欠陥品なんです、あなた達は・・・ネズミ捕りから始める異世界生活。

切粉立方体

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11 魔素の光り

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「散々だったわね。でもユウは日頃の行いが悪いからそんなことになるのよ」

 僕の昼飯分が浮いたので、クムと呼ばれる拳大の葡萄の粒の様に丸い実の果実を買って帰った。
 ハルさん達も魔法の賦与が終わって魔法の練習をしていた時だったので、全員で祭壇の前に座ってお茶を飲みながら、今日の結果を話し合った。

「まあユウはそれでもちゃんと魔力を賦与して貰えたから順調だよ。問題は俺の方かな」
「お兄ちゃんこれ見える」

 リコが指を一本立てている。

「一本、心配しなくても大丈夫だよ、見えてるよ。霞自体は透明なんで問題は無いんだ、そんなに酷くなった訳じゃない。でも色がちょっと見え難くなったかな。ハルさんの光魔法はどうだったの」
「ちょっと微妙かな。たとえば、今みたいな状態なら、プルプテント、えい、え!」

 ハルさんが僕の顔を見詰めて固まっている。

「ハルさん、どうしたの」
「えっ、あっ、何でもないの。えーと、そうそう、今みたいな状態で、目の前に眼鏡を作るところまでは成功したの。だから今はみんなの顔がはっきり見えるの。でもね、ちょっと動くとほら」

 ハルさんがちょっと動く。
 ハルさんの指差している所に顔を近づけると、その空間の光景が歪んでいる。

「魔法が空間を指定してレンズを構築するから、眼鏡が置き去りになっちゃうの、だからいまのところ実用性はゼロね。でも可能な事だけは判ったんだから大きな前進よ。だからもう少し色々と工夫してみるわ」
「俺の場合は、見えてる物が違うから工夫の余地が無いからなー。ハルさん、期待しているよ」
「ええ、頑張ってみるわ」

ーーーーー
ハル

 あー驚いた。
 はっきりと見えたタケさんは、憧れていた俳優さんに似た、渋い感じのいい男でした。
 声の感じが学校で私の隣に座っていた平凡な男の子に似ていたので、先入観で同じ様なイメージを持っていました。
 勿論、頼り甲斐も優しさもタケさんの方がずっと上なので、このままなんとなくずるずると妥協しても良いかなと思ってました。
 でもこれならば・・・、なんか急にやる気が出てきました。
 リコ達三人は、タケさんの優しさに惹かれて懐いていると思っていたのですが、私の感違いでした。
 顔です、絶対に顔です。
 アキちゃんも単なるお兄ちゃんっ子と思ってましたが、案外本気かもしれません。
 
 眼鏡を作った場所にさり気なく戻って、心置きなく再確認します、へへへへ。

ーーーーー
 この世界に来てずっと働き詰めだった。
 久々にのんびりとした時を過ごして、みんなで会話を楽しんでいたら、外はすっかり暗くなっていた。
 急いで浴場へ向かう。
 夜になっても、紫色の靄はまだ見えている。
 いつも通り、泡立ち草を受け取って、真っ暗な川原へ向かう。
 蝋燭で足元を照らして必死に歩き、いつもの場所に辿り着いて肩から力を抜く。
 安堵の息を吐きながら、僕は顔を上げた。
 そして僕は凍りついた。
 闇の中に蠢く、無数の青い幽霊が見えたのだ。

「兄ちゃん、どうしたの」

 振り向くと、明美が立っていた。
 既に服は脱いでおり、半身が蝋燭の灯りに照らされ、もう半身が僕の影に覆われて闇の中に居る。
 その闇の中の半身が微かな青い光を発しており、薄ぼんやりと闇の中で彫像の様に浮かび上がっている。
 気持ちを落ち着けて目を一旦閉じる。
 再び目を見開いても、明美の半身は薄ぼんやりと闇の中に浮かび上がっている、錯覚じゃない。
 目を凝らすと、紫色の霞、魔素が闇の中を一定方向にゆっくりと移動しているのが見える様になった。
 良く見ると、明美の身体が光っている訳ではなく、明美の身体の中を通り抜ける魔素が光って見えているようだった。

