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19話 勝利とその結果
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「危ない!下がって!」
「え!?くっ!」
バトルアックスを放棄して、後ろに下がろうとするアラン機。だが、その判断は僅かに遅かった。
振り下ろされたギメランタイマイの爪が丁度腕の間接部に当り、ザムの右腕をへし折った。
「うぁああああああああ!」
腕がなくなった事によってバランスを崩したアラン機は、そのまま後ろへ尻餅を付く様に倒れた。
ギメランタイマイは、アラン機に止めを刺そうともう一度爪を振り上げる。
「させないわよ!」
そこにセリア機が割り込む。
ギメランタイマイは、セリア機に狙いを変えて、爪を振り下ろした
セリア機は、その攻撃をバトルアックスで器用にいなした。振り下ろされた爪は地面に突き刺さる。
「今の内に下がりなさい!」
「くっ!申し訳ありません!」
そのお陰でアラン機がバックパックのスラスタを吹かして下がる。
ギメランタイマイは標的をセリア機に完全に変えると爪が横から掴みかかろうとした。しかし、セリア機は器用にバックステップで避ける。その後すぐにまた接近して攻撃し、注意を自分に引き付け続ける。
僕は、その周りのアバドンを撃ち、援護しながらも長くは持たないと思った。
ロボットの足は、人が思う以上にデリケートなのだ。
バランサーが狂ったら、足首を支えているシリンダーが一本壊れたら、間接のヒンジに皹が入ったら、そのどれか一つが起きただけでもザムは行動不能になっても不思議ではない。
だが、セリア機への攻撃に集中しているお陰でギメランタイマイの足は、完全に止まった。眼前に居るセリア機を倒そうと、ギメランタイマイは爪をやたらめったらに振り回している。
ザムに乗ってまだ数日だというのに、セリアさんは凄まじい操作技術で避けていく。きっと操縦テクニックは、もう僕より上だろう。
セリア機がギメランタイマイに釘付けになった事とアラン機の右腕が破損した事により弾幕が薄れ、ギメランタイマイの横から、アバドンが次々とすり抜けていく。今はまだ、僕の射撃とクロスボウ隊で戦線が持っているが、何時その戦線が崩れるか分からない。コレをどうにかするには、ギメランタイマイを一刻も早く倒すしかない。しかし、マシンガンじゃギメランタイマイに有効な攻撃が与えられない。バトルアックスを叩き込んでもあの甲羅に防がれる。完全な火力不足だ。
強力な一撃であの甲羅を叩き壊すしかない。どうする?スラスターで全力突撃するか?…いや、あれがあるじゃないか!何でアレの事を僕はすぐに思い出さなかった!
僕は、新たに召喚出来るようになった物を思い出した。
「なら、コール!ゼス500mm無反動砲!」
僕は、ザムにマシンガンをバックパックのラックに格納させながら召喚した。
資材ポイントが消費され、僕のザムの前に、二本の太い筒の様なものが横向きに置かれた状態で現れる。
弾が発射される砲口はラッパのように広がり、筒の丁度真ん中当りにフロントグリップにピストルグリップ(銃把)と照準機が、後部にはカウンターマスを噴射する四角い噴出孔が六つ並んでいる。噴出孔の手前には、弾頭の入ったマガジンが構えた時に上になる様に嵌まっていた。
装弾数は3発。
――――コール終了。現在の資材ポイント24です。
二本の内、一本を僕のザムに持たせる。すぐにコンピュータが、無反動砲の保持を認識し、無反動砲に搭載されたコンピュータにアクセスしてコンディションをチェックする。オールグリーン。
「アランさん、コイツを使ってください!使い方は分かりますか?」
「大丈夫です!」
何とか後退してきたアラン機は、地面に置かれた無反動砲のピストルグリップを無事だった左手で握り、担ぎ上げる。
MRヘッドセットを通して映るその姿に、不謹慎と思いながらも、心が弾む。量産型ロボが武器を構える姿と言うのは、どうしてこれほどまで僕の心をかき乱すのか…。片腕が壊れているのもたまらない。
「結構重いですね…。取り回しが難しそうです」
「その分威力はあります。危ないと思ったらすぐに捨ててください」
通信画面のアランさんがコクリと頷く。
「セリアさん!合図を出したら、全力で後退して下さい!こちらの攻撃に巻き込まれます!」
「分かったわ!」
自機と、アラン機は左右に分かれて、ギメランタイマイに狙いを付ける。左右に分かれたのは、ギメランタイマイと接近戦を繰り広げているセリア機を射線に入れないためだ。
「ロックオン完了!アランさんは?」
「こっちも良いです!」
「セリアさん今だ!下がって!」
「!」
ギメランタイマイが両方の爪を上から叩きつけたタイミングで僕は合図を出した。
セリア機が、バックパックのスラスタを全開にしたジャンプで後退する。
「撃て!」
僕とアラン機から、無反動砲が同時に発射され、ギメランタイマイへと着弾する。爆発と共に、その姿が煙の向こうへと隠れた。
撃ったのはHEAT弾。分厚い装甲を持った標的目掛けて撃つ弾だ。これならマシンガンで抜けなかった甲羅だろうただではすまないだろう!
