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12縁談3

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 「マギー、あなたのことをずっと前から愛していました。どうか、私との婚約を前向きに検討していただけないものだろうか?お父上は、お嬢様さえその気なら、というご返答を頂いております。」

 「ええ。せっかくではございますが、わたくしはバーモンド殿下により、婚約破棄された身、いわばキズモノでございますれば、クリストファー殿下のご期待には沿えません。」

 「そんなこと気にしておりません。私には、マーガレット嬢しかいないのです。」

 ここまで政略を表に出す人も珍しい。

 「それでは、ハッキリ申し上げましょう。わたくしにはクリストファー殿下との婚姻など荷が重いのです。わたくしの元婚約者の弟であり、元婚約者を義兄と呼び、その妃を義姉と呼ぶことは辛いのです。」

 シクシクとウソ泣きをする。

 クリストファー殿下は、こうまではっきり拒絶され、目が泳いでうろたえている。

 ちょっと優しい言葉をかければ、女などすぐ落ちると思っていたのだろうか?駅で、「女の分際で」と言った騎士を叱り飛ばせなかった落ち度をわかっていない。

 たぶん、一生気がつかないだろう。

 しょせん、こういう男は人から傅かれても、それを当然としか受け取れない男なのだろう。人の気持ちがわからない。典型的な子育ての失敗作。

 そういう面では、バーモンドとよく似ているのかもしれない。やっぱり腹違いでも兄弟は似るものだ。

 これでこの話はおしまい。もう取り付く島がないほど、断わったのだから。と安心しきっていた。とは、甘い考えだったと思い知らされる。

 殿下は来られて、1週間が経った頃、殿下から面談の申し込みがあり、いよいよ暇乞いかと思って、楽しみにしていたら、

 「マーガレット領主様、この地を大変気に入った。私たち3人をこの地で働かせてもらえないだろうか?」

 「は?」

 「騎士の給料や私自身の滞在費は王家から支給されるが、私もこの地でマーガレット様と共に、汗を流し働きたいのです。」

 いやいや、アナタ王族でしょ?殺されるかもしれないよ?

 「殿下は、この地がどういういきさつでアンダルシアに統括されたかを御存じのはずでございますが……?」

 「無論、知っているが……。我が父が若気の至りでこの土地に攻め入ったことを申しておるのだろう?さりとて、我が母はここの先住民の長の娘、名をプリメシアと申す。長老連中に聞いてみれば、すぐわかることだろう。」

 ウソ!? では、なぜこの土地は今まで冷遇されて、放置され続けていたの?マーガレットは、すぐ使いのものをたて、聞いてみることにしたら、昔、長の娘に確かにプリメシアと言う名の娘はいたが、襲撃の際、殺されてしまったという話。

 「ではなぜ?殿下は、そのことを今まで黙っておいででしたか?最初から、その申し出があれば、こちらも考えがありましたと言うのに、殿下のやり方は、まるで後出しじゃんけんではございませんか?非常に不愉快です。」

 「そ、それは、……母が父にレイプされてできた子が私だからです。母は先住民だということだけで、王城で不遇な扱いで……、愛されて生まれてきた子ではなかったのです。」

 なるほど……。

 「ごめんなさい。立ち入ったことを聞いてしまって。でもそれを知ったからと言って、わたくしの気持ちは変わりません。クリストファー殿下を愛することなど、わたくしにはできません。」

 「わかってますよ。それよりここで就職するお許しは?」

 「何ができますか?」

 「剣術ぐらいですかね?」

 「それでは一手、御手合わせを願いましょう。」

 「え!お嬢様とですか?」

 「悪い?」

 「いえ、お手柔らかに。」

 普通の剣ではなく、木刀を渡す。ニッポン式の剣道である。

 この方式なら、相手がどういう人物か一目瞭然だから。

 「防具は必要ですか?」

 「いいえ。寸止めしますから、ご安心ください。」

 何を生意気な!俺は剣道5段の腕前だぜ?

 手合わせを始めたら、隙だらけで……、コレ打ち込んでいいやつ?異世界の剣と勝手が違い、とりあえずコテで木刀を振り落とす。

 「は!参りました。」

 手首が痛いのか、しゃがみこんでいる。

 まぁ、普通はそうでしょうね。

 クリストファーの護衛の騎士が色めき立ち、次は自分が手合わせしたいと申し出てくるが、すべて断る。忙しいから、雑魚の相手などできない。

 「ところでお宿はどうなさいます?通常1泊1人素泊まりで金貨1枚、朝夕の食事付きで金貨2枚、3人で1日金貨6枚がいる計算で、1か月180枚の金貨がいりますが?前金でお支払い願えます?ここに滞在するということは、そういうことです。」

 「おのれ!女の分際で何を生意気な!殿下が手加減してくださっているものを、何を勘違いしているのやら!」

 「また女のぶんざいですか?それなら、出て行ってください。別に頼んで来ていただいているわけではないのですよ?そちらが、この土地へ住みたいとおっしゃるから、お話しさせていただいてるだけでございます。どうぞ、いつでもお引き取りを。」

 できるだけ、にこやかに話す。

 護衛の分際で生意気言うからよ。

 「いや、すまない。領主殿の申される通りだ。騎士に代わって、謝罪いたす。それで就職試験はやっぱり……?」

 「そうね。使い物にならない。けど、肉体労働ならあるし、その線で行きましょうか?それより家賃払える?」

 「まぁ、払えると言えば、払えますが、本音を言うと、もう少し安いところへ引っ越したいです。ははは。」

 「では公営住宅の案内をします。1平米当たり銀貨1枚なので、お手頃ですわ。執事のセバスチャンから詳しい話をお聞きになって。少し狭いところで良ければ、1か月金貨15枚程度で借りられますよ。ただし、食事はついていません。それでは、ごめんあそばせ。」

 結局、殿下は金貨25枚をお支払いになって、公営住宅の住人となる。ただし、無職で親のすねかじりにかわりはない。

 護衛二人は殿下の同居人として、肉体労働に精を出される。お気の毒。
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