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 実のところマーガレットは、翻訳業務で大わらわ、多忙を極めているのだ。

 タイプライターは、完成したものの、手作業での翻訳は意外と時間がかかる。ヤホーやグルーグルの翻訳サイトが使えればいいのだが、そういうわけにもいかない。前世ならスマホアプリで簡単に翻訳できたものも、異世界には適応しておらず、そこへもってきて移民対応もあり、なかなか捗らない。

 あーあ、もうひとり助手が欲しいけど、元ニッポン人で乙女ゲームの世界に転生する者など、マーガレット以外に存在しないだろう。

 もう一人の本物の聖女様は、ひょっとすれば転生者かもしれないけど、それがニッポン人であるという保証はどこにもない。

 おそらくバーモンドが愛した聖女様と同姓同名?の本物の聖女様が、きっとどこかに、いらっしゃるはず。

 それでなければ、乙女ゲームの設定が根本から狂う。マーガレットの存在意義がなくなるのは、元気で元のニッポンに戻れるのならまだしも戻れないのなら、ここで生きていかなければ、辺境領の人々に対し、梯子を外した状態になる。

 仕方がない。大学生になれば、医学部の教科書は、英語を使うとして、辞書だけを翻訳しよう。ニッポン語もその方式でやりたいけど、いくら何でも小さい子に使われない言語を教えることは忍びない。

 ニッポンでは、ほとんどの論文は英語で書かれている。なんとなく医学となるとドイツ語を思いがちだが、それは昔の話で、今は英語が主流だから。

 これで学校のほうは、まぁめどが立ったようなものだが、残るは教習所のほうである。標識はニッポンのものをそのまま引用するとして、何歳から教習させるか。免許はいくつから取らせるかが問題となる。

 オートバイは16歳から、普通免許は、18歳からだけど、主に戦車の運転と重機の運転を目的としているので、大型免許だろう?となると21歳から?

 ニッポンの常識を当てはめる必要はないから、15歳から教習所に通えるようにしようか?

 家庭の事情などで、15歳から働く子供がいるかもしれないから。



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 その頃、王城では

 アンダルシア国王が苦虫をかみつぶした顔をしている。

 「バーモンドの奴め、公務もロクすっぽできないくせに、勝手に婚約破棄などしおって。けしからん奴だ。それに今までの公務のすべてをマリンストーン家の令嬢に押し付けておったとは、話にならん。」

 正室の息子で第1王子のバーモンドは、偽聖女様と共に出奔し行方がわからない。

 正確には、オリヴィアの妃教育ができず、逃げ出して、その後をバーモンドが追いかけていったのだ。

 偽聖女に引っかかってもなお、廃嫡するかどうか迷っていたのだが、王妃がうるさくて半狂乱になって、泣き叫ぶので、判断が遅れてしまったが、出奔してしまってから廃嫡せざるを得なくなってしまったのだ。

 第2王子は、「聖女様を探しに行く。」と言って出たまま帰ってこない。

 おかげでクリストファーの立太子ができずにいる。

 教会も探しているから、今度こそ本物の聖女様を連れ帰ってくることは間違いないと思うが、もうすでに結婚されているかもしれない。

 クリストファーの母親は辺境の先住民族の長の娘で、なかなかの美形で、声が美しく、いつも聞きほれていたのだ。野に咲く小さな花のような女性であったのだ。

 一緒にいるとなぜだか、心が落ち着く不思議な魅力があり魔力を纏った女性。

 俺には当時、政略での許婚がいて、それが今の妃だったわけだが、プリメシアに惚れていながら婚約破棄などできなかった。

 だからバーモンドがマリンストーンとの婚約破棄をしたと聞いたときは、内心あっぱれと感心していたのだが、よりにもよって偽聖女をひっかけるとは……。

 王妃は、大変な悋気で嫉妬深く、ことあるごとにプリメシアに突っかかって行ったようだが、奥のことは正室の専任事項なので口出しできず、プリメシアには悪いことをしたと思う。

 最後にプリメシアに会ったときは、あの美しさの面影もなく、まだ23歳だというのに老婆の姿になっていたことは驚いたもの、声も嗄れ声に代わっていた。

 奥では正室が相当陰湿なイジメをしていたと聞く。

 プリメシアに毒を盛ったという噂が出たほど、プリメシアは衰弱して死んだ。

 きっとバーモンドがこうなったのも、あの時の俺が無理にプリメシアを欲しがったから、罰が当たったのだろう。

 俺に直接罰を当ててくれればいいものを、バーモンドに当てることにより、正室に罰を当てたのだ。神様も罪なことをしてくれる。



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 その頃、教会では、黙って指をくわえて見ているわけではない。

 聖女探索水晶と普通の水晶玉を持ち歩き、アンダルシアの貴族の領地をしらみつぶしに回っている。

 王城からオリヴィア脱走の話を聞き及び、最初、オリヴィアが聖女様の反応を見せたのは、きっとオリヴィアの近くにいた人物が真の聖女様で、オリヴィアは、その聖女様の功績を奪って、水晶玉が反応したということで、結論付けられたのだ。

 わずかな魔力も持たない女性が、水晶玉が反応するわけがない。

 アンダルシアに生まれた女性は、生まれながらにして、だれでも微力でも魔力を持って生まれ落ちてきているものだから。でなければ、オリヴィアは魔女か悪女か、はたまた宇宙人だということになる。

 悪女だということは、教会認識で一致している。

 しかし、オリヴィアが聖女判定されたときは、オリヴィアは学園の生徒だったから、その時、学園にいた女子生徒全員を調べるのに手間がかかる。

 調べると、王都にはもう聖女様はいないようだ。学園を卒業したか?領地へ戻っている可能性がある。

 そこで今、在学している生徒は外れる。

 オリヴィアと同学年の女子生徒だけが対象で、王都にいないものをしらみつぶしに探していくローラー作戦を展開している。

 もうすでに嫁に行ったものもいるだろうから、聖女様の夫となった者はしかるべき地位が約束される。

 別に王族と結婚する必要があるわけではない。

 聖女様がその国に一人でもいらっしゃれば、その国は安泰であるということが証明される。

 たまに国教会の行事に臨席いただければ、いいだけのこと。その際はもちろんタダと言うわけではない。1回に付き、金貨1000枚が支給され、その他には教会からは、毎月年金が支給される。
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