「------------!」
煙の向こうで表現できない悲鳴を上げるギメランタイマイ。
効いてる!全弾持ってけ!大盤振る舞いだ!
僕らは、それぞれ三発、合計六発のHEAT弾を叩き込む。
「-----------------------!!!!!!!!」
打ち込むたびに煙の向こうでは聞くに堪えない悲鳴が上がる。
そして、ズンと煙の向こうで何かが崩れ落ちた音がした。
僕は自機に弾の無くなった無反動砲を捨てさせると、油断無くマシンガンを構える。アラン機、セリア機も同様にマシンガンを構えている。
レーダーを見ると、ギメランタイマイの反応は消失していたが、アバドンのしぶとさは、崖から落ちる原因となったので痛いほど知っている。用心するにこした事は無い。
煙が晴れるとそこには無残にも、甲羅を破壊され、内部がグチャグチャになったギメランタイマイの姿があった。
甲羅に隠れていた頭はだらりと、伸ばされ、首の骨が爆発により吹き飛んでいる。
「ふぅ」
「気を抜かないで!まだまだ奴らが来てるのよ!」
思わずため息をついた僕にセリアさんの叱責が飛んできた。
ボス倒したら、はいおしまい。と言ったおいしい事は無いらしい。レーダーには、未だにこちらに向かってくるアバドンの姿が映っていたからだ。
それからさらに約一時間僕達は戦闘を続けた。
この戦いで僕の持つ資材ポイントの殆どマガジンに変えた。途中でマシンガンがオーバーヒートの警告を出したから、予備のマシンガンも二度召喚した。一ポイントで2丁だ。お陰でもう、資材ポイントはスッカラカンだった。
僕らの目の前には酸鼻を極める光景が広がっていた。屍山血河、これ以外に表現しようが無い。アバドンの死体が山脈のように連なり、その谷間を紫色の血液が流れている。アポリオンも生物なのだ。体の中には肉があり骨があり消化器官がある。それらが地面に盛大にぶちまけられていた。
僕は心からザムにエアクリーナーが付いていて良かったと思った。匂いが無ければ、コレを見ても、まだ耐えられる。
テレビを通して遠くの景色を見ている様なものだ。その程度に過ぎない。そういうものだ。そう考えろ。
「終わった…様ですね…」
「ええ、これ程長く戦ったのは初めよ。でも、何とか守りきれたわ…。あはは。こんな大襲撃があって守れたのってコレが初めてじゃない?」
セリアさんが茶化した風に言っているが、その声は震えていた。MRヘッドセットで顔が見えないが、もしかしたらセリアさんは泣いているのかもしれない。
「そうですね。街も…」
そこでザムで街を振り返った時、僕は言葉に詰まった。
僕が見た街は破壊されていた。
城壁を越えると、そこにはダロスが余裕ですれ違う事の出来るくらいの幅の道が城壁の沿って作られており、その先には、普通に街があった。だが、普通の人々か暮らし、生きていたであろう街が、見るも無残に破壊されていた。
確かに街の殆どは無事だった。
防衛隊のダロスが、ビスト・アインを他所にやらないように連携して区画に封じ込めたのだろう。だが、そのせいで、その区画の建物の殆どが壊れていた。複数のダロスが地に倒れ、今もなお、仲間を救助しようと兵士達が怒声を上げながら駆け回っている。
たった二匹のアバドンが街に入っただけでこれだけの被害が出たのか?
