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12 依頼
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翌朝、目の力を解放し、魔素がまだ見えることを確認する。
明るい中では魔素の弱い光りは確認しにくいのだが、それでも目を凝らせば、薄ぼんやりとぼけて見える普段の光景に重なって、魔素が物体を通り抜ける境目がはっきりと見える。
久々に足元の心配をせずに歩けているような気がする。
朝の粥を食った後、全員で冒険者ギルドへ向かう。
冒険者ギルドへ向かう冒険者達の流れに加わると、何か一人前になった気がする。
簡単な字はメアリーさんから教わっているので、掲示板で初級レベルの鼠の討伐を捜す。
魔素の光りで見ると、木の札に書かれた墨の文字が光っているので、離れた場所からでも字を確認することが出来た。
あった、料理店からの依頼で、料理店の下水道からの鼠の駆除、毒の使用は不可で、千匹を一週間以内に駆除しすれば、十シルバーの報酬が貰える。
人を掻き分けて掲示板に近付き、依頼を書いた木の札を外す。
九人の認識票と一緒に受付窓口に提出すれば、依頼の受託が完了となる。
木札の裏側に依頼者の家の場所を示す地図が書いてあるので、詳しい話はそこで依頼者から改めて聴く。
「まあ、可愛い。でも大丈夫なのあんた達」
依頼主の店の勝手口から声を掛けると、福々しい女将さんが出迎えてくれた。
女将さんは、スレンダさんという微妙な名前だった。
「前に頼んだ人達が全然戻って来なくてね。あなた達で三組目なの」
鼠じゃなくて、大きなワニが住んでたって落ちは勘弁して欲しい。
「危なかったら戻ってきますよ。俺達弱いんで無理しません。だから大丈夫ですよ」
「なら良いけど。リーダーさん頼んだわよ、こんな小さな子達が戻って来なかったら、ちょっと寝覚めが悪いから」
地下室があってそこから下水道に向かう階段があるのは、教会と同じ構造だった。
階段の下には教会より幅の広い踊り場があり、下水道に面している。
下水道の水は、その踊り場の床すれすれの高さを勢い良く流れていた。
勿論鼠止めの格子扉は設けてある。
ただしその扉は頑丈なブロンズ製だった。
「この辺は元々鼠が多いから木の格子だと直ぐに齧られちゃうのよ。だから調理場の排水口にもブロンズの格子が填めてあるんだけど、最近その格子を排水管から鼠が登って来てガリガリ齧っちゃうの。煩くて夜眠れないくらい酷いのよ。だからご近所と相談して、取り敢えず千匹討伐して貰って、治まるかどうか様子を見ることにしたの。でも大丈夫かしらねー、心配だわ。諦めて帰る時は帳場に声を掛けてね。はい、鍵。鍵は鍵穴に差し込んだままにして、最後に閉めてから返してね。前の人達が鍵持ったまま居なくなっちゃったんで、最後の一本なの」
鍵を渡すと、スレンダさんは店へと登って行った。
蝋燭を灯して、手作りの木簡を中に縫い込んだ臑当てを全員が足に巻く。
この四週間で、僕達の装備は少し良くなった。
武器も薪から柄の長い木槌に昇格した。
僕はブロンズの格子扉を少し開き、下水道の様子を見た。
「タケさん、中に入らないの」
「いや、その必要は無さそうだよ」
格子扉を少し開けて、まだ火を着けていない布を巻いた松明の先端を、足下を流れる水の中へ突っ込む。
「えっ」
ハルさんが驚くのも当然だ、こんな事をしたら松明が使えなくなる。
でも僕が松明を引き上げると、ハルさんはもっと驚いた。
「えー!」
松明の先端の布に、鼠が二匹食い付いて暴れている。
僕が鼠を踊場の床に叩き付けると、子供達が一斉に襲い掛かって袋叩きにしてくれた。
不用意に足を踏み入れたら、たぶん僕達は一溜りもなかっただろう。
濁った下水道の水の中に、無数の鼠の形をした魔素の光りが見えたのだ。
地道に松明で一、二匹釣り上げては踊場の床に叩き付ける。
後は子供達がポカポカと叩いて始末してくれる。
地道だが、脛を食い付かせに行くロス時間がないので、効率は良い。
