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女冒険者サナ
悔いがあるならもう一度※
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彼が普段使っているバスローブを使うように渡されたのでシャワーを終えた後、腕を通す。
ぶかぶかの袖を捲り、引き摺らないように持ち上げながらリビングルームに戻ると誰もいなかった。
それどころか飲みかけだったグラスも見当たらない。
寝室から音がしたので開きっぱなしのそこを覗けば何故かカインは部屋の掃除をしていた。
「あの、終わりました」
「うおっ! ああ、そうか。俺も汗を流してくる」
箒をしまいながら着替えを持って彼は寝室を出て浴室に向かった。
その背中を見送りながら髪を手持ちのハンドタオルでガシガシ擦る。
宿屋であれば料金を払って魔法で乾かしてもらえるのだが、さすがに家主の彼に頼むのは気が引ける。
幸いにも長い髪ではない。
乾くのに時間はかからないので水気をしっかり拭い取る。
「え、するの?」
シャワーを浴びたおかげか、すっかり酔いは覚めてしまった。
口に出せばじわじわと実感を伴ってきて、襲ってくる薄寒い感情を腕を擦って見なかったことにする。
「ワインでも飲もうかな……」
いつの間にかベッド脇のナイトテーブルに移動されたいた自分のグラスに残っていたワインを飲む。
といっても舐める程度に留めておいた。
これからのことを考えると悠長に飲んでいられなかったのだ。
特に意味もなくぶかぶかのローブを弄る。
「こういうときはお気に入りの香水でもつけて気分を高めるんだっけ……持ってないや」
飲み仲間の娼婦ベラドンナの言葉を反芻するが、どれもこの状況では役に立ちそうにない。
そもそも香水なんて買ったこともないのだ、お気に入り以前の問題である。
落ち着かない気持ちを抱えたまま部屋を特に目的もなく歩き回る。
箒を握って床を掃き始めたところでカインがこちらを見ていることに気づいた。
金髪を後ろに束ね、私と同じバスローブを着けていた。
「……いつから?」
無駄な足掻きと知りつつ背中に隠しながら元の場所にそっと戻しておく。
「香水の下りからだな」
魔法で髪を乾かしながらベッドに腰かけたカインはグラスにワインを注ぐとグイっと呷り、ポツリと呟く。
「やっぱり落ち着かないと部屋の掃除始めるよな」
隣に座るよう促されたのでそっと腰を下ろす。
グラスを受け取り、恥を追い出せないものかとワインを口に流し込む。
どう切り込んだものか思い付かず、手に持ったグラスの表面を指で撫でる。
髪を掬い上げられ、ブワッと暖かい風が水気を飛ばす。
気を利かせたカインが生乾きだった髪を乾かしてくれたらしい。
「ありがとう、ございます」
「どういたしまして」
ギクシャクしながら礼を告げれば彼にも緊張が伝わったのか声音も硬いものになった。
緊張で乾いた喉を残りのワインで潤すが、それでもやはり解れなかった。
空になったグラスを取り上げられ、ナイトテーブルの上に戻される。
「さすがに丈が余るな」
彼の指摘する通りゆったりとした作りのローブはさらにぶかぶかで、指先をピンと伸ばさないと爪すら見えない。
「そういえば右手は大丈夫か?」
「重いものを持たなければ大丈夫ですよ」
カインは指を引っ掛けてスルスルとローブを手首までずらすと私の手を取って甲にキスを落とした。
「なるべく優しくする」
指を絡めて恋人繋ぎにすると顔を近づけてきた。
アルコールで熱くなった吐息を感じるほど近づいた頃に彼の意図にようやく気づいた。
目を閉じると自分のかさついた唇と違って柔らかいそれが触れた。
「緊張してるのか?」
彼の親指が私の親指の付け根を撫でる。
無意識のうちに力を込めて握っていたようで、慌てて力を抜く。
その様子を見ていた彼が恐る恐るもう片方の手を私の背中に回した。
チュッチュッと聞いていて恥ずかしくなるようなリップ音を立てる。
肩に回された手が気づけば腰の方にまで降りていた。
「もう一度、してもいいか?」
改めて乞われ、空を思わせるような澄んだ瞳で私を見据える。
その目に見つめられているうちに心臓が早鐘を打ちはじめる。
「嫌、か?」
返答に困っていると彼の親指の動きが止まり、ほんの少しだけ握られた手から力が抜ける。
凍りついた喉では上手く声も出ないので、解こうとする彼の手を強く握る。
この動作だけでも恥ずかしくてどうにかなりそうだった。
まともに彼の顔を見れなくて俯く。
「サナ、俺にはお前の気持ちが分からない。悪いが言葉にしてくれないと、俺はまたやってしまう」