その時、僕は見てしまった。
放置されていた兵士の死体を、胴体を半ば爪で引き裂かれ、内臓が引きちぎられている生の人間の死体を。一つだけではなかった。首の無いもの、槍を握ったままの腕、下半身の無いもの。そんな死体がゴロゴロと転がっていた。
ザムのシステムは、優秀だった。僕が思わず死体に目が釘付けになってしてしまうと、コンピュータは、僕の見ていた死体をご丁寧に拡大して表示してくれた。まるで目の前にあるように、鮮明に。真っ二つにされた胴体からはみ出した内臓が、太陽の光を浴びててらりと光っているのを、苦悶の表情のまま死んでいる兵士のその顔を。
「うっぷ!」
それを見た瞬間。耐えられなくなり僕は無様に吐いた。口を手で押さえても無意味だった。今朝の朝食を吐き出し、吐き出すものが無くなっても吐いた。吐しゃ物がコックピットを汚し、汚物臭が狭いコックピット内に充満する。
「アマタ様!息を整えるんです!落ち着いて!」
「目を閉じなさい!急いで!」
僕の様子に気がついたセリアさん達が何か言ってる。けど僕にはそんな気にする余裕は無い。
息が、苦しい。臭い。新鮮な空気が猛烈に欲しい。
僕は、あまりの吐瀉物の臭さに思わずコックピットのハッチを開いてしまった。
自分が今立っている場所を忘れて…。
コックピット開いた僕の、鼻に今まで嗅いだ事の無い最悪の悪臭が襲い掛かる。大量にあるアバドンの死体の匂いだ。もしかしたら人間の死体の匂いも混じってるかもしれない。
「ああああああああ!!」
そして目の前にはグチャグチャに崩れたアバドンの死体の山あった。コックピットハッチを開けた時に、ザムとの視界のリンクが解けていたのだ。
その目の前にあるグロテクするな現実に、僕の思考はブラックアウトした。
気がつくと僕は、見知らぬベットで寝ていた。顔を横に向けると、窓の外に夕日によって赤く焼けた空が見えた。
起き上がると自分が着ていた鎧は脱がされ、パジャマを着ている事に気がついた。
「僕は…」
呟いた時、僕の脳裏に気絶する前に見た光景がよぎった。
「うっおえっ!」
湧き上がる吐き気に咄嗟にベットの横にあるサイドテーブルに置かれた洗面器と掴んでその中に顔を突っ込む。寝ている間に生み出されたであろう胃液が洗面器にぶちまける。ツンとなる匂いが更なる吐き気を誘う。
その前に洗面器から顔を離して耐える。
忘れろ!考えるな!消えろ!消えてくれ!
