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10 冒険者ギルド
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翌朝、全員でぞろぞろと冒険者ギルドへと向かった。
体術魔法を覚えるのは僕と明美とユウの三人なのだが、冒険者ギルドでの最初のパーティー登録には、登録者全員の本人確認が必要なのだ。
冒険者ギルドは、町の繁華街である正門前の広場に建っている。
慈悲の救済教会からは徒歩で四十分ほどで、貧民街に隣接した歓楽街を抜けると、急に大きな石造りの建物が多くなり、荷車と人が多くなったと思ったら、重厚な門のある広場に到着した。
正門前の広場から旧市街区である教区の石壁にある旧正門へと延びる通りは、表通りと呼ばれており、大きな商会や宿、有名料理店が軒を連ねている。
冒険者ギルドは、広場に面した表通り脇の一等地の明るい場所に建っており、薄暗い貧民街でひっそり佇む慈悲の救済教会とは大違いだった。
大きな白い石造りの建物で、正面階段の白い石は磨いた様にピカピカ光っている。
その階段を恐ろしげな武器を持った人相の悪い人達が大勢行き交っている。
たぶん朝の依頼を貰いに来る時間帯なのだろう。
中に入ると周囲の視線が一斉に僕等へ集まって来るのを感じた。
どう考えても小さな子供は、ここでは場違いだ。
「へー驚いたな、まだ生き残っていたんだ」
「元気じゃないか、驚いたな」
「ちゃんと食事できてるのかしら、色が白いけど」
「ほう、右目が紫になってる子がいるな。こんな短時間で開花出来たのか」
周囲の呟き声が聞こえる。
一緒に召喚された人達が混じっているようだ。
周囲を見回す。左手が依頼の木札の掲示板で、右手が受付所、正面の階段を上がれば酒場になっている筈で、酒場の奥の階段をを登れば道場がある筈だ。
右手の一番右端が新規受付、プクさんが詳しく説明してくれた。
こんな時は、周囲が良く見えないのはありがたい、余計な緊張をしないで済む。
「すいません、新規登録お願いします」
「あらまあ、プクさんから聞いてたとおりだわ。本当に可愛い子供達ね。私の名前はケート、プクさんはうちのお得意様なの。それじゃ全員の認識票をこの箱に入れてから二十七シルバー納めてね」
ケートさんの指示に従って、全員の認識票を集めて箱に入れ、二十七シルバーを机の上に乗せる。
「それじゃ一人ずつそこの計測板の上に乗って総合力を測らせてね」
順番に机の前の体重計の様な板に乗る。
足元から熱の帯が登って来る様な感覚があり、脳天へと抜けて行った。
机の上の認識票を入れた箱と紐で結んであり、ケートさんはその箱を覗き込んで何かを確認している。
「うーん、総合力が少し足りないけど、プクさんが大丈夫って言ってから大サービスね。でもこの総合力でよく開花が出来たわね」
「地道に鼠をたくさん狩ってましたから」
「ふーん、鼠さんに殺されちゃう初心者って結構多いのよ。この間の召喚でうちのギルドが引き取った人達も、鼠さんに食べられて十人位死んじゃったの。まだ開花出来ない人も七人残ってるから、あなた達は優秀よ。はい、登録が終わったわ。ようこそ、ストロベリ冒険者ギルドへ、小さな冒険者さん達」
ケートさんが認識票を返してくれた、表面の刻印が少し増えている。
「入会特典として魔花の栄養剤を一人一本進呈するわ。魔花と身体との結び付きが強くなって、身体全体の筋力が少し増すの、ちゃんと飲むのよ。最初は十等級冒険者からだけど、討伐ポイントが貯まると九級に昇級できるわよ。その時にまた一本進呈するから、討伐ポイントが貯まったらちゃんと申請してね。栄養剤で筋力以外の基礎能力も一緒に上がることもあるから、楽しみにしてね」