彼の言葉に罪悪感が刺激された。
悲鳴をあげる羞恥心に気づかないふりをして口を開ける。
「嫌じゃ、ない、です……」
震える声で突っかかりながらも懸命に答える。
ぎゅっと目を瞑り、彼の胸元のローブを開いている手で握ると、腰に回された手に力が篭った。
「顔を上げてくれ」
半ば睨みつけながら顔を上げれば、再び彼の唇が押し当てられる。
さらに啄むように何度も繰り返される。
一向に離れる気配がなくて、酸欠で頭がクラクラしてきた。
それでも他人のぬくもりというものを手放したくなくて彼の行為を受け入れる。
「ははっ。そうか、したいか」
噛みしめるような声は、昨日彼が行為中に発した掠れた低いそれで、胸の奥の心臓が掴まれたような錯覚さえ覚える。
『何か』に期待している時の胸の高鳴りはあの時に感じた体の奥が擽ったくなるような感覚を伴って思考をふつふつと沸騰させる。
アルコールの所為と割り切って求められるままに唇を彼に差し出し続けた。
やんわりと手が解かれて向かい合うように体勢を変えた。
抱きしめられながら熱を孕んだ舌が捻じ込まれると、どこも触られていないというのに上擦った声が唇から漏れる。
「胸、触るぞ」
律儀に何処を触るのか伝えながら彼はバスローブの上から胸を撫でるように触る。
何の力も入っていない手の動きは彼が手を繋いだときに宣言したものを意識しているのだろうか。
時折私の様子を伺いながら強弱をつけて撫でる動きと揉む動きを反復する。
彼の大きな手では私の胸を掴むなど容易なことで、やわやわと持ち上げるように揉みながら舌を絡めてくる。
「痛くないか? なあ、サナ……気持ち、いいか?」
「だいじょう、ぶです」
囁くような声でしきりに私の名前を呼びながら行為を続けるカイン。
呼ばれ慣れたはずの名前はまるで他人のもののよう。
私を見つめる瞳は昨日の時よりも冷たくて剣呑なのに悍ましいほどにぬるま湯のように暖かい。
一切欲を隠さないその視線を全身で浴びたいと思ってしまう。
得体の知れない疼きが湧き上がって、持て余したそれを彼の舌にぶつける。
じゅっじゅっと音を立てて吸えばくぐもった呻き声を出した。
さすがに痛かったかと思い、唇を離す。
「は、あ……舌、吸われるの気持ちいい、から……」
チロリと唇の間から舌を出し、快楽を求めて私の唇を舐め上げる。
望まれるがままに–––––いや、積極的に––––––彼の舌に吸い付いた上に舌先を自分のものでつつく。
「それ、すごい気持ちいい……んっ」
気持ちいいと言われ、気を良くして彼の唇を舐め、歯列をなぞる。
彼の顔の横に手を当てて固定するようにすればうっとりとした顔で目を閉じる。
バスローブの紐が引っ張られたところで彼が目を開ける気配がした。
唇を離すと名残惜しげに銀の糸が伸びる。
「触ってもいいか?」
バスローブの上から触ることと直に触ること。
彼にとって何か線引きがあるらしい。
「……は、ぃ」
尻すぼみになった声で許可を出せば骨張った彼の指先がくびれをなぞって脇腹を撫で上げる。
じっとりと汗ばんだ彼の掌が躊躇いがちに胸に触れた。
「マジで柔らかい……はあ、すごい」
揉む度に感想を溢すカイン。
暫くやわやわと指先を沈めて胸の感触を楽しんでいたが、親指と人差し指できゅっと胸の先端を摘む。
突然の鋭い感覚に声が漏れた。
「んっ」
「痛かったか!?」
パッと胸から手を離しバツが悪そうに私の顔色を伺う。
首を横に振れば彼はほっとした表情を浮かべるとそろそろと胸に手を伸ばす。
指の腹で押し上げるように乳首を弄り、鎖骨に顔を埋める。
はあ、と彼の体温を纏ったため息が肌を撫でた。
湿った風を浴びた肌は外気に触れるとすぐにひんやりと冷えて鳥肌が立つ。
「傷……」
ポツリと彼の呟きが部屋に響いた。
その言葉の意味を理解するにつれて熱に浮かされていた思考が正常に戻っていく。
カインから距離を取ってバスローブで体を隠す。
「ぁ……ああ! さ、さすがに傷まみれはキツいですよね。ウッカリしてました、すみま、せん」
浮かれきってきて忘れていた。
自分の体はこれまでの仕事で負った傷の数々の存在を忘れるなんて、自分はなんて愚かなんだろう。
先ほどまで焦がれていた彼の視線に晒されるのが怖い。
何度か自分が男だったらと思ったことはある。
不注意で負った傷や死闘の末についた傷痕は男の勲章だと持て囃されただろう。
私にとっては誇りであっても世間から見れば哀れみの対象でしかない。
「気分転換にワインでも飲みます?」
殊更彼に同情の眼差しを向けられたら立ち直る自信がない。
ちっぽけなプライドを守るために空々しい口調でわざとらしくおどけてながらナイトテーブルに手を伸ばす。