目を開き、天井の模様に集中する。それに意味はない集中する事であの光景を脳裏から消し去りたいのだ。
「アマタ殿!気がつきましたか!」
「アラン…さん?」
扉が乱暴に開かれ、アランさんが入ってきた。
「いきなり気を失ったからびっくりしました。水です。口の中濯いだ方が良いですよ。すっきりします」
アランさんは洗面器のほかに置かれていたコップを手に取り、同じく置いてあった水差しの水を注ぐ。
「こちらをどうぞ」
「ありがとうございます」
差し出されたコップを手に取ると、その水で口を濯ぐ。胃液特有の嫌な酸っぱさが口の中から洗い流され、ようやくすっきりした。
「人が戦って死ぬのを見たのは初めてですか?」
近くにあったデスクから椅子を引っ張り出し、アランさんが座る。
「初めて…と言えるかもしれません。輸送部隊を護衛したダロスのパイロットが殺された所は見ましたけど操縦席の中は見てませんし。カルナートに来るまでにあった死体はなるべく見ないようにしてましたから…」
「じゃあ、あれが初ですか…」
「情けない所を見せてしまいました」
「いえ、新兵なんて皆そんなもんですよ。初陣で漏らして無かっただけマシって奴です。食事は食べれますか?」
「食べれます」
返事を聞くとアランさんはサイドテーブルにあったベルを持ち上げて鳴らした。
すると、部屋にメイドさんが現れた。
「お呼びでしょうか?」
「二人分の夕食をここまで運んで来てください。ああ、アマタ殿のは消化の良いもをお願いします」
「かしこまりました」
そう言うととメイドさんは、出て行った。しばらくすると料理を持って帰ってきた。
「お待たせしました」
僕には香りから麦粥が、アランさんには、パンと、スープがカートに乗せて運ばれてきた。
日本人としては、お米のお粥を希望したいところだが、残念ながらこの世界では米と呼ばれる物を誰も知らなかった。もしかしたら米はあるのかもしれないが、誰にも発見されていないか、もしくは、食べ物だと認識されていないという事だろう。
たとえこの世界で僕らが米が取れる稲を見つけたとしても、そこから取れるのは美味しいお米では無いだろう。日本で食べられている米は、日本人に合う様に品種改良に品種改良を重ねた物だ。
つまり、僕らが美味しいお米を食べられる確立は殆ど0%という事だ。絶望だ。
そんな事を思いつつも、メイドさんに礼を言って麦粥の皿が乗ったトレーを受け取り、太ももの上に置く。そして手を合わせる。
「頂きます」
付属のスプーンで、どろりとした液体を救い上げ口に運ぶ。
うん。異国の味。食べ慣れない事、この上ない。
アランさんは、頂ますも、祈りも無く、メイドさんが運んできたカートに乗せたままバクバクガツガツと料理を口に運び食べている。
半分ほど麦粥を食べたところで、僕はアランさんに質問した。
「食事中にする質問じゃないと思うんですが、アランさん達は、いつもあんな感じに戦ってるんですか?」
「ん?そうですね。だが、今回は異常に敵の数が多かった。アマタ様とアマタ様が出してくれたザムが無かったら、この街は落ちていたでしょう。ありがとうございます」
「いえ、そんな…」
食事を終えると、ふと気になった事を聞く。
「そういえば、セリアさんは、どうしたんですか?あと、僕のザムは…」
「安心してください。セリア隊長は、未だに外で警戒しているのでここには居ません。ザムは、生き残った防衛隊の連中が警護しています。後で、セリア体調と私が交代する予定です。ですから安心して休んでください」
「そうですか…。分かりました。今日は、休ませてもらいます」
「はい。その方が良いでしょう」
アランさんは、食べ終えた食器をカートに乗せるとカートを押して出て行った。
僕は、ベットに横になりながら今日あった事を思い出す。
突発的ではあったけど、この世界の防衛戦を見た。その中で戦った。
そしてその戦った結果を見て、僕は思った。このままだとダメだと。
こんな戦いを続けていたら、たとえどんなに支援物資やダロスが送り込まれたとしてもいずれ破綻する。
どうしよう?どうすれば良くなる?どうすれば、この状況を打破できる?
出来なければ遠くない日に僕は死ぬだろう。無為に戦い続ければ、アポリオンの物量によってすりつぶされて。
逃げたとしても、僕には追ってがかかると思う。先輩達と比べると僕のザムはしょぼいけど、何処でも一日に一回なら好きなときにザムを出せるってかなりのチートだ。放って置かれる事は絶対にない。逃げたっていつか捕まって無理矢理戦場に戻されるか、処刑される。仮に逃げ延びる事が出来たとしても僕にサバイバル生活や、街で潜伏して暮らす事が出来るとは思えない。
ならどうする?