「どんな基礎能力があるんですか」
「基礎能力は、体力、筋力、瞬発力、操作力、知力よ。体力が上がると生命力がアップして回復力が上がるの。筋力は身体全体の筋肉の力が強くなるから打撃力や貫通力が上がるわ。瞬発力は筋肉の反応性が良くなってスピードが上がるわ。操作力が上がると武器や防具や道具の扱いが上手くなるの。知力が上がると脳が魔法を覚えやすくなって、魔法力が少し増えるわ」
魔花の栄養剤は、普通の栄養ドリンクの味だったが、飲み終わったら、一瞬だけ身体の筋肉が内側に引っ張られる感じがあった。
「それじゃ俺達は三階で体術魔法習って来るから」
「ええ、私達も教会に戻って魔法を教えて貰うわ。はい、二十四シルバー、それと昼御飯用に二シルバー渡しておくから」
「ありがとう」
気が付いたら、お財布はハルさんに管理されていた。
新しいズボンが欲しいと交渉しているのだが、継当てすれば大丈夫と拒まれている。
「それじゃ、三階へ魔法を習いに行くぞ」
「タケ、俺に指図するな」
「ユウは昼飯食いたくないのかな」
「あっ、ごめん、謝る」
財布の威力は絶大だ。
だとすると、今の僕達の最高権力者はハルさんなのだろうか。
二階の酒場では朝から酒を飲んでいる人達が結構いた。
楽しそうに大声で話している。
「おう、そこのちびっ子。一緒に呑まねーか」
「すんません、こいつらこれから魔法習わせるんで、また今度お願いします」
「おうそーか、それじゃ仕方がねーな。がんばれよ」
明美とユウの顔が引き攣っている。
三階に昇り、酒場が見えなくなってから、二人が大きな息を吐き出した。
「あー怖かった」
「絶対あいつら人殺してるよな」
「そーか、気さくそうな声のおっちゃんだったがな」
「アキ、あいつらに絡まれたらタケ人質にして逃げような」
「嫌だ、だって僕兄ちゃんを愛してるもん」
「くそー、アキと言い、姉ちゃんと言い。おいタケ、ちょっとばっか顔が良いからって自惚れるなよ」
「えっ!何の話だ」
道場に入ると大勢の人達が格闘の訓練をしていた。
「頼もー、痛て」
「こらユウ、道場破りじゃないんだぞ。すいませーん」
汗を拭きながら道着を着た若い女性が歩いて来た。
「なに、練習見学希望者」
「いいえ、体術魔法を教わりに来ました」
「まあ、こんな小さな子が体術魔法を。あなた達召喚者なの」
「はい」
「ふーん、子供達が混じってたって聞いたけど、生き残れたんだ」
「ええ、みんな」
「あなたがリーダー」
ハルさんなのか僕なのか一瞬迷った。
「ええ、そんなもんです」
「ギルドには入ったの」
「ええ、さっき」
「それなら、子供でも、こら!」
ユウが頭を叩かれた。
女性の道着の合わせ目から覗いている胸の谷間に、我慢できなかったらしい。
たぶん、何時ものハルさんへのセクハラの癖で、無意識に手が動いてしまったのだろう。
「胸に手を入れようとしたな、この野郎」
「いいえ、僕まだ子供ですからそんなエッチなこと考えてません」
「こら、嘘を吐くんじゃないの」
取り敢えず、打ちのめされない様にユウの頭を掴んで謝らせる。
「申し訳ございません」
「まあ、子供だから仕方がないか。それじゃ何を習いたいんだい」
「この子達、明美とユウですが、両足の強化。蹴りを上達させてやって下さい」
「体術魔法の賦与と脚力強化だね。魔花と足に体術を染み込ませるのに六シルバー、足を強化するのに二シルバーが必要だよ。一日稽古して使う筋肉をほぐしてから魔花を馴染ませる必要があるんだ。私が担当してやるから喜びなユウ」