「飲まない」
グイっと腰を引っ張られて彼の腕の中に捕われる。
私のバスローブをずりさげて肩を露出させると彼は右肩の古傷のある位置に歯を立てる。
チクリとした痛みの後に強く吸われてヒリヒリとした痛みが残る。
「カインさん?」
呼び掛けても返事はなく、カインは丹念に古傷に歯を立てる。
やがて飽きたのか、舌を這わせるとピリっとした電流にも似た痛みが走った。
何度も噛まれるうちに皮膚が少し切れたらしい。
「さっきのは見えたから口に出しただけだ。特に深い意味はない」
「カイン––––ひゃっ!?」
喋っている途中だというのにバスローブの裾が捲くられて腰に熱を持ったものが当たる。
ガウン越しでないそれの柔らかいような硬いような感触に昨日の余韻が残る体が慄いた。
「ここ、触るぞ」
彼の指が太ももの内側に滑り込んで足の間に到達する。
反射的に閉じようとした膝の裏にもう片方の手が回され、無理やり足を開く姿勢になった。
「暴れたら怪我するぞ」
耳の裏に唇を押し当てながらカインは茂みをかき分けて割れ目に指を沈める。
はしたなく溢れる粘液を指で掬い上げてグチュグチュと音を立てながら往復させる。
「濡れてるな。気持ちよかったか」
「あ、ふ……」
彼の指がある一点を掠めるたびに、その刺激に耐えきれなくて体が跳ねる。
羞恥に顔を染めても彼の責め立てる手は止まらない。
狙いを定めて陰核を嬲り、腰を揺らして逃げようとすれば彼の足が絡みつく。
「敏感だな。触るたびに体が痙攣してる」
耳元で反応を具に解説され、縁を舌先で舐められる。
じゅるると音を立てて耳を責められると視界の奥がチカチカと白く発光する。
「イきそうか?」
「ひっ! んーー! んぅーー!」
ゆったりだった指の往復が小刻みなものに変わる。
グリグリと円を描くように動かされると全身に力が入る。
叫びかけた口を慌てて押さえて肺に残っていた空気を全部吐き出す。
クタリとカインの胸に背中を預けて肩で息をする。
起き上がらないといけないと思うのに脱力した体では動くことも億劫になる。
指が下に移動し、ツプリと音を立てて中に侵入する。
彼の骨張った指が浅いところを何度も出し入れされた。
「苦しくないか?」
頷けば、膝の裏を掴んでいた手が胸に伸びる。
人差し指で胸の飾りを弄られると腰が揺れる。
押し当てられた彼のものがさらに当たって、その存在と熱に整ったはずの息が乱れ始める。
おずおずと奥に入れ、軽く指の腹で引っ掛けながら引き抜く。
引き抜かれた時、擽ったさに体に力が入った。
「痛いか?」
締め付けを痛みによるものだと考えた彼は動きを止める。
「大丈夫ですから……」
「ああ、続けるぞ」
指が一本追加され、慣らすように膣を捏ねるように動かす。
くぐもった水音と彼の荒い息が鼓膜に響き、剥き出しの背中に触れた胸板から私よりも早いペースで鼓動を打つ心臓の存在に耳まで熱くなる。
ズルリと指が引き抜かれる。
「もう、充分か」
ゆっくりとベッドに押し倒され、部屋の照明を背景にカインが私に覆い被さる。
「カインさん、明かり……」
「分かった」
彼が照明に指を向けて下に下げるだけで部屋の照明が暗くなる。
蝋燭程度にまで絞られ、ぼんやりと暗くなった部屋でも魔力持ちの彼の瞳は蒼い。
その目を爛々と輝かせながら私の膝を掴んで開かせた。
先端を馴染ませるように擦り付けたあと、ピトリと押し当てる。
「入れる、ぞ」
圧迫感を増した異物に息を鋭く吐いた。
昨日の今日とはいえ、頭では受け入れていても、体はついてこない。
切り傷や殴打とは違った内臓の拡張される感覚はすぐに慣れるようなものじゃなかった。
「痛いか?」
「いたくは、ないです」
カインはその答えを良しとしなかった。
「じゃあ、苦しいか?」
息を吐いて全身の力を抜けば異物感は多少マシになる。
この異物感にすんなり慣れていた昨日の私も神殿のカラクリの影響を受けていたようだ。
「大丈夫です、から続けてください」
彼は広い背を丸めると私に顔を近づける。
私の唇に舌をねじ込みながら腰をグイグイと進める。
思わず体に力が入り、危うく彼の舌を噛むところだった。
彼の肩を叩いて抗議するも容易く手首を掴まれて封じられる。
「痛くも苦しくもないなら俺の舌を噛む理由はないだろう」
図星を突かれ、彼の咎めるような視線にきまりが悪くなって顔を逸らす。
そうすれば今度は耳に吐息を吹き込まれる。
生暖かいそれに体が過剰に反応して余計力が入った。
「本当に耳、感じるんだな」
「耳はだめなんです。ひっ、ん……」
指の時と同じく浅い位置で抽送を繰り返しながら執拗に耳を責めたてる。
