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最終章 公開告白を許してください

9.私を全部、蒼馬のものにして

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通りに出たところで、いきなり滝島さんに後ろから抱き締められた。

「……茉理乃」

ふわりと香る滝島さんの匂いに、心の底からくらりと酩酊する。

「いますぐ、抱きたい」

「えっ、はっ?
家まで!
家まで待ってください!」

走っているタクシーを探す。
けれどようやく見つけたと思ったら送迎中。

「待てない」

私の腕を掴み、滝島さんは歩きだす。
そのまま連れていかれたのは――ホテル街、だった。

「ちょ、ちょっと待ってください!」

「待てないって言っただろ。
……ここでいいか」

いいともなんとも言っていないのに、滝島さんは勝手に入っていく。
慣れた手つきで手続きし、エレベーターに乗る。

「茉理乃……」

熱に浮かされた少し掠れた声で呼ばれ、それだけでとろりと蜜が垂れ落ちる。

「んっ、……あっ……」

余裕なく重なる唇。
まるで私の存在を確かめるかのように、くまなく蹂躙された。
チン、と目的階に到着し、扉が開く。
けれど唇は離れない。
誰も乗り降りしないまま、扉が閉まっていく。
狭い密室に籠もるのは、滝島さんと私の熱だけ。

「……はぁっ」

唇が離れ、一瞬だけ見つめあう。
次の瞬間には破壊も辞さない勢いで滝島さんが開くのボタンを押し、半ば引きずられるようにエレベーターを降りた。
部屋に入り、乱暴にベッドに転がされる。

「わるい。
優しくできない」

もどかしそうにコートとジャケットを脱ぎ捨て、ネクタイをシュルリと抜く。
のしかかってきたかと思ったら、スカートをたくし上げて下着の中に手を入れてきた。

「キスで濡れたのか?」

「あっ」

ねっとりと耳に舌を這わされ、またとろりと蜜が流れ出る。
言えるわけがない、声だけで濡れました、なんて。

「茉理乃、濡れやすくてエロい」

「んんーっ」

いきなり、二本の指を押し込まれた。
ぐちゅぐちゅと少し掻き回しただけですぐに抜かれる。
カチャリという音が耳に届き、視線の先では滝島さんが下着の中から張り詰めたそれを取りだしていた。

「ごめん」

あやまりつつ、ストッキングごと私の下着を抜き取る。
足を開かされて、まだ咲ききっていない花弁の間に雄しべを押し当てられた。

「……んっ、……はっ」

切なげに息を吐きながら押し入られれば、媚壁が蠢く。
奥まで押し入ったそれは、ぴったりと私の胎内に納まった。

「はっ、……あっ、滝島さん、きもち、いい……!」

ただ挿っているだけなのに、びくびくと濡襞が痙攣する。
それだけでもう、おかしくなりそうだ。

「そうじゃない」

「え?」

彼がなにを言いたいのかわからずに、訊き返してしまう。

「名前で呼んだ方が恋人らしいって言っただろ……」

「あっ……」

急かすように滝島さんがこつんと奥をつつく。
言われた、けど、滝島さんの名前なんて覚えていない。

「覚えてないのか。
……蒼馬、だって言っただろ」

「ああっ、んんっ、そう、そう、まっ……!」

さらに敏感な箇所を責められ、半ば悲鳴のように初めてその名を呼んだ。
たったそれだけのことなのに、お腹の奥がキュンと締まる。

「茉理乃、可愛い……」

ガツガツと性急に滝島さん――蒼馬が腰を打ち付けてきた。
揺らされる身体からは、少しだけ苦しそうな彼の顔が見えて、蜜がじゅわっと滲んでいく。

「あっ、……はぁっ、……んんっ……」

ぐちゅん、ぐちゅん、と粘膜が擦れあう音と共に、ベルトの揺れるカチャカチャという音がする。
服は着たまま、蒼馬は眼鏡をかけたまま繋がるのは酷く即物的で興奮し、身体の熱が上がった。

