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13 雪
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スレンダさんが出してくれた次の依頼は、五千匹を一月以内、千匹毎に十シルバーを支払ってくれる条件の良い内容だった。
最初の四日間は相変わらず鼠の影も濃く、松明で釣り上げて一日八百匹を狩れた。
だが、五日目からは鼠の影が急に薄くなり、がくんと食い付きが悪くなった。
そして七日目からは、下水道に入って、自分達で鼠を捜さなけれならなくなったが、それでも水中の鼠が見えている利点は大きく、一日三百匹を狩って九日目には無事依頼を完了した。
「ありがとう、静かになって、夜ちゃんと眠れるようになったわ。はい、完了のサインとお土産よ」
スレンダさんは毎日仕事が終わると、店の残り物を持たせてくれた。
美味しい料理が食べられなくなるのは、一番悲しかった。
依頼完了の木札を持って冒険者ギルドへ向かう。
陽が少しずつ短くなって来ているようで、時の鐘に比べて陽の位置は低くなっている。
「はい、最後の十シルバーよ。無事依頼を完了したから冒険者ランクが上がったわ。今度は九等級よ。はい、栄養剤」
なんか最近腹筋が割れて来た様な気がする。
ーーーーー
その後順調に鼠討伐の依頼をこなし続け、一日三百匹、一日四十シルバーを安定して稼ぎ続けられるようになった。
貯金も十五ゴールドを越え、教会から放り出される日も迫り、次の宿泊場所を真剣に検討し始めている。
メアリーさんは、定収入が得られる僕達の宿泊の延長は大歓迎なのだが、半年前、宿業ギルドから教会組合へ礼拝堂での簡易宿泊は専業者の業務を妨害する行為であり、謹んで欲しいとの申し入れがあったそうなのだ。
その申し入れを受けた教会組合は、幹事会を開催し、二月を越える礼拝堂での宿泊は、神聖で在るべき聖地の俗化であり、反宗教行為であるとの厳しい判断基準を示した。
なので、貧乏人達の簡易宿泊所と化していた慈悲の救済教会も従わざるを得なかったそうなのだ。
「酷いでしょ、貧乏教会を狙い撃ちにして潰そうとする意図が丸見えなのよね」
普通の宿は、相部屋で一人一泊二シルバーが相場で、一泊十八シルバーなので一月で九ゴールド必要になる。
今の僕等の収入ならば可能は可能なのだが、レベルアップ時の出費や装備の事を考えれば、普通の冒険者の収入に満たない僕達では少々苦しい。
メアリーさんやプクさんとも相談した結果、僕等は人数が多いので、借家を借りた方が安上がりであるとの結論に達した。
工房区の裏道の奥に建つ日当たりの悪い五連棟のログハウスなら、一部屋一月一ゴールドで借りられる。
五部屋が並んだ平屋の長屋で、六畳くらいの土間と六畳くらいの板の間があり、土間に流しとトイレが付いている。
地下室は無く、土間に穴が掘ってあり、梯子で下水道へ降りる構造になっている。
ただ、借りる時には一年分の家賃前払いで、異世界の人間は冒険者ギルドの保証が必要になる。
冒険者ギルドが保証札を発行してくれるのだが、対象は八等級以上の冒険者で、今の僕達のランクでは発行して貰えない。
でも、ギルドの窓口で相談したら、今のペースなら四日後にはランクアップするから大丈夫と言われ、ぎりぎり間に合いそうだった。
一年分の家賃前払いがネックになるのか、結構長屋の空きは有り、教会と公衆浴場と冒険者ギルドに近い場所を何カ所か見繕っておいた。
ーーーーー
そんなある日、凄く冷え込んだと思ったら、教会の白い窓硝子から差し込む朝の光がやけに明るかった。
礼拝堂の扉を開けたら、外は一面の厚い雪に覆われた銀世界だった。
魔素を見る目で雪を見るのは始めてだ。
雪を通過する魔素はあまり光らないようで、水と石の中間くらいだった。
たった一晩で七、八十センチは積もっている。
子供達は燥いでいたが、冒険者ギルドまで歩くことを考えると少し気が重たかった。
朝食後、脛当てによく蝋を塗り込んで足に巻く。
裏道を抜けるまでは、膝まで沈む雪の中を僕が先頭になってラッセルしたが、裏通りからは雪が踏み固められて歩き易くなっていた。