「ウゲー」
「それであんたは」
「眼力強化をお願いします」
「えっ!ちょっと待ってて。おーい、眼力強化できる奴いるか」
「去年引退したタツ爺さんが出来た筈ですよ、ワカバさん」
「誰か爺さんを呼んで来てくれ」
明美とユウが防具を着けて稽古を始めた。
ワカバさんが稽古相手になって蹴りの基本を教えている。
ユウばかりが何度も床に転がされているような気がするが、たぶん気のせいだろう。
暫く待っていたら、少し惚けている様な爺さんがやって来た。
「眼力強化を覚えたいと言っとる変わり者はお前か、それ!」
爺さんがいきなり目の前で手を振った。
「今儂は、指を何本立てていたか解るか」
「・・・・あの、俺は目が悪いんで」
「言い訳を言うな。今度は如何じゃ、それ!」
また目の前で手を振った。
「だから俺、目が悪いから見えないんです」
「言い訳を言うなと言っとろうが、集中力が足りんだけじゃ、貴様は。それっ!今度はどうじゃ」
「だから全然何にも見えません」
「なんじゃ貴様は、才能も無いのに眼力強化を覚える気か」
「だから才能以前の問題で、僕は目が悪いから」
「言い訳を言うな。才能が無いなら努力しろ。なら特訓じゃ」
なんか、物凄い行き違いがある様な気がする。
「それじゃ今から儂が石礫を投げるから、痛い思いをしたく無かったら良く視て避けろ。それっ!」
「痛てっ」
「避けんと痛いぞ、それっ!」
「うわー、痛い」
酷い目を見た。
爺さんの石礫から逃れる為に、一日中道場の中を逃げ回った。
外へ逃げ出したかったのだが、爺さんが巧みに退路を塞いでいた。
迷惑だと稽古をしている人達から凄く怒られたが、僕はそれどころじゃ無かった。
勿論昼飯を食っている暇はない、逃げ回るので必死だ。
逃げながら明美に二シルバー渡してやったので、薄情な明美とユウは嬉しそうに昼飯を食いに行った。
「はー、はー、はー。貴様が逃げ回るから脚力の訓練になってしまったではないか、馬鹿者」
「はー、はー、はー。仕方が無いでしょ。俺には見えないんだから」
「はー、はー。仕方が無い、魔法の賦与はしてやるから、そこへ腹這いになれ」
魔法の賦与は全身マッサージの様な感じだった。
手足からマッサージを始め、血を頭へ寄せて行く感じだった。
全力で逃げ回って疲れていたので、気持ちが良くて転寝をしてしまった。
「ほれ、終わったぞ」
「はっ」
目を開けたら、視界に薄紫色の靄が掛っている。
えっ!悪化した。
「そーか、薄紫色の霞が見えるのか。それは大外れじゃ」
「えっ!大外れって」
「眼力強化はのう、人によって授かる能力が異なるんじゃ。魔獣の生命力や戦闘力が見える場合もあれば、人のステータスが見える場合もある。物に宿る魔力が見える場合もあれば、魂の色が見える場合もある。貴様のは大外れじゃ、たぶん空中の魔素が見えておるだけじゃろ。まあ、真面な稽古が出来なかったからのー、仕方が無いじゃろ。ほっ、ほっ、ほっ」
「兄ちゃん大丈夫、肩貸そうか。痣だらけだよ」
「身体は大丈夫だ。気持ちがちょっとな。明美、お前はどうだった」
「才能あるって先生に褒められたよ。また来いって。でも兄ちゃんは二度と連れて来るなって」
「・・・・・・・ユウは」
「俺も必ず来いって言われた」
なんかユウはボロボロだ。
「ほう、ユウも才能があるのか」
「ユウは根性を叩き直す必要があるんだって、来ないと出稽古に行くぞって」
「うわー、あれは事故なんだよ」
「何か有ったのか」
「ユウが転んだ時に、先生のズボンとパンツを掴んで引き下ろしちゃったんだ。お尻がペロンって見えて、先生がキャーって言って」
