欠陥品なんです、あなた達は・・・ネズミ捕りから始める異世界生活。

切粉立方体

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21 開花

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 お布施をたっぷりと投げ入れて貰い、メアリーさんの顔が綻んでいる。
 原因の一端は僕達にあるし、他船の不幸を食い物にしているようで、僕は素直に喜べない。
 でも、明美の歌やハルさん達の演奏を聞いて、多くの人達が喜んでくれたようなので、それはそれで嬉しい。

 設定されていた今日のコースを一通り回り、僕達は帰途に着いた。
 農業組合の前の広場には、ボロボロになった祭船が並んでおり、船大工達が大勢詰めて、船を直していた。
 相当な混乱が有ったようで、風と沈黙の祭船以外の祭船も、マストが折れてボロボロになっている。
 どうやら、無事だったのは、僕等の船だけだったらしい。
 裏門の外に船を停めて戻ったら、僕とメアリーさんは、祭船責任者会議へと連行された。

 会議は農業組合事務所の会議室を借りて行われるのだが、会議室に入った途端、物凄い険悪な雰囲気に圧倒された。

「それでは、臨時の祭船責任者会議を始める。今日の供養巡航は、慈悲の救済教会が履行してくれた。厄霊が無事祓われていたのは確認した。皆、安心して欲しい」

 安堵の吐息を吐き出すシスターや、驚愕して声を上げそうになるシスター、僕等を睨み付けるシスター、不信感一杯の顔をするシスターなど、教会によって反応が様々だったが、驚いたことに、皆真面目な顔で反応している。
 若しかすると、寄付集めのパフォーマンスじゃなくて、ガチな宗教行為だったのだろうか。

 会議テーブルはロの字型に配置してある。
 奥に神服を纏っている、組合長も含めた教会組合の役員が五名、昨日は二名だったので、今日は三人増えている。
 聖職者の筈なのだが、全員戦士の様な体格をしており、顔も怖い。
 右側のテーブルの一番奥に沈黙の教会のシスターと信徒の責任者、一番手前には風の教会のシスターと信徒の責任者、互いの間を随分と開けて座っている。
 両シスター共に、何となく不貞腐れた態度で座っている。
 左側のテーブルには、雪と氷の教会、闇の教会、死の教会、眠りの教会、夢の教会のシスターと責任者が座っており、沈黙の教会のシスターと風の教会のシスターを睨んでいる。

 僕等は手前のテーブルで、祭りの事務局と並んで座らされた。
 全員が着替え前に集められていたようで、泥だらけの腰布姿のマッチョと、羽が折れて薄汚れた天使が、良く磨かれた豪華な会議テーブル前に居並ぶ姿は、なんか異様な光景だった。

「組合の立場は常に中立だ、だから争いの是非は問わん。だが、厄霊の供養は祭りに参加する祭船の義務だ。義務が果たせなかった祭船については、教会から違約金を支払って貰う。これは参加申請書の誓約書にも明記されている内容だ」

 左側のテーブルから猛抗議が起こった、単なる被害者なのだから当然だ。

「ただし、違約金の額については組合の裁量の範囲にある。風の教会と沈黙の教会から手厚く徴収するつもりだ。了解して貰うぞ、風、沈黙」

 風のシスターも沈黙のシスターもそっぽを向いている、うん、態度が悪い。

「それじゃ明日の祭船の並び順を発表する。先頭は今日と同様風の祭船、次が十二分に距離を取って沈黙の祭船」

 左側のテーブルからどよめきが起こった。
 風のシスターと沈黙のシスターが顔を引き攣らせている。

「以後は今日と同じ並びだ。明日に備えて十分に準備をして欲しい。以上だ」

 風のシスターと責任者、沈黙のシスターと責任者が、血相を変えて会議室を飛び出した。

 翌朝、風の祭船と沈黙の祭船は、それぞれ三千人近い信徒に護られており、祭りが始まると、順路から大きく外れて雪原へ向かった。
 そしてその後ろを、十万人近い野次馬がぞろぞろと付いていった。

 パレードの順路は、一旦教区の表通りを抜けてから、その日に設定されている地区へ向かう様に設定されている。
 風と沈黙の教会は半壊状態で、昨日の騒動の大きさは、僕が想像していた以上だった。

 僕等は最後尾ながら、明美の歌とハルさん達の演奏の評判が良く、お布施も結構投げ入れて貰えた。
 三日目の夜、孝太と隆文が怒られながらリコとリンに笛を教わっていた。
 何事かと思ったら、リコとリンも歌を歌いたくなったようで、次の日から、孝太と隆文に笛を吹かせて、気持ち良さそうに歌っていた。
 ハルさんとメイも我慢できなくなったようで、最終日には五人の合唱になっていた。

 魔素の揺らぎが作り出した光の粒が空から降り注ぎ、周囲の人や物に染み込んで行く。
 お布施が投げ入れられ、メアリーさんが高笑いをしていた。

 雪原で繰り広げられていた風の祭船と沈黙の祭船の争いは、大勢の観客が見守る中、六日目、風の信徒が沈黙の祭船を占領して決着が付いたそうだ。

ーーーーー
 無事?祭りも終わり、僕等は再び野犬狩りの仕事に精を出す。
 そして週の半ば、硝子の粒が流れ出すような澄んだ音が頭の中に流れ、僕等は再び”開花”した。

 その夜、フクロウ便でメアリーさんへ僕等の開花を知らせ、翌朝、慈悲の救済教会へ出向くことにした。
 そして翌朝教会へ出向くと、メアリーさんが、継ぎ当ての無い普通の神官服を着て待っていた。