なら…。
「え!?くっ!」
バトルアックスを放棄して、後ろに下がろうとするアラン機。だが、その判断は僅かに遅かった。
振り下ろされたギメランタイマイの爪が丁度腕の間接部に当り、ザムの右腕をへし折った。
「うぁああああああああ!」
腕がなくなった事によってバランスを崩したアラン機は、そのまま後ろへ尻餅を付く様に倒れた。
ギメランタイマイは、アラン機に止めを刺そうともう一度爪を振り上げる。
「させないわよ!」
そこにセリア機が割り込む。
ギメランタイマイは、セリア機に狙いを変えて、爪を振り下ろした
セリア機は、その攻撃をバトルアックスで器用にいなした。振り下ろされた爪は地面に突き刺さる。
「今の内に下がりなさい!」
「くっ!申し訳ありません!」
そのお陰でアラン機がバックパックのスラスタを吹かして下がる。
ギメランタイマイは標的をセリア機に完全に変えると爪が横から掴みかかろうとした。しかし、セリア機は器用にバックステップで避ける。その後すぐにまた接近して攻撃し、注意を自分に引き付け続ける。
僕は、その周りのアバドンを撃ち、援護しながらも長くは持たないと思った。
ロボットの足は、人が思う以上にデリケートなのだ。
バランサーが狂ったら、足首を支えているシリンダーが一本壊れたら、間接のヒンジに皹が入ったら、そのどれか一つが起きただけでもザムは行動不能になっても不思議ではない。
だが、セリア機への攻撃に集中しているお陰でギメランタイマイの足は、完全に止まった。眼前に居るセリア機を倒そうと、ギメランタイマイは爪をやたらめったらに振り回している。
ザムに乗ってまだ数日だというのに、セリアさんは凄まじい操作技術で避けていく。きっと操縦テクニックは、もう僕より上だろう。
セリア機がギメランタイマイに釘付けになった事とアラン機の右腕が破損した事により弾幕が薄れ、ギメランタイマイの横から、アバドンが次々とすり抜けていく。今はまだ、僕の射撃とクロスボウ隊で戦線が持っているが、何時その戦線が崩れるか分からない。コレをどうにかするには、ギメランタイマイを一刻も早く倒すしかない。しかし、マシンガンじゃギメランタイマイに有効な攻撃が与えられない。バトルアックスを叩き込んでもあの甲羅に防がれる。完全な火力不足だ。
強力な一撃であの甲羅を叩き壊すしかない。どうする?スラスターで全力突撃するか?…いや、あれがあるじゃないか!何でアレの事を僕はすぐに思い出さなかった!
僕は、新たに召喚出来るようになった物を思い出した。
「なら、コール!ゼス500mm無反動砲!」
僕は、ザムにマシンガンをバックパックのラックに格納させながら召喚した。
資材ポイントが消費され、僕のザムの前に、二本の太い筒の様なものが横向きに置かれた状態で現れる。
弾が発射される砲口はラッパのように広がり、筒の丁度真ん中当りにフロントグリップにピストルグリップ(銃把)と照準機が、後部にはカウンターマスを噴射する四角い噴出孔が六つ並んでいる。噴出孔の手前には、弾頭の入ったマガジンが構えた時に上になる様に嵌まっていた。
装弾数は3発。
――――コール終了。現在の資材ポイント24です。
二本の内、一本を僕のザムに持たせる。すぐにコンピュータが、無反動砲の保持を認識し、無反動砲に搭載されたコンピュータにアクセスしてコンディションをチェックする。オールグリーン。
「アランさん、コイツを使ってください!使い方は分かりますか?」
「大丈夫です!」
何とか後退してきたアラン機は、地面に置かれた無反動砲のピストルグリップを無事だった左手で握り、担ぎ上げる。
MRヘッドセットを通して映るその姿に、不謹慎と思いながらも、心が弾む。量産型ロボが武器を構える姿と言うのは、どうしてこれほどまで僕の心をかき乱すのか…。片腕が壊れているのもたまらない。
「結構重いですね…。取り回しが難しそうです」
「その分威力はあります。危ないと思ったらすぐに捨ててください」
通信画面のアランさんがコクリと頷く。
「セリアさん!合図を出したら、全力で後退して下さい!こちらの攻撃に巻き込まれます!」
「分かったわ!」
自機と、アラン機は左右に分かれて、ギメランタイマイに狙いを付ける。左右に分かれたのは、ギメランタイマイと接近戦を繰り広げているセリア機を射線に入れないためだ。
「ロックオン完了!アランさんは?」
「こっちも良いです!」
「セリアさん今だ!下がって!」
「!」
ギメランタイマイが両方の爪を上から叩きつけたタイミングで僕は合図を出した。
セリア機が、バックパックのスラスタを全開にしたジャンプで後退する。
「撃て!」
僕とアラン機から、無反動砲が同時に発射され、ギメランタイマイへと着弾する。爆発と共に、その姿が煙の向こうへと隠れた。
撃ったのはHEAT弾。分厚い装甲を持った標的目掛けて撃つ弾だ。これならマシンガンで抜けなかった甲羅だろうただではすまないだろう!
