量産型英雄伝

止まり木

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34話 補給は大事

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 アポリオンの第二波が合流した。バグリザドとギメランタイマイが、アバドンが上げる砂煙とは桁違いに大量に砂煙を巻き上げながら西進隊の方へと突撃してくる。それは、デコボコした甲羅もあいまって、まるで山がこちらに向かって走ってくるようだった。
 西進隊を目視で捉えたのか、ギメランタイマイの背中から伸びる左右の爪を打ち鳴らし、威嚇するような音を出している。
『大型のお客さんよ!無反動準備!』
『了解』
 腰に無反動砲を装備していたザムが、マシンガンをバックパックへと格納する。そして腰から無反動を取り出して構える
 セリア機も無反動砲を装備しているので、コックピット視点の右上に無反動砲の砲身が映り込む。ロックオンが解除され、再びカーソルが緑色に戻る。
『無反動砲持ち以外はギメランタイマイの前方に居る敵を集中的に排除して!これが、アバドンに当ったら目も当てられないわ』
『ハッ!』
『無反動砲は、射程距離の半分まで敵を引き付けてから撃つ。全員狙いはしっかり付けなさい!』
『了解!』
 セリア機のロックオンカーソルこちらへと真っ直ぐ向かってくるギメランタイマイへと重なる。電子音がロックオンを知らせるが、それでもまだセリアさんは発射の命令を出さない。無反動砲は、ライフルに比べ高威力だが、射程距離も、弾速も劣る。さらには、弾数も少ない。ギメランタイマイは足が遅く、避けられる心配は少ないが万全を期したいのだろう。十分に引きつけて確実に当る距離になってから撃つつもりのようだ。
 ジリジリと、ロックオンカーソルの右上に表示された彼我の距離が減っていく。その間にもギメランタイマイの前に居たアバドンや、バグリザドが蜂の巣にされ、その死体をギメランタイマイが踏み潰し前へと進み続ける。
 彼我の距離が、無反動砲の射程距離の半分を切った。
『てっー!』
 セリアさんは発射命令を下し、同時にトリガーを引いた。
 無反動砲発射の衝撃が、セリア機のコックピットを揺らす。
 セリアさんの放たれた砲弾が、先頭を走っていたギメランタイマイへと着弾した。
『ヴィアアアアアアアオ!』
 爆煙でギメランタイマイの姿が見えなくなる。けど、ギメランタイマイのものと思われる絶叫が荒野に響き渡る。同時に何かが、その爆煙を突っ切って姿を現した。それは、砲弾が当りバランスを崩し、引っくり返ったギメランタイマイだった。
 ギメランタイマイは何とか体勢を整えようと短い手足をじたばたと動かすが、それは無意味だった。ひっくり返った時の、頼みの綱であった、甲羅から伸びた蟹の腕は、砲弾の爆発により完全に抉り取られており喪失していたからだ。
 セリアさんは、その抉り取られた部分にもう一発ぶち込んだ。甲羅とは違い柔らかい肉にめり込んだ砲弾は、ギメランタイマイの体内で爆発すると、抉り取られた部分から、大量の血肉を放出すると、動きを止めた。どうやら死んだようだ。
『ギメランタイマイ!一体撃破!皆続きなさい!』
『うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!』
 西進隊の面々から、歓声が上がる。今まで勇者を除いて倒した例は一つしかない。僕とセリアさんアランさんの共同撃破だけだ。
『次のギメランタイマイが来るわよ!総員構え!うてぇ!』
 二匹目のギメランタイマイに向かって、無反動砲が嬉々として放たれた。