「兄ちゃん、そんなにガン見されると恥ずかしいよ」
「うわっ、ごめん」

 自分の腕を観察してみる。
 魔素が身体に入った瞬間に光り始め、身体を抜けた瞬間に魔素の光が消える。
 目が慣れて来ると、足元の石も薄い光を放っていることに気が付いた。
 石を手に取ってみると、石の中を通り抜ける魔素が微弱に光っており、石の裏側で光る自分の手が透けて見える。

 顔を上げて周囲を見回すと、無数に重なる半透明の石の上を、光の妖精の様に人々が光を放って歩いている。
 目を凝らして視れば、自分の視力とは異なり、かなり遠くの人々の輪郭もはっきりと解る。
 河原の石も、河原の岩も、川を流れる湯も、川底の石さえも半透明ながらしっかりと見える。
 蝋燭の灯が届かないところで服を脱いでいるハルさんの姿もはっきりと認識できる。

 魔素は人や泡立ち草などの生物の中を通り抜ける時に最も強く光り、服や木の塀を通り抜ける時はやや弱まる。
 石や岩の中を通り抜ける時の光りは微弱になり、水やお湯の中を通り抜ける時は微かで、大気中では光を完全に放たなくなる。

 空を見上げて驚いた、星々の放つ光がはっきりと見えるのだ。
 上空を飛ぶ鳥の輪郭もしっかりと見える。

 魔素の光りが存在することが意識できる様になると、蝋燭の灯りに照らされていても魔素の光りが見分けられる様になった。
 視力に頼るよりも、物の輪郭がはっきりと認識できる。
 魔素の光りで見える半透明で心もとなく見える石を踏んでみると、足元にはしっかりした現実の石の感触があった。

「兄ちゃん、さっきから何か変だよ」

 青く光るモノトーンなのだが、明美の裸が日中の様に鮮明に見えてしまう。
 青白く光る妖精の様だ。

「暗いと魔素がはっきり見えて少し驚いているんだ。青白く光って結構きれいに見えるぞ」
「ふーんそうなの、なら良いけど。手を繋いであげるから、一緒に川へ入ろう」

 青白く冷たい光を放つ明美の手だったが、握ると現実の温かみが伝わって来る。
 湯に浸かると明美が身体の上に乗って来た。
 リコとメイとリンも普段通りに身体を寄せて来た。

 流体の中の魔素はほとんど光らない。。
 だから湯に浸かっている全員の裸体がはっきりと見える。
 リコとメイとリンの裸もはっきりと見えるし、少し膨らみ始めた明美の胸もはっきりと見える。
 ハルさんは何時もより少し近いところに座っている。
 なるほど、ハルさんの胸はなかなか大きい、ユウが触りたいと思う気持ちが何となく解る。

 今日は良く見えるので、四人を丁寧に洗ってやった。
 髪の毛が一本一本輝いて見え、泡立ち草の泡が汚れを落す様子もはっきりと解り、幻想的だった。

「お兄ちゃん、今日は洗い方が優しいね」
「そーか、俺はいつでも優しいぞ」
「うーん、でも何か違う。手の感触が違う」

 子供達は感が鋭い。

「魔素が見えるからかな、魔素が汚れを教えてくれるんだ」
「じゃっ兄ちゃん、身体の前も洗って」
「駄目だ、自分で洗え」
「兄ちゃんのケチー」

「姉ちゃん」
「駄目に決まってるでしょ」

 帰り道、町の灯りの中でも魔素の光りが見える様になった。
 気を抜くと、壁を通して人の家の中が見えてしまう。
 暫くは、この目の事は秘密にしておこう。

 その夜、目を閉じると瞼が光って寝難いことが解った。
 僕は四苦八苦して、魔法の解除方法を会得した。

 最初の魔力の賦与に九シルバー、放出経路作りに十三シルバー、魔法の取得でギルドへ二十四シルバー、教会へ十八シルバー、残りの花弁はすべて魔花の根の手入れに使い、これに九シルバー、ギルド入会費が二十七シルバー、昼飯とクム実が一シルバーと五十カッパ、朝夕の粥、礼拝堂への泊賃、公衆浴場代が四十五カッパ。
 この二日の支出は一ゴールドと二シルバー、この世界に来てからの最大の出費だが必要経費だ。

 貯金はまだ四ゴールド近く残っている。
 冒険者ギルドにも入れて、やっとこの町の正規の住民として認められた。
 今までは慈悲の救済教会に籠って身を縮めていたが、これからは外の世界へ踏み出さなければならない。
 ハルさんと相談して、これからの生活設計を立てて行こう。
 
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