「------------!」
煙の向こうで表現できない悲鳴を上げるギメランタイマイ。
効いてる!全弾持ってけ!大盤振る舞いだ!
僕らは、それぞれ三発、合計六発のHEAT弾を叩き込む。
「-----------------------!!!!!!!!」
打ち込むたびに煙の向こうでは聞くに堪えない悲鳴が上がる。
そして、ズンと煙の向こうで何かが崩れ落ちた音がした。
僕は自機に弾の無くなった無反動砲を捨てさせると、油断無くマシンガンを構える。アラン機、セリア機も同様にマシンガンを構えている。
レーダーを見ると、ギメランタイマイの反応は消失していたが、アバドンのしぶとさは、崖から落ちる原因となったので痛いほど知っている。用心するにこした事は無い。
煙が晴れるとそこには無残にも、甲羅を破壊され、内部がグチャグチャになったギメランタイマイの姿があった。
甲羅に隠れていた頭はだらりと、伸ばされ、首の骨が爆発により吹き飛んでいる。
「ふぅ」
「気を抜かないで!まだまだ奴らが来てるのよ!」
思わずため息をついた僕にセリアさんの叱責が飛んできた。
ボス倒したら、はいおしまい。と言ったおいしい事は無いらしい。レーダーには、未だにこちらに向かってくるアバドンの姿が映っていたからだ。
それからさらに約一時間僕達は戦闘を続けた。
この戦いで僕の持つ資材ポイントの殆どマガジンに変えた。途中でマシンガンがオーバーヒートの警告を出したから、予備のマシンガンも二度召喚した。一ポイントで2丁だ。お陰でもう、資材ポイントはスッカラカンだった。
僕らの目の前には酸鼻を極める光景が広がっていた。屍山血河、これ以外に表現しようが無い。アバドンの死体が山脈のように連なり、その谷間を紫色の血液が流れている。アポリオンも生物なのだ。体の中には肉があり骨があり消化器官がある。それらが地面に盛大にぶちまけられていた。
僕は心からザムにエアクリーナーが付いていて良かったと思った。匂いが無ければ、コレを見ても、まだ耐えられる。
テレビを通して遠くの景色を見ている様なものだ。その程度に過ぎない。そういうものだ。そう考えろ。
「終わった…様ですね…」
「ええ、これ程長く戦ったのは初めよ。でも、何とか守りきれたわ…。あはは。こんな大襲撃があって守れたのってコレが初めてじゃない?」
セリアさんが茶化した風に言っているが、その声は震えていた。MRヘッドセットで顔が見えないが、もしかしたらセリアさんは泣いているのかもしれない。
「そうですね。街も…」
そこでザムで街を振り返った時、僕は言葉に詰まった。
僕が見た街は破壊されていた。
城壁を越えると、そこにはダロスが余裕ですれ違う事の出来るくらいの幅の道が城壁の沿って作られており、その先には、普通に街があった。だが、普通の人々か暮らし、生きていたであろう街が、見るも無残に破壊されていた。
確かに街の殆どは無事だった。
防衛隊のダロスが、ビスト・アインを他所にやらないように連携して区画に封じ込めたのだろう。だが、そのせいで、その区画の建物の殆どが壊れていた。複数のダロスが地に倒れ、今もなお、仲間を救助しようと兵士達が怒声を上げながら駆け回っている。
たった二匹のアバドンが街に入っただけでこれだけの被害が出たのか?
