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5.祖父の葬儀2
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その後健一郎も帰ってきて、久しぶりに家族水入らずの時間を過ごせた。
驚いたことに、私たち3姉妹だけが知っていたと思われていた、継母が娼婦だということを健一郎も信一郎も知っていたことに愕然とする。
「でも、いつも美奈香姉さんと優里香姉さん、それに小夜香姉さんの仕送りが楽しみで、助かっていた。あの女が死んだら、お祝いをしようよ。じいちゃんが死んだことは悲しいけどさ。」
「おいおい、まだ俺の妻だぜ?」
怒るかと思っていた父は、弟たちの前で一緒におどけて見せる。
聞けば、後妻に迎えて、数年だけがよかったということ、その後は後援会でトラブルばかりを引き起こし、支援者から見放されそうになるところを古参の秘書やブレーンの議員が取り直してくれて、一時は収まった。
後妻をなるべく表に出さないように苦慮していたところ、公設秘書試験に合格され、財布を預けることにしたらしい。家にいてほしいという理由で。その頃は、夫婦仲もすっかり冷え切ってしまっていたらしい。
それからが5姉弟にとって、受難になったわけか。
本来、その日がお通夜で、翌日が葬式になるはずだったのだが、運悪く明日は、友引で火葬場が休日になる関係で、お通夜は翌日の夜に持ち越されることになったのだ。
翌日、お通夜の準備をしていると、病院から継母が死んだと連絡が入る。ちょうどお通夜の葬儀屋さんが来ているので、その方たちに継母の遺体を引き取ってくるように頼む。
「いっぺんにカタがつきそうで、よかったわね。まぁ、もっともあの女が死んだところで、忌引き休暇なんて、取らないけどね。言っとくけど、高村の墓なんかに入れないわよ。」
小夜香の意見に、姉弟たちは、コクコクと頷く。
祖父の葬儀は密葬だと言っていたのに、支援者や後援会関係者が続々と集まってくる。これは祖父の人柄のせいでも、多分にあるのだろう。
無理に追い返すことをせず、お焼香していただくことにしたのだ。
問題は、アノ女のこと。実家に連絡して、遺体を引き取らせようかどうしようか考える。でも、そんなことすれば、仕返しにならない。
11年間の長きにわたっての貧乏暮らしが、心の奥底で警鐘を鳴らしている。
実家に連絡すれば、間違いなく丁重に葬られるだろう。そうなると毎月、父が渡していた100万円の所在はわからないまま。おそらく100%実家に渡っていただろうと思うけど、証拠がない。
私たち姉弟が、しなくてもいい苦労をしてきたのは、何のためかを考えるとどうしても実家に連絡することを躊躇う。
ともかく明日、葬儀が行われることだけは、伝えておこう。葬儀屋さんは、今テレビコマーシャルで有名な小さな葬儀屋さんに頼むことにした。格安で葬儀と火葬場まで付き添ってくれる今、流行りのお葬式なのだ。
祖父の葬儀は、本葬を民自党がしてくれるし、密葬では、できるだけ質素に簡単に済ませたい。
母の時は、よくわからなかったので、500万円ものお金をかけたことを、後になってから知る。
あれで500万円はいくら何でも、もったいない。今回は2遺体で、50万円弱。十分、これで体裁は整う。
ベンツやロールスロイスの霊きゅう車なんて、必要ない。
だから葬儀に参列さえしてくれれば、それで格好はつく。
骨上げは、父が一人で行うことに決まる。あの女の骨上げも父が行うことになったのだ。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
葬儀が済み、健一郎と二人で東京に戻ろうとしていた時、小夜香に思わぬ縁談が舞い込む。
相手は、34歳の議員秘書をしている男性。将来は、親父さんの後を継いで、代議士になるという。
奇しくも、アノ女と同い年ではないか!
