量産型英雄伝

止まり木

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42話 見せかけの難民キャンプ

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 難民キャンプはやはり雑然としていた。
 軍で使っていたと思われる立派な天幕や、まるでそこいらに落ちていた木切れを集めて作ったようなテント(実際そうなのかもしれない。)がほとんど何の規則性も無く並んでいる。ただ昨日と違うのは、人通りが少ないと言う事だろう。動ける男達のほとんどは外の新たな城壁作りに借り出されているのだろうか。歩いている人たちの多くは女性だった。
 その女性たちも、肌の色や顔立ちが皆ばらばらだ。いろいろな国からここまで逃げてきたのだろう。

 不意に竜車が人類同盟の護衛によって止められた。
「どうかしましたか?」
 僕は窓を開けて人類同盟の護衛隊長に聞いて見た。窓から顔を出すと、すえた臭いが僕の鼻につく。
 だがしかし、戦場で人間の血反吐とアポリオンの臓物の臭いを潜り抜けた自分にとって大した…大した…いえ、やっぱ戦場の臭いとは別の意味できついです。
「申し訳ありませんが、ここから先は、安全の為、緊急時を除いて竜車とフォルス以外立ち入りは禁止されていますので…」
 前を見るとそこには木で作られた簡単なゲートがあった。
 僕らの目指しているライツナー伯爵の天幕は、このゲートの先。
「ここからは徒歩で向かうと言うことですね。分かりました」
 護衛隊長によって竜車の扉が開かれる。最初に竜車から出たのは護衛として一緒に乗っていたブラッドさんだ。
 ブラットさんが外に出て安全を確認すると今度は僕が出る。外に出た瞬間ひどい臭いが僕の鼻を襲う。
 最後にセリアさんだ。セリアさんは気にした様子も無く外に出る。
 セリアさんが外に出た瞬間、人類同盟の護衛たちがざわついた。
 それもそうだ。ぴっちりとした軍服を着たナイスバディの美女が竜車から降りてきたのだから。しかもその美女の顔は指揮官用ザムの仮面ヘッドセットによって隠されている。話題性も抜群だ。
 護衛隊長もちらちらとセリアさんを見ている。
「こちらです」
 僕達は、スベン公国の護衛と人類同盟の護衛に囲まれながら難民キャンプへと足を踏み入れた。まだ、冬の時期なので外は寒い。ひゅうるりと吹いた風に僕は身を震わせた。
 
 案内された道には、予想外の光景が広がっていた。

 道には衛兵が一定の間隔で立ち、難民が笑顔でその衛兵に向かって挨拶をしている。

 汚れた顔をしながらも笑顔を浮かべた女性達地面に敷いた絨毯の上でが身を寄せ合いながら繕い物をしていた。道の端では子供達が立っている衛兵に群がりお菓子をねだっている。ねだられている兵士たちも笑顔でお菓子を配っている。当然、引ったくりや置き引き、スリなどがおきるはずも無く。住民達が薄汚れた格好をしている以外スベン公国とほとんど変わらない、のどかな様子だ。