その時、僕は見てしまった。
放置されていた兵士の死体を、胴体を半ば爪で引き裂かれ、内臓が引きちぎられている生の人間の死体を。一つだけではなかった。首の無いもの、槍を握ったままの腕、下半身の無いもの。そんな死体がゴロゴロと転がっていた。
ザムのシステムは、優秀だった。僕が思わず死体に目が釘付けになってしてしまうと、コンピュータは、僕の見ていた死体をご丁寧に拡大して表示してくれた。まるで目の前にあるように、鮮明に。真っ二つにされた胴体からはみ出した内臓が、太陽の光を浴びててらりと光っているのを、苦悶の表情のまま死んでいる兵士のその顔を。
「うっぷ!」
それを見た瞬間。耐えられなくなり僕は無様に吐いた。口を手で押さえても無意味だった。今朝の朝食を吐き出し、吐き出すものが無くなっても吐いた。吐しゃ物がコックピットを汚し、汚物臭が狭いコックピット内に充満する。
「アマタ様!息を整えるんです!落ち着いて!」
「目を閉じなさい!急いで!」
僕の様子に気がついたセリアさん達が何か言ってる。けど僕にはそんな気にする余裕は無い。
息が、苦しい。臭い。新鮮な空気が猛烈に欲しい。
僕は、あまりの吐瀉物の臭さに思わずコックピットのハッチを開いてしまった。
自分が今立っている場所を忘れて…。
コックピット開いた僕の、鼻に今まで嗅いだ事の無い最悪の悪臭が襲い掛かる。大量にあるアバドンの死体の匂いだ。もしかしたら人間の死体の匂いも混じってるかもしれない。
「ああああああああ!!」
そして目の前にはグチャグチャに崩れたアバドンの死体の山あった。コックピットハッチを開けた時に、ザムとの視界のリンクが解けていたのだ。
その目の前にあるグロテクするな現実に、僕の思考はブラックアウトした。
気がつくと僕は、見知らぬベットで寝ていた。顔を横に向けると、窓の外に夕日によって赤く焼けた空が見えた。
起き上がると自分が着ていた鎧は脱がされ、パジャマを着ている事に気がついた。
「僕は…」
呟いた時、僕の脳裏に気絶する前に見た光景がよぎった。
「うっおえっ!」
湧き上がる吐き気に咄嗟にベットの横にあるサイドテーブルに置かれた洗面器と掴んでその中に顔を突っ込む。寝ている間に生み出されたであろう胃液が洗面器にぶちまける。ツンとなる匂いが更なる吐き気を誘う。
その前に洗面器から顔を離して耐える。
忘れろ!考えるな!消えろ!消えてくれ!