「ちゃんと謝ったのか、ユウ」
「もちろん土下座して謝ったさ、死にたくないもの」
「周りに男の先生が一杯いる時でさ」
「・・・・・ユウ、稽古頑張れよ」
体術魔法を覚えるのは僕と明美とユウの三人なのだが、冒険者ギルドでの最初のパーティー登録には、登録者全員の本人確認が必要なのだ。
冒険者ギルドは、町の繁華街である正門前の広場に建っている。
慈悲の救済教会からは徒歩で四十分ほどで、貧民街に隣接した歓楽街を抜けると、急に大きな石造りの建物が多くなり、荷車と人が多くなったと思ったら、重厚な門のある広場に到着した。
正門前の広場から旧市街区である教区の石壁にある旧正門へと延びる通りは、表通りと呼ばれており、大きな商会や宿、有名料理店が軒を連ねている。
冒険者ギルドは、広場に面した表通り脇の一等地の明るい場所に建っており、薄暗い貧民街でひっそり佇む慈悲の救済教会とは大違いだった。
大きな白い石造りの建物で、正面階段の白い石は磨いた様にピカピカ光っている。
その階段を恐ろしげな武器を持った人相の悪い人達が大勢行き交っている。
たぶん朝の依頼を貰いに来る時間帯なのだろう。
中に入ると周囲の視線が一斉に僕等へ集まって来るのを感じた。
どう考えても小さな子供は、ここでは場違いだ。
「へー驚いたな、まだ生き残っていたんだ」
「元気じゃないか、驚いたな」
「ちゃんと食事できてるのかしら、色が白いけど」
「ほう、右目が紫になってる子がいるな。こんな短時間で開花出来たのか」
周囲の呟き声が聞こえる。
一緒に召喚された人達が混じっているようだ。
周囲を見回す。左手が依頼の木札の掲示板で、右手が受付所、正面の階段を上がれば酒場になっている筈で、酒場の奥の階段をを登れば道場がある筈だ。
右手の一番右端が新規受付、プクさんが詳しく説明してくれた。
こんな時は、周囲が良く見えないのはありがたい、余計な緊張をしないで済む。
「すいません、新規登録お願いします」
「あらまあ、プクさんから聞いてたとおりだわ。本当に可愛い子供達ね。私の名前はケート、プクさんはうちのお得意様なの。それじゃ全員の認識票をこの箱に入れてから二十七シルバー納めてね」
ケートさんの指示に従って、全員の認識票を集めて箱に入れ、二十七シルバーを机の上に乗せる。
「それじゃ一人ずつそこの計測板の上に乗って総合力を測らせてね」
順番に机の前の体重計の様な板に乗る。
足元から熱の帯が登って来る様な感覚があり、脳天へと抜けて行った。
机の上の認識票を入れた箱と紐で結んであり、ケートさんはその箱を覗き込んで何かを確認している。
「うーん、総合力が少し足りないけど、プクさんが大丈夫って言ってから大サービスね。でもこの総合力でよく開花が出来たわね」
「地道に鼠をたくさん狩ってましたから」
「ふーん、鼠さんに殺されちゃう初心者って結構多いのよ。この間の召喚でうちのギルドが引き取った人達も、鼠さんに食べられて十人位死んじゃったの。まだ開花出来ない人も七人残ってるから、あなた達は優秀よ。はい、登録が終わったわ。ようこそ、ストロベリ冒険者ギルドへ、小さな冒険者さん達」
ケートさんが認識票を返してくれた、表面の刻印が少し増えている。
「入会特典として魔花の栄養剤を一人一本進呈するわ。魔花と身体との結び付きが強くなって、身体全体の筋力が少し増すの、ちゃんと飲むのよ。最初は十等級冒険者からだけど、討伐ポイントが貯まると九級に昇級できるわよ。その時にまた一本進呈するから、討伐ポイントが貯まったらちゃんと申請してね。栄養剤で筋力以外の基礎能力も一緒に上がることもあるから、楽しみにしてね」