「ごめんねー、教会組合が精密能力検査をさせろって、煩いのよねー」

 先日のパレードでの神楽と歌のお祓い、ここは異世界なので、僕は普通の出来事と思っていたのだが、光の粒が降って来るのは、普通の出来事じゃ無かったらしいのだ。
 他にも悪目立ちしていたことと、竜殺の勇者の伝承も加わって、聖女の出現とか勇者の出現とかで噂になってしまったそうなのだ。

 宗教都市と言っても、各教会のバックには国が付いている。
 能力者の召喚情報をいち早くキャッチして、少しでも有利な立場に立とうと血眼になっているそうなのだ。
 勿論、慈悲の救済教会のような、情報に関心の無い、金蔓を持たない貧乏教会もある。

「あんた達、無能力者って判定だったからノーマークだったのよ。だから余計気になってるらしいの。噂を聞いた各国の領事からの照会が、この数日で山積みになってるそうよ。でも期待しないでね、勇者は五年前に召喚されちゃっているから。空中を漂う氷粒が光の加減で光るって、良くあることなのよねー」

 僕の船で教会組合へ向かった。
 
「タケミチ、勇者って女にもてるんだよな」
「ああ、アニメだと漏れなく美少女のハーレム付きだな」
「うおー!触り放題、舐め放題だ」
「タケさん、ユウに馬鹿な事吹き込まないで。ユウ、好い加減にしなさい」

 教会組合は裏通り面した黒石の重厚で大きな建物だった。
 正面玄関前が何か混んでいたので、裏の駐船場へ船を停め、裏口からこそこそと入った。

「おう、メアリー、裏口で正解だ。すまんが今日の呼び出しの情報が外へ漏れたみたいだ。玄関前のホールは、人が一杯で中へ入れる状態じゃない」

 組合長室に通され、大きな応接セットでお茶とお菓子を振舞われている。
 慌ただしく出入りする職員達の顔が、心持引き攣っている。
 検査の準備が出来たようで、孝太から順番に別室へ呼び出された。

 半鐘(三十分)ほどしてから、隆文が呼び出された。孝太はまだ帰って来ない。
 さらに半鐘ほどしてから、リンが呼び出され、孝太も隆文も帰って来ない。
 メイ、リコ、ユウ、明美、ハルさんの順で呼び出されたが、誰もまだ帰って来ない。
 もうお茶で、腹がゴボゴボだ。

 そして僕が呼び出された。
 別室へ行くと、部屋の中央に棺桶の様な物が置いてあり、その周囲に置かれている石板の前で、大勢の係員が緊張した顔で座っていた。
 試着室の様な場所で着ている服を全て脱いで、浴衣の様な服一枚に着替えさせられ、棺桶の中へ横たわる様に指示された。
 墓場の中で棺桶に入る様な、顔が引き攣りそうな状況だったのだが、周囲の人間の真剣な眼差しに圧倒され、我慢して中に入った。
 蓋が閉められ真っ暗闇になった。
 魔素の目で見ると、棺桶の壁は赤く光っていたので、たぶん魔道具なのだろう。
 体重計の様な魔道具で感じた感覚が、何度も身体の中を往復した。

 退屈なので、壁を通して周囲の人達を観察していたら、緊張していた表情が、次第に緩んで行くようだった。
 検査が終わり、蓋が開けられた。
 試着室の様な場所で着替え、何の指示も無いので、取敢えず組合長室へ向かった。
 そこでは、メアリーさんが一人だけ待っていた。

「ごめんねタケミチ、あんただけ草だった」

 話が全然見えないので、詳しく話を聞いてみる。

 この町で、異世界から最初に勇者が召喚されたのは約五百年前、その時この世界の人間を驚かせたのは、本人の能力ではなく、数度目の開花の時の魔花の多さだった。
 魔花の花弁の数は、この世界では魔法力に匹敵する。
 だから開花する魔花の数が多いということは、将来の大きな魔法力を保証するものだったのだ。
 しかも魔花の数が、この世界の人間に比べて圧倒的に多かったのだ。
 その当時の神官達は、魔花の木を宿す者と表現した、それだけ花の数が圧倒的に多かったのだ。

 その勇者を貰い受けた王は狂喜乱舞した。
 その頃の王族や貴族は、開花する魔花が多い事で、自己の一族の優位性を神の恵みとして正統性を誇っていた。
 それでも、一回に開花する魔花は精々五輪から七輪程度だったのだが、勇者の魔花の数は桁違いだった。

 それ以来、この大陸の支配者層には、召喚される勇者の血が広く行き渡り、魔花の木を宿す者と呼ばれて敬われるようになった。
 そして一般平民の魔花は草と呼ばれ、区別される様になった。

「あんた以外、ハルちゃんもユウもアキちゃんも、リコやメイやリンやコウやタカも、みんな木を宿していたの。十年に一人って思われていたから、教会組合は大騒ぎよ」
「みんな何処にいるんですか」
「万が一攫われたら、国同士の戦争が幾つも勃発するでしょ。だから組合の神兵に護られて聖都へ向かったわ。そこの王侯貴族が通う魔法学院で、魔法を学んで貰って、結婚相手を選んで貰うの」
「結婚相手ですか」
「ええ、それは勇者側の自由意思よ。もちろんタケミチは草だから駄目よ」
「みんなにまた会えるんでしょうか」
「うーん、身分が全然違っちゃったから無理でしょうね。でもまあ、私も居るし、頑張りなさい」

 責任が無くなったと思えば良いのだろうが、なんか気力が抜けて行くようで、身体に力が入らない。
  
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