欠陥品なんです、あなた達は・・・ネズミ捕りから始める異世界生活。

切粉立方体

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9 魔法3

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「この儀式久しぶりだなー、十年振りくらいかしらねー」

 紫色の儀式用マントを羽織ったメアリーさんが、不安になる様な事を呟いている。
 最初にハルさんが魔法陣の真ん中にひざまずいて女神様に祈りを捧げる。
 メアリーさんが呪文を唱え始めると、四隅の柱と魔法陣が不思議な紫色の光りを発してハルさんを包み込んだ。
 ハルさんの身体が光って金色の光りを放っている。
 金色の光りが治まるとそこでハルさんの儀式は終了した。

「ハル姉、どんな感じだった」
「ほかほかしてお湯に浸かってる感じかな。なんか、身体が軽くなってすっきりしたわ」
 
 明美、ユウ、リコ、メイ、リン、孝太、隆文と順番に儀式が行われ、最後に僕の番となった。
 ひざまずいて祈りを捧げていたら、突然上からの踏み潰されるような物凄い力が襲ってきて、僕は魔法陣の上に腹這いで大の字に押し潰された。

「うー、苦しい」

 そして四本の柱が徐々に光り始め、電撃となって飛んできた。
 遠くに綺麗な花が咲き乱れるお花畑が見えたような気がする。

「はい、お終いよ」
「兄ちゃん、焦げ臭いけど大丈夫」
「ああ、なんとか生きてる」

 次に必要なのが魔法を放出する身体の場所の選定と管作りで、花弁を節約するためには一ヶ所に絞った方が良いらしく、覚える魔法も有る程度絞り込んで考えなければならない。
 魔法力を放出する場所は、得たい魔法によって異なり、火魔法や水魔法などの一般的な魔法では、利き手を選択することが多いらしく、方向や出現させる場所を指差すことで出現させる魔法のイメージが容易になるらしい。
 身体の機能を増強することを目的とする体術魔法では、機能を増強したい腕や足などの部位、音魔法ならば声帯が一般的らしい。
 
 そもそも僕らがどんな魔法を覚えたら良いのか、僕達の戦い方を説明してメアリーさんにアドバイスして貰った。

「まず基礎中の基礎は死なないようにすること。特に子供達は生命力がちょっとしか無いんだから、鼠相手でも大怪我したら直ぐ死んじゃうわよ。この世界じゃ最初に覚えさせる魔法は自身に施す治癒魔法の再生よ。大きな怪我ほど傷の治りが早くなるから、致命傷になるのを防げるわ」

 ファイヤーボールが欲しいとか、アイスランスを覚えたいとか、メテオが習いたいとか言って騒いでいたリコ達五人は、ぎょっとして口を噤んだ。
 鼠を狩ることに慣れすっかり油断していたが、僕達は常に死と隣り合わせの場所に立っている。
 夢の世界から引き摺り降ろして、リコとメイとリンと孝太と隆文は、地味で現実的な治癒魔法を覚えさせることにした。

「アキとユウにも治癒魔法を覚えさせたいけど、ハルちゃんとタケミチが役立たずだから、あんた達が攻撃の中心だもんなー。多少リスキーだけど、ある程度生命力が有るから攻撃優先かしらね。それに体術魔法を教わって両足の機能を強化すれば回避力も上がるし一石二鳥よね。うん、二人は両足の機能強化ね」
「申し訳ない」
「ごめんね」

 通常の魔法に関しては、それぞれ神様に縄張りがあり、その神様を祀る教会で刻印を賦与して貰える。
 ただ体術魔法だけは、格闘術から発展した身体の機能を強化する特殊な技能なので、冒険者ギルドや町道場で教えて貰う。
 体術魔法は、呪文の詠唱が不要で、魔力が続く限り効果が持続する、パッシブスキルの様な感じの魔法なのだが、力を持続させるためには日々の稽古が必要らしく、これは武道と一緒だった。
 ちなみに、慈悲の救済教会で扱っている魔法は初級の光魔法と中級までの治癒魔法で、競合する神様が多く、これも教会が流行っていない理由の一つらしい。

「ハルちゃん、タケミチ。あんた達は攻撃力が無い囮役だから選択の余地が無いわね。治癒魔法の再生で決定ね」

 異議あり!僕らが喉から手が出る程欲しい魔法がある、それは視力をほんのちょっとでも改善させる魔法だ。
 たぶんメアリーさんには、この不便さが伝わっていない。

「メアリーさん、視力を回復する魔法ってありますか」
「えー、そんな物ないんじゃないかな。今の状態でも生活できてるんだから、私のアドバイスに従って再生にしなさいよ」