「どんな基礎能力があるんですか」
「基礎能力は、体力、筋力、瞬発力、操作力、知力よ。体力が上がると生命力がアップして回復力が上がるの。筋力は身体全体の筋肉の力が強くなるから打撃力や貫通力が上がるわ。瞬発力は筋肉の反応性が良くなってスピードが上がるわ。操作力が上がると武器や防具や道具の扱いが上手くなるの。知力が上がると脳が魔法を覚えやすくなって、魔法力が少し増えるわ」
魔花の栄養剤は、普通の栄養ドリンクの味だったが、飲み終わったら、一瞬だけ身体の筋肉が内側に引っ張られる感じがあった。
「それじゃ俺達は三階で体術魔法習って来るから」
「ええ、私達も教会に戻って魔法を教えて貰うわ。はい、二十四シルバー、それと昼御飯用に二シルバー渡しておくから」
「ありがとう」
気が付いたら、お財布はハルさんに管理されていた。
新しいズボンが欲しいと交渉しているのだが、継当てすれば大丈夫と拒まれている。
「それじゃ、三階へ魔法を習いに行くぞ」
「タケ、俺に指図するな」
「ユウは昼飯食いたくないのかな」
「あっ、ごめん、謝る」
財布の威力は絶大だ。
だとすると、今の僕達の最高権力者はハルさんなのだろうか。
二階の酒場では朝から酒を飲んでいる人達が結構いた。
楽しそうに大声で話している。
「おう、そこのちびっ子。一緒に呑まねーか」
「すんません、こいつらこれから魔法習わせるんで、また今度お願いします」
「おうそーか、それじゃ仕方がねーな。がんばれよ」
明美とユウの顔が引き攣っている。
三階に昇り、酒場が見えなくなってから、二人が大きな息を吐き出した。
「あー怖かった」
「絶対あいつら人殺してるよな」
「そーか、気さくそうな声のおっちゃんだったがな」
「アキ、あいつらに絡まれたらタケ人質にして逃げような」
「嫌だ、だって僕兄ちゃんを愛してるもん」
「くそー、アキと言い、姉ちゃんと言い。おいタケ、ちょっとばっか顔が良いからって自惚れるなよ」
「えっ!何の話だ」
道場に入ると大勢の人達が格闘の訓練をしていた。
「頼もー、痛て」
「こらユウ、道場破りじゃないんだぞ。すいませーん」
汗を拭きながら道着を着た若い女性が歩いて来た。
「なに、練習見学希望者」
「いいえ、体術魔法を教わりに来ました」
「まあ、こんな小さな子が体術魔法を。あなた達召喚者なの」
「はい」
「ふーん、子供達が混じってたって聞いたけど、生き残れたんだ」
「ええ、みんな」
「あなたがリーダー」
ハルさんなのか僕なのか一瞬迷った。
「ええ、そんなもんです」
「ギルドには入ったの」
「ええ、さっき」
「それなら、子供でも、こら!」
ユウが頭を叩かれた。
女性の道着の合わせ目から覗いている胸の谷間に、我慢できなかったらしい。
たぶん、何時ものハルさんへのセクハラの癖で、無意識に手が動いてしまったのだろう。
「胸に手を入れようとしたな、この野郎」
「いいえ、僕まだ子供ですからそんなエッチなこと考えてません」
「こら、嘘を吐くんじゃないの」
取り敢えず、打ちのめされない様にユウの頭を掴んで謝らせる。
「申し訳ございません」
「まあ、子供だから仕方がないか。それじゃ何を習いたいんだい」
「この子達、明美とユウですが、両足の強化。蹴りを上達させてやって下さい」
「体術魔法の賦与と脚力強化だね。魔花と足に体術を染み込ませるのに六シルバー、足を強化するのに二シルバーが必要だよ。一日稽古して使う筋肉をほぐしてから魔花を馴染ませる必要があるんだ。私が担当してやるから喜びなユウ」
「ウゲー」
「それであんたは」
「眼力強化をお願いします」
