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「……は?」
でも飛田が出した答えは私の予想の斜め上をいっていて、思わず変な声が出た。
「いやそこは、ルームシェアしようとかじゃないの?」
そうすれば私は家賃が節約でき、奴の出す条件によっては家事をやってもいい。
結婚までする必要があるとは思えない。
「いや、結婚だ。
イチコはバカ高い国民年金と国民健康保険料をどうするんだ?」
「うっ」
そこを突かれると、痛い。
いくら請求が来るのかと戦々恐々としていた。
「結婚して俺の扶養に入れば安くなるし俺が払ってやる」
「でもそれは飛田さんにメリットがないのでは?」
払ってくれるのは助かるが、無償なんてなにか企んでいそうで怖い。
「イチコが俺の扶養に入れば、手当もつくし控除もある。
それに家事をやってもらう代償だと思えば安いもんだ」
「確かに」
飛田の言うことは一理ある。
しかし、扶養というのが気にかかる。
専業主婦になれというんだろうか。
でも私は飛田に理由もなく養われるのは嫌だ。
「けど私は働きたいし、専業主婦というのはちょっと……」
「イチコはイラストの仕事がしたんだろ?
ならそれをすればいい」
「な、なんでそれを!?」
職場の人間にも明かしていなかった私の趣味がさらりと飛田の口から出てきて激しく動揺した。
私の趣味はイラストで、Twitterやpixivにあげつつ、ちまちまと同人誌の表紙依頼なんかを受けていた。
いつか、商業誌の表紙を自分のイラストで飾れたらと夢みながら。
「イチコのTwitterアカウントもpixivアカウントも俺はフォローしている」
少し携帯を操作して飛田が見せてきたのは、まさしく私のTwitterアカウントだった。
しかも飛田のものらしきアカウントは、私がイラストをあげると速攻でいいねをくれるフォロワーさんだ。
「な、なんで知って……?」
ストローを咥えながら手は震えるし視線も泳ぐ。
「企業秘密」
ニヤリと僅かに右の口端を持ち上げ、飛田は携帯を胸ポケットにしまった。
リアルの知り合いには誰にも知らせていないのに、知っているのが怖すぎる。
「とにかく。
俺は優秀だからな、次の会社では正当に評価されているから給料はこれくらい出る」
飛田が告げたのは私の想像なんか遥かに超えた額だった。
いかにいままでの会社が飛田を飼い殺していたのかがわかる。
「だからイチコのひとりやふたりくらい軽く養えるから気にしなくていい。
その代わり、家事は任せた」
これは飛田と結婚すれば、家事さえこなせば好きにイラストを描いて暮らせるということなんだろうか。
え、条件がよすぎて反対に引く。
「結婚とか言ってるけど、飛田さんには付き合ってる人とか好きな人とかいないの?」
そこは絶対に確認が必要な事項だ。
そんな人がいるのに利害が一致しているから結婚、なんてできるはずがない。
そもそも、その人に頼め。
「いない」
即答されて少し安堵している自分に気づき、なんかモヤッとした。
「惚れられてる相手とか」
「いると思うのか、この俺に」
「うっ」
平然と返されて答えに詰まる。
少し長めの黒髪に黒縁プラスチックのスクエア眼鏡が似合う飛田はイケメンで間違いないと思うが、変人で女性からは敬遠されていた。
なにせ唐突になにかを思いついた途端、ひたすら謎の呪文をブツブツと呟きながらぐるぐる歩き回りだすのだから、普通は気味悪がる。
「反対にイチコは付き合ってる奴とか好きな奴とかいないのか」
「……いない」
ええ、ええ。
残念ながらいないんですよ、これが!
いたらなにか変わっていたのかとも思うが、なにも変わっていないだろう。
飛田とこの話が終わりになっただけで。
「じゃあなにも問題ないじゃないか」
これで解決だとばかりに飛田はコーヒーを飲んでいるが、本当にそうなんだろうか。
「……ねえ。
好きな人ができたときはどうするの?」
いまはいいが将来的にはわからない。
ここは確認しておくべきだろう。
「そのときは契約破棄で離婚だな」
「……そっか。
そうだよね」
彼の答えを聞いて、どうしてか胸の奥がツキンと小さく痛んだ。
でもすぐに気分を切り替えて次の質問をする。
「これって利害が一致しただけの契約結婚……になるんだよね?
