ホームレスOLのシンデレラ物語~ハイスペイケメン上司と秘密のルームシェア

青の雀

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9.安請け合い

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 新藤陽介33歳、独身、俺には兄弟と呼べるものがいない。だから高村健一郎が俺のことを「義兄さん」呼びしてくれることに、最初は戸惑いを感じたが、すぐに慣れて、嬉しくて仕方がない。

 とにかく健一郎に俺が若い頃着ていた服を何着かプレゼントしてみる。健一郎は小夜香よりも、素直に俺のプレゼントを喜んで受け取ってくれる。

 弟がいたら、こんな感じなのだろうか?

 これなら、小夜香ともし、そういう関係になったとしても、ずっと一緒に暮らし続けてくれることを願う。だって、もう「義兄さん」呼ばわりしてくれているのだから、健一郎にとって、俺は小夜香の旦那として認めてもらっているのではないかと思う。

 翌日は日曜日で、3人で買い物に出かける。健一郎にもどんどんブランド服や大学で使えるようなカバンや手帳を買ってやる。

 小夜香がそれを、いちいちもったいないと苦言を呈しているが気にしない。

 俺の隣でみすぼらしい姿をしてくれるな。というのが俺の持論だから、もうほとんど諦めているようだ。

 「義兄さん」と呼ばれることが嬉しくて、つい調子に乗り過ぎてしまった。でも嫁の弟は義弟だからな。まんざら間違ってはいない。

 陽介がレジへ行っている間、小夜香が健一郎を小突いていることに気づいていない。

 「小夜香姉さんの彼氏、かっこいいよなぁ。お金持ちだし、大人って感じでさ。」

 「彼氏ではないわよ。上司よ。それに何?あの義兄さん呼びは?失礼よ。」

 「だって、俺、長男だし。義兄さんなんて、呼ぶ機会ないから。」

 「あんまりいっぱい買ってもらっちゃ悪いわよ。」

 「わかっているって。あの女のせいで、貧乏も苦学生も体験したから、少しは庶民の気持ちがわかる政治家になるよ。」

 「まあ!」

 そこへ新藤部長が、レジを終えて、紙袋を突き出してきたので、小夜香と健一郎は、二人で頭を下げながら、お礼を言う。

 「さて、これからお茶でもするか?」

 「え!ああ、いえ、なんでもありません。」

 健一郎は不思議そうに姉を見つめている。

 「?」

 そう、この店の隣が例のカフェだったから、ビックリして、声をあげてしまったのだ。でも、部長はそんなこと忘れているみたいで、何事もなかったような顔をして、そのカフェに入り、また同じ場所に座る。

 知らないよー?また、会ったとしても?でもさ、まあ、今日は弟と一緒だから、部長よりは、弟の方が彼氏っぽく見えるかもしれないけどね。

 「それにしても、貧乏苦学生が、高村幹事長の御子息だとは、驚いたな。もっとも、ウチの高村さんにも、最初は相当驚いたけどな。」

 「私も部長がこのカフェに入ろうと言ったことを驚きましたわ。」

 「え?まさか?……。」

 小夜香は黙って頷く。みるみるうちに顔色が悪くなっていく新藤部長に健一郎が、またしても???

 「大丈夫ですよ。お客さんの中で、部長を覚えている人なんて、そうそういないと思いますけど、スタッフさんは、どうでしょうかね?」

 「で、出ようか?」

 「もったいない。まだ注文品も来ていないというのに。」

 明らかに挙動不審になりつつ、注文品が来るのをひたすら待っている部長。

 「なに?義兄さん、このカフェで黒歴史でもあんの?」

 「ど、どうしてそう思う?」

 「いや、姉さんの嫌そうな顔と義兄さんの慌てっぷりから見て、なんとなく思っただけだよ。」

 「ふーん。だったら、今日はいっぱい買ってもらったから、とりあえず義兄さんと姉さんは、店から出るといいよ。注文品は、俺が全部食べるからさ。勘定も俺が払って出るから、心配しないでよ。店の外で適当に時間潰していてよ。」

 そういいながら、健一郎は、小夜香に手を出してくる。小夜香まで、出る必要はないけど、健一郎が気を遣ってくれていることはわかるから、黙って従うことにしたのだ。

 小夜香は仕方なく、1万円札を財布から取り出し、健一郎に渡す。食べ盛りの男子学生であれば、アップルパイであろうが、ケーキセットであろうが、すべて平らげてくれることは間違いない。

 せっかく健一郎が気を遣ってくれたのだから、二人で店を後にする。

 「いいのか?健一郎一人残して?」

 「大丈夫よ、あれぐらいのものなら食べきれる。」

 「いや、そういう意味ではなくて……。」

 「大丈夫。あの子は高村の3代目の代議士を狙っているから、あれぐらいのこと、どうってことないわ。」

 「政治家は面の皮が厚くなければ、務まらないか……。俺もあれぐらいの神経が欲しい。」

 「神経よりも、セックスの練習をした方がいいのでは?」

 「ブっ。また、そういう意地悪を言う。俺の練習台をしてくれないか?」

 「は?弟がいるのに、無理よ。」

 「じゃ。弟が外泊している時なら、いいのか?」

 「え……、でも、そううまく外泊してくれるとは限らないし。」

 「きっと、チャンスはあるさ。」

 なんか、おかしな方向に話が進み、困惑している。でも、イエキのことで、お世話になったから、練習台ぐらいなら協力できるかもしれないと思ってしまったことは、事実だ。だいたい、練習台って、何?どうやってするの?それすら、わかっていないから安請け合いしてしまっただけなのだ。
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