「えっ!ちょっと待ってて。おーい、眼力強化できる奴いるか」
「去年引退したタツ爺さんが出来た筈ですよ、ワカバさん」
「誰か爺さんを呼んで来てくれ」
明美とユウが防具を着けて稽古を始めた。
ワカバさんが稽古相手になって蹴りの基本を教えている。
ユウばかりが何度も床に転がされているような気がするが、たぶん気のせいだろう。
暫く待っていたら、少し惚けている様な爺さんがやって来た。
「眼力強化を覚えたいと言っとる変わり者はお前か、それ!」
爺さんがいきなり目の前で手を振った。
「今儂は、指を何本立てていたか解るか」
「・・・・あの、俺は目が悪いんで」
「言い訳を言うな。今度は如何じゃ、それ!」
また目の前で手を振った。
「だから俺、目が悪いから見えないんです」
「言い訳を言うなと言っとろうが、集中力が足りんだけじゃ、貴様は。それっ!今度はどうじゃ」
「だから全然何にも見えません」
「なんじゃ貴様は、才能も無いのに眼力強化を覚える気か」
「だから才能以前の問題で、僕は目が悪いから」
「言い訳を言うな。才能が無いなら努力しろ。なら特訓じゃ」
なんか、物凄い行き違いがある様な気がする。
「それじゃ今から儂が石礫を投げるから、痛い思いをしたく無かったら良く視て避けろ。それっ!」
「痛てっ」
「避けんと痛いぞ、それっ!」
「うわー、痛い」
酷い目を見た。
爺さんの石礫から逃れる為に、一日中道場の中を逃げ回った。
外へ逃げ出したかったのだが、爺さんが巧みに退路を塞いでいた。
迷惑だと稽古をしている人達から凄く怒られたが、僕はそれどころじゃ無かった。
勿論昼飯を食っている暇はない、逃げ回るので必死だ。
逃げながら明美に二シルバー渡してやったので、薄情な明美とユウは嬉しそうに昼飯を食いに行った。
「はー、はー、はー。貴様が逃げ回るから脚力の訓練になってしまったではないか、馬鹿者」
「はー、はー、はー。仕方が無いでしょ。俺には見えないんだから」
「はー、はー。仕方が無い、魔法の賦与はしてやるから、そこへ腹這いになれ」
魔法の賦与は全身マッサージの様な感じだった。
手足からマッサージを始め、血を頭へ寄せて行く感じだった。
全力で逃げ回って疲れていたので、気持ちが良くて転寝をしてしまった。
「ほれ、終わったぞ」
「はっ」
目を開けたら、視界に薄紫色の靄が掛っている。
えっ!悪化した。
「そーか、薄紫色の霞が見えるのか。それは大外れじゃ」
「えっ!大外れって」
「眼力強化はのう、人によって授かる能力が異なるんじゃ。魔獣の生命力や戦闘力が見える場合もあれば、人のステータスが見える場合もある。物に宿る魔力が見える場合もあれば、魂の色が見える場合もある。貴様のは大外れじゃ、たぶん空中の魔素が見えておるだけじゃろ。まあ、真面な稽古が出来なかったからのー、仕方が無いじゃろ。ほっ、ほっ、ほっ」
「兄ちゃん大丈夫、肩貸そうか。痣だらけだよ」
「身体は大丈夫だ。気持ちがちょっとな。明美、お前はどうだった」
「才能あるって先生に褒められたよ。また来いって。でも兄ちゃんは二度と連れて来るなって」
「・・・・・・・ユウは」
「俺も必ず来いって言われた」
なんかユウはボロボロだ。
「ほう、ユウも才能があるのか」
「ユウは根性を叩き直す必要があるんだって、来ないと出稽古に行くぞって」
「うわー、あれは事故なんだよ」
「何か有ったのか」
「ユウが転んだ時に、先生のズボンとパンツを掴んで引き下ろしちゃったんだ。お尻がペロンって見えて、先生がキャーって言って」
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