上 下
30 / 47

30新幹線

しおりを挟む
 なんだかんだすったもんだの挙句、マーガレットとスティーブンは仮祝言を行い、マーガレットはクランベールの人となったのである。

 司祭様はどうされたかと言うと、アンダルシアに戻らず、ずっとマギーランドにいたいらしく、マギーランドにサン・ピエトロ寺院を建てることにする。

 当初は辺境領に建てかけていたものを移築するだけなので、そう手間はかからない。

 クランベールの王都の王子妃の部屋とマギーランドの執務室を異空間で結ぶ。

 これで昼間はマギーランド、夜はクランベールの二重生活の出来上がり。

 同時にクランベールの開発も進めていく。

 最初はやはり太陽光パネルだ。動力源を確保しないとなんにもできない。

 クランベールは結構大きな川がいくつも流れている国なので、水車を思いつく。うまくいけば、水力発電も夢ではないかもしれない。

 水力発電の原理は簡単だ。上から水を落とすことにより水車を回すだけで、電気を発電する。

 原子力発電も同じ、蒸気を発生させることにより発電機を動かす。

 とりあえず婚家のことは、なるべく波風を立てないように穏やかにやることが一番。

 水車ならたくさん電気を発電できない代わりに、お金が安く済む。その集落の人たちの発電だけでいいのなら、水車にしよう。ついでに太陽光も発電できれば、それで十分事足るだろう。

 水車と太陽光発電ぐらいならば、クランベールの人たちも受け入れてくれるだろう。ここは辺境領と違うから、急な改革を望まない人もいるに違いない。

 水車作りはスティーブンが協力してくれて、ドワーフの村まで足を運び、説得してくれたから助かったのだ。

  やっぱり持つべきものは夫(パートナー)。

 クランベールに電気が普及したら、新幹線を走らせる予定。とりあえず王都からマギーランドまでを運行する。

 前世鈴之助の時代では、夢の超特急と言えば、新幹線。リニアなどの発想はない。

 評判が良ければ、クランベールの国中に網の目を張らせ、走らせる。

 マーガレットは辺境領を開発したように、クランベールを開発していく。マリンストーンの領地は、ドワーフたちに任せて大丈夫だろう。時折、休みの日に様子を見に行く程度にしている。

 お嫁に行った娘がひょいひょいと実家に帰っては、いらぬ誤解を与えかねない。

 だからドワーフたちを信じて、報告を待つだけにする。



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 アンダルシア王は、王の間で苛立っている。

 マルベール王からの依頼の手紙を握りしめている。

 「国教会の司祭め、本当にマーガレットを仕留めたのか?それとも返り討ちに遭って、戻ってこないのか?マリンストーンの奴は領地に引っ込んでから音沙汰がない。クリストファーは、聖女様を探しに行くと言った切り戻ってこないし。どいつもこいつも。」

 「陛下、マルベールへの返信はどのようにいたしましょうか?ご裁断を。」

 「聖女様は我が国におられぬと返事いたせ。」

 宰相閣下に指示を飛ばしている。

 宰相閣下は、マリンストーン家と肩を並べるブルーレイド公爵家の当主。

 「はっ。畏まりましてございます。つきましては、私めが今一度、辺境領へ行きマーガレット嬢の所在を確認してまいりたいと存じますが?いかがでございましょうか?」

 「うむ。帥に任せる。良きに計らえ。」



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 ブルーレイドは、マーガレット嬢は生きているという確信がある。

 もし、マーガレット嬢に何かあれば、マリンストーンが黙っているわけがないのだから。

 マリンストーンとは学園時代からの同級生で、共にアンダルシア王太子(現王)の片腕になるべく教育されてきた仲だから、マリンストーンのことは、俺が一番よく知っているという自負がある。

 ブルーレイは、王都を出て、まっすぐ辺境領へ向かうことにした。途中、マリンストーンの領地へ寄ろうかと思ったが、馬車で10日間は余分にかかる遠回りになるので、断念したのだ。

 一刻も早くマーガレット嬢の所在を確認して、アンダルシア王に報告しなければならないという思いがある。

 王都でいくらマリンストーン辺境領の情報を収集しようも、正直なところ何もわからない。

 隣国クランベールとの国境に近いから、ということもあるがアンダルシアの中では一番辺鄙な場所。陸の孤島と言うよりは、陸の座敷牢的なところ。

 昔は山賊や魔物が横行していたとの噂もあったほどだ。

 マーガレット嬢も、いくらバーモンドから婚約破棄されたとはいえ、よくそんな領地を慰謝料代わりに与えられて、怒らなかったものだと感心する。

 俺がもし女で、同じ立場に立ったら、「ふざけるな」とバーモンドの横っ面を叩いただろう。

 マルベール王も、よりにもよって、マーガレット嬢をよこせとはな。いくら海の魔物が出たからと言って、山姥(やまんば)になっておられるかもしれないマーガレット嬢が聖女様であるわけがない。

 王都を出発して10日間、そろそろ尻が痛くなってきて、馬車に乗るのも辛い。毎晩、集落の一番高い宿を取っているが、王都から離れれば離れるほど、宿のランクは落ちてくる。

 今宵の宿は、1泊金貨5枚(日本円換算で5万円)の宿だが、雨漏りがする。ベッド周りは、かろうじて雨に濡れない場所に置いてあるものの。食事も粗末なものしか出てこない。風呂も便所も外にしかなく、用を足すたびに風邪を引いてしまいそうなところ。

 でも、その宿でマリンストーン辺境領について、噂を耳にする。

 「旦那さん方、辺境地へ行かれるのかえ?悪いことは言わねぇから引き返したほうがいいよ。あん土地へ行ったものは、誰も帰ってきやしない。お貴族様も、王子様も、司祭様までもだ。噂によると、殺されて、人肉を食べさせられるとか?行けば誰も食べたことがないようなものでもてなされて、その後は氷詰めにされ……。おお、くわばら、くわばら。」

 宿の者は首を引っ込めて、去っていく。

 ブルーレイドは護衛2人だけを連れてきたことを後悔する。

 「こんなことなら……。」

 相手はたかが小娘一人とタカをくくっていたようだ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】人生2回目の少女は、年上騎士団長から逃げられない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,168pt お気に入り:1,134

呪われた第四学寮

ホラー / 完結 24h.ポイント:1,704pt お気に入り:0

窓側の指定席

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:2,435pt お気に入り:13

自叙伝「或る変人の生涯(平成初期篇)」

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

愛及屋烏

BL / 連載中 24h.ポイント:213pt お気に入り:5

あざといが過ぎる!

BL / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:25

祭囃子と森の動物たち

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:369pt お気に入り:1

ほろ甘さに恋する気持ちをのせて――

恋愛 / 完結 24h.ポイント:553pt お気に入り:17

悪の組織の一番の嫌われ者のパートだ

青春 / 連載中 24h.ポイント:1,050pt お気に入り:17

処理中です...