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 マーガレットが目覚めてからと言うもの、どうも屋敷の中が騒々しい。

 鈴之助の娘の話では、この後、父から勘当を言い渡されるはずなのだが、父の公爵はなぜか優しい。そればかりか、よく見ると戦支度をしているように見える。

 「おのれー!バーモンドめ!よくもこのマリンストーン家をコケにしてくれたのぉ。よいか、目指すはバーモンドのクビひとつじゃ。心してかかれ!」

 え?今、不穏なことを聞いたような気がする。

 「お待ちください。お父様、今はまだ、時期尚早にございますれば、今しばらくのご猶予をお願いいたします。」

 「マギー(マーガレットの愛称)は、どこも悪くない!それをあのバカタレが!」

 「わかっております。されど、今ここで決起すると反逆罪として捕らわれてしまいます。わたくしが王家から婚約破棄の違約金と領地を頂いて参りましたので、まずは領地で力を蓄えてから、時を待つようにお願いいたします。」

 「我がマリンストーン家と王家との実力、軍事力は拮抗しているが、よかろう。マギーの言う辺境の土地で良いのか?」

 「彼の地は、亡きドイル辺境伯様が治めていらした土地、国境線に隣接している土地であるからこそ、本来は王家がしっかり管理せねばならない場所に関わらず、今までは放置されていた場所でございます。その土地をこのマギーが、しっかり統治し繁栄させてみせましょうぞ。今まで、バーモンドのかわりに公務を行ってきた実績がございます。そして表向きは勘当扱いにしてください。王家に二心を疑われないように、折を見て復讐しましょう。」

 「おお、そうであったな。それでは文官と護衛の騎士を連れていくがよい。」

 「ありがたき幸せに存じます。」

 「しかし、それにしてもマギーが男だったらよかったものを。」

 父のつぶやきを背に、鈴之助は辺境領に思いをはせながら、意気揚々と馬車に乗り込む。

 馬車に揺られながら2週間ほど行くとどうやら、ドイル辺境伯様が住んでいらっしゃったお屋敷に到着する。

 荷物を解き、マーガレット付きの侍女にお茶を淹れてもらう。

 この領地はたいそう寒く、暖炉に火を入れてもなかなか温まらない。絨毯は毛足の長いものが使われているが足元からヒューヒューと冷たい風が入ってくる。

 マーガレットは、いったん脱いだ外套を羽織る。

 こう寒くては、たまらない。街へ出たら毛皮の外套などあるかな?それとも山へ行き、自ら狩りをして、毛皮を剥ぐとするか?

 マーガレットは幼い時より家庭教師に、剣と魔法、それに勉学を習っているので、魔物でなければ、たいていの獣は狩れる。

 それに今は鈴之助の記憶もあり、剣術ならおそらく騎士よりも強いと自信があるが、それは内緒にしておく。

 とにかく震えていても仕方がないから、とりあえず狩りの用意をしていると護衛の騎士も付き合ってくれることになったのだ。

 まだ冬になっていないから、クマぐらい狩れるかな?鹿ではそんなに暖かくはないだろう。イノシシは鍋にすると美味いが、毛皮はどうなんだろう。

 狩りの結果は狐が何匹か罠にはまっているのを発見。誰かが仕掛けたものかもしれないが、今は拝借するとしよう。

 屋敷に戻り、暖房器具を考える。前世の昭和の頃はセントラルヒーティングなるものが一時期もてはやされたことがあったが、ボイラー熱を建て物ごと循環させて暖房するというものだが、使わない部屋まで暖めるので効率が悪い。

 鈴之助としては炬燵がいいが、畳の部屋がないので断念する。

 前世の大学の同期の奴らは、家電メーカーに就職した。当時、家電メーカーは初任給が低くゼネコンのほうが、給料が倍以上高かったので、家電は内定をもらったが断わりゼネコンへ入社した。

 一応、工学部なので家電製品の一つや二つは仕組みがわかっているので作ることはできるが、やっぱり手っ取り早く温めるには製品を買ってしまったほうが安い。

 まずはできるところから手をつけることにしたのだ。一番効率よく建物を温めるのには、床暖房を思いつく。

 前世、便座が温かいと真冬でもトイレ全体が温かいのと同じで、床暖房をするとその部屋全体が温かい。

 マーガレットは自分の部屋と玄関、執務室、食堂に床暖房を取り入れることに決め、設計図をひく。



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 その頃、王城では、バーモンドが頭を抱えている。

 今迄マーガレットに押し付けてきた公務が滞っている。父のアンダルシア王からは、叱責され、マーガレットを呼ぼうとしてマリンストーン家へ行っても、「マーガレットは勘当した。」と言われ、会えない。

オリヴィアにやらせようとしたが、貧民窟出身のオリヴィアは行儀がなっていないらしく、今更ながら、お妃教育を始めたばかりで、バーモンドの婚約者にもなっていない。

 なっていないというよりは、出来ないということが正しい表現。

 公務を行う知識も乏しく、一からバーモンドが教えるのも面倒。というか、バーモンドも公務ができない。なんせ今まで、マーガレットに押し付け、バーモンドは遊び惚けていたから。

 「ああ、こんなことならマギーと婚約破棄するのではなかった。いったい誰がこれだけの量をこなせるというのか?」

 マーガレットなら100%こなせる。

 辺境へ行ったマーガレットを秘かに呼び寄せ、側室として、公務をさせるべきか?

 いずれにせよ婚約破棄は短慮すぎたことを後悔するも、後の祭。



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 オリヴィアはオリヴィアで苛立っている。

 「嘘よ。あのゲームには、お妃教育のことなんて描かれていなかったわ。それにマーガレットは悪役令嬢のくせに、全然虐めてこなかったから焦ったわ。でもバーモンドがうまく誑し込めて王城に乗り込んだ迄は良かったけどね。あーあ。バーモンド路線ではなく、マーガレットの護衛騎士路線を選べば、良かったかもしれない。こんなめんどくさいことやらなくて済んだというのに。だいたい前世では落第生だった私。赤点の常習犯だったのに、外国語に、この国の歴史なんて覚えられるわけがない!」

 こっそり逃げ出してやろうか?

 いやいや、見事王太子妃になった暁には、あの教師どもを死罪にしてやるわっ!

 でもその前にマナーを覚えなきゃ。

 最初、この乙女ゲームのオリヴィアの役に転生したときはラッキーだと思ったわ。

 これでもう働かなくても、楽して食べていけると思ったもの。

 前世、高校中退でキャバクラに年齢をごまかしながら働いた。勉強するよりお客様とお酒飲んでHするほうがずっと楽しかったのに。

 ある時、どういうわけか私は売られちゃったの。カラダならいくらでも差し出すわ。だってこの世にこんな気持ちいいことがあるだなんて、知らなかったんだけど、でも売られた先はなぜか医者でHを一度もしないまま、殺された。臓器を取り出されて、死んでしまったのよ。

 それで気がついたら、オリヴィアになってたってわけ。

 本当のところ、聖女様の力があるかどうかなんて、わかりゃしない。

 でも、私はオリヴィアとして、この乙女ゲームの世界を生き抜くわ。
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