彼の舌が耳を這い回る度に体の奥が疼いてどうしようもなくなる。
止めさせようと彼の肩を押していた私の手はいつのまにか彼の首に回してしがみついていた。
「カインさん」
「カイン、でいい」
囁くような掠れた声で彼は求めた。
敬称も付けずに呼ぶのはまずいと脳内で警鐘が鳴り響く。
超えてはならない一線を超えてしまうような––––––肉体的な意味ではなく精神的な意味で––––––そんな危うい瀬戸際に立たされている。
明確な理由はないが、なんとなくそんな気がした。
「この時だけでいい、から……頼む」
震える彼の声と縋るような瞳に理性がドロドロと溶けだす。
「カイン」
敬称を外しただけなのに違う響きを伴って口を出る。
喉から出たのは自分の声じゃなくて、風俗街で聞くような媚を売るような甘えた声だった。
「それでいい、サナ……今だけは俺を」
カインは私の名を呼ぶと腰を掴んで一番奥まで入れた。
グリグリと腰を押し付けながら子犬のように唇を舐めてきた。
唇を開いて自ら舌を絡めて抱き寄せる。
「サナ、サナッ……」
最奥をコンコンと突かれる感覚は苦しいはずなのに何かが込み上げてくる。
陰核を触られた時よりも深い快感の波に全身が粟立つ。
明らかに昨日とは全く違った動き方をされて困惑する。
「カイン、まって、これ、や、やだ!」
首を振って嫌がっても彼は目を細めるだけで追い立てることをやめない。
「気持ちいいな、サナ。溶けそうだ」
目尻に浮かんだ涙を吸い上げられ、意思とは無関係に彼のものを締め上げる。
「これ、ヘンになる、からっ! まって、ねえ、まって」
「なれ。なっちまえ、ヘンに、なれ!」
泡立った粘液の気泡が抽送のはずみに潰れてずちゅずちゅと音を立て、奥をグリグリと先端が捏ね潰す。
「あ、あぁぁぁぁ!?」
快感が弾けた。
弓形にのけぞると思考まで真っ白に塗りつぶされる。
膣は痙攣してカインを締め付け、肺の中にあった空気が悲鳴と共に外に出る。
はくはくと酸素を求めて口を開けるが呼吸すらままならない。
痙攣が治まる頃には全身に力が入らなくなって、ベッドのシーツに体を預ける。
「奥で感じるのは難しい、というが……俺たちは相性が良いみたいだな」
汗で張り付いた前髪を退けて額に口付けを落とすカイン。
グリ、と奥が擽られる。
「あ゛あ゛!? ひ……なん、でえ?」
てっきり終わったものだとばかり思っていた体は不意打ちの快楽を貪欲に捉える。
「サナ、もっと気持ちよくなろうな」
口角をあげて獰猛な笑みを見せるカインと視線がかち合う。
引き攣った悲鳴があがり、心臓が痛いぐらい縮み上がる。
私の中で脈打つ彼の肉棒は熱を失うことなく、いやむしろさらに硬くなっていた。
カインの指が鳩尾から臍をなぞる。
掌でゆっくり押しながら腰を動かすと快感の炎が燻った。
「分かるか、俺のものがお前の子宮口を押すたびにビクビク痙攣して、はあ……気持ちいいな」
「あ、ふ……カイン、カイン……ひっ!」
「また、イきそうだな。そういえば、奥でばかり感じていると、他では満足できなくなる、らしいな」
ふやけた頭では彼の発言の真意が掴めない。
考えている最中にも子宮口をゆっくりと圧迫され、電流が脊髄を駆け上がる。
先ほどよりも敏感になった体は快楽に耐えきれなくて、涙がボロボロと零れ落ちた。
「カイン……ッ」
彼に向かって両手を伸ばすとカインが目を見開く。
ゆるゆると表情を緩めて私の手を握り、するりと指を絡めて恋人繋ぎにするとベッドシーツに縫い付けた。
「サナ……ははっ、名前を呼んでも締め付けるなんてな」
彼に名前を呼ばれる度、切ない気持ちが胸の奥で暴れまわった。
手を握り返しながら彼から与えられる快楽に耐える。
「サナ、サナッ! はあ、もう我慢、できない……」
トントンと刺激するような動きがガツガツと激しいものに変わる。
苦しいはずの衝撃でも体は快楽を見出して、電流が思考を焦がす。
「ぁ゛~~……ッ!」
子宮口に精が放たれるのと私が限界を迎えたのはほぼ同時だった。
声にすらならない悲鳴をあげて背中をピンとのけぞる。
敏感な中は精液が注がれる様子すら手に取るように分かった。
そのままの姿勢で余韻に浸りながら互いに息を整える。
肉棒がズルリと引き抜かれ、繋いでいた手も解けた。
「夜は冷えるな」
毛布に二人で包まって身を寄せ合うとほんのりと温かい体温が伝わってくる。
彼の胸板に頭を寄せて抱きつけば、彼の愛用する魔草の香りに混じった石鹸の香りに包まれる。
躊躇いがちに彼の手が私の髪を梳いた。
「今日はもう疲れただろう。このまま寝てもいいぞ」
宝物に触れるような彼の手つきはたちまちのうちに私の中に潜む睡魔を引き摺り出す。