 朝早くから始まった戦闘は、太陽が真上に来るまで戦っているの言うのに、その終わりはまだ見えていなかった。
『セリア隊長。こちらで把握している残りの残弾数が、3割を切りました。補給要請を出しますか?』
『はぁはぁ。お願い!まだまだ敵は来るわ!』
 セリアさんは、荒い息を吐きながら、オペメイドさんにそう答えた。まだレーダーには複数の敵影があった。
 マシンガン持ちの機体は、まだ残弾が残っているが、無反動砲持ちだった機体は、すでに無反動砲を撃ち尽くし、無反動砲を装備していたせいでマシンガンのマガジンの数は少なく、弾切れ寸前だった。
 だが、そのお陰で10体居たギメランタイマイの内8体が撃破され、無残な屍を荒野へと晒していた。 

 カルナートでは、ひっきりなしにトブタイが、飛んで帰ってきては、ザムによって弾薬を積み込み、また飛び立つという事を繰り返していた。
「兵站部から報告!現在我が軍が保持している弾薬の量が2割を切りました!デアフレムデ様に召喚の要請が出ています!」
 司令部に、兵站部の兵士が飛び込んできた。
 嘘だろ!一体どれだけ召喚したと思ってるんだ!

 アポリオンは、近くに居たアポリオンの群れが全滅すると、その全滅した敵に対して集まってくる習性がある。それは一定の範囲が決まっており、その範囲は、進軍中に入念に調べ上げていた。それを元にスベン公国軍は、事前にハイレルゲンに居るアポリオンの数と、その分布を分析して今回の作戦で必要な弾薬を、何度も計算して、必要だと算出された弾薬の量の三割り増しで準備していた。余裕を持って準備していたはずだった。
 しかし、今回何故か、その範囲を超えているはずの群れが、群れの全滅に反応し、襲い掛かってきていた。そのせいで北進隊と南進隊が使用する弾薬の量が跳ね上がっていた。

 そのせいでトブタイには休む暇がない。
「今行きます!」
 僕は、連絡兵に連れられて、竜車に乗ってカルナートの外に作られた飛行場へと向かう。竜車から見る街中の様子は、ピリピリと、それでいてそわそわとした空気が流れていた。現在実施されているハイレルゲン奪還作戦がみんな気になっているのだろう

 飛行場とはいってもあるのは弾薬を保管する倉庫と、滑走路すらない茶色い真っ平らな広場が広がっているだけだ。
 そもそも、この世界には飛行機という物が今まで無く、トブタイは、ザムを乗せたまま垂直離着陸が出来るトンデモVTOL機なので滑走路など必要が無い。
 飛行場に併設されている物資集積場に到着した。竜車から降りると、あらかじめ召喚しておいた武器弾薬を、防衛隊のザムが大急ぎでトブタイに積んでいるところだった。
 
 僕はふと思った。現在戦況は僕達の予想に反して、敵の数が多く物資の消耗も想定していた以上の速さで進んでいる。ここで召喚したら、帰ってくるトブタイを待つ時間、帰還したトブタイに弾薬を積む時間、そして前線に届ける時間が掛かる。その時間は、戦場において貴重なものだ。弾薬が届いているか否かで前線で戦っている兵士達の生死が決まる。なら、僕が直接行って、その場で召喚すれば、大きな時間短縮になる。
 思いたったら吉日って言うしな!
「こちらが、召喚して欲しいもののリストです」
 僕は手渡されたリストを受け取ると、指揮官用ザムを手早く召喚した。
「って何をしているのですか!?デアフレムデ様!召喚する物が違いますよ!」
「えっそうだっけ?ごめ~ん」
 口では謝っているが、僕は躊躇う事無くザムへと乗り込む。コックピットに入り起動処理を行い、今自分が被っているヘッドセットとリンクさせる。
 リンクされた事により、外の様子がヘッドセットに映る。ザムの下で、ここまでつれてきてくれた兵士が、降りて下さいと!叫んでいるのが見えた。
 僕はそれを無視して、パイロットが下りていて荷物の乗っていないトブタイにザムを乗せ「危ないから離れていろよ!」と言った。
 下に居た兵士は慌てて、トブタイから離れていく。それを確認すると、トブタイを離陸させる。
 