さらさらした雪質で、着替えのズボンを持って行ったが、履き替える程濡れなかった。
周囲を歩く人達は、ちゃんと準備がしてあった様で、幅の広いスノーボードの様な木の板を足に結び、杖を両手に持って歩いている。
さらに進むと、表通りには雪が積もっていなかった。
表通りの下には、町の中に湧いている温泉の排水溝が設けてあり、その熱で雪を溶かしているそうだった。
ーーーーー
何が起きているのか良く理解できず、暫く放心状態になってしまった。
仕事が無い、掲示板から鼠討伐の依頼がまったく消えていたのだ。
ケートさんが新規受付窓口で暇そうにしていたので、理由を聞いてみる。
「あんた達知らなかったの。野犬も狼も熊も、みんな雪が積もると真っ白に変わって雪と見分けが付かなくなるのよ。だから雪が積もるとね、レベルの低い冒険者が町の外をうろつくことは自殺行為になるの。それでみんな下水道に殺到して鼠を奪い合うのよ。今頃下水道の中は初中級の冒険者でお祭り騒ぎよ。えっ、上級の冒険者。もうみんな、南の町へ出発したわよ」
念のため、冒険者ギルドの地下室から下水道に降りてみると、大勢の冒険者が大声を上げながら走り回っており、とても僕達が入り込む余地はなさそうだった。
「兄ちゃん、どうするの」
「タケミチがリーダーなんだから何か考えろよな」
「タケさんどうしましょう」
取り敢えず、ギルドの酒場で甘いクム茶を飲んで、脳を活性化させてから考えることにした。
「ランクアップしないと部屋が借りられないからな。少し無理して町の外へ出てみるかな」
「えっ、だって町の外は危ないんでしょ。タケさん」
「たぶん俺には見えると思う」
「あっ、魔素ね」
「うん、だけど俺以外は見えないだろ。なんか良い方法を考えないと危ないかもしれない」
「お兄ちゃん、私達で外の様子をみんなに聞いて来る。コウとタカも手伝って」
「うん」
リコ達五人が、わらわらと酒場で飲んでいる冒険者達の所へ情報収集に向かった。
「アキ、俺達も負けてらんねえぞ」
「おー」
「タケさん、私達も」
「うん」
そして再び甘いクム茶と向かい合う。
町の外は相当寒く、風の強い時にはその場から動けなくなる。
なので町のすぐ近くでも、三日間は過ごせる食料と水とテントが必要。
防寒具と雪の上を歩く板と、荷物運搬用の橇は必須。
雪の明るさに慣れるまでは、目を覆う薄布が必要。
街道沿い、門の近くは比較的安全だが、少し離れれば、荷車や馬車を狙う野犬の群が生息しており注意が必要。
比較的単独行動の野犬が多いのは、裏門側の田園地帯の木柵沿いで、木柵の下に穴を掘って田園地帯の家畜を襲いに来る野犬が狙い目。
用心深く、同じ場所を必ず歩く習慣のようで、罠を仕掛けても見破られてしまう。
大きさは大型犬と中型犬の中間程度で、必ず魔石を持っている。
今の時期は討伐報酬が倍になり、犬肉も品薄なので高く買い取って貰える。
魔石は二シルバー、肉が二シルバー、革が一シルバ、討伐報酬が二シルバーで、合計一匹で七シルバーになる。
ただし、少し吹雪いただけでベテランでも雪との見分けは完全に困難となり、そんな時を狙って野犬達は人を狙って行動する。
低い姿勢からジャンプして、首に食付いて引き倒してから襲うのが、野犬達の得意技だそうだ。
「うーん、なんかパラパラした情報だけど、こんなところか」
「いろいろと出費が嵩みそうね」
「よし、これを平らげたら、古道具を物色しよう」
リコ達が話を聞くついでに貰って来た料理や菓子で、テーブルの上が一杯になっている。
ーーーーー
木簡に必要な物リストを書いて、浴場の帰りに寄る顔見知りの道具屋と古着屋に相談する。
一通り買い揃えた後、まだ余力の有りそうな僕等の様子を見て、古着屋の御主人から声が掛かった。
「ちょうど、嬢ちゃん達向けに面白い物が入ったんだ。見てみるかい」
物凄く薄い素材で作られた白い衣装だった。
おへそが見えそうな浴衣みたいな短い上衣とキュロットみたいなズボンで、ほとんど裏が透けて見える。
エッチな子供用パジャマ?なんかマニアックな臭いする。
衣装を通過する魔素もピンク色に輝いている。
「魔道具ですか」
