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 3人はそれぞれ思い思いの変装をして、街へ繰り出すことにした。

 アリエールは、花売り娘風の商家のお嬢様に扮し、レオナルド兄様は、道化師のようなピンク頭にピンク色の瞳にしたのだが、これが本人はいたって気に入っているご様子で、ほっとしている。なぜなら、宰相の息子ということで、普段からがり勉と陰口をたたかれていることを気にされていたのだ。

 そしてグレゴリー殿下は黒髪に黒眼、クロヒョウを本人はイメージされているらしく、「ワイルドだろ?」と喜んでいる。

 どこが?と突っ込みどころ満載の3人なのだが、本人たちが気に入っていれば、それで良しということにしましょう。

 街へ繰り出すのは、実際には3人だけではない。護衛騎士が影のようについてくる。

 生まれながらの王族は、この影がいくらついてこようが気にもしない。それが生まれた時からの運命で当たり前なのだから。それでもレオナルドは慣れないらしく、しょっちゅう後ろを振り返っては、影の存在を確かめている。

 街の繁華街へ差し掛かった時、嬌声が聞こえてくる方を無意識にみると、リリアーヌ・ドイルがその中心にいた。そう学園の時に、アリエールに冤罪を吹っかけてきた男爵令嬢のこと、風の噂では、卒業式が終わってからジークフリートが学園の監視カメラの映像をこと細かくチェックしたところ、リリアーヌがアリエールにいじめを受けていた事実はなく、作り話をされたことに傷心したアリエールが自殺をした原因を作ったとされることから、投獄、貴族籍のはく奪と国外追放を言い渡されたと聞く。

 そのリリアーヌが、ハーバムルトに流れ着いて、また何かをやらかそうとしているかと思うと胸騒ぎを覚える。

 リリアーヌがあの頃のままの考え方をしているとすれば、また今度も狙いはグレゴリーだろう。

 このことを話すべきかどうか悩む。

 「なんだ?あの騒がしい酌婦は?」

 アリエールがリリアーヌのことで悩んでいるのをよそに、もうグレゴリーもレオナルドもリリアーヌの存在に気づいてしまう。

 「他国民のように見えるが、ずいぶん下品な女だな。ああいう輩とはかかわりたくない。」

 元・男爵令嬢ですわ。とは、言わない。

 リリアーヌの言葉に「アリエール」の名が出てからは、というものいやでもその内容に聞き耳を立ててしまう。

 「アリエールなんて、偽聖女様だよぉ。あの女のどこが聖女様って言うんだい。アタシの方がよっぽど聖女様に近いよー。何にも知らない王子様は騙されているんだ。あの女のせいで学園の卒業が取り消しになったんだよ。」

 やっぱり!

 リリアーヌの狙いがグレゴリーだとわかった瞬間、凍り付く。胸騒ぎが本物になったような気分。

 「ジークフリートの次が、グレゴリーだなんて、許せない!あの女ばっかり、いい男と……。」

 突如、リリアーヌが声を噤んだ。

 影の護衛騎士が表に出て、リリアーヌを不敬罪で拘束する。

 「ええー。アタシゃ、なんにも言っていないよぉ。ただアリエールと友達だって、言っただけさ。そんなことで逮捕されるなら、この国はおかしいよ。」

 「つべこべ言うな!ここにいる連中、全員を逮捕する。」

 それまでリリアーヌに下心見え見えで近寄っていた男たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げるが、逃げ切れない。

 いつの間にか、影が影でなくなり100人ぐらいの騎士が集まってきている。

 公衆の面前で、堂々と王族批判をしたのだから、処分は当然のこと。

 ここは、あの頃の学園とは違う国で、違う価値観の世界だということをまだわかっていない。

 リリアーヌも落ちるところまで、落ちてまだ気が付かない。

 結局、また投獄され、国外追放になるところを今度は奴隷として、商人が買い取っていった。どこか外国へ売り飛ばされることになるだろう。
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