欠陥品なんです、あなた達は・・・ネズミ捕りから始める異世界生活。

切粉立方体

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8 魔法2

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「話を元に戻すわよ。えーと、魔力の賦与の話よね。魔力の賦与は、身体の中に咲いた魔花の花弁を一枚抜き取って、身体の中に拡散させる儀式なの。魔花の花は魔法世界側の空間から人の世界側の空間に浮く様に咲いているって言われていて、人の世界側から操作できる魔法世界側の貴重な存在と言われているわ。魔法世界の存在を私達の身体に染み込ませることによって、私達の身体が少し魔法世界に近い存在になるの。これで魔花は私達の身体を土壌として成長できるし、私達は魔花が吸い上げて来る魔法世界の力を利用できるようになるの。これで魔道具の使用が可能になるわ」
「魔法はまだ使えないの」
「アキちゃん、これじゃまだ魔法はまだ使えないの。魔法を使うためには、魔法の力を放出する身体の場所を決めて、脳とその場所とをつなげる細い管を花弁で作る必要があるの。魔法力を放出する身体の場所は、覚えたい魔法によって違うから、慎重に選んだ方がいいわよ。それが終わったら、脳と魔花を繋げて、魔花に覚えたい魔法の基本術式を刻印して、それから脳に発動させる魔法の術式を刷り込むの。術式の刻印にも刷り込みにも、接続にもそれぞれ花弁が一枚使われるわ」
「ずいぶん魔花の花弁が必要なんですね、メアリーさん」
「ええ、ハルちゃん、魔法世界と私達の世界を媒介することが出来る唯一の素材だから、花弁という材料に頼らざるを得ないのよ。しかも身体の外へ取り出すと消えちゃうから、宿り主しか利用できないの」
「両目を魔法発動部位にして一種類の魔法を覚えるとすると、全身を馴染ませるのに一枚、魔法の経路作りに右目に一枚、左目に一枚、基本術式を魔花に覚えさせるのに一枚、魔花と脳を繋げるのに一枚、そして実際に使いたい魔法を脳に覚えさせるのに一枚、合計六枚の花弁が必要になる。合ってますよね、メアリーさん」

 ハルさんが指を折って確認する。

「正解よ、ハルちゃん。発動魔法の術式を記憶して花弁を節約する方法もあるけど、難し過ぎて諦める人が多いわね」

 メアリーさんが嬉しそうに頷いている。

「そもそも魔花の花って花弁は何枚なんですか。それに一回で何輪咲くんですか、メアリーさん」
「ぼーっと生きてるタケミチにしては難しいことを聞くわね。どうしても教えて欲しい?」
「ええ、教えて欲しいです」

 メアリーさんが器用に片眉だけ上げて、意地悪そうな目で僕を見ている。
 目を逸らして視線を落したら、メアリーさんの胸に目が行ってしまった。
 胸の無さは慈悲の女神様と良い勝負、明美やユウ?と良い勝負だろうか。
 うわっ痛つ、認識票がスパークした。
 女神様ごめんなさい。

「なんか失礼な事考えたでしょ。でも、ちゃんと説明しとこうと思ってたから、ちょうど良いわ。最初の開花は一輪しか咲かないわ。それと花弁の数は、人によって多少変わるけど、基本は十枚よ。異世界人も、この世界の人間も大差なし、異世界人への特典なんて無いわよ。この世界の人間は八歳で開花するから、あなた達は、やっと八歳の子供と肩を並べたところかしら」
「でも僕等は、これから何度もレベルアップできるんでしょ」
「ええ、そのとおりよ。でも異世界人は、この世界の住人に比べて不利なの」

 異世界人は、召喚されてから五年間で、二十回くらいレベルアップはできるらしい。
 
「でもね、開花が二十回を超えると、急に開花のために倒さなきゃいけない魔獣数が多くなって、優れた冒険者でも四年に一回程度しか開花しなくなるの。若い時は急激に能力が伸びる分、この世界の住人よりも優れた能力者なんだけど、二十八歳を過ぎるとこの世界の住人にどんどん追い抜かれてしまうの。この世界の住人は八歳の誕生日から四十二歳の誕生日まで毎年一回開花するから、三十五回の開花の機会があるんだけど、異世界人は、頑張っても二十二、三回なの。だから、最終的な能力に大きな差が生じてしまうの」

