一見くんと壱村くん。

樹 ゆき

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可愛くない2

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「言葉にしないと伝わらないものですよ? それに、絶対僕の方が一見いちみ先輩のこと好きですし、幸せにする自信ありますから」
「そんっ、なの……」

 俺の方が。その言葉が、口に出来なかった。

「人の気持ちは変わるものですよ? せーんぱい?」
「っ……」
「あれぇ? 言い返さないんですか?」

 こてん、と首を傾げてみせる。

「…………お前の言ってることは、正論だから……」

 俯き、グッと拳を握り締めた。
 素直じゃなくて、可愛げがなくて、好きだと伝える事も出来ない自分よりも、全力で好きだと告げる弐虎にこの方が一見を幸せに出来るかもしれない。
 想いを伝えて恋人同士になれたとしても、きっとこの先も素直になれずに一見を傷付けてしまう。

 弐虎の言う通りだ。
 好きでいて貰えるのが当然だと、きっと心のどこかで思っていた。そのうち伝えられれば、きっと大丈夫だと。


「先輩がそんなに意気地なしだとは思いませんでした。そんなことなら、僕が取っちゃいますから」

 呆れたような声に、壱村いちむらの肩が震えた。
 意気地なしも、正論で。弐虎に取られたとしても、文句を言う資格はなくて。そもそも一見は、自分のものではないのだから。

「一見先輩ってば、なんでこんな人を好きになっちゃったんだろ」

 その言葉に、壱村は弾かれたように顔を上げた。

「どうしたんですか?」

 弐虎が一瞬驚いた顔をする。だがすぐにまた蔑んだ目をした。

 今まで自分の事ばかり考えて、周りが見えなくなっていた。
 自分の行動で、一見が悪く言われてしまう。一見を避けて、逃げ回って、周りはどう思っただろう。一見が何かしたのではと思われたかもしれない。


「悪い、弐虎。目が覚めたわ」
「え?」
「お前、わざと俺を煽ってたんだな」
「えっ……、まさか、そんなわけないじゃないですか」

 弐虎は鼻で笑い飛ばしながら、視線を逸らした。

 心の中の靄が晴れた途端に、弐虎の真意も分かってしまった。
 本当に壱村を敵だと思っているなら、このまま自滅するのを黙って見ていれば良かったのだ。わざわざ煽るのは、壱村に行動を起こさせたかったから。

「ありがとな」
「っ……だから、違いますってば!」

 顔を赤くして怒る弐虎に、そういうとこ可愛い、と笑って壱村は階段下から出て、手を振りながら廊下を歩いて行った。



「……あーあーー、なんで僕がこんな役回り……。って、仕方ないか。一見先輩には幸せになって欲しいもん」
「弐虎。偉いぞ」
「お前に褒められてもなー。でも、ありがと」

 いつも二兎にとには素直になれないが、今日は少しはにかみながらお礼を言った。二兎だけは、昔から変わらずにずっとそばにいてくれる。

「弐虎、お前には俺が」
「あーもう! 気分転換に美味しいもの食べに……」

 声が綺麗に被り、弐虎は目を瞬かせた。

「何?」
「……いや、いい」
「気になるじゃん」
「今度話す」
「だから、気になるってば」

 むっとする弐虎から、二兎はそっと視線を逸らした。

「……弐虎、キレるとますますおばさんに似てる」
「えっ! やめてよっ、僕は学校仕切るより学園のアイドルになりたいの!」

 さっきはちょっとムカついちゃったけど! とぷんすかする弐虎をちらりと見つめながら、どこか吹っ切れた様子に、二兎は安堵したようにそっと息を吐いた。

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