二本目の蝋燭が消える前に五百十五匹の鼠を倒した。
五匹は昼に食べてしまったので、五百十匹をスレンダさんに確認して貰った。
プクさんのお店が近かったので、連絡して五百匹を引き取って貰った。
十匹はメアリーさんへのお土産だ。
魔石持ちが三匹混じっていた。
「明日もお願いね。はい、これ。残り物だけど食べて」
スレンダさんが籠に入れた料理を持たせてくれた。
「あーん、今日私は何もしてない」
ハルさんが少しむくれている。
「明日は、松明をもう一本持って来ようか」
「でもタケさん、何で鼠がいるって解ったの」
「魔素が見えるようになったって昨日説明したよね」
「ええ」
「魔素が物の中を通り抜ける時、少し光るんだ。だから水の中で待ち構えてる鼠が見えたんだ」
「魔素ってどんな風に見えるの」
「今だと、右から左にゆっくり移動している感じかな。物にぶつかっても、そのまま通り抜けちゃうんだ」
「お兄ちゃん、なんか幽霊みたいだね」
「形が無いから幽霊とはちょっと違うかな。でも実体が無いのは一緒か。うーん、実体の無い幽霊みたいな霧かな」
「ふーん、私達の中も光って見えるの」
「うん、妖精みたいに綺麗だよ」
「この鼠と一緒か」
「ユウ、私達と鼠を一緒にしないで頂戴」
「胸が大きくなったら考えてやるよ」
「こら、ユウ」
スレンダさんが持たせてくれた料理には、肉の照り焼きや野菜を挟んだ白パンが入っており、涙が出る程美味しかった。
物凄く満足した気分になって、幸せな気分で安眠できた。
この日の収入は六十三シルバ、支出は朝夕の救済粥と礼拝堂の泊まり賃、公衆浴場代で四十五カッパ、ハルさんと相談して思い切って買った光石と呼ばれる碁石くらいの大きさの光の魔道具が二十シルバー。
勿論今の僕達は魔道具を起動させることができる。
魔道具に軽く触れると、僕達の体内にある魔花の魔力が伝わって中に刻印されている魔法陣が反応するのだ。
魔力の補充は魔石で行う。
上部にある窪みに鼠の魔石を乗せると、魔力が補充されて魔石が白い砂に変るのだ。
一日十鐘使って一月くらいは持つ。
白い砂は回収して硝子の材料に使う。
ただ出来上がるのは、白く濁った硝子なので眼鏡を作ることはできない。
ーーーーー
翌朝は朝粥を食った後、直接スレンダさんの店へと出向く。
地下へと降りると、昨日と同様に松明で鼠を釣り上げて狩って行く。
今日はハルさんも参加しているので、明美達は結構忙しい。
依頼された五百匹を狩り終わって店に戻ると、まだ外は明るかった。
光石はLEDランプの様にとても明るくて助かるのだが、蝋燭と違って時間の経過が解らないのが欠点と言えば欠点だ。
「追加の依頼を頼んで置いたから、また明日来て頂戴ね。はい、これお土産」
木札に依頼完了のサインを貰い、ギルドに寄って十シルバーの報酬を受け取る。
「最初の依頼で再指名して貰えるなんて優秀よ、あなた達。割増しで加点して貰えるから頑張ってね。受付手続きは終わってるから、明日は直接依頼場所へ行ってね」
今日の収入は七十シルバー、普通の冒険者並みの収入があり、明日からの仕事も保証されている。
まだ空いている酒場で、クム水とクムの砂糖浸けを頼み、少々贅沢をした。
スレンダさんが持たせてくれた料理を広げて遅い昼飯を始めると、店の人がサービスでスープを出してくれた。
まだ外が明るかったので、正門前の広場を少し歩いてみた。
良く考えたら、まだ僕達はこの町をじっくりと見た事が無い。
穀物積んだ荷車やクムの実を積んだ荷車、人を乗せた駅馬車が広場の中を行き交っていた。
門の外には、荷の確認の為の荷車が長蛇の列を作っている。
広場の周辺には石造りの立派な建物が立ち並び、上等な服を着た人達が出入りしている。
広場の中央には停車場があり、行き先を大書した板の前に駅馬車が立ち並んでいる。
切符売り場の前には行列が出来ており、町の地図と馬車の行き場所を示した地方図が並んで掲げられていた。
初めて見る町の地図、招きの塔と書かれた僕達の召喚された塔は、地図の左端中央やや上の、丘の上に描かれていた。
慈悲の救済教会は小さいながらもちゃんと地図に描かれていた。