目を開き、天井の模様に集中する。それに意味はない集中する事であの光景を脳裏から消し去りたいのだ。
「アマタ殿!気がつきましたか!」
「アラン…さん?」
扉が乱暴に開かれ、アランさんが入ってきた。
「いきなり気を失ったからびっくりしました。水です。口の中濯いだ方が良いですよ。すっきりします」
アランさんは洗面器のほかに置かれていたコップを手に取り、同じく置いてあった水差しの水を注ぐ。
「こちらをどうぞ」
「ありがとうございます」
差し出されたコップを手に取ると、その水で口を濯ぐ。胃液特有の嫌な酸っぱさが口の中から洗い流され、ようやくすっきりした。
「人が戦って死ぬのを見たのは初めてですか?」
近くにあったデスクから椅子を引っ張り出し、アランさんが座る。
「初めて…と言えるかもしれません。輸送部隊を護衛したダロスのパイロットが殺された所は見ましたけど操縦席の中は見てませんし。カルナートに来るまでにあった死体はなるべく見ないようにしてましたから…」
「じゃあ、あれが初ですか…」
「情けない所を見せてしまいました」
「いえ、新兵なんて皆そんなもんですよ。初陣で漏らして無かっただけマシって奴です。食事は食べれますか?」
「食べれます」
返事を聞くとアランさんはサイドテーブルにあったベルを持ち上げて鳴らした。
すると、部屋にメイドさんが現れた。
「お呼びでしょうか?」
「二人分の夕食をここまで運んで来てください。ああ、アマタ殿のは消化の良いもをお願いします」
「かしこまりました」
そう言うととメイドさんは、出て行った。しばらくすると料理を持って帰ってきた。
「お待たせしました」
僕には香りから麦粥が、アランさんには、パンと、スープがカートに乗せて運ばれてきた。
日本人としては、お米のお粥を希望したいところだが、残念ながらこの世界では米と呼ばれる物を誰も知らなかった。もしかしたら米はあるのかもしれないが、誰にも発見されていないか、もしくは、食べ物だと認識されていないという事だろう。
たとえこの世界で僕らが米が取れる稲を見つけたとしても、そこから取れるのは美味しいお米では無いだろう。日本で食べられている米は、日本人に合う様に品種改良に品種改良を重ねた物だ。
つまり、僕らが美味しいお米を食べられる確立は殆ど0%という事だ。絶望だ。
そんな事を思いつつも、メイドさんに礼を言って麦粥の皿が乗ったトレーを受け取り、太ももの上に置く。そして手を合わせる。
「頂きます」
付属のスプーンで、どろりとした液体を救い上げ口に運ぶ。
うん。異国の味。食べ慣れない事、この上ない。
アランさんは、頂ますも、祈りも無く、メイドさんが運んできたカートに乗せたままバクバクガツガツと料理を口に運び食べている。
半分ほど麦粥を食べたところで、僕はアランさんに質問した。
「食事中にする質問じゃないと思うんですが、アランさん達は、いつもあんな感じに戦ってるんですか?」
「ん?そうですね。だが、今回は異常に敵の数が多かった。アマタ様とアマタ様が出してくれたザムが無かったら、この街は落ちていたでしょう。ありがとうございます」
「いえ、そんな…」
食事を終えると、ふと気になった事を聞く。
「そういえば、セリアさんは、どうしたんですか?あと、僕のザムは…」
「安心してください。セリア隊長は、未だに外で警戒しているのでここには居ません。ザムは、生き残った防衛隊の連中が警護しています。後で、セリア体調と私が交代する予定です。ですから安心して休んでください」
「そうですか…。分かりました。今日は、休ませてもらいます」
「はい。その方が良いでしょう」
アランさんは、食べ終えた食器をカートに乗せるとカートを押して出て行った。
僕は、ベットに横になりながら今日あった事を思い出す。
突発的ではあったけど、この世界の防衛戦を見た。その中で戦った。
そしてその戦った結果を見て、僕は思った。このままだとダメだと。
こんな戦いを続けていたら、たとえどんなに支援物資やダロスが送り込まれたとしてもいずれ破綻する。
どうしよう?どうすれば良くなる?どうすれば、この状況を打破できる?
出来なければ遠くない日に僕は死ぬだろう。無為に戦い続ければ、アポリオンの物量によってすりつぶされて。
逃げたとしても、僕には追ってがかかると思う。先輩達と比べると僕のザムはしょぼいけど、何処でも一日に一回なら好きなときにザムを出せるってかなりのチートだ。放って置かれる事は絶対にない。逃げたっていつか捕まって無理矢理戦場に戻されるか、処刑される。仮に逃げ延びる事が出来たとしても僕にサバイバル生活や、街で潜伏して暮らす事が出来るとは思えない。
ならどうする?
なら…。
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