じゃあ、身体の関係とかはナシ?」
「もちろんナシだ。
寝室も別でいい」
ならば問題はクリアだが、飛田はこんな理由で本当に私と結婚していいんだろうか。
「飛田さんは私と結婚して後悔したりしない?」
「納得の上だ。
するわけがない」
清々しい顔で言い切り、飛田がその大きな手で覆うように眼鏡を上げる。
なんかそれを見て、大丈夫だという気持ちになれた。
「わかった、飛田さんと結婚する。
よろしくお願いします」
「了解だ」
こうして私は、飛田との結婚を決めた。
でも飛田が出した答えは私の予想の斜め上をいっていて、思わず変な声が出た。
「いやそこは、ルームシェアしようとかじゃないの?」
そうすれば私は家賃が節約でき、奴の出す条件によっては家事をやってもいい。
結婚までする必要があるとは思えない。
「いや、結婚だ。
イチコはバカ高い国民年金と国民健康保険料をどうするんだ?」
「うっ」
そこを突かれると、痛い。
いくら請求が来るのかと戦々恐々としていた。
「結婚して俺の扶養に入れば安くなるし俺が払ってやる」
「でもそれは飛田さんにメリットがないのでは?」
払ってくれるのは助かるが、無償なんてなにか企んでいそうで怖い。
「イチコが俺の扶養に入れば、手当もつくし控除もある。
それに家事をやってもらう代償だと思えば安いもんだ」
「確かに」
飛田の言うことは一理ある。
しかし、扶養というのが気にかかる。
専業主婦になれというんだろうか。
でも私は飛田に理由もなく養われるのは嫌だ。
「けど私は働きたいし、専業主婦というのはちょっと……」
「イチコはイラストの仕事がしたんだろ?
ならそれをすればいい」
「な、なんでそれを!?」
職場の人間にも明かしていなかった私の趣味がさらりと飛田の口から出てきて激しく動揺した。
私の趣味はイラストで、Twitterやpixivにあげつつ、ちまちまと同人誌の表紙依頼なんかを受けていた。
いつか、商業誌の表紙を自分のイラストで飾れたらと夢みながら。
「イチコのTwitterアカウントもpixivアカウントも俺はフォローしている」
少し携帯を操作して飛田が見せてきたのは、まさしく私のTwitterアカウントだった。
しかも飛田のものらしきアカウントは、私がイラストをあげると速攻でいいねをくれるフォロワーさんだ。
「な、なんで知って……?」
ストローを咥えながら手は震えるし視線も泳ぐ。
「企業秘密」
ニヤリと僅かに右の口端を持ち上げ、飛田は携帯を胸ポケットにしまった。
リアルの知り合いには誰にも知らせていないのに、知っているのが怖すぎる。
「とにかく。
俺は優秀だからな、次の会社では正当に評価されているから給料はこれくらい出る」
飛田が告げたのは私の想像なんか遥かに超えた額だった。
いかにいままでの会社が飛田を飼い殺していたのかがわかる。
「だからイチコのひとりやふたりくらい軽く養えるから気にしなくていい。
その代わり、家事は任せた」
これは飛田と結婚すれば、家事さえこなせば好きにイラストを描いて暮らせるということなんだろうか。
え、条件がよすぎて反対に引く。
「結婚とか言ってるけど、飛田さんには付き合ってる人とか好きな人とかいないの?」
そこは絶対に確認が必要な事項だ。
そんな人がいるのに利害が一致しているから結婚、なんてできるはずがない。
そもそも、その人に頼め。
「いない」
即答されて少し安堵している自分に気づき、なんかモヤッとした。
「惚れられてる相手とか」
「いると思うのか、この俺に」
「うっ」
平然と返されて答えに詰まる。
少し長めの黒髪に黒縁プラスチックのスクエア眼鏡が似合う飛田はイケメンで間違いないと思うが、変人で女性からは敬遠されていた。
なにせ唐突になにかを思いついた途端、ひたすら謎の呪文をブツブツと呟きながらぐるぐる歩き回りだすのだから、普通は気味悪がる。
「反対にイチコは付き合ってる奴とか好きな奴とかいないのか」
「……いない」
ええ、ええ。
残念ながらいないんですよ、これが!
いたらなにか変わっていたのかとも思うが、なにも変わっていないだろう。
飛田とこの話が終わりになっただけで。
「じゃあなにも問題ないじゃないか」
これで解決だとばかりに飛田はコーヒーを飲んでいるが、本当にそうなんだろうか。
「……ねえ。
好きな人ができたときはどうするの?」
いまはいいが将来的にはわからない。
ここは確認しておくべきだろう。
「そのときは契約破棄で離婚だな」
「……そっか。
そうだよね」
彼の答えを聞いて、どうしてか胸の奥がツキンと小さく痛んだ。
でもすぐに気分を切り替えて次の質問をする。
「これって利害が一致しただけの契約結婚……になるんだよね?
じゃあ、身体の関係とかはナシ?」
「もちろんナシだ。
寝室も別でいい」
ならば問題はクリアだが、飛田はこんな理由で本当に私と結婚していいんだろうか。
「飛田さんは私と結婚して後悔したりしない?」
「納得の上だ。
するわけがない」
清々しい顔で言い切り、飛田がその大きな手で覆うように眼鏡を上げる。
なんかそれを見て、大丈夫だという気持ちになれた。
「わかった、飛田さんと結婚する。
よろしくお願いします」
「了解だ」
こうして私は、飛田との結婚を決めた。
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