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18居酒屋

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 ヤーパン国の王宮では、棺に入った王子の遺体をロクに検分もせず、墓地へ移送し埋めている。

 「それにしても、あの聖女様は、どこからいらしたのだろう。人品卑しからぬ風体、物腰に知性も見受けられ、高等教育を受けておられるのは違いない。我が国にお招きしたいところだが、あのバカ王子がやってくれたおかげで、難しいだろう。」

 「それにあのフェンリルだ。王子と共に行った騎士の話では、象のような大きさだったと言うが、視察に行ったときは、普通の大型犬並みだったから、膨らむのか?」

 「おそらく神獣だろうな。聖女様だけなら攫うこともできるだろうが、フェンリルが一緒とあれば余計、難しい。ここは丁重におもてなしして、お招きするしかないだろう。」

 「若い娘が喜びそうなことと言えば、……舞踏会でもするか?」

 「フェンリル付きでか?」

 「フェンリルには、何かエサでも渡しておけばいいだろう。」

 ヤーパン国の王族は知らずにいたのだ。聖女様が中身、中年のおっさんだってことを。若いイケメンより、居酒屋でうまい肴を突っついている方が嬉しいということを。

 ほどなくして、東のジャングルに舞踏会への招待状が届くが、オリヴィアは興味がない。

 「誰か行きたい人いませんか~?」

 声をかけても、皆忙しいらしく、生きたがる人はいない。

 そうよね。若い娘だからと言って、必ずしも行きたがるものではない。

 前世ニッポンでも、盆踊りが好きと言う娘もいれば、カラオケのほうが好きだという娘もいる。10束ひとからげにして考えないでほしい。

 でも、まぁせっかくなので、聖女様とわからない風体で、遊びに行くのも悪くはない。舞踏会には、参加しないけれど、美味い居酒屋などを見つければ最高にいいのでは?との思いから、お忍びでヤーパン国へ行くことにした。

 衣装も動きやすいパンツスタイルで、一見すると少年のようにしか見えない。

 でも、この世界では15歳で成人だから、酒が飲める?

 髪も束ねて、帽子の中に突っ込む。

 護衛は騎士1人だけを連れていく。ライオンちゃんもいるから、十分だと思う。

 東のジャングルの出口から、こっそり出ていく2人と1頭。

 ヤーパンは、門番もいなく入り放題の街だった。

 路地裏を通りかかった途端、ガラの悪い3人組に絡まれる。

 「よぉよぉ。俺たち、これから酒を飲みたいと思ってたんだが、あいにく持ち合わせがなくてな。金貸してくれないか?」

 「若いの。働けば、よかろう。」

 「げ!つべこべ言ってないで、さっさと有り金置いていけ!」

 「あいにく、こちらも持ち合わせがござらぬ。」

 「なら、その立派な剣や服を置いてってもらおうか?売れば少しぐらいの金が入るぜ。」

 「それは困る。これは形見の品でな。」

 「では、力づくでいただこうとしようぜ。」

 下卑た笑いをにじませながら、詰め寄ってきた。

 今まで、オリヴィアは一言も発していない。声を出せば、女だということがバレるから、もっとひどい目に遭うかもしれない。

 騎士は、落ち着いて全員を叩きのめし、縄をかける。騎士団に強盗の現行犯として、引き渡すつもりでいる。

 「どうか、御助けを。つい魔がさしてしまったことで。」

 オリヴィアは、騎士に目配せをして、商業ギルドに連れていく。そこで、チンピラに掃除の仕事をあっせんしてもらえるように頼んで、外へ出た。

 やっぱり昼間から居酒屋へ入るというのは、マズイ。商店街へ出て、あちこちの商店をウインドウショッピングすることにする。

 そこで情報を集めることにしたのだ。

 「どこか、いい酒が飲める店は知らないか?」

 呑兵衛の店主なら、必ず乗ってくる話。

 「今日は、お城で舞踏会があるらしいが、こちらはそんなものに興味がないからさ。どこか美味い酒がある店を紹介してくれたら、一杯おごるぜ?」

 「それなら、商店街の突き当りにある『ドン』という店は、肴がいいぜ。」

 「ありがとう。あとから来てくれ。」

 夕刻になり、小胆外の突き当りをめざすと、すぐわかった。縄のれんを潜ると、既に何組かの先客がいた。

 オリヴィアは、最奥の隅の方の目立たない場所へ座る。この場所なら、入って来た客が誰かを分別できる。もし、使節団で来た人物なら、速攻で帰るつもりでいる。 
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