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49無役無職

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 次の日、目が覚めたら、父に「アデセルを出たい。」と申し出ている自分に気づいた。

 たかが、あれぐらいのことで嫉妬するなんて、ひょっとしたら、アールのこともそれほど好きではなかったのかもしれない。

 もう一度自分を見つめなおしたい。

 マリリンとは、何でもないことはわかっている。あんな小さな娘に何かするとしたら、ロリコン以外は考えられない。

 アールはロリコンではないと思っている。その点だけは、信じていると言ったほうが適切かもしれない。

 アンダルシアでもなく、ヤーパンでもなく、もちろんアデセルでもない、どこか遠くの別のところへ行きたいと漠然と思う。

 しょせん、学園を追い出された時から、オリヴィアは根無し草根性が身についてしまったようだ。

 一つの場所に落ち着けない。昨日もアール殿下のことを懐疑の目で見てしまう自分に嫌気がさす。

 今はまだ、何でもなくても、あっという間に10年なんて、すぐ経つ。その時は、マリリンは17歳で、立派なレディーとなっている。

 とてもじゃないけど、オリヴィアは太刀打ちできない。

 いったん、オアシスに戻ろうかとも、思う。

 すべては、些細な嫉妬から始まったことでも、考えれば考えるほど、真実だと思える。

 ただでさえ、マリッジブルーの微妙な時に婚約者を不安にさせてしまったアール殿下に非がある。

 結婚というものは、つくづくタイミングだと思う。どんなに愛し合っていようが、人の気持ちは水物。タイミングが狂うと、長すぎた春で終わってしまうことが多い。

 それを言うのも、アールスハイド殿下は国王の孫というだけで、無役無職の身分だったから、自分で所帯を起こそうとする気概がない。

 前世の自分と比べても、甲斐性なしの男に違いない。

 アンダルシアで2000億円、この世界での金貨2000万枚を稼いだのだから、これを元手にどこか遠いところへ行こう。

 前世では、ジャンボ宝くじを当たっただけでも、大騒ぎするところなのだが、この異世界では、けた違いの金額に嬉しいというより、驚きというより、なんだかよくわからないが心情としてある。

 聖女様が決断をしたと言うことで、王都のタウンハウスの使用人も全員、従うことになり、ものの半日ほどで、タウンハウスはもぬけの殻となった。

 オリヴィアは、言うまでもなく、またアデセルのタウンハウスとカントリーハウスをアイテムカバンにしまい込んだ。

 そしてアンダルシアにしたときと同じように、アデセルにもぱっと見はわからないが、幻影として、建物を見せたのだ。

 行き先は、とりあえずオアシス。あそこは、人目もはばからず、ゆっくりできる唯一のところ。

 今度は、ヤーパンの騎士も連れていくことにする。アデセルの領地の元からいた領民までもが、聖女様の行かれるところへ着いていきたいと申し出があった。

 申し出があった者全員を、同じようにオアシスへ移住させる。それからのことはオアシスへ行ってから決めることにする。

 その日の夕方、アールスハイド殿下は、昨日できなかったオリヴィアとの逢瀬を楽しむため、タウンハウスへ着くも、誰も出迎えに来ないことを不審に思い、ドアに手をかけようとして、幻だということに気づいたのだ。

 「なぜだ?俺は何かしたか?昨日は、リヴィの友人と喋っただけではないか?それが悪かったのか?女心はわからない。」

 頭を抱え、その場にしゃがみ込んでしまう。待ちゆく人が、その姿を遠巻きに見つめている。

 結局、婚約は破談になり、就職するはずの王城の仕事もパァになったのだ。

 せっかく、聖女様と婚約しておきながら、逃げられた愚か者として、一生、無役無職は変わることがない。
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