「おう、兄ちゃん見る目があるねー。愛の女神教会で使ってた儀式用の祭具さ。毎年の光精霊の祭日に、信徒の子供に着せて奉納舞を舞わせていたんだけどよ。なにせこの素材だろ、下着無しだからほとんど裸踊りなんで変な趣味の男共が祭日に大勢押し掛けて来るようになって、ヒンシュクを買ってたんだ。この間の教会組合の会合で、やっと禁止が決議されて、この衣装が廃棄処分になったんで貰って来たんだよ。クルントス大森林に生息する風妖精の繭から取った糸で織りあげてあって、普段は物凄く柔らかいんだけど、ほら、こう叩くと物凄く硬くなるんだ。保温性抜群だから防寒具にも防具にもなるし、下着替りに丁度良いぜ。丁度七着ある。同じ素材の女神様が描いてある大旗と一緒で五シルバーで良いぜ」
「はい、買います」
「タケ、俺はこんなエッチなの着たくないぜ。姉ちゃんに着せろよ」
「下着替りだから大丈夫だよ、これで町の中を歩く訳じゃ無いだろ。第一、こんな小さな衣装、ハルさんに入るわけないだろ、弾けちゃうよ」
「むっ!」
「あっ、ごめん」
今日は明日に備えて外に出た時の練習をした。
テントを張る練習、板を足にはめて歩く練習、橇に荷物を乗せて走る練習、薄布で目隠しして雪の上を走る練習。
僕とハルさんはモコモコの服を着ても寒いのだが、明美達は衣装の上に普段の服を羽織っただけなのに汗ばんでいた。
首を野犬から護る、黒い革ベルトも買った。
ハルさんの首に巻くのを手伝ってあげたら、なぜかハルさんが上気した顔をしていた。
「姉ちゃん、どうしたの」
「何でもないわよ」
ーーーーー
「そーか、愛の女神教会さん、遂に止めさせられちゃったのかー」
「あれ、メアリーさんは会合に出席しなかったんですか」
「うん、あんた達の召喚日だったからね。シスターのプルルは悔しがってるだろうなー」
「知り合いなんですか」
「私と同期よ。愛の女神教会も貧乏教会なの。光精霊の祭日の寄付で一年間食繋いでいる状態なのに、来年からどうするんだろうなー」
「恋愛成就とかの御利益は無いんですか」
「そういう目的の人は、縁結びの女神様に流れちゃうの。愛って基本的には見返りを求めない物なのよねー。まあ、うちも愛の女神教会も恋愛成就の祈祷は出来るんだけどねー」
うーん、慈悲の救済教会での恋愛成就の祈祷か、なんかとても追い詰められた状態の人向けのような気がする。
最初の四日間は相変わらず鼠の影も濃く、松明で釣り上げて一日八百匹を狩れた。
だが、五日目からは鼠の影が急に薄くなり、がくんと食い付きが悪くなった。
そして七日目からは、下水道に入って、自分達で鼠を捜さなけれならなくなったが、それでも水中の鼠が見えている利点は大きく、一日三百匹を狩って九日目には無事依頼を完了した。
「ありがとう、静かになって、夜ちゃんと眠れるようになったわ。はい、完了のサインとお土産よ」
スレンダさんは毎日仕事が終わると、店の残り物を持たせてくれた。
美味しい料理が食べられなくなるのは、一番悲しかった。
依頼完了の木札を持って冒険者ギルドへ向かう。
陽が少しずつ短くなって来ているようで、時の鐘に比べて陽の位置は低くなっている。
「はい、最後の十シルバーよ。無事依頼を完了したから冒険者ランクが上がったわ。今度は九等級よ。はい、栄養剤」
なんか最近腹筋が割れて来た様な気がする。
ーーーーー
その後順調に鼠討伐の依頼をこなし続け、一日三百匹、一日四十シルバーを安定して稼ぎ続けられるようになった。
貯金も十五ゴールドを越え、教会から放り出される日も迫り、次の宿泊場所を真剣に検討し始めている。
メアリーさんは、定収入が得られる僕達の宿泊の延長は大歓迎なのだが、半年前、宿業ギルドから教会組合へ礼拝堂での簡易宿泊は専業者の業務を妨害する行為であり、謹んで欲しいとの申し入れがあったそうなのだ。
その申し入れを受けた教会組合は、幹事会を開催し、二月を越える礼拝堂での宿泊は、神聖で在るべき聖地の俗化であり、反宗教行為であるとの厳しい判断基準を示した。
なので、貧乏人達の簡易宿泊所と化していた慈悲の救済教会も従わざるを得なかったそうなのだ。
「酷いでしょ、貧乏教会を狙い撃ちにして潰そうとする意図が丸見えなのよね」
普通の宿は、相部屋で一人一泊二シルバーが相場で、一泊十八シルバーなので一月で九ゴールド必要になる。