家主より先に寝るなんて、と私の理性が咎めるも目蓋は既に落ちようとしていた。
「おやすみ、サナ……良い夢を」
ぶかぶかの袖を捲り、引き摺らないように持ち上げながらリビングルームに戻ると誰もいなかった。
それどころか飲みかけだったグラスも見当たらない。
寝室から音がしたので開きっぱなしのそこを覗けば何故かカインは部屋の掃除をしていた。
「あの、終わりました」
「うおっ! ああ、そうか。俺も汗を流してくる」
箒をしまいながら着替えを持って彼は寝室を出て浴室に向かった。
その背中を見送りながら髪を手持ちのハンドタオルでガシガシ擦る。
宿屋であれば料金を払って魔法で乾かしてもらえるのだが、さすがに家主の彼に頼むのは気が引ける。
幸いにも長い髪ではない。
乾くのに時間はかからないので水気をしっかり拭い取る。
「え、するの?」
シャワーを浴びたおかげか、すっかり酔いは覚めてしまった。
口に出せばじわじわと実感を伴ってきて、襲ってくる薄寒い感情を腕を擦って見なかったことにする。
「ワインでも飲もうかな……」
いつの間にかベッド脇のナイトテーブルに移動されたいた自分のグラスに残っていたワインを飲む。
といっても舐める程度に留めておいた。
これからのことを考えると悠長に飲んでいられなかったのだ。
特に意味もなくぶかぶかのローブを弄る。
「こういうときはお気に入りの香水でもつけて気分を高めるんだっけ……持ってないや」
飲み仲間の娼婦ベラドンナの言葉を反芻するが、どれもこの状況では役に立ちそうにない。
そもそも香水なんて買ったこともないのだ、お気に入り以前の問題である。
落ち着かない気持ちを抱えたまま部屋を特に目的もなく歩き回る。
箒を握って床を掃き始めたところでカインがこちらを見ていることに気づいた。
金髪を後ろに束ね、私と同じバスローブを着けていた。
「……いつから?」
無駄な足掻きと知りつつ背中に隠しながら元の場所にそっと戻しておく。
「香水の下りからだな」
魔法で髪を乾かしながらベッドに腰かけたカインはグラスにワインを注ぐとグイっと呷り、ポツリと呟く。
「やっぱり落ち着かないと部屋の掃除始めるよな」
隣に座るよう促されたのでそっと腰を下ろす。
グラスを受け取り、恥を追い出せないものかとワインを口に流し込む。
どう切り込んだものか思い付かず、手に持ったグラスの表面を指で撫でる。
髪を掬い上げられ、ブワッと暖かい風が水気を飛ばす。
気を利かせたカインが生乾きだった髪を乾かしてくれたらしい。
「ありがとう、ございます」
「どういたしまして」
ギクシャクしながら礼を告げれば彼にも緊張が伝わったのか声音も硬いものになった。
緊張で乾いた喉を残りのワインで潤すが、それでもやはり解れなかった。
空になったグラスを取り上げられ、ナイトテーブルの上に戻される。
「さすがに丈が余るな」
彼の指摘する通りゆったりとした作りのローブはさらにぶかぶかで、指先をピンと伸ばさないと爪すら見えない。
「そういえば右手は大丈夫か?」
「重いものを持たなければ大丈夫ですよ」
カインは指を引っ掛けてスルスルとローブを手首までずらすと私の手を取って甲にキスを落とした。
「なるべく優しくする」
指を絡めて恋人繋ぎにすると顔を近づけてきた。
アルコールで熱くなった吐息を感じるほど近づいた頃に彼の意図にようやく気づいた。
目を閉じると自分のかさついた唇と違って柔らかいそれが触れた。
「緊張してるのか?」
彼の親指が私の親指の付け根を撫でる。
無意識のうちに力を込めて握っていたようで、慌てて力を抜く。
その様子を見ていた彼が恐る恐るもう片方の手を私の背中に回した。
チュッチュッと聞いていて恥ずかしくなるようなリップ音を立てる。
肩に回された手が気づけば腰の方にまで降りていた。
「もう一度、してもいいか?」
改めて乞われ、空を思わせるような澄んだ瞳で私を見据える。
その目に見つめられているうちに心臓が早鐘を打ちはじめる。
「嫌、か?」
返答に困っていると彼の親指の動きが止まり、ほんの少しだけ握られた手から力が抜ける。
凍りついた喉では上手く声も出ないので、解こうとする彼の手を強く握る。
この動作だけでも恥ずかしくてどうにかなりそうだった。
まともに彼の顔を見れなくて俯く。
「サナ、俺にはお前の気持ちが分からない。悪いが言葉にしてくれないと、俺はまたやってしまう」
彼の言葉に罪悪感が刺激された。
悲鳴をあげる羞恥心に気づかないふりをして口を開ける。
「嫌じゃ、ない、です……」
震える声で突っかかりながらも懸命に答える。
ぎゅっと目を瞑り、彼の胸元のローブを開いている手で握ると、腰に回された手に力が篭った。
