ホームレスOLのシンデレラ物語~ハイスペイケメン上司と秘密のルームシェア

青の雀

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4.祖父の葬儀1

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 それから1か月が瞬く間に過ぎていく。

 新藤部長は休みの日のたびにいろいろなところへ連れて行ってくださるようになった。まるでデートしているような錯覚を起こすことはあるが、そもそも小夜香は、年齢の離れた男性は好きではない。

 父が若い後妻をもらって以来、年上の男性が苦手になってしまったことは確かで。新藤部長のことは、上司以外には見られない。上司、オジサンとしか見ていない。

 だから、どんなに部長が洋服を買ってくださって、美味しいものを食べに連れて行ってくださっても、部長を恋愛対象に見られないから、親切なオジサン、優しい上司以外には考えられないのだ。

 まぁ、そのおかげで、少ない割にも、小夜香の給料の中から、弟たちにお小遣いを渡せるようになったのだが。

 前は、家賃に水光費、NHKに新聞代、食費、それに弟たちへの小遣いをねん出するだけで、手いっぱい。だからおしゃれなんかに気をとられている暇もなかった。これは事実、だから部長に感謝はしても、恋愛感情は持っていない。

 それだからこそ、ルームシェアは成り立っていると思う。それにいくら彼女さんの腹いせだったとはいえ、人前でセックス下手だなんて言われた男性を彼氏にしたいとは思わない。

 まだ小夜香は無垢な乙女なのだから。

 そんな時、祖父が死んだと知らせが来た。今の住所は言っていないので、会社に連絡が来たのだ。

 小夜香は、久しぶりに実家に帰るため、忌引き休暇と有給休暇を一緒に取るため、新藤部長に申請書を出す。

 「なんだ、おじいさんが亡くなったのか?それなら仕方がないな。ゆっくりしておいで。寂しくなるがな。」

 あっさり、許可をしてくれた。

 とりあえず喪服を買って帰ろうとしたところ、またまた部長が買ってくれることになった。

 「どうして?」

 「一緒に暮らしているから、家族の一員みたいな気になっただけ。」

 俺の横で、みすぼらしい姿をするな。

 「でも……。」

 「早く帰って、おじいさんに顔を見せて来い。」

 新幹線に飛び乗った。

 もう、かれこれ5年以上は実家に帰っていない。なぜかと言えば、アノ後妻がいるから。

 後妻と顔を合わせるのがイヤで、今までお盆にもお正月にも帰ったことがない。一応、お供えとして、ふなわの芋羊羹を買う。こういうものは気持ちだから、値段ではない。

 実家に帰ったら、父は小夜香の顔を見て驚いている。なぜ?

 「しばらく見ないうちに、ずいぶん綺麗になったな。いやぁ母さんの若いころにそっくりになって。」

 「そんなこと、継母が聞いたら怒り狂うわよ。」

 「ああ、あいつは今、入院している。」

 「は?いつから?」

 「親父の看病をさせていたら、急にぶっ倒れやがって、役立たずが!」

 なんでも、継母は、末期のスキルス性の子宮がんだとわかり、余命2日だそうだ。正直なところ、ざまあみろという気持ちでいっぱいなのだ。

 「そう。それは良かったわね。」

 つい、心の声が外に出てしまった。

 「なんだ。美奈香も優里香も同じ反応をするとはな。それだけあいつは憎まれていたのか?」

 「あの継母のせいで、私たち姉弟は貧乏を強いられていたからね。」

 「え?それはいったいどういう?」

 「知らないの?お父さん、あの女が家に来てからは、私たちのお小遣いが無くなってしまったのよ。学費は出してくれるけど、自分は35000円のブラジャーを買うくせに、私たちは、100均の安物しか買ってもらえなかったの。わかっている?年頃の娘に100均の下着や化粧水なんて、しない方がまだマシと言うものよ。それもこれも、お父さんの趣味のせいで、こうなってしまったのよ。」

 「ウソだろ……?アイツには生活費として、毎月100万円を渡していたというのに……。」

 「わたしがこの前まで住んでいたマンションのこと言ったかしら?大学入学するときに、継母が立ち合いで契約したマンションのこと、駅から1分のところで1LDKで家賃がたったの3万円だったのよ。もちろん継母からは、びた一文もらっていないわ。そこが破格なのは、自殺者が出た部屋だったからよ。美奈香姉さんと優里香姉さんの仕送りと家庭教師のバイト代で、借りたのよ。あの継母は、お金に困っている私と姉さんにパパ活をするように仕向けてきたの。だから今まで一度も帰省せずに、頑張ってきたのよ。弟たちには仕送りを続けながら、必死に働いてきたのよ。」

 言いながら、知らずに涙が溢れ、頬を濡らし続けている。

 「すまなかった。え!この前まで……とは、どういう意味だ?」

 「築55年のマンションだったから、老朽化で取り潰し、新しくマンションを建て替えるために立ち退きを食らってしまって、今はお友達のところでルームシェアしてもらっているの。」

 いくら何でも年上の男性上司のところに居候しているとは言いづらい。

 「それなら議員宿舎があるではないか?そんなアカの他人の世話になるより、議員宿舎に引っ越せばいいだろ。」

 「あの継母が死ねば、そうさせてもらうわ。でも、あの継母が財布を握っている以上、私たちには何もできなかったのよ。こうなったのは、お父さんのせいよ。お母さんが死んでから半年もたたない喪中に、あの女を家に引き込んだのだから。」

 「すまない。まだ幼かった信一郎の母親代わりになれば、と思ってしまったのだ。」

 「それだけじゃないでしょ?私たちが何も知らなかったとでも言いたいの?アノ女の役目は、お父さんの娼婦だったのでしょ?愛人というよりは、娼婦そのものだったでしょ?」

 「いや……それは……。」

 「ある時、夜中に異常な嬌声が聞こえてきたことがあったの。私たちがそれぞれ寝ている部屋によ。それで心配になって、お父さんの部屋に様子を見に行って、知ったの。でも、あの女は、覗きに行った私たちをあざ笑うかのように、大きな嬌声を上げて、見せびらかすようにしたのよ。最低の汚らわしい女よ。健一郎や信一郎は寝ていて、知らなかったかもしれないけどね。」

 「……、知らなかった。お父さんが、あの女の本性を見破れなかったせいだよな。すまなかった。」
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