 少し飛ぶと当然のように通信機が鳴った。迷わずその通信を繋ぐ。誰からの通信要請かは予想がついている。 
『こちら司令部!デアフレムデ様!何をしておられるのですか!貴方が出撃するなど聞いていません!』
 案の定、通信してきたのは司令部のオペメイド…アンさんだった。
「このままだと、兵站が崩壊して前線の弾薬が枯渇する可能性が高いと判断しました。そうなったら数の限られてるこっちはジリ貧です。ですが、現場に行って召喚すれば、トブタイの往復する時間が節約できます!大丈夫ですよ。戦闘には極力参加しませんから!」
『その案は、この前の会議で却下されたではありませんか!戦場では、何が起こるか分からないんですよ!』
「その当りは、まぁ何とか気をつけます。僕も死にたいわけじゃないんで。じゃ僕は行きます!」
『デアフレムデ様!アマタ様!!』
「天田アウト!」
 僕は、通信を切って西に向かって飛んだ。



 空から見たハイレルゲンの周りには、アポリオンの血と肉で出来たラインが何重にも引かれていた。何も知らない人がそれを見たら、きっと地上絵だと思うかもしれない。

 最前線の上空まで来ると、僕は眼下で戦っている西進隊が見えた。しかし、弾幕が薄い。それぞれがドドドッ!ドドドッ!と三点バーストで撃っていたのに今はドッドッドッ!と単射で撃っている。残弾が少なくなっている証拠だ。
 僕は、西進隊に通信を入れた。
「こちらデアフレムデ。西進隊補給物資を届けに来ました!」
『アマタ!何こっちに来てるのよ!帰りなさい!貴方の身がどれだけ大事か分かってるの!』
「お説教は奪還作戦の後に聞きますよ!今は弾の補給に専念したください。今だって残弾が残り少なくなってるから、撃つ量を減らしてるんでしょ!」
 僕は、西進隊の作っている戦線の少し後ろにトブタイを着陸させた。
「はい、お待ちどう様!コール!---」

 次々と、マシンガンのドラムマガジンや、無反動砲のボックスマガジンを召喚していく。
『あの!デアフレムデ様!申し訳ないのですが変えのマシンガンを出していただけないでしょうか?自分の使用しているマシンガンが撃てるんですが大量のエラーが…』
 そう言ってきたパイロットのザムを見ると、他のザムが持つマシンガンに比べて排莢される所から出る煙が異常に多い。機関部で何かしらの不具合が起きているのだろう。
「はい!喜んで!マシンガン一丁!入りましたぁ!」
 とは言っても、一回で召喚されるマシンガン2丁だけどね!
 一通り召喚すると、僕はまた飛び立つ。
『あっ!ちょっとアマタ!貴方は、カルナートに帰りなさい!戦場は危険なのよ!』
 それくらい分かってる。僕だって数は少ないけど実戦を経験してる。でも、チートともいえる凄い力を後生大事に抱えて後方でただ生産だけしているのは勿体無さ過ぎる。それでは力を100%有効活用できない。そんな出し惜しみ出来る状況じゃない。勝つだけだったら、後方で召喚して輸送って手だけでも勝てるかもしれない。けれどそれにはきっと少なくない犠牲が出るだろう。
 僕にとって、勝ったとしても沢山の犠牲が出ては困る。何故なら、その後に、人類同盟とかの横槍が絶対に伸びてくるからだ。こちらが弱っていればそこを絶対に突いて来る。だからこそ、スベン公国には、極力犠牲を出さずに余力を持って勝ってもらわないと困る。その為のリスクなら負う。
「なるべく危険な事はしませんから!」
『ここにいる事自体危険なのよ!帰りなさい!』
「ハイレルゲンが奪還できたら帰りますよ!」
 それから南進隊、北進隊と周り、それぞれの部隊で武器弾薬を召喚していく。部隊長口々に、僕にカルナートに戻るように言ってくるが、弾薬が補給されるとあからさまにホッとしていたのが印象的だった。
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