「顔を上げてくれ」
半ば睨みつけながら顔を上げれば、再び彼の唇が押し当てられる。
さらに啄むように何度も繰り返される。
一向に離れる気配がなくて、酸欠で頭がクラクラしてきた。
それでも他人のぬくもりというものを手放したくなくて彼の行為を受け入れる。
「ははっ。そうか、したいか」
噛みしめるような声は、昨日彼が行為中に発した掠れた低いそれで、胸の奥の心臓が掴まれたような錯覚さえ覚える。
『何か』に期待している時の胸の高鳴りはあの時に感じた体の奥が擽ったくなるような感覚を伴って思考をふつふつと沸騰させる。
アルコールの所為と割り切って求められるままに唇を彼に差し出し続けた。
やんわりと手が解かれて向かい合うように体勢を変えた。
抱きしめられながら熱を孕んだ舌が捻じ込まれると、どこも触られていないというのに上擦った声が唇から漏れる。
「胸、触るぞ」
律儀に何処を触るのか伝えながら彼はバスローブの上から胸を撫でるように触る。
何の力も入っていない手の動きは彼が手を繋いだときに宣言したものを意識しているのだろうか。
時折私の様子を伺いながら強弱をつけて撫でる動きと揉む動きを反復する。
彼の大きな手では私の胸を掴むなど容易なことで、やわやわと持ち上げるように揉みながら舌を絡めてくる。
「痛くないか? なあ、サナ……気持ち、いいか?」
「だいじょう、ぶです」
囁くような声でしきりに私の名前を呼びながら行為を続けるカイン。
呼ばれ慣れたはずの名前はまるで他人のもののよう。
私を見つめる瞳は昨日の時よりも冷たくて剣呑なのに悍ましいほどにぬるま湯のように暖かい。
一切欲を隠さないその視線を全身で浴びたいと思ってしまう。
得体の知れない疼きが湧き上がって、持て余したそれを彼の舌にぶつける。
じゅっじゅっと音を立てて吸えばくぐもった呻き声を出した。
さすがに痛かったかと思い、唇を離す。
「は、あ……舌、吸われるの気持ちいい、から……」
チロリと唇の間から舌を出し、快楽を求めて私の唇を舐め上げる。
望まれるがままに–––––いや、積極的に––––––彼の舌に吸い付いた上に舌先を自分のものでつつく。
「それ、すごい気持ちいい……んっ」
気持ちいいと言われ、気を良くして彼の唇を舐め、歯列をなぞる。
彼の顔の横に手を当てて固定するようにすればうっとりとした顔で目を閉じる。
バスローブの紐が引っ張られたところで彼が目を開ける気配がした。
唇を離すと名残惜しげに銀の糸が伸びる。
「触ってもいいか?」
バスローブの上から触ることと直に触ること。
彼にとって何か線引きがあるらしい。
「……は、ぃ」
尻すぼみになった声で許可を出せば骨張った彼の指先がくびれをなぞって脇腹を撫で上げる。
じっとりと汗ばんだ彼の掌が躊躇いがちに胸に触れた。
「マジで柔らかい……はあ、すごい」
揉む度に感想を溢すカイン。
暫くやわやわと指先を沈めて胸の感触を楽しんでいたが、親指と人差し指できゅっと胸の先端を摘む。
突然の鋭い感覚に声が漏れた。
「んっ」
「痛かったか!?」
パッと胸から手を離しバツが悪そうに私の顔色を伺う。
首を横に振れば彼はほっとした表情を浮かべるとそろそろと胸に手を伸ばす。
指の腹で押し上げるように乳首を弄り、鎖骨に顔を埋める。
はあ、と彼の体温を纏ったため息が肌を撫でた。
湿った風を浴びた肌は外気に触れるとすぐにひんやりと冷えて鳥肌が立つ。
「傷……」
ポツリと彼の呟きが部屋に響いた。
その言葉の意味を理解するにつれて熱に浮かされていた思考が正常に戻っていく。
カインから距離を取ってバスローブで体を隠す。
「ぁ……ああ! さ、さすがに傷まみれはキツいですよね。ウッカリしてました、すみま、せん」
浮かれきってきて忘れていた。
自分の体はこれまでの仕事で負った傷の数々の存在を忘れるなんて、自分はなんて愚かなんだろう。
先ほどまで焦がれていた彼の視線に晒されるのが怖い。
何度か自分が男だったらと思ったことはある。
不注意で負った傷や死闘の末についた傷痕は男の勲章だと持て囃されただろう。
私にとっては誇りであっても世間から見れば哀れみの対象でしかない。
「気分転換にワインでも飲みます?」
殊更彼に同情の眼差しを向けられたら立ち直る自信がない。
ちっぽけなプライドを守るために空々しい口調でわざとらしくおどけてながらナイトテーブルに手を伸ばす。
「飲まない」
グイっと腰を引っ張られて彼の腕の中に捕われる。
私のバスローブをずりさげて肩を露出させると彼は右肩の古傷のある位置に歯を立てる。
チクリとした痛みの後に強く吸われてヒリヒリとした痛みが残る。