地図の左端下側で、屋根の女神像もちゃんと描かれていた。
町は、中央の円形の旧市街地を囲む歪な横長の楕円形で、町全体が柵で囲まれている。
地図の上半分は田園地帯で、田園地帯の下の方に果樹園の帯が描かれている。
中央の旧市街地から正門へ伸びる通り沿いが商店や宿が並ぶ中心街で、商区はその通りを中心に、左右に広がる扇状を形成している。
旧市街地から左側、落陽門へ向かう通りがあり、その通りの下側に広がる工房区の道は、迷路の様に入り組んでいる。
旧市街地から右側、昇陽門へ向かう通りの下側は、碁盤の目の様に整っている。
柵沿いが倉庫で、旧市街地に近い地区は住宅地の様だった。
旧市街地、教区には教会がびっしりと並んでおり、中央に描かれている大きな尖塔には、教会組合と表示されていた。
この町には、フルティア国の役人も兵士もいない。
この町は北大陸の国々へ異世界人を貢ぐための町なので、フルティア国が不正を働かないように、教会の合議で町が運営されている。
それぞれの国が国教として認めている教会は発言力が強く、慈悲の救済教会の様にバックを持たない零細教会が蔑ろにされていると、メアリーさんが嘆いていた。
地方図にはストロベリの町の周辺の様子が描かれていた。
町の上には広大な森が描かれており、その上には険しい峰々が描かれており、町や村は無い様だった。
正門の下には正門から真っ直ぐ下へ伸びる太い道が描かれており、四つの町を経て大きな川沿いの町へと向かっている。
町の左右には森の中を横断する街道が描かれており、森の中に点在する町を通て、それぞれ小さな山脈の峠越えをして、隣国へ抜ける様だった。
広がる未知の世界、心は躍るけど、夢の又夢。
まだ町の中の下水道で鼠を捕るのが僕らの精一杯だ。
「兄ちゃん、この町広いんだね」
「ああ」
「お兄ちゃん、山から覗いている蜥蜴がいるよ」
「ああ、たぶんドラゴンだろうな」
「お兄ちゃん、左側の峠の牛は二本脚で立ってるよ」
「うん、ミノタウロスかな」
「お兄ちゃん、下の川に蜥蜴が浮いてるよ」
「うーん、鰐かな」
うん、僕等には鼠で十分だ。
明るい中では魔素の弱い光りは確認しにくいのだが、それでも目を凝らせば、薄ぼんやりとぼけて見える普段の光景に重なって、魔素が物体を通り抜ける境目がはっきりと見える。
久々に足元の心配をせずに歩けているような気がする。
朝の粥を食った後、全員で冒険者ギルドへ向かう。
冒険者ギルドへ向かう冒険者達の流れに加わると、何か一人前になった気がする。
簡単な字はメアリーさんから教わっているので、掲示板で初級レベルの鼠の討伐を捜す。
魔素の光りで見ると、木の札に書かれた墨の文字が光っているので、離れた場所からでも字を確認することが出来た。
あった、料理店からの依頼で、料理店の下水道からの鼠の駆除、毒の使用は不可で、千匹を一週間以内に駆除しすれば、十シルバーの報酬が貰える。
人を掻き分けて掲示板に近付き、依頼を書いた木の札を外す。
九人の認識票と一緒に受付窓口に提出すれば、依頼の受託が完了となる。
木札の裏側に依頼者の家の場所を示す地図が書いてあるので、詳しい話はそこで依頼者から改めて聴く。
「まあ、可愛い。でも大丈夫なのあんた達」
依頼主の店の勝手口から声を掛けると、福々しい女将さんが出迎えてくれた。
女将さんは、スレンダさんという微妙な名前だった。
「前に頼んだ人達が全然戻って来なくてね。あなた達で三組目なの」
鼠じゃなくて、大きなワニが住んでたって落ちは勘弁して欲しい。
「危なかったら戻ってきますよ。俺達弱いんで無理しません。だから大丈夫ですよ」
「なら良いけど。リーダーさん頼んだわよ、こんな小さな子達が戻って来なかったら、ちょっと寝覚めが悪いから」
地下室があってそこから下水道に向かう階段があるのは、教会と同じ構造だった。
階段の下には教会より幅の広い踊り場があり、下水道に面している。
下水道の水は、その踊り場の床すれすれの高さを勢い良く流れていた。
勿論鼠止めの格子扉は設けてある。
