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こじらせる二人
そのときそこでは⓶
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「どういうことだ?」
無意識のうちにスデリファンに問い詰めるガングニールズの声は怒声になる。
「弁当屋のセドラからさっき聞いたんだ。マイカの元の世界の友人がマイカのことを心配して男を紹介しようとしてるってな。もちろん恋人としてだ。今度向こうに行くときは二人で会うそうだ」
確かに舞花は弁当屋のセドラと仲が良い。
いつの間にそんなことに? 次に向こうに行くときとは、さっき舞花が言っていた『五日後』のことか? とガングニールズは混乱した。
マイカに元の世界で男が出来そうだと知り、ガングニールズは自分でも予想してないほどに衝撃を受けていた。
「──しかし、執務室では普通の態度だった。さっき急に泣き出したんだ」
絞り出すような声でガングニールズはそう言った。
「なにか執務室で変わったことはなかったか?」
スデリファンからの問いにガングニールズは考える。
そういわれると、今日はいつもと違うことが二つあったのだ。ガングニールズはハッとしてスデリファンにそのことを話した。
「それはな、おそらくその菓子と掛けて『私も食べて欲しい』というメッセージだ。それに加えて、特製回復薬の存在にも気づいているのにお前が知らんぷりして流していると知って、きっとマイカの心が折れたんだ」
「そんなことは……」
ガングニールズはそこで言葉を詰まらせた。思い返せばスデリファンの言うとおりな気がしたのだ。
『そんなことはない』とは言い切れない。まさかあれがそんなメッセージを含んでいたとは、ガングニールズは全く気付いていなかった。
──だから今日は無理やりマシュマロの袋を奪ったのか……
ガングニールズは自らの不甲斐なさに拳を握り締める。
「マイカが一途に気持ちを伝えてくれるのをいい事に、お前がいつまでも煮え切らない態度をとりつづけるからこうなるんだ」
真剣な顔をして諭すスデリファンに対し、ガングニールズは苦悶の表情を浮かべた。
「しかし、俺がやつの先見で女を不幸にすると言われたことは知っているだろう? 気持ちに応えればマイカが不幸になる」
それは思い出したくもない十年前のこと。終戦で数年ぶりに帰還したガングニールズは、当時の婚約者と一緒にアナスタシアに先見をして貰った。アナスタシアは少し考えるように首をかしげ、そして、声高々にこう言った。
『この男には先の戦争による呪いがかかっている。この男は、愛した女を不幸にする。これは向こう十年続くだろう』
結果として、ガングニールズは婚約を一方的に破棄された。これはその場に居合わせたスデリファンも知っていることだ。
「今度の記念式典でちょうど十年だ。先見で予言された期間も終わる。ここでマイカを手放すと一生後悔するかもしれないぞ?」
「わかってる。だが……」
「リーク。マイカのお相手はな、走るのが趣味と言いながら、休日は二、三十キロ、平日の夜は翌日に響くから五キロだけランニングするそうだ」
「走るのが趣味で休日は二、三十キロ、平日の夜は五キロだと?」
ガングニールズは心底驚いて目を見開いた。スデリファンもガングニールズの目を見て頷く。
「そんなひ弱な奴にマイカを任せていいのか? きっともやしのような男だぞ? マイカはひ弱な夫を支えるために苦労するかも知れない」
顔を顰めて眉を寄せたスデリファンの顔を、ガングニールズは信じられない思いで見返した。
無意識のうちにスデリファンに問い詰めるガングニールズの声は怒声になる。
「弁当屋のセドラからさっき聞いたんだ。マイカの元の世界の友人がマイカのことを心配して男を紹介しようとしてるってな。もちろん恋人としてだ。今度向こうに行くときは二人で会うそうだ」
確かに舞花は弁当屋のセドラと仲が良い。
いつの間にそんなことに? 次に向こうに行くときとは、さっき舞花が言っていた『五日後』のことか? とガングニールズは混乱した。
マイカに元の世界で男が出来そうだと知り、ガングニールズは自分でも予想してないほどに衝撃を受けていた。
「──しかし、執務室では普通の態度だった。さっき急に泣き出したんだ」
絞り出すような声でガングニールズはそう言った。
「なにか執務室で変わったことはなかったか?」
スデリファンからの問いにガングニールズは考える。
そういわれると、今日はいつもと違うことが二つあったのだ。ガングニールズはハッとしてスデリファンにそのことを話した。
「それはな、おそらくその菓子と掛けて『私も食べて欲しい』というメッセージだ。それに加えて、特製回復薬の存在にも気づいているのにお前が知らんぷりして流していると知って、きっとマイカの心が折れたんだ」
「そんなことは……」
ガングニールズはそこで言葉を詰まらせた。思い返せばスデリファンの言うとおりな気がしたのだ。
『そんなことはない』とは言い切れない。まさかあれがそんなメッセージを含んでいたとは、ガングニールズは全く気付いていなかった。
──だから今日は無理やりマシュマロの袋を奪ったのか……
ガングニールズは自らの不甲斐なさに拳を握り締める。
「マイカが一途に気持ちを伝えてくれるのをいい事に、お前がいつまでも煮え切らない態度をとりつづけるからこうなるんだ」
真剣な顔をして諭すスデリファンに対し、ガングニールズは苦悶の表情を浮かべた。
「しかし、俺がやつの先見で女を不幸にすると言われたことは知っているだろう? 気持ちに応えればマイカが不幸になる」
それは思い出したくもない十年前のこと。終戦で数年ぶりに帰還したガングニールズは、当時の婚約者と一緒にアナスタシアに先見をして貰った。アナスタシアは少し考えるように首をかしげ、そして、声高々にこう言った。
『この男には先の戦争による呪いがかかっている。この男は、愛した女を不幸にする。これは向こう十年続くだろう』
結果として、ガングニールズは婚約を一方的に破棄された。これはその場に居合わせたスデリファンも知っていることだ。
「今度の記念式典でちょうど十年だ。先見で予言された期間も終わる。ここでマイカを手放すと一生後悔するかもしれないぞ?」
「わかってる。だが……」
「リーク。マイカのお相手はな、走るのが趣味と言いながら、休日は二、三十キロ、平日の夜は翌日に響くから五キロだけランニングするそうだ」
「走るのが趣味で休日は二、三十キロ、平日の夜は五キロだと?」
ガングニールズは心底驚いて目を見開いた。スデリファンもガングニールズの目を見て頷く。
「そんなひ弱な奴にマイカを任せていいのか? きっともやしのような男だぞ? マイカはひ弱な夫を支えるために苦労するかも知れない」
顔を顰めて眉を寄せたスデリファンの顔を、ガングニールズは信じられない思いで見返した。
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