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25旦那様

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 「クランべール国王がそんなことを仰ったのか?」

 「そうよ。あんな大国が後ろ盾になってくれれば、悲願達成も遠くないわ。」

 「それでそのスティーブンと言う奴は、どんな男だ?」

 「うーん。一言でいえば、仕事ができる男ね。」

 「なるほど。そこに惚れたのか?」

 「惚れたかどうかは、わからないわ。でも信頼できるビジネスパートナーとしては最高よ。」

 「そうか。できれば儂としては女性としての幸せを掴んでほしいのだがな。」

 父はしんみりした口調で言う。

 鈴之助も前世では娘を持つ父親だったから、今の父の気持ちもわからなくはない。

 「ロバートの様子はどうだ?領主としてやっていけるか?」

 「微妙なところと言う感じ。奥方になる女性次第かしらね。」

 「やはりな。ロバートを最初、辺境領に行かせたのは、マギーを慰めるためと様子見が目的だったが、いつまで経っても戻ってこないから、買えるように催促を出したら、辺境領で勉強がしたいと返事が来たのだ。辺境領でどんな勉強ができるか?と思ったが、しっかり者のマギーの元でなら結果を見せてくれると信じていたのだがな。」

 「そんなことありませんわ。お兄様はよくやってくださっています。クランベール国から頂いた土地に引っ込んでいるときは、辺境領の執務をこなしてくださっていますし、大変助かっております。

 「そうか?あいつはよくやっているか?」

 父は急に機嫌を取り直し、スコーンをまとめて口に頬張り、むせている。

 父親として、やはり息子にしっかりしてもらいたいのだろう。

 「それにしてもクランベール国から頂いた土地とは、どういう趣旨で?」

 げ!藪蛇な話になるか?でも結婚したら、いずれバレるから、今のうちに言って、怒られておくことにしよう。

 「お友達の結婚式がマルベール国にあり、そこでお医者様と知り合いになりまして、招聘移民として、受け入れることになったのですが、ご家族がクランベールのお住まいで迎えに行く途中、マルベールとの国境付近で盗賊が出まして、成敗してクランベール側に引き渡しましてございます。」

 「ああ。それで褒美として、土地をもらったか?」

 「左様でございます。その土地の名をマギーと名付けましてございます。」

 あえて、石油が出ることや宝石の鉱山があることは言わない。

 マーガレット時代の記憶があやふやで、父と良好な関係だったかわからないので。お宝があるとわかれば、人と言うものは変わるもので、欲に目が眩んで何をされるかわからない。

 前世も同僚がジャンボ宝くじを当たった途端、当選金額以上を家族からたかられ家を失い、最後はホームレスになった者がいる。

 世の中には稀に毒親というものがいる。

 子供を虐待するもの、性的に暴行を加えるもの、子供に無心し、給料、退職金を巻き上げるもの。一番質が悪い?どれも皆悪いが、子供の稼ぎを巻き上げるのは止めてほしい。

 マリンストーンの父がそうだとは断言できにくいが、石油ぐらいの話は言ってもいいかな?どうせ、使えないのだから。

 「クランベールからもらった土地はマギーの好きにいたせ。」

 「辺境領も好きにしております。」

 「あはは。そうであったな、どのように発展させたか見ものだ。」

 「それでは、お父様。ようこそ辺境領へ。参りましょう。」

 領主の館へ着くまで、父は急に無口になり、一言も発していない。

 「旦那様、お帰りなさいませ。」

 「うむ。……いや、お帰りなさいは、おかしいだろ?ここはマーガレットのものだからな。」

 「では、旦那様、ようこそ、おいでくださいました。」

 「うむ。それでよかろう。」

 「今宵は、公爵邸にてお部屋を用意いたしました。ごゆるりと……お過ごしくださいませ。」

 「どうせなら、マギーが建てたホテルに泊まってみたいな。」

 「はい。畏まりました。」

 ということで、ホテルに泊まりたがったけど、備品の使い方をクリントンが説明している。

 500年先の文明に目を白黒させ、マーガレットから辺境領を取り上げる計画は水泡と帰す。

 マリンストーン公爵は、そのために来たのだ。ロバートを連れ戻すためでもなく、結婚相手を見に来たわけでもない。

 前にロバートが辺境領へ行って、なかなか帰ってこないから、いろいろ調査をした結果、辺境領は大変賑わっているという噂を聞きつけた。

 だから、マーガレットが結婚するなら、この際、辺境領を取り上げてマリンストーンの管理下に置こうと下準備を兼ねて訪れたのだ。

 それで「ロバートはどうだ?」に繋がる。

 ロバートがうまく仕事をこなせるようなら、この辺境領をロバートにくれてやるつもりだったが、金属のモグラに乗るまでは、の話。

 マーガレットがいなければ、誰もこのメンテナンスができないことぐらい、すぐに察した。

 だから、ホテルに泊まりどれぐらいの技術があるか見定めることにしたのだ。それはすぐ後悔することになると知らずに。

 もし到底できないものならば、マーガレットが嫁ぐ前に同じ技術を公爵領にも施してもらおうという気でいる。

 21階建てのホテルだった。最上階はラウンジとレストラン、20階のロイヤルスイートルームに泊ることになったのだが、王都のタウンハウス並みの広さがある。

 この部屋に一人ぼっちでいられるほど神経は図太くない。見たこともない家具が並び、使い方を説明してもらったが、覚えきれない。

 これなら辺境領の公爵邸の一部屋に甘んじたほうが落ち着く。

 でも今さら言えない。

 領地から共に来た騎士は、両隣の部屋へそれぞれいるが、寂しいから来てくれなんて、とても言えない。

 手持ち無沙汰のまま、レストランへ呼ばれる時間まで、ひたすら耐えた。

 着替えて、時間になり行くと、マーガレット、ロバート、クリストファーがもう揃っていて、談笑していた。

 中央に置かれてある黒い楽器?から心地よい音楽が流れている。

 「お父様のお席は一番眺めがいいこのお席にしました。どうぞ。領内が一望に見渡せますわ。」

 「これが辺境領か……。」

 無機質な石細工ばかりが目立つ。

 ここの光も魔石で動かしているのだろうか?魔石とは、魔力を込めた電池のような役割を果たす。

 あの金属モグラはどういう仕組みだ?それに動く階段もわからない。

 マーガレットは昔から魔力量が半端なかった。だからバーモンドのお妃候補として婚約したのだが、そのバーモンドは浮気して、相手が逃げ出したものだから廃嫡され、今は行方知れずになっている。

 そういえば、教会が躍起になって、聖女様を探していることを聞いたが、あれはいったいどうなったのだろうか?

 「お父上、何をおっしゃっていられるのですか?聖女様はマーガレットですよ。」

 ああ。これはすべてマーガレットのなせる魔法で幻影を見せられているのか?妙に納得するマリンストーン公爵であったのだ。
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