ただしその扉は頑丈なブロンズ製だった。
「この辺は元々鼠が多いから木の格子だと直ぐに齧られちゃうのよ。だから調理場の排水口にもブロンズの格子が填めてあるんだけど、最近その格子を排水管から鼠が登って来てガリガリ齧っちゃうの。煩くて夜眠れないくらい酷いのよ。だからご近所と相談して、取り敢えず千匹討伐して貰って、治まるかどうか様子を見ることにしたの。でも大丈夫かしらねー、心配だわ。諦めて帰る時は帳場に声を掛けてね。はい、鍵。鍵は鍵穴に差し込んだままにして、最後に閉めてから返してね。前の人達が鍵持ったまま居なくなっちゃったんで、最後の一本なの」
鍵を渡すと、スレンダさんは店へと登って行った。
蝋燭を灯して、手作りの木簡を中に縫い込んだ臑当てを全員が足に巻く。
この四週間で、僕達の装備は少し良くなった。
武器も薪から柄の長い木槌に昇格した。
僕はブロンズの格子扉を少し開き、下水道の様子を見た。
「タケさん、中に入らないの」
「いや、その必要は無さそうだよ」
格子扉を少し開けて、まだ火を着けていない布を巻いた松明の先端を、足下を流れる水の中へ突っ込む。
「えっ」
ハルさんが驚くのも当然だ、こんな事をしたら松明が使えなくなる。
でも僕が松明を引き上げると、ハルさんはもっと驚いた。
「えー!」
松明の先端の布に、鼠が二匹食い付いて暴れている。
僕が鼠を踊場の床に叩き付けると、子供達が一斉に襲い掛かって袋叩きにしてくれた。
不用意に足を踏み入れたら、たぶん僕達は一溜りもなかっただろう。
濁った下水道の水の中に、無数の鼠の形をした魔素の光りが見えたのだ。
地道に松明で一、二匹釣り上げては踊場の床に叩き付ける。
後は子供達がポカポカと叩いて始末してくれる。
地道だが、脛を食い付かせに行くロス時間がないので、効率は良い。
二本目の蝋燭が消える前に五百十五匹の鼠を倒した。
五匹は昼に食べてしまったので、五百十匹をスレンダさんに確認して貰った。
プクさんのお店が近かったので、連絡して五百匹を引き取って貰った。
十匹はメアリーさんへのお土産だ。
魔石持ちが三匹混じっていた。
「明日もお願いね。はい、これ。残り物だけど食べて」
スレンダさんが籠に入れた料理を持たせてくれた。
「あーん、今日私は何もしてない」
ハルさんが少しむくれている。
「明日は、松明をもう一本持って来ようか」
「でもタケさん、何で鼠がいるって解ったの」
「魔素が見えるようになったって昨日説明したよね」
「ええ」
「魔素が物の中を通り抜ける時、少し光るんだ。だから水の中で待ち構えてる鼠が見えたんだ」
「魔素ってどんな風に見えるの」
「今だと、右から左にゆっくり移動している感じかな。物にぶつかっても、そのまま通り抜けちゃうんだ」
「お兄ちゃん、なんか幽霊みたいだね」
「形が無いから幽霊とはちょっと違うかな。でも実体が無いのは一緒か。うーん、実体の無い幽霊みたいな霧かな」
「ふーん、私達の中も光って見えるの」
「うん、妖精みたいに綺麗だよ」
「この鼠と一緒か」
「ユウ、私達と鼠を一緒にしないで頂戴」
「胸が大きくなったら考えてやるよ」
「こら、ユウ」
スレンダさんが持たせてくれた料理には、肉の照り焼きや野菜を挟んだ白パンが入っており、涙が出る程美味しかった。
物凄く満足した気分になって、幸せな気分で安眠できた。
この日の収入は六十三シルバ、支出は朝夕の救済粥と礼拝堂の泊まり賃、公衆浴場代で四十五カッパ、ハルさんと相談して思い切って買った光石と呼ばれる碁石くらいの大きさの光の魔道具が二十シルバー。
勿論今の僕達は魔道具を起動させることができる。
魔道具に軽く触れると、僕達の体内にある魔花の魔力が伝わって中に刻印されている魔法陣が反応するのだ。
魔力の補充は魔石で行う。
上部にある窪みに鼠の魔石を乗せると、魔力が補充されて魔石が白い砂に変るのだ。
一日十鐘使って一月くらいは持つ。
白い砂は回収して硝子の材料に使う。
ただ出来上がるのは、白く濁った硝子なので眼鏡を作ることはできない。
ーーーーー
翌朝は朝粥を食った後、直接スレンダさんの店へと出向く。