「カインさん?」
呼び掛けても返事はなく、カインは丹念に古傷に歯を立てる。
やがて飽きたのか、舌を這わせるとピリっとした電流にも似た痛みが走った。
何度も噛まれるうちに皮膚が少し切れたらしい。
「さっきのは見えたから口に出しただけだ。特に深い意味はない」
「カイン––––ひゃっ!?」
喋っている途中だというのにバスローブの裾が捲くられて腰に熱を持ったものが当たる。
ガウン越しでないそれの柔らかいような硬いような感触に昨日の余韻が残る体が慄いた。
「ここ、触るぞ」
彼の指が太ももの内側に滑り込んで足の間に到達する。
反射的に閉じようとした膝の裏にもう片方の手が回され、無理やり足を開く姿勢になった。
「暴れたら怪我するぞ」
耳の裏に唇を押し当てながらカインは茂みをかき分けて割れ目に指を沈める。
はしたなく溢れる粘液を指で掬い上げてグチュグチュと音を立てながら往復させる。
「濡れてるな。気持ちよかったか」
「あ、ふ……」
彼の指がある一点を掠めるたびに、その刺激に耐えきれなくて体が跳ねる。
羞恥に顔を染めても彼の責め立てる手は止まらない。
狙いを定めて陰核を嬲り、腰を揺らして逃げようとすれば彼の足が絡みつく。
「敏感だな。触るたびに体が痙攣してる」
耳元で反応を具に解説され、縁を舌先で舐められる。
じゅるると音を立てて耳を責められると視界の奥がチカチカと白く発光する。
「イきそうか?」
「ひっ! んーー! んぅーー!」
ゆったりだった指の往復が小刻みなものに変わる。
グリグリと円を描くように動かされると全身に力が入る。
叫びかけた口を慌てて押さえて肺に残っていた空気を全部吐き出す。
クタリとカインの胸に背中を預けて肩で息をする。
起き上がらないといけないと思うのに脱力した体では動くことも億劫になる。
指が下に移動し、ツプリと音を立てて中に侵入する。
彼の骨張った指が浅いところを何度も出し入れされた。
「苦しくないか?」
頷けば、膝の裏を掴んでいた手が胸に伸びる。
人差し指で胸の飾りを弄られると腰が揺れる。
押し当てられた彼のものがさらに当たって、その存在と熱に整ったはずの息が乱れ始める。
おずおずと奥に入れ、軽く指の腹で引っ掛けながら引き抜く。
引き抜かれた時、擽ったさに体に力が入った。
「痛いか?」
締め付けを痛みによるものだと考えた彼は動きを止める。
「大丈夫ですから……」
「ああ、続けるぞ」
指が一本追加され、慣らすように膣を捏ねるように動かす。
くぐもった水音と彼の荒い息が鼓膜に響き、剥き出しの背中に触れた胸板から私よりも早いペースで鼓動を打つ心臓の存在に耳まで熱くなる。
ズルリと指が引き抜かれる。
「もう、充分か」
ゆっくりとベッドに押し倒され、部屋の照明を背景にカインが私に覆い被さる。
「カインさん、明かり……」
「分かった」
彼が照明に指を向けて下に下げるだけで部屋の照明が暗くなる。
蝋燭程度にまで絞られ、ぼんやりと暗くなった部屋でも魔力持ちの彼の瞳は蒼い。
その目を爛々と輝かせながら私の膝を掴んで開かせた。
先端を馴染ませるように擦り付けたあと、ピトリと押し当てる。
「入れる、ぞ」
圧迫感を増した異物に息を鋭く吐いた。
昨日の今日とはいえ、頭では受け入れていても、体はついてこない。
切り傷や殴打とは違った内臓の拡張される感覚はすぐに慣れるようなものじゃなかった。
「痛いか?」
「いたくは、ないです」
カインはその答えを良しとしなかった。
「じゃあ、苦しいか?」
息を吐いて全身の力を抜けば異物感は多少マシになる。
この異物感にすんなり慣れていた昨日の私も神殿のカラクリの影響を受けていたようだ。
「大丈夫です、から続けてください」
彼は広い背を丸めると私に顔を近づける。
私の唇に舌をねじ込みながら腰をグイグイと進める。
思わず体に力が入り、危うく彼の舌を噛むところだった。
彼の肩を叩いて抗議するも容易く手首を掴まれて封じられる。
「痛くも苦しくもないなら俺の舌を噛む理由はないだろう」
図星を突かれ、彼の咎めるような視線にきまりが悪くなって顔を逸らす。
そうすれば今度は耳に吐息を吹き込まれる。
生暖かいそれに体が過剰に反応して余計力が入った。
「本当に耳、感じるんだな」
「耳はだめなんです。ひっ、ん……」
指の時と同じく浅い位置で抽送を繰り返しながら執拗に耳を責めたてる。
彼の舌が耳を這い回る度に体の奥が疼いてどうしようもなくなる。
止めさせようと彼の肩を押していた私の手はいつのまにか彼の首に回してしがみついていた。
「カインさん」
「カイン、でいい」
囁くような掠れた声で彼は求めた。