今の僕等の収入ならば可能は可能なのだが、レベルアップ時の出費や装備の事を考えれば、普通の冒険者の収入に満たない僕達では少々苦しい。
メアリーさんやプクさんとも相談した結果、僕等は人数が多いので、借家を借りた方が安上がりであるとの結論に達した。
工房区の裏道の奥に建つ日当たりの悪い五連棟のログハウスなら、一部屋一月一ゴールドで借りられる。
五部屋が並んだ平屋の長屋で、六畳くらいの土間と六畳くらいの板の間があり、土間に流しとトイレが付いている。
地下室は無く、土間に穴が掘ってあり、梯子で下水道へ降りる構造になっている。
ただ、借りる時には一年分の家賃前払いで、異世界の人間は冒険者ギルドの保証が必要になる。
冒険者ギルドが保証札を発行してくれるのだが、対象は八等級以上の冒険者で、今の僕達のランクでは発行して貰えない。
でも、ギルドの窓口で相談したら、今のペースなら四日後にはランクアップするから大丈夫と言われ、ぎりぎり間に合いそうだった。
一年分の家賃前払いがネックになるのか、結構長屋の空きは有り、教会と公衆浴場と冒険者ギルドに近い場所を何カ所か見繕っておいた。
ーーーーー
そんなある日、凄く冷え込んだと思ったら、教会の白い窓硝子から差し込む朝の光がやけに明るかった。
礼拝堂の扉を開けたら、外は一面の厚い雪に覆われた銀世界だった。
魔素を見る目で雪を見るのは始めてだ。
雪を通過する魔素はあまり光らないようで、水と石の中間くらいだった。
たった一晩で七、八十センチは積もっている。
子供達は燥いでいたが、冒険者ギルドまで歩くことを考えると少し気が重たかった。
朝食後、脛当てによく蝋を塗り込んで足に巻く。
裏道を抜けるまでは、膝まで沈む雪の中を僕が先頭になってラッセルしたが、裏通りからは雪が踏み固められて歩き易くなっていた。
さらさらした雪質で、着替えのズボンを持って行ったが、履き替える程濡れなかった。
周囲を歩く人達は、ちゃんと準備がしてあった様で、幅の広いスノーボードの様な木の板を足に結び、杖を両手に持って歩いている。
さらに進むと、表通りには雪が積もっていなかった。
表通りの下には、町の中に湧いている温泉の排水溝が設けてあり、その熱で雪を溶かしているそうだった。
ーーーーー
何が起きているのか良く理解できず、暫く放心状態になってしまった。
仕事が無い、掲示板から鼠討伐の依頼がまったく消えていたのだ。
ケートさんが新規受付窓口で暇そうにしていたので、理由を聞いてみる。
「あんた達知らなかったの。野犬も狼も熊も、みんな雪が積もると真っ白に変わって雪と見分けが付かなくなるのよ。だから雪が積もるとね、レベルの低い冒険者が町の外をうろつくことは自殺行為になるの。それでみんな下水道に殺到して鼠を奪い合うのよ。今頃下水道の中は初中級の冒険者でお祭り騒ぎよ。えっ、上級の冒険者。もうみんな、南の町へ出発したわよ」
念のため、冒険者ギルドの地下室から下水道に降りてみると、大勢の冒険者が大声を上げながら走り回っており、とても僕達が入り込む余地はなさそうだった。
「兄ちゃん、どうするの」
「タケミチがリーダーなんだから何か考えろよな」
「タケさんどうしましょう」
取り敢えず、ギルドの酒場で甘いクム茶を飲んで、脳を活性化させてから考えることにした。
「ランクアップしないと部屋が借りられないからな。少し無理して町の外へ出てみるかな」
「えっ、だって町の外は危ないんでしょ。タケさん」
「たぶん俺には見えると思う」
「あっ、魔素ね」
「うん、だけど俺以外は見えないだろ。なんか良い方法を考えないと危ないかもしれない」
「お兄ちゃん、私達で外の様子をみんなに聞いて来る。コウとタカも手伝って」
「うん」
リコ達五人が、わらわらと酒場で飲んでいる冒険者達の所へ情報収集に向かった。
「アキ、俺達も負けてらんねえぞ」
「おー」
「タケさん、私達も」
「うん」
そして再び甘いクム茶と向かい合う。
町の外は相当寒く、風の強い時にはその場から動けなくなる。
なので町のすぐ近くでも、三日間は過ごせる食料と水とテントが必要。
防寒具と雪の上を歩く板と、荷物運搬用の橇は必須。