「お断りしてください。」
「そんなけんもほろろに言うな。」
父は、言うが。
「私、年の離れた男性は嫌いです。ですから、お断りしたいです。」
正直なところ、23歳の娘と30歳以上の人との縁談は無理がある。男の側から見れば、11歳ぐらい離れていても、同じではないかと思われるでしょうが、若い娘から言えば、30歳以上の男性で独身なんて、気持ちが悪い。人間として、縁談の相手として考えられない。というのが根底にある。
だから上司でも、たとえイケメンであったとしても、恋人や結婚相手として、考えられないから、ルームシェアができているというもの。
それが少しでも、新藤部長が小夜香のことを「女」として、見るならば、即刻、議員宿舎に引き上げようと心に決めているのだが、どちらにしても、遅かれ早かれ、議員宿舎に健一郎とともに住むつもりでいる。
もうアノ女はこの世にいない。今こそ呪縛は解き放たれる好機に来ている。
帰ったら、部長に引っ越すことを言わなきゃ。はやる気持ちで、新幹線に飛び乗る。
驚いたことに、私たち3姉妹だけが知っていたと思われていた、継母が娼婦だということを健一郎も信一郎も知っていたことに愕然とする。
「でも、いつも美奈香姉さんと優里香姉さん、それに小夜香姉さんの仕送りが楽しみで、助かっていた。あの女が死んだら、お祝いをしようよ。じいちゃんが死んだことは悲しいけどさ。」
「おいおい、まだ俺の妻だぜ?」
怒るかと思っていた父は、弟たちの前で一緒におどけて見せる。
聞けば、後妻に迎えて、数年だけがよかったということ、その後は後援会でトラブルばかりを引き起こし、支援者から見放されそうになるところを古参の秘書やブレーンの議員が取り直してくれて、一時は収まった。
後妻をなるべく表に出さないように苦慮していたところ、公設秘書試験に合格され、財布を預けることにしたらしい。家にいてほしいという理由で。その頃は、夫婦仲もすっかり冷え切ってしまっていたらしい。
それからが5姉弟にとって、受難になったわけか。
本来、その日がお通夜で、翌日が葬式になるはずだったのだが、運悪く明日は、友引で火葬場が休日になる関係で、お通夜は翌日の夜に持ち越されることになったのだ。
翌日、お通夜の準備をしていると、病院から継母が死んだと連絡が入る。ちょうどお通夜の葬儀屋さんが来ているので、その方たちに継母の遺体を引き取ってくるように頼む。
「いっぺんにカタがつきそうで、よかったわね。まぁ、もっともあの女が死んだところで、忌引き休暇なんて、取らないけどね。言っとくけど、高村の墓なんかに入れないわよ。」
小夜香の意見に、姉弟たちは、コクコクと頷く。
祖父の葬儀は密葬だと言っていたのに、支援者や後援会関係者が続々と集まってくる。これは祖父の人柄のせいでも、多分にあるのだろう。
無理に追い返すことをせず、お焼香していただくことにしたのだ。
問題は、アノ女のこと。実家に連絡して、遺体を引き取らせようかどうしようか考える。でも、そんなことすれば、仕返しにならない。
11年間の長きにわたっての貧乏暮らしが、心の奥底で警鐘を鳴らしている。
実家に連絡すれば、間違いなく丁重に葬られるだろう。そうなると毎月、父が渡していた100万円の所在はわからないまま。おそらく100%実家に渡っていただろうと思うけど、証拠がない。
私たち姉弟が、しなくてもいい苦労をしてきたのは、何のためかを考えるとどうしても実家に連絡することを躊躇う。
ともかく明日、葬儀が行われることだけは、伝えておこう。葬儀屋さんは、今テレビコマーシャルで有名な小さな葬儀屋さんに頼むことにした。格安で葬儀と火葬場まで付き添ってくれる今、流行りのお葬式なのだ。
祖父の葬儀は、本葬を民自党がしてくれるし、密葬では、できるだけ質素に簡単に済ませたい。
母の時は、よくわからなかったので、500万円ものお金をかけたことを、後になってから知る。
あれで500万円はいくら何でも、もったいない。今回は2遺体で、50万円弱。十分、これで体裁は整う。
ベンツやロールスロイスの霊きゅう車なんて、必要ない。
だから葬儀に参列さえしてくれれば、それで格好はつく。
骨上げは、父が一人で行うことに決まる。あの女の骨上げも父が行うことになったのだ。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
葬儀が済み、健一郎と二人で東京に戻ろうとしていた時、小夜香に思わぬ縁談が舞い込む。
相手は、34歳の議員秘書をしている男性。将来は、親父さんの後を継いで、代議士になるという。
奇しくも、アノ女と同い年ではないか!
「お断りしてください。」
「そんなけんもほろろに言うな。」
父は、言うが。
「私、年の離れた男性は嫌いです。ですから、お断りしたいです。」
正直なところ、23歳の娘と30歳以上の人との縁談は無理がある。男の側から見れば、11歳ぐらい離れていても、同じではないかと思われるでしょうが、若い娘から言えば、30歳以上の男性で独身なんて、気持ちが悪い。人間として、縁談の相手として考えられない。というのが根底にある。
だから上司でも、たとえイケメンであったとしても、恋人や結婚相手として、考えられないから、ルームシェアができているというもの。
それが少しでも、新藤部長が小夜香のことを「女」として、見るならば、即刻、議員宿舎に引き上げようと心に決めているのだが、どちらにしても、遅かれ早かれ、議員宿舎に健一郎とともに住むつもりでいる。
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