運命のあなた

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お前は私の番

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「……ぁ……ひ、ぁあッ…………」

目を覚ますと、自身の口から発せられた声に飛び起きようとして―――できなかった。

私を覗き込むように、ヴィルヘルム王が覆いかぶさっていていたからだ。

「な、にを……」

震える唇で問えば、雄を思わせるような顔で薄く笑われた。
ただそれだけの事なのに、瞳と心が目の前の男へ固定されてしまう。

炎のように揺らめく瞳に絡み捕られ、頭のどこかで警鐘が鳴る。

私が私で無くなっていく。
やけに身体が火照り、息が荒い。
オメガの性質に僅かでも抵抗できずに、喉を鳴らす。

――――――欲しい。

心の奥底から切望する言葉に、身体は素直に反応する。
血が騒ぎ、目の前の男目掛け腕を伸ばす。

首に私の腕を回されるまま、男は口端を上げた後、私に口付けてきた。

「ぅあッ」

自身の唇に雄と認識した者の唇が重なり、歓喜に身体が打ち震える。

「―――ああっ!!」

だが、下半身からの過ぎる刺激に顔を逸らし悲鳴を上げた。

理性が戻り、あらぬ場所で感じた火傷しそうな熱。
質量のあるその正体を探りたかったが、ヴィルヘルム王を退けることは敗北国の王子である私はできなかった。
いや。その前に、私はヴィルヘルム王の首に回している自身の腕を外すことができない。

「何が……ッ」

顔を逸らしながら『何が起こっているのですか』そう問おうとしたが、痛いほど顎を掴まれヴィルヘルム王の顔と向き合うようにされてしまった。

またヴィルヘルム王の瞳を見てしまえば、私は本能に支配されてしまう。
咄嗟に、視線だけは逸らした。

「目を背けるな」

絶対的な王者の命令。
それに、オメガである私が抗えることが出来ず、瞳は再びあの赤い炎へと向き合った。

嫌でもわかる自身の欲情している顔が、細められた瞳に映る。
それを認識して、恍惚としていく自身の表情も。

うっとりと溜息を吐く途中、釘付けになった瞳が近づく。

「んンッ!!」

齧り付くように唇を重ねられ、熱く濡れた質量のあるそれで口腔を貪られる。
口内へ送られてくる甘い蜜。
それを求め、自身からもっともっとと絡めた。

それに集中していれば、大きな手が私の脇から腰へ滑り、自身が裸だということがやっとわかった。
それでも私の手は、雄の髪を掻き分け頭に這わし放さない。

胸や腹。気づかないふりをしていた、全開に開いている両脚の中心で、私の素肌と男の素肌が合わさり互いを刺激する。
脚を圧し掛かる男の身体に巻き付ければ、私の中に侵入している熱く長大な杭が更に奥へ入り込む。
薄々わかっていたが否定していたその存在が、自分の行動の所為でまざまざと思い知らされる。

「ひぃ、あッ」

私が甘い悲鳴を発しながら背を仰け反った事で、合わさっていた唇が離れた。

涙をぽろぽろと零す私の目尻へ、男が口付ける。
離れていく唇を名残惜しくて上目遣いで追えば、それに気づいた男が柔らかに目を細めた。

「イオリス」

甘い甘い雄の声。

既に濡れ、男を受け入れているそこが蠢く。
はやく。はやく。

「………はやく」

そう私の声で、言ったのは誰か。
その正体を探す暇を与えず、腰を痛いほどに掴まれ男に揺さぶられた。

「……ひゃぁ、あ、あッ…………」

この嬌声は、誰のものか。

何もかも飲まれそうな中、頭の片端。
私が幼かったあの日、一度だけ出逢えた少女が過る。

可愛いあなた。
愛しいあなた。

―――――ああ。運命の女性あなた

だが、あの少女の顔を思い出そうとして………。

「ぁあっ―――!!」

私の中のある一点を突かれ、頭の中は真っ白になった。





未知だった快楽。
本能のままに。
己に眠っていた、本来の性が求めるがままに。

私は、欲望を貪った。
腹の中に何度も、何度も男の熱を受け止めて。

後悔すると知っていながら、抗えずに―――――。
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