ホームレスOLのシンデレラ物語~ハイスペイケメン上司と秘密のルームシェア

青の雀

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7.危機一髪

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 高村小夜香は、議員宿舎に住むようになってから、会社で新藤部長と出会うと必ず、部長の方から挨拶され、迷惑なことこの上ない気持ちでいる。

 だって、会社では新藤部長のファンが大勢いるのよ。同じ部署だというだけで、うらやましがられるという視線を毎度、浴びせられているのだから。

 それにルームシェアをしていたという事実を突き付けたら、いったいどんな反響をされるものやら?

 たぶん、視線だけで呪い殺されると思うわ。

 それを朝、昼、夜と3度にわたって、挨拶されるものだから、足を踏んづけてやろうかと思うわ。

 朝は、まぁわかるわよ。一日の始まりだから、でもお昼休憩に行くとき、「高村は弁当か?」と涎をたらさんばかりに言ってくる。

 新藤部長は、お昼ごはんは召し上がらないでしょ?ルームシェアしていた時、いつもお昼ごはんは、いらないと言いながら、ついでに作ったお弁当を完食されていたことはあったけど、「会食することが多いから、弁当はいらない。」と言っていたじゃない?

 それを同居しなくなってから、ずっと恨めしそうに小夜香のお弁当を見るのはやめて!

 帰りは帰りで、「食事でもどうだ?」と誘ってくる。

 あのね。大学生の弟が口を開けて待ってるって言っているのに、毎日、毎日、帰り支度をし出したら、誘ってくる。

 同じ部署の男性営業マンが、少しでも口説こうものなら、猛烈に睨みを利かせて、

 「〇〇君、今月のノルマは、まだのようだが?」

 指摘された男性は、委縮して、首をすくめている。

 そんな時に、議員宿舎で偶然か待ち伏せされたのかはわからないが、お見合い相手だった34歳の議員秘書が声をかけてきたのだ。

 「高村先生のお嬢様ではございませんか?」

 「え?どなた?」

 「ああ。わたくし、衆議院議員をしております家城一成の秘書で、家城一臣と申します。以後、お見知りおきを。」

 出された名刺をぼんやりと見つめていると、葬儀の最中に縁談があったことを思い出し、その相手の名前が確か……、イエキだったことを思い出す。

 げ!写真以上に、オジン。

 でも、この人も将来、父親の跡を継いで、立候補することになるのだろうな。地盤、看板、カバンを受け継いでいく後継者として。

 もちろん小夜香は、政治家の妻になどなる気はない。

 権力はある。歳費として、生活費も十分あるが……選挙のたびに、選挙事務所の責任者という顔も持たなければならない。

 鶯嬢や運転手、設営のボランティアを必死にまとめ上げていく仕事、それに後援会に入ってくださっている有権者へのあいさつ回りなど、多忙を極める。

 それにたくさんの有権者、後援会の前で、挨拶もしなければならない。応援演説の弁士が到着するまでの間、間を持たせるために、妻が夫の前に立ち声を張り上げるのだ。

 そんな仕事が小夜香に務まるとは、とても思えない。

 「あのお話は、お断りしたはずでございますが……?」

 「いやぁ、正直、写真や釣り書だけで、判断などしてほしくないのですよ。こうして、じかにお会いすると印象が変わりますでしょう?」

 「いいえ。変わりません。どうか、お引き取りを。」

 「アナタは、もう運命なのですよ。これがアナタの運命なのです。ですから、いつでも私の胸に飛び込んでいらっしゃい。」

 「げ!気持ち悪い。冗談やめてください。110番するわよ!」

 「あはは。うぶなのですね。まだ男を知らないアナタなら、そう言うと思っていました。でもね。これはもう宿命なのです。運命は変えられても、宿命からは逃げられませんよ。また、お会いしましょう。」

 イエキが帰っていくと、その場に力なくヘナヘナと座りこむ小夜香。

 議員宿舎も決して、安全でないことがわかる。

 守衛さんが立っているだけで、オンボロマンションの方が格段に安全だった。

 あーあ。新藤部長のところに戻ろうか?でも、なんて言い訳する?それを思うと頭も足も重くなるのがわかる。

 そうよね。とても言い出せない。プー太郎をやっていた小夜香を快くルームシェアさせてくれたのだもの。

 次の日、会社へ行くと、また新藤部長から挨拶をされる。

 「お、おはようございますっ!」

 ペコリと頭を下げて、自分の席に向かうと、

 「おや、なんだか今日は元気がありませんね?どうかしましたか?」

 「へ?い、いえ、何もありません。」

 イエキのことで悩んでいるなど言えない。言っても、部長がどうにかできるという話でもないから。

 わずか1か月ほど、ルームシェアしていただけで、小夜香のほんの些細な変化までわかるなんて。ひょっとしたら部長は、気配りの天才なのかもしれない。

 まぁ、どうでもいいけど。今は部長に頼るわけにはいかないのだ。そう肝に銘じて、仕事にかかる。まずは、最初はメールのチェックから始まる。受注事務は、営業事務の基本中の基本だから、これを怠ると見積書などを再計算しなければならない事態に陥る。だから慎重の上にも慎重で、きちんとチェックをしておかないと、後で大変なことになる。

 少し、残業して、赤坂の議員宿舎に帰ろうと歩を進めていると、歩道橋の上で、イエキがこちらを見ていることが分かった。

 マズイ!

 また、待ち伏せされていたみたい。どうしよう。健一郎に電話して、迎えに来てもらおうか?

 どうしようか?頭の中で考えがグルグル空回りをしている。でも、ここで捕まらなければ、また厄介なことになるかもしれないし、でも捕まったら捕まったで、結婚へまっしぐらされても困る。

 とりあえず、無視することにしよう。ひょっとしたら、お目当ては小夜香でないのかもしれないし。自意識過剰だなんて思われることさえも、迷惑なのだから。

 無視して、目の前を通り過ぎようとしたら、案の定、腕を掴まれた。

 「やめてください!放して!」

 会社のお昼休憩で、スーパーに立ち寄って買ったリンゴが歩道橋の上を転げ落ちていく。こんなストーカーまがいのことをして、高村の家が黙っていると思っているの?

 「きゃぁっー!放してー!助けてー!」

 通勤帰りの人が、驚いて、振り返っていくが、誰も巻き込まれたくないのか、助けてくれる人は一人もいない。

 「高村っ!」

 そこへ駆けつけてくれた人影が!……新藤部長だった。
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