敬称も付けずに呼ぶのはまずいと脳内で警鐘が鳴り響く。
超えてはならない一線を超えてしまうような––––––肉体的な意味ではなく精神的な意味で––––––そんな危うい瀬戸際に立たされている。
明確な理由はないが、なんとなくそんな気がした。
「この時だけでいい、から……頼む」
震える彼の声と縋るような瞳に理性がドロドロと溶けだす。
「カイン」
敬称を外しただけなのに違う響きを伴って口を出る。
喉から出たのは自分の声じゃなくて、風俗街で聞くような媚を売るような甘えた声だった。
「それでいい、サナ……今だけは俺を」
カインは私の名を呼ぶと腰を掴んで一番奥まで入れた。
グリグリと腰を押し付けながら子犬のように唇を舐めてきた。
唇を開いて自ら舌を絡めて抱き寄せる。
「サナ、サナッ……」
最奥をコンコンと突かれる感覚は苦しいはずなのに何かが込み上げてくる。
陰核を触られた時よりも深い快感の波に全身が粟立つ。
明らかに昨日とは全く違った動き方をされて困惑する。
「カイン、まって、これ、や、やだ!」
首を振って嫌がっても彼は目を細めるだけで追い立てることをやめない。
「気持ちいいな、サナ。溶けそうだ」
目尻に浮かんだ涙を吸い上げられ、意思とは無関係に彼のものを締め上げる。
「これ、ヘンになる、からっ! まって、ねえ、まって」
「なれ。なっちまえ、ヘンに、なれ!」
泡立った粘液の気泡が抽送のはずみに潰れてずちゅずちゅと音を立て、奥をグリグリと先端が捏ね潰す。
「あ、あぁぁぁぁ!?」
快感が弾けた。
弓形にのけぞると思考まで真っ白に塗りつぶされる。
膣は痙攣してカインを締め付け、肺の中にあった空気が悲鳴と共に外に出る。
はくはくと酸素を求めて口を開けるが呼吸すらままならない。
痙攣が治まる頃には全身に力が入らなくなって、ベッドのシーツに体を預ける。
「奥で感じるのは難しい、というが……俺たちは相性が良いみたいだな」
汗で張り付いた前髪を退けて額に口付けを落とすカイン。
グリ、と奥が擽られる。
「あ゛あ゛!? ひ……なん、でえ?」
てっきり終わったものだとばかり思っていた体は不意打ちの快楽を貪欲に捉える。
「サナ、もっと気持ちよくなろうな」
口角をあげて獰猛な笑みを見せるカインと視線がかち合う。
引き攣った悲鳴があがり、心臓が痛いぐらい縮み上がる。
私の中で脈打つ彼の肉棒は熱を失うことなく、いやむしろさらに硬くなっていた。
カインの指が鳩尾から臍をなぞる。
掌でゆっくり押しながら腰を動かすと快感の炎が燻った。
「分かるか、俺のものがお前の子宮口を押すたびにビクビク痙攣して、はあ……気持ちいいな」
「あ、ふ……カイン、カイン……ひっ!」
「また、イきそうだな。そういえば、奥でばかり感じていると、他では満足できなくなる、らしいな」
ふやけた頭では彼の発言の真意が掴めない。
考えている最中にも子宮口をゆっくりと圧迫され、電流が脊髄を駆け上がる。
先ほどよりも敏感になった体は快楽に耐えきれなくて、涙がボロボロと零れ落ちた。
「カイン……ッ」
彼に向かって両手を伸ばすとカインが目を見開く。
ゆるゆると表情を緩めて私の手を握り、するりと指を絡めて恋人繋ぎにするとベッドシーツに縫い付けた。
「サナ……ははっ、名前を呼んでも締め付けるなんてな」
彼に名前を呼ばれる度、切ない気持ちが胸の奥で暴れまわった。
手を握り返しながら彼から与えられる快楽に耐える。
「サナ、サナッ! はあ、もう我慢、できない……」
トントンと刺激するような動きがガツガツと激しいものに変わる。
苦しいはずの衝撃でも体は快楽を見出して、電流が思考を焦がす。
「ぁ゛~~……ッ!」
子宮口に精が放たれるのと私が限界を迎えたのはほぼ同時だった。
声にすらならない悲鳴をあげて背中をピンとのけぞる。
敏感な中は精液が注がれる様子すら手に取るように分かった。
そのままの姿勢で余韻に浸りながら互いに息を整える。
肉棒がズルリと引き抜かれ、繋いでいた手も解けた。
「夜は冷えるな」
毛布に二人で包まって身を寄せ合うとほんのりと温かい体温が伝わってくる。
彼の胸板に頭を寄せて抱きつけば、彼の愛用する魔草の香りに混じった石鹸の香りに包まれる。
躊躇いがちに彼の手が私の髪を梳いた。
「今日はもう疲れただろう。このまま寝てもいいぞ」
宝物に触れるような彼の手つきはたちまちのうちに私の中に潜む睡魔を引き摺り出す。
家主より先に寝るなんて、と私の理性が咎めるも目蓋は既に落ちようとしていた。
「おやすみ、サナ……良い夢を」
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