 冷たい事を言っているメアリーさんを質問攻めにして、根気良く色々な魔法の特質を聞き取り木簡に書き留める。
 最初お座成りだったメアリーさんの説明も、僕達の必死さに押されたのか、次第に実が入って来る。
 その結果、可能性がある魔法は三つあった。

 一つは体術魔法による眼力強化だ。
 視力強化なら文句無しの満点なのだが、眼力強化は少し違う魔法らしくちょっと微妙。
 もう一つは光魔法の遠写しと呼ばれる魔法で、遠くの光景を白いシートなどに映し出す魔法だ。
 たぶん、光りを屈折させるレンズを何枚か空中に作り、望遠鏡の様な原理で遠くの光景を映し出しているのだと思う。
 応用すれば、眼鏡を作り出せる可能性もあるが、実際にやってみないとなんとも言えない。

 最後がポピュラーな水魔法で、魔法名は水形維持。
 水を操って、水の盾や衣を作り出す魔法で、対火炎獣用の魔法だ。
 この魔法でコンタクトレンズを作れば近視が解消できるのだが、これは中級の魔法で、後四、五回は開花して水魔法をレベルアップしないと取得できない魔法だった。
 
 二人でじっくり相談し、僕が眼力強化を行い、ハルさんが光魔法を覚えて様子をみることにした。
 どちらかが有効であれば、次の開花で有効な魔法を取得し、両方駄目なら水魔法のスキルをじっくり貯めることにした。

「体術魔法を覚えるんだったら、会員割引があるから先にギルド登録しておいて、ギルドの道場で覚えた方が安上がりだぞ。それにこれだけの数の鼠がこなせるんだから、ギルドの依頼も十分に受けられる。入会金が一人三シルバーだけど、討伐報奨が貰えるし、それに冒険者としてのポイントを稼ぐことができるしな。どう思う、シスター」

 鼠を引き取りに来てくれたプクさんがアドバイスしてくれた。

「そうよね、あんた達貧乏人なんだから少しでも倹約しないとね。それにここから出て宿や貸家を捜す時も、ギルドに入ってれば貸してもらい易くなるしね。今のままじゃ町の外にも出られないから、丁度良い機会かしら。あんた達、冒険者ギルドに登録して来なさい」
「なんで俺達町の外に出られないんですか」
「浮浪者とか無能力者は、邪魔だから町の外へ追い出していた時期もあったの。でもね、町の周りの野犬の群が多くなっちゃって、陸運組合からクレームが付いて禁止になったの。だから、浮浪者と無能力者を町の外に出すのは禁止になったの」

 僕等は、浮浪者扱いされてるらしい。
 たぶん人権なんかを主張したら、槍でプスリと刺されてお終いなのだろう。
 
「魔法の刻印は少し身体が魔花に馴染んでからの方が良いから、今日中に魔法力の放出場所を作っておいて、明日の朝、冒険者ギルドへの登録へ行きなさい。それじゃどの場所を使うか決めて」

 明美とユウは両足で僕は両目、ハルさんは悩んだ末に両目にした。
 メアリーさんから聞き取った限りでは、魔法の力は体内を移動している間は維持されるが、体外に放出された途端に、距離と時間に応じて減衰するらしい。
 火魔法で例えれば、指先に炎を灯すのに比べ、同じ大きさの炎でも、十メートル先に出現させれば百倍魔力が消耗すると言う事なのだそうだ。
 だから眼鏡替わりに目の前の光りを屈折させる場合、手で魔力を操作するよりも、目を発動部位にした方が消耗が少ないとハルさんは考えたのだ。
 普通の魔法と違って、一日中効果を持続させる必要があるから消耗度は大きな要因だ。

 孝太と隆文は素直に右手、メイの右腕はまあ正常な範囲だったのだが、リコとリンは右目を選択した。

「だって、右目が魔眼なんて、何か恰好良いじゃない」

 こいつら、小四のくせに中二病か。

 そしてメアリーさんが放出経路の管の構築を施してくれた。
 実際は別空間に存在している映像の様な物なのだが、血管の中に拡散させた花弁を流し込んで、糸を形成する感じだと言っていた。
 僕以外は全然平気な様子だったのだが、僕は本当に目がチクチクして、目が飛び出ると思える程痛かった。
 しばらく涙が止まらず泣いていた。

「タケミチ、あんた魔花との相性が悪いんじゃないの。女神様のせいにしないで頂戴ね」
 
 なお、このままだと地上部だけが肥大して、魔花は不安定な状態になってしまう。
 最悪、魔花が衰えて枯れてしまうので、刻印に必要な花弁を残して、残りの花弁は魔花に返し、魔法世界の根っ子を補強に使ってもらう。
 この根っ子の補強が、使える魔法の頻度増加と魔法力強化、イメージ的にはマジックポイントの取得に繋がり、やっと魔法が安定して発動出来るようになる。
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