雪の明るさに慣れるまでは、目を覆う薄布が必要。
街道沿い、門の近くは比較的安全だが、少し離れれば、荷車や馬車を狙う野犬の群が生息しており注意が必要。
比較的単独行動の野犬が多いのは、裏門側の田園地帯の木柵沿いで、木柵の下に穴を掘って田園地帯の家畜を襲いに来る野犬が狙い目。
用心深く、同じ場所を必ず歩く習慣のようで、罠を仕掛けても見破られてしまう。
大きさは大型犬と中型犬の中間程度で、必ず魔石を持っている。
今の時期は討伐報酬が倍になり、犬肉も品薄なので高く買い取って貰える。
魔石は二シルバー、肉が二シルバー、革が一シルバ、討伐報酬が二シルバーで、合計一匹で七シルバーになる。
ただし、少し吹雪いただけでベテランでも雪との見分けは完全に困難となり、そんな時を狙って野犬達は人を狙って行動する。
低い姿勢からジャンプして、首に食付いて引き倒してから襲うのが、野犬達の得意技だそうだ。
「うーん、なんかパラパラした情報だけど、こんなところか」
「いろいろと出費が嵩みそうね」
「よし、これを平らげたら、古道具を物色しよう」
リコ達が話を聞くついでに貰って来た料理や菓子で、テーブルの上が一杯になっている。
ーーーーー
木簡に必要な物リストを書いて、浴場の帰りに寄る顔見知りの道具屋と古着屋に相談する。
一通り買い揃えた後、まだ余力の有りそうな僕等の様子を見て、古着屋の御主人から声が掛かった。
「ちょうど、嬢ちゃん達向けに面白い物が入ったんだ。見てみるかい」
物凄く薄い素材で作られた白い衣装だった。
おへそが見えそうな浴衣みたいな短い上衣とキュロットみたいなズボンで、ほとんど裏が透けて見える。
エッチな子供用パジャマ?なんかマニアックな臭いする。
衣装を通過する魔素もピンク色に輝いている。
「魔道具ですか」
「おう、兄ちゃん見る目があるねー。愛の女神教会で使ってた儀式用の祭具さ。毎年の光精霊の祭日に、信徒の子供に着せて奉納舞を舞わせていたんだけどよ。なにせこの素材だろ、下着無しだからほとんど裸踊りなんで変な趣味の男共が祭日に大勢押し掛けて来るようになって、ヒンシュクを買ってたんだ。この間の教会組合の会合で、やっと禁止が決議されて、この衣装が廃棄処分になったんで貰って来たんだよ。クルントス大森林に生息する風妖精の繭から取った糸で織りあげてあって、普段は物凄く柔らかいんだけど、ほら、こう叩くと物凄く硬くなるんだ。保温性抜群だから防寒具にも防具にもなるし、下着替りに丁度良いぜ。丁度七着ある。同じ素材の女神様が描いてある大旗と一緒で五シルバーで良いぜ」
「はい、買います」
「タケ、俺はこんなエッチなの着たくないぜ。姉ちゃんに着せろよ」
「下着替りだから大丈夫だよ、これで町の中を歩く訳じゃ無いだろ。第一、こんな小さな衣装、ハルさんに入るわけないだろ、弾けちゃうよ」
「むっ!」
「あっ、ごめん」
今日は明日に備えて外に出た時の練習をした。
テントを張る練習、板を足にはめて歩く練習、橇に荷物を乗せて走る練習、薄布で目隠しして雪の上を走る練習。
僕とハルさんはモコモコの服を着ても寒いのだが、明美達は衣装の上に普段の服を羽織っただけなのに汗ばんでいた。
首を野犬から護る、黒い革ベルトも買った。
ハルさんの首に巻くのを手伝ってあげたら、なぜかハルさんが上気した顔をしていた。
「姉ちゃん、どうしたの」
「何でもないわよ」
ーーーーー
「そーか、愛の女神教会さん、遂に止めさせられちゃったのかー」
「あれ、メアリーさんは会合に出席しなかったんですか」
「うん、あんた達の召喚日だったからね。シスターのプルルは悔しがってるだろうなー」
「知り合いなんですか」
「私と同期よ。愛の女神教会も貧乏教会なの。光精霊の祭日の寄付で一年間食繋いでいる状態なのに、来年からどうするんだろうなー」
「恋愛成就とかの御利益は無いんですか」
「そういう目的の人は、縁結びの女神様に流れちゃうの。愛って基本的には見返りを求めない物なのよねー。まあ、うちも愛の女神教会も恋愛成就の祈祷は出来るんだけどねー」
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