ホームレスOLのシンデレラ物語~ハイスペイケメン上司と秘密のルームシェア

青の雀

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8.男兄弟

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 ひとしきり新藤部長の胸で泣きじゃくった後、弟が迎えに来てくれて、小夜香はそのまま議員宿舎に戻ったが、眠れない。

 家城一臣は、通行人から拉致?誘拐未遂と暴行の現行犯で110番され、警察署へ連行されたが、すぐに出てくることはわかっている。

 国会議員の息子の犯罪は、警察庁を通じて、もみ消されてしまうから。そして、小夜香もまた代議士の娘であるから、同じ党内のことで、痴情のもつれ?になるのかどうかは、わからないが、示談はすぐにでも成立するはず。

 これで、新藤部長に小夜香が高村幹事長の娘であることがバレてしまって、明日から、どの顔をして、会社に行けばいいのか困っている。

 示談が成立したからと言って、赤坂宿舎に住んでいることがバレている以上、どんな手段を使っても、また接触してくることは明らかであるため、不安がぬぐい切れない。

 あの日、朝から様子がおかしかった小夜香のことを新藤部長は、ずっと気にかけてくれていて、会社帰りにたまたま、あの横断歩道に差し掛かって、被害に遭っている小夜香を見つけて駆け寄ってくれたのだ。

 もう感謝の言葉しか思いつかない。

 でも、なんで?新藤部長はいつも愛車で通勤されているというのに?細かいところは抜きにしても、ただただ感謝している。そこだけは感謝している。

 翌朝、いつも通り出社すると、やっぱり新藤部長が先に出勤していらっしゃって、昨日のことを謝罪してお礼を言う。

 「おはよう。なぁ、高村、もしよければまたウチに来ないか?あいつ家城代議士の息子で秘書をしているのだろう。いつまた議員宿舎に押しかけてくるかわからないし、俺のところなら、まだ一般人だから知られていないだろ?」

 「ありがたいです。でも、部長にご迷惑がかかることになるのは、ちょっと……。」

 「朝、昼、晩、飯の支度をしてくれれば家賃はいらないよ。」

 うーん。魅力的なお誘いに思わず、OKしそうになる言葉を飲み込む。もし、新藤部長のところへ舞い戻ったら、弟の健一郎が黙っていないだろう。父に告げ口するかもしれない。

 でも、確かに赤坂宿舎に帰ることは危険だとは、頭では理解している。だったら、六本木の宿舎に替えてもらう?

 ほんの少しの時間稼ぎにしかならないことで、いちいち引っ越すのもめんどくさい。

 それなら、まだ部長のところに身を寄せた方が安全かもしれない。

 今日、健一郎が帰ってきたら、相談してみよう。

 驚いたことに健一郎は、その話にあっさり承諾する。それどころか、自分まで新藤部長のお宅にご厄介になる気でいる。みたい。

 「へ?」

 「だって、小夜香姉さんを男の部屋に一人で置いておくことなんて、俺にはできない。それこそ死んだ母さんに申し訳が立たないよ。それに新藤さんは、男を引きずり込むな。という条件を付けていても、俺は弟だから男ではない。ちょうどいいのではないかな?姉さんにとっても、新藤さんにとっても。」

 「はぁ……なるほど。確かにそういう考え方もできるわね。」

 確かに、健一郎と一緒なら、父も反対しないだろう。それどころか感謝するかもしれない。とにかく父が納得するのであれば、このルームシェアを続ける価値はあると思う。

 新藤部長は家賃はいらないと言ってくれているし、健一郎が大学を卒業するまで、甘えちゃおうかな?

 そのうち、本当に年相応の好きな人ができたら、その時に、出て行けばいいことだから。

 次の休日、議員宿舎を引き払って、新藤部長のところへご厄介になることにした。

 あれから一度もイエキの姿は見ていない。でも、油断は禁物で、思い切って、新藤部長の申し出を受けることにしたのだけど、本当に良かったのか?と思うときもある。

 新藤部長は、弟も一緒に来るとは、思っていなかったようで、健一郎が「お世話になります。」と言ったときには、目を丸くして、ひきつった笑みを浮かべるにとどまった。

 それでも、引っ越し作業が終わって、お寿司の出前を取る頃には、すっかり打ち解けて、部長のことをヨウスケ義兄さん呼びしているところが、おかしくて、その夜は遅くまで語り明かしていたみたいだった。

 小夜香は、付き合いきれないと部屋に戻り、さっさと布団にくるまったから、後のことは知らない。

 翌朝、起きてみると、健一郎はリビングのソファで、高いびきで寝ている。そばには、缶ビールの空き缶が散乱していて、汚いのなんのって、叩き起こして、掃除させようかと思ったら、新藤部長が床の絨毯の上で、これまた高いびき。

 結局、朝まで飲み明かしたみたいだった。

 二人のために蜆のお味噌汁を作る。

 ベーコンをカラカラに焼き、その上に目玉焼きを乗せて、さらに焼く。ご飯を炊いて、野菜サラダを作れば、朝ごはんの閑静なのだ。

 目覚めた二人は競い合うようにシャワーを浴びて、食卓につく。

 こうしてみると、年の離れた本当の兄弟のようにも見える。高村家は兄弟が多いから、自然と部長もその輪の中に溶け込んでいてくれて、嬉しいような気がする。
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