 この世界の住人はレベル三十五まで到達できるが、異世界人はレベル二十三止まりらしい。

「でもね、若い時に能力が高いってことは、冒険者として凄く有利なのよ。異世界人が冒険者として生き残る確率は、この世界の人間より五倍以上も高いの。だから、異世界人は優れた冒険者なのよ」

 逆に考えれば、死ぬ確率の少ない真っ当な職業には、異世界人が入り込む余地は無いということなのだろう。
 冒険者くらいしか、異世界人は使い道が無いということだ。
 なら、何故わざわざ異世界人を召喚するのだろう。

「何でわざわざ異世界人を召喚なんかするんですか、動機が無いように思うのですが」
「うー、いつも眠そうにボーっとしてるから気が付かなかったけど、タケミチは案外鋭いわね。あなた達が変に期待すると可愛そうだから言わなかったんだけど、本当の召喚の理由は他にあるの」

 ストロベリで召喚が始まったのは五百年前、その当時の北大陸は戦国時代で、各国が覇を競っていた。
 招きの丘は北大陸唯一の召喚に適した場所で、戦局を一気に打開できる勇者を召喚するため、フルティア国王は国家予算の大半を叩いて招きの塔を建造したそうだ。

 召喚当初、異世界人の成長が早いので喜んでいたそうなのだが、数年で魔法能力が一般民よりも劣っていることが解ってしまった。
 今更失敗と告白すれば、貴族達に殺されると考えた国王は、異世界人を無理やり戦場へ投入して証拠隠滅を図りながら、厚顔にも、召喚の成功を宣言して召喚規模を拡大したそうなのだ。

 そして数年後、国の財政が傾き始めた頃、本当に勇者級の人間が召喚されてしまったそうなのだ。
 召喚者は女性だったので、国王は、王都近くまで迫っていた敵対国との和平の貢物として、この女性を差し出してしまったらしい。

「何か泥縄な話なんだけど、敵対国の国王には物凄く喜ばれて、結局この国が救われたの。魔力はこの世界の貴族や王族の力の象徴だから、魔法力向上を目指して、兄妹だろうが姉弟だろうが魔力が強い者同士を結婚させていたんだけど、互いに血が近くなって、少しずつ力が衰えて来ていて凄く深刻な問題になっていたの。そこに全く新しい異世界人の血でしょ、しかも比べ物にならないくらい凄い能力。直ぐに撤退して和平が結ばれたそうよ。でもね、今度はそれを伝え聞いた他の有力国の王達が一斉にフルティアに進攻して来て、王城を取り囲んだそうよ」

 その王様は何かに呪われていたのだろうか。

「剣で脅迫されて、各国に三百年間、召喚された勇者級の異世界人を譲り渡す契約にサインさせられたそうよ。今はその義務も無くなって平和な時代になったんだけど、勇者の各国の王室への供給が、国の義務として続いているのよ」
「その十年に一人の勇者以外は全員おまけですか」
「ぶっちゃけて言うとそうなんだけど、あんまり公言すると異世界人が苛められちゃうでしょ、だから優秀な冒険者ってことにしてるの。だから言い難くてさ、あはははは」

 どうやら、僕達だけではなく、本当は召喚者のほぼ全員が欠陥品ということらしい。 

 北大陸のほぼ全ての貴族や王族は、召喚された勇者達の血が混じっているらしい。
 家紋は魔花をデザインした物が多く、自分の家の優位性を誇示しているらしい。

「私達も貴族になれる可能性があるの、シスター」
「ごめんねリコちゃん。隣の国の王妃様が、五年前に召喚された方だから、たぶん駄目じゃないかな」

 やっと一人前になれたと思ったが、まだまだ前途多難らしい。
 まあ取敢えず、日々を生きるのに忙しい僕等に偉い人達のことは関係ない。
 メアリーさんにお願いして、魔力の賦与の儀式を行ってもらうことにした。

 教会の屋根裏から、埃を被った二メートル四方の厚い板一枚と柱を四本引っ張り出す。
 板には魔法陣が描かれており、祭壇前にその板を設置して四隅に柱を立てる。
 柱と板を良く拭き清めて汚れを落としてから、儀式が行われた。
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