地下へと降りると、昨日と同様に松明で鼠を釣り上げて狩って行く。
今日はハルさんも参加しているので、明美達は結構忙しい。
依頼された五百匹を狩り終わって店に戻ると、まだ外は明るかった。
光石はLEDランプの様にとても明るくて助かるのだが、蝋燭と違って時間の経過が解らないのが欠点と言えば欠点だ。
「追加の依頼を頼んで置いたから、また明日来て頂戴ね。はい、これお土産」
木札に依頼完了のサインを貰い、ギルドに寄って十シルバーの報酬を受け取る。
「最初の依頼で再指名して貰えるなんて優秀よ、あなた達。割増しで加点して貰えるから頑張ってね。受付手続きは終わってるから、明日は直接依頼場所へ行ってね」
今日の収入は七十シルバー、普通の冒険者並みの収入があり、明日からの仕事も保証されている。
まだ空いている酒場で、クム水とクムの砂糖浸けを頼み、少々贅沢をした。
スレンダさんが持たせてくれた料理を広げて遅い昼飯を始めると、店の人がサービスでスープを出してくれた。
まだ外が明るかったので、正門前の広場を少し歩いてみた。
良く考えたら、まだ僕達はこの町をじっくりと見た事が無い。
穀物積んだ荷車やクムの実を積んだ荷車、人を乗せた駅馬車が広場の中を行き交っていた。
門の外には、荷の確認の為の荷車が長蛇の列を作っている。
広場の周辺には石造りの立派な建物が立ち並び、上等な服を着た人達が出入りしている。
広場の中央には停車場があり、行き先を大書した板の前に駅馬車が立ち並んでいる。
切符売り場の前には行列が出来ており、町の地図と馬車の行き場所を示した地方図が並んで掲げられていた。
初めて見る町の地図、招きの塔と書かれた僕達の召喚された塔は、地図の左端中央やや上の、丘の上に描かれていた。
慈悲の救済教会は小さいながらもちゃんと地図に描かれていた。
地図の左端下側で、屋根の女神像もちゃんと描かれていた。
町は、中央の円形の旧市街地を囲む歪な横長の楕円形で、町全体が柵で囲まれている。
地図の上半分は田園地帯で、田園地帯の下の方に果樹園の帯が描かれている。
中央の旧市街地から正門へ伸びる通り沿いが商店や宿が並ぶ中心街で、商区はその通りを中心に、左右に広がる扇状を形成している。
旧市街地から左側、落陽門へ向かう通りがあり、その通りの下側に広がる工房区の道は、迷路の様に入り組んでいる。
旧市街地から右側、昇陽門へ向かう通りの下側は、碁盤の目の様に整っている。
柵沿いが倉庫で、旧市街地に近い地区は住宅地の様だった。
旧市街地、教区には教会がびっしりと並んでおり、中央に描かれている大きな尖塔には、教会組合と表示されていた。
この町には、フルティア国の役人も兵士もいない。
この町は北大陸の国々へ異世界人を貢ぐための町なので、フルティア国が不正を働かないように、教会の合議で町が運営されている。
それぞれの国が国教として認めている教会は発言力が強く、慈悲の救済教会の様にバックを持たない零細教会が蔑ろにされていると、メアリーさんが嘆いていた。
地方図にはストロベリの町の周辺の様子が描かれていた。
町の上には広大な森が描かれており、その上には険しい峰々が描かれており、町や村は無い様だった。
正門の下には正門から真っ直ぐ下へ伸びる太い道が描かれており、四つの町を経て大きな川沿いの町へと向かっている。
町の左右には森の中を横断する街道が描かれており、森の中に点在する町を通て、それぞれ小さな山脈の峠越えをして、隣国へ抜ける様だった。
広がる未知の世界、心は躍るけど、夢の又夢。
まだ町の中の下水道で鼠を捕るのが僕らの精一杯だ。
「兄ちゃん、この町広いんだね」
「ああ」
「お兄ちゃん、山から覗いている蜥蜴がいるよ」
「ああ、たぶんドラゴンだろうな」
「お兄ちゃん、左側の峠の牛は二本脚で立ってるよ」
「うん、ミノタウロスかな」
「お兄ちゃん、下の川に蜥蜴が浮いてるよ」
「うーん、鰐かな」
うん、僕等には鼠で十分だ。
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