここに居てフォニア様に何が出来るのですか!邪魔になるだけです!」
「でもっ!リーリア!」
後ろを振り向いてメイドさんに抗議するフォニアさんだった。
「でももだってもありません!」
「姫様!ご容赦下さい!」
が、最後は、メイドさんとガルロックと呼ばれた人が羽交い絞めにして部屋の外まで連れ出された。
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