欠陥品なんです、あなた達は・・・ネズミ捕りから始める異世界生活。

切粉立方体

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 この世界へ無理矢理召喚されてから、無事四週間が経過した。
 その間、僕達のこの世界に関する知識は少しずつ増えた。
 一般的なこの世界の常識や字は、夕食の食器洗いの御駄賃としてメアリーさんが教えてくれたし、冒険者として必要な知識は、プクさんやいつも買い物をする店の御主人達が教えてくれた。

 まず一日の長さが違う。 
 一日は二十五鐘。
 一鐘が大体一時間くらいなので、地球よりも一時間長い。
 時刻は、町の四方に設置された時の女神教会の鐘堂が一鐘毎に鐘を衝いて知らせてくれる。
 ちなみにこの時を告げる鐘は有料で、町に建物を持つ人々から強制的に徴収されている。
 貧乏な慈悲の救済教会も例外ではなく、毎月一シルバーを強制的に徴収されているとメアリーさんが悔しそうな顔で説明してくれた。
 下水道に潜っている僕達には、当たり前だが教会の鐘の音は聞こえないので時刻は解らない。
 古道具屋で時計の様な時刻を知らせる魔道具は無いか聞いてみたのだが、教会が毎月一ゴールドを徴収に来るので普及しなかったそうだ。

 夜明けが一鐘で、今は朝の六時くらいだろうか。
 当然季節よって一鐘の時間がずれている筈なのだが、特別気にする人もいないようだ。
 五鐘と呼ばれる朝の十時くらいまでがあけ刻、六鐘から十鐘までが陽刻、十一鐘から十五鐘までが夕刻、十六鐘から二十五鐘までが眠刻と呼ばれている。
 
 僕らは一鐘の鐘で起き、二鐘の鐘で下水道に潜る。
 十二鐘の鐘前後に教会へ戻り、公衆浴場へ行ってから、十四鐘くらいに夕飯を食べて十六鐘の鐘を聞いてから寝る。
 地球時間で、朝六時に起きて夜九時に寝る健康的と言えば健康的な生活なのだが、折角一日が一時間長いのに、なんだか無駄にしている気がする。
 
 一週間の長さも違う。
 僕達が召喚されてから四週間が経過したのだが、地球での尺度に合せれば、なんと四十日間だ。
 こちらの一週間は十日間もあったのだ。
 月、火、水、木、金、土、日までの曜日の呼び方は不思議なことに一致していて、日曜日の次に風曜日、闇曜日、聖曜日という曜日が余分に追加されていた。
 日曜日も含め休日はなく、この世界の人は一週間ずっと休まず働き続ける。
 その替りに季節の変わり目には必ず一週間の季祭があって、その間は仕事はお休みになる様だった。
 
 一月の日数も違った。
 五週間で一月、そう、この世界の月の満ち欠けは五十日周期なのだ。
 だから僕らはまだ、後五十日間も格安の慈悲の救済教会の礼拝堂で厄介になれる。
 
 一年の長さも違う。
 一年は八ヶ月、四百日もある。
 この地方では雪精霊の季節と言われる冬が三ヶ月と最も長く、花精霊の季節と呼ばれる春が二ヶ月、光精霊の季節と呼ばれる夏がたったの一ヶ月で、風精霊の季節と呼ばれる秋が二ヶ月となっている。
 今日は風精霊の季節の前月の最終日で、これからどんどん寒くなって、厳しい長い冬が近づいて来る。

 少し戸惑ったのが僕達の年齢だ。
 認識票には年齢が刻まれているのだが、字が読める様になって確認したら、小四の五人は皆八歳、小六の二人が十歳、中二のハルさんが十二歳、高一の僕が十四歳だったのだ。
 念のため、自分の年齢を時間に換算して計算し直してみたら、確かに合っていた。
 この世界は一年が一万時間なので計算し易い。

 ちなみに、僕らがこの世界に召喚されたのが月曜日で今日は聖曜日だ。
 聖曜日はその名の通り神様に感謝する聖なる日で、メアリーさんに無理矢理一鐘早く叩き起こされて女神像と礼拝堂の掃除と祈祷をやらされる。