 昨日の殺伐とした様子とはまるで違う。

 誰も殺気立った様子は無く、道端にうつろな目をして座り込んでいる子供も居ない。

 わざとらしい。
 これは人類同盟が僕に、難民の保護はちゃんとしているんですよとアピールしているとしか思えない。しかも、プロパガンダ的脚色つきで。
 
 道を歩きながら僕は護衛隊長に向けて言った。
「昨日とは違い、今日は道にたくさんの衛兵が立っているのですね」
「昨日は…どこも人手不足でして…なかなか治安にまで手が回らないのです」
 護衛隊長が一見悲しそうに答える。
「昨日空の上から見たら、人類同盟本部の演習場にたくさんの兵士が居ましたが、それでも足りないのですか?」
 実際空の上から見た時は、城壁内に作られた訓練場に数百人単位と思われる兵士達が整列している姿があった。
「人類同盟軍の兵士は、アポリオンと戦うための兵です。料理人は剣で料理をしないでしょう?料理は包丁でするものです」
 だから人類同盟軍を治安維持に使うなんてとんでもないと?
「包丁が無ければ、剣で料理するのが料理人だと僕は思いますけどね。もしくは剣を鋳潰して包丁にするのもいい。ああ、剣を売って包丁を買ったほうが手っ取り早いか…」
「騎士の魂たる剣を鋳潰すなんてとんでもない!」
「三振りの聖剣が抜かれたんですから、剣を倉庫で腐らせるのはもったいないでしょう?なら、鋳潰して包丁にしたほうが役に立ちます」
 聖剣すなわちケンジさんたちだ。
「…ですが、奪われた土地を取り返す時に…」
「取り返す以前に、スベン公国は、奪われる前に剣を注文しましたが一切来ませんでしたね」
「…」
「観賞用の剣など、包丁にしたほうがよっぽど役に立つと思いますよ」
「ははは…デアフレムデ様はご冗談がお上手ですね」
 僕言う皮肉に護衛隊長の顔が引きつる。
 冗談じゃないんだけどな。
 そこでふと疑問が浮かんだ。
「と言うかあなた達は人類同盟軍の兵士では無いのですか?」
「我々は、ゲーバッハ共和国の兵です。人類同盟軍の要請によりデアフレムデ様の警護の任についています」
「あっそうなんですか」
 僕らと人類同盟の兵士改めゲーバッハ共和国の兵士達の間で微妙な空気が流れた時、不意に声を掛けられた
「あら、隊長さんじゃないですか今日はどうしたんですか?」
 僕にではなく、護衛隊長に。
 声を掛けたのは、小汚い格好をした金髪の少女だった。手にはパンなどの食料の入ったかごを下げ、顔は土で汚れているが、溌剌とした笑顔を護衛隊長に向けている。顔が汚れていて分かりづらいがかなりの美少女だ。
 あれ?この子…。
「おっおお、エメリア君じゃないか!元気かね!」
 護衛隊長は、その少女に対して気軽に応じた。
「はい!おかげさまで!あら、こちらの方は?」
「ああ、こちらは、スベン公国より来ていただいている。デアフレムデ様だ」
 おい。隊長さんよ。言っていいのかそれ?
「ええ!スベン公国の首都奪還に多大なる寄与をしたあのデアフレムデ様ですか!」
 エメリアと呼ばれた少女が、そう大声で言いながら、輝くような笑顔で僕を見てこちらに来ようと動き出したが、その時すでに僕と彼女の間にブラッドさんが入る。

「何だって!デアフレムデ様だって!」
 近くを通りかかっていた難民が大声で言った。
「デアフレムデ様っていやぁたしか、勇者でもないのにアポリオン共から土地を奪い返した言う?」
 それに答えるように路地から汚らしい男が出てくる。
 あれよあれよと言う間にテントや、近くの路地から人々が現れ、僕らを取り囲み始めた。多くは女性だが、男性も少なくない。

 集まって来た人の熱気により、不快なにおいが一気に強化される。
 おいこれ、衛生的に大丈夫か?人類がしてちゃいけない臭いだろ!
 一応共和国の護衛の人たちが一定の距離から近づけさせないようにしているが、追い返すと言う事はしていない。
 取り囲まれ、身動きが取れなくなった時、エミリアと呼ばれた少女がブラッドさんの脇からこちらをのぞきこみながら大声で言った。
「どうか、人類同盟にお力を!お力をお貸し願えませんでしょうか!この身はどうなってもかまいません!どうかお願いします!」
「おお、身を挺してまでとは、なんとけなげな…」
 護衛隊長は、わざとらしく大げさに感動している。
 何だこの茶番は…。
 すると、取り囲んで難民達からも声が上がる。
「そうだ!力を貸してくれよ!頼むよ!」
「助けてよ!」
「故郷を取り返して!あんたすごい力を持っているんだろう!」
 最初の声はきっと、人類同盟が用意したサクラだろう。
 だが、後に大声を出し始めたのは、本物の難民達だ。故郷を奪われた彼らは、必死さが違う。狂おしいほどの願い。それは時間と共に多くなり、やがてひとつに収束した。
「「「デアフレムデ様!どうか、人類同盟にお力をお貸しくださいませ。故郷を取り返してくださいませ!」」」
「デアフレムデ様どうか彼らにお言葉を。彼らも、人類同盟にお力を貸すと言われれば落ち着きましょう!」
 
 ある種の熱狂に犯されている人たち相手に。"僕は人類同盟に協力する気は無い"と言ったら、彼ら暴走するだろう。護衛隊長たちは、いや人類同盟は、自分達の都合の良い答えを言わせるためにこの状況を用意したのだ。
「やられたわね」
 セリアさんの呟きが聞こえた。
 まったくです。
「はぁ」 
 しょうがない。
 ブラッドさんにどいてもらいエミリア少女の前に立つと一気に場が静まった。
 僕の言葉を固唾を呑んで待っている。