「そう、ま……っ」

自分から引き寄せ、彼の唇に自分の唇を重ねる。

「んんっ、……はぁっ……」

私と蒼馬を隔てる服がもどかしい。
これがなければきっと、混ざって溶けてひとつになれるのに。

「あっ、……ぁあぁっ、……んっんんっ……」

ひたすら私の口からは、調子の狂ったレコードのように嬌声が漏れていく。

「茉理乃を完全に、俺のものにしていいか」

一瞬、彼がなにを言っているのか理解できなかった。
そういえば今日、蒼馬はつけていない。

「……して。
蒼馬のものに」

「わかった」

そっと彼の手があたまを撫で、軽く唇が重なる。
彼がラストスパートをかけ、最奥の扉がノックされる。

「うっ、茉理乃……!」

「あっ、ああぁぁっー!」

扉がこじ開けられ、その中に熱い情欲を注ぎ込まれる。
がくがくとベッドの上で身体が震える。
熱い、お腹の中が熱い。
でもこれで、私は完全に蒼馬のものになった。

「次は、優しくするから」

蒼馬の手が私の頬に触れる。
次、とは?
とか考えていたら、彼の顔が近づいてきた。
目を閉じ……。

「……ぐぅ」

「は?」

のしかかる重みに目を開ける。
蒼馬はキスの途中で力尽きて眠っていた。

「そりゃ、酔ってたうえに最後は一気飲みして、そのあとの激しい運動だからこうなるだろうけど」

「……んー」

蒼馬の顔の向きが変わり、こっちを向く。
安心しきった顔。
きっと彼も、私と同じくらい悩んでいた。

「仕方ない、よね」

らしくなく酔っていたのは、気が緩んだから。
それはいい。

「重い。
動けない」

眼鏡くらい外してあげたいが、両手は彼の身体の下。
彼と私の体格差、しかも相手はかなりの筋肉質とくればほとんど動けない。

「早く寝返りくらい打ってー」

蒼馬がようやく私の上からどいたのは、それから約一時間後のことだった。



その日のTwitterのトレンドには、祝結婚の文字が躍っていた。

「こんなに祝福してもらってありがとうございます、だよ」

【結婚しました。幸せになります】の文字と共に、ふたりの左手薬指に嵌まる指環が撮された画像がTLに並んでいる。

――今日。
私は滝島茉理乃になった。

あのあと、程なくして妊娠がわかった。
大慌てで互いの両親へ挨拶へ行き、今日の入籍になったというわけだ。

「茉理乃、なに見てんの?」

「これ」

携帯の画面を見せたら、蒼馬が苦笑いした。

「こんなにお祝いしてもらって幸せだな、俺たち」

「そうですね」

後ろから私を抱き締めた蒼馬が、そっと私のお腹を撫でる。

「でも大丈夫か、産休中もTwitter担当継続、とか」

「それはもう、やるしかないですよ」

産休に入るのはまだ先だが、すでにその間もTwitter担当を続けることが決まっていた。
きっと、子育て応援企業をアピールしたい社長の思惑なんだろうけど、会社の方も全面的に協力するってことなのでOKした。

「けど、出産も会社アカウントで報告しろって無茶苦茶だよな」

蒼馬は渋い顔だけど。

「だって、Twitterが結んでくれた縁なんですよ?
きっと担当外れるまで、節目節目の報告を求められますって」

「それでもって、よっぽどのことがない限り、会社も担当外さないよな……」

がっくりと蒼馬の首が落ちる。

「後悔、していますか?」

「いや?
Twitter様々だし?」

笑った蒼馬の唇が重なる。
常に人から見られる生活は少し嫌だけど、Twitterがなければ私たちは出会っていなかったし、こうやって結婚することもなかった。
ならこれからもTwitterと一緒に歩んでいくのが、私たち夫婦らしいんじゃないかな。
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