 僕らが召喚されたのは、ここの住人達がファルシア世界と呼ぶ世界で、これは以前メアリーさんから聞いている。
 人が住む五つの表大陸と魔獣やドラゴンが跋扈する裏大陸とがあり、表大陸は円形状の大きな中央大陸を囲む様に東西南北に四つの細い三日月状の大陸が囲んでいる。
 ちなみに、僕達が召喚されたのは北大陸の東にあるフルティアという王国で、この国で三番目の人口を誇る宗教都市ストロベリだった。
 教区と呼ばれる石壁に囲まれた教会が立ち並ぶ旧市街地区を中心に、南側に商人達が住む商業区、南西側に職人達が住む工房区、南東側に住宅区と倉庫区があり、北半分には田園地帯が広がっている。
 拡張を続ける都市全体を、移動可能な丸太を打ち込んで並べた木柵で囲い、魔獣や野犬の侵入を防いでいる。

 僕達の住んでいる慈悲の救済教会は、工房区と商区の境目に広がる貧民街の中にあり、貧民街の商区側は、怪しげな看板が並んだ歓楽街、工房区側は貧しい家屋が並んでいる。
 歓楽街は、僕達の行動範囲、公衆浴場側とは反対方向なのでまだ見た事がない。

ーーーーー

 この四週間で僕達が狩った鼠は四千百六十八匹。
 二週目からはコンスタントに一日百匹を越える鼠を狩っているのだが、僕とハルさんの歩き回る範囲も広くなり、倒せる鼠の数も頭打ちになっている。
 毎日救済粥の食材として鼠を三匹提供しており、食器洗いに加えて調理も手伝わされるようになってからは、僕等も鼠を上手に捌けるようになった。
 僕達専用の包丁を二シルバーで購入し、昼休憩で焚火を囲み、ジュウジュウと焼けた鼠を食うワイルドで楽しい時間を過ごしている。

 そして今日、ついに僕達は二十七匹目の魔石持ちの鼠を倒し、頭の中に硝子の粒が澄んだ音で流落ちるような音を聞いた。
 そう、メアリーさんに聞いてみたら、これがレベルアップの音だった。
 これでやっと魔道具も使え、魔法も覚えられるようになる。
 やっと、この世界での一人前になれる。

 単純計算で大体魔石持ちが百五十匹に付き一匹、プクさんに言わせると、普通は千匹に一匹なので、僕等は凄く運が良かったらしい。
 でもレベルアップしたと言われても、身体に何の変化も現れない。
 とりあえずメアリーさんに詳しい話を聞いてみることにした。

「仕方が無いわね。教えてあげるわ。あなた達に解り易い様にレベルアップって説明したけど、正確には開花なの」

 開花とは、何かの比喩的な表現かと思ったのだが、本当に花が開くことだった。
 この世界には魔花という植物があって、人の身体の中に芽吹いて成長するらしい。
 魔花は本来、魔法世界と呼ばれている異なる世界の植物なのだが、空間をズブズブと貫いて、この世界に遠征して来る不思議な植物なのだそうだ。
 根っ子は魔法世界に残っているので、魔法世界から不思議な力を汲み上げる能力があるらしい。

「花って呼んでるけど、見えないから、正確にはどんな形してるのかは誰も知らないの。でも花が咲く植物って考えると一番説明し易いし、理に適っているから、この世界では魔花という植物だって想像しているわ。空間を越える能力を獲得した異世界の植物が、適した生育環境を求めて他の空間の生き物に寄生しているって考えてる学者さんもいるわね。根っ子は魔法世界に留めてあって、本体だけをこちら側の世界に生やしているらしいの。だから魔花と私達の身体を同化することによって、魔花が住んでいる魔法世界の不思議な力を、私達が魔法という形で利用できるんだって言われてるわ」

 この世界の人間は、魔花が育つ必須要素を身体に持っているので八歳の誕生日に魔花は芽吹いて開花する。
 異世界人の身体にはこの必須要素が無いので、魔石を持った生き物を殺して必須要素を身体に取り込み、それが貯まると魔花が芽吹いて開花する。

「でも魔花が芽吹いて開花するだけじゃまだ魔法も魔道具も使えないのよ。理由は、身体の中に芽吹くと言っても、魔花は幽霊みたいな存在で、この世界にはまだ存在できていないからなの。だから私達は、魔力の賦与と呼ばれる儀式で私達の身体の方を少し作り変えて、魔花の存在に少し近付けるの」
「シスター、それって痛いの」
「リコちゃん達は良い子だから大丈夫よ。ちょっとビリっとするだけで全然痛くないわよ。でもねー、タケミチは解らないわね。女神様がまだ怒ってるからうんと痛いかも知れない」
「シスター、俺は」
「ユウはぎりぎりセーフよ」
「ああ良かった」
「でもぎりぎりだからね、あんたのセクハラには女神様も少し怒ってるから、自重しなさいよ」
「うげっ」

 警告なのだろうか、認識票から嬉しそうなビリビリが伝わって来る。
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