「君、昨日人類同盟の城にいたメイドさんだよね?何でここに居るの?何で難民の振りしているの?」
 目の前の少女は笑顔のまま固まっている。
 難民たちも予想外の答えにシンとなっている。

 僕は前に彼女に合った事がある。
 そんな事は覚えていないが…。仮面ヘッドセットが彼女を覚えている。
 僕には、彼女の顔が黄色の線で四角く囲まれ、そしてその四角の上に記号と番号が表示されているのが見えていた。
 それは初対面であれば絶対に表示されないものだ。
 コレは、仮面ヘッドセットの特殊機能の一つだ。一度でも会った相手の顔を記録し、前に会った事があれば、いつどこで会った誰であるかを教えてくれる。人の顔と名前を一致させるのが苦手な僕にとってありがたい機能だ。
 この機能は化粧程度では、誤魔化されない。これを誤魔化すには、特殊メイク張りに顔の形を変えなければならないほどだ。
 僕の視界の隅に、前回会った時の様子が映し出された。
 うん。目の前に居る彼女だ間違いない。覚えていないわけだ。彼女は、僕らを迎えるために人類同盟の用意したたくさんのメイドさんの中に居た。
 顔の汚れの有無はあるが、綺麗な顔ゆえに判別はたやすい。
「いっいえ、私はっ。この難民キャンプの…」
「違うって言うの?君…昨日人類同盟の城で僕達を迎えたよね?君が居たのは入り口から見て、左側の列の奥から三番目に居た」
 難民達は、僕の声を聞いてざわつきだす。
「失望したよ。人類同盟は、難民達を扇動し、僕が彼らに協力するように強制するために一芝居うったんだろう?」
「いっいえ。ちっ違います!私は…」
「では、君はどこの誰?ここのどこに住んでいるの?」
「違いますぞ!彼女はこの難民キャンプの…!」
 彼女のフォローすべる隊長さんが割って入る。
「では、隊長さん教えてください。彼女はどこの誰です?どこの国の難民で今どこに住んで、何の仕事をしているんです?」
「彼女は、滅ぼされたルルナント王国の生き残りで、この難民キャンプで飯炊きの手伝いをしている」
 すらすらとカバーストーリーを言う護衛隊長。
 さすがにそれくらいは用意しているか。でもまだ作り込みが甘い。
「それにしては綺麗な手をしているね?」
 言いよどむ隊長さんをよそに、僕は彼女の手をとり、頭上へと掲げる。
 彼女の手は、多少土で汚れてはいたものの、爪は綺麗に整えられ、雪が降っても仕方が無い寒さだと言うのにあかぎれや、しもやけなどの手荒れが一切無い。
 コレに気づけたのは、あやしいと思った人が居たら手を見なさいとセリアさんに教わったからだ。手は生活や職業により、特徴が良く出るのだそうな。
 どっかの名探偵も似たような事を言っていた気がする。
「え?人類同盟のメイド?」
「ねぇあなた。あの子見覚えある?私無いの」
「私もよ」
 取り囲んでいた難民達があの少女が誰かを話し合いながら、自分の手を見て、その後掲げられたエミリアの手と見比べる。そしてあまりの違いに彼女に向かって疑惑の目を向けた。
「ちっちがいます!わったしはまだ仕事がありますから、ここで失礼します!」
 難民を装ったメイドさんは、僕の手を振り払うと青ざめた顔をして人垣を掻き分けて奥へと消えていった。
「さぁ見世物は終わりだ!元の生活に戻るがいい!」
「ついでに今見たことを広めなさい!人類同盟がデアフレムデ様を謀ろうとしたと!」
 事が終わると、ブラッドさん達スベン公国の護衛が何か言いたげにこちらを見ている難民達を追い散らす。
 僕は、護衛隊長へと向き直って抗議した。
「彼女や、このあたりの難民達の中にサクラが居た事は分かっていますよ。あなたが悪いわけじゃないのは知っています。ですが、僕達は人類同盟に対し、厳重に抗議させていただきます。あなた達は僕達の護衛ではなく。単なる仕込だったと」
「それは!」
「一応は人類同盟の顔を立てて護衛を許しましたが…あなた達はもう信用できません。お帰りください。ここからは僕達だけで行きます」
「難民キャンプは危険…無法地帯なのですよ!我々の護衛が無ければ!」
 何とか僕らについていこうと護衛隊長が粘るが、それは許さない。
「僕は仲間を信じていますので…。ザムが僕らをちゃんと見ています」
 護衛隊長が思わず、視線を城壁の外へと向ける。視線の先には、モノアイでこちらをじっと見つめながら立っているザムの姿があった。
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