欠陥品なんです、あなた達は・・・ネズミ捕りから始める異世界生活。

切粉立方体

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24 逃亡

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 服を剥ぎ取ったのには理由が有る。
 こんな凹凸の無い、餓鬼の裸が見たかった訳じゃない。
 魔素の目で見たら、餓鬼の服の中に物騒な刃物が一杯縫い込んであったのだ。

 気が付いたので尋問しようとしたら、直ぐに縄抜けを始めた。
 妨害しようとくすぐってみたら、これが意外に効いている。
 蔓との協同作業でくすぐり倒す。

「ねえ、これ使わないの」

 女が鞭と蝋燭を持って、不満顔で立っている。
 ベットの下から引っ張り出したらしい。

「俺にそんな趣味は無え」

「あはははは、いひひひひ。やめ、いひひひ、おい、あはははは。腹が、いひひひひひ、息が、ひーひーひー」

 一鐘ほどくすぐり続けたら、目が虚ろになって、痙攣し始めた。
 なんか蔓が、物凄く楽しそうに弱点を捜している。
 そろそろ尋問の頃合いだろう。

「目的は何だ。大人しく白状しないとこうだぞ。(コチョコチョコチョ)」
「ひー、もう止めて。頼まれたの、ロリ野郎を殺せって頼まれたの」

 むむむむむ、僕はロリコンじゃない、失礼な奴だ。

「誰に頼まれた。(コチョコチョ)」
「あはははは、はっ、はっ、はっ、はっ。国家連合の役人よ」
「役人の名前は。(コチョコチョコチョ)」
「ひー、あー、ひー、死ぬ。キャリアよ、キャリア」

 明美の手紙に書いてあった、明美達の引率者だ。
 僕を邪魔者と認識して、消しに来たのだろう。
 なんか、凄くやばい気がする、懇意な顔役に、後で相談してみよう。

「ねえ、終わったの」
「ああ」
「それじゃ私と交代して」
「好きにしろ」

 僕が餓鬼から目を放して、サイドテーブルの上の水割りに手を伸ばした瞬間だった。
 黒装束の男二人が部屋へ飛び込んで来て、一人が餓鬼を担ぎ、一人が女に切り掛かった。
 蔓が咄嗟に引き寄せたので女は無事だったが、男二人は、餓鬼を担いで窓から逃げてしまった。
 魔素の目で見たら、屋根の上を疾走している。

ーーーーー
フーガの里忍者 イカズチ

 危なかった、姫の抜け駆けは毎度の事なのだが、今回は本当に危なかった。
 姫が殺されなかったのが不思議だ、背中を冷や汗が流れ落ちる。

「姫、御無事ですか」
「無事じゃない、全然無事じゃない。弄ばれた、絶対にあいつを殺す」

 姫は無事なようだ。
 男の隙だらけな背中に油断して、自分も危機感を持ってなかった。
 完全な油断、怠慢だ。

 だが事前に聞いていた情報と随分違う。
 姫の技量がまるで通じない相手なら、今回の依頼料では割に合わない。
 長老に報告して、割増し料金を請求して貰おう。

「あいつ、変な魔法を使った。次は油断しない」

ーーーーー
「タケ、そりゃ相当やばいぜ。北大陸の王侯貴族を敵に回したのと一緒だ。逃げろ、適当な罪状を付けた手配書が、直ぐに回って来るぞ。ほれ、偽の認識票だ、これ持って直ぐに逃げろ」

 裏組織の顔役に相談したら、逃げ出すことを勧められた。
 国家連合とは、国家間の紛争が起こらない様に、召喚された勇者を管理するために設置された北大陸の国際組織らしく、相当強い権力を持っているらしい。
 人権が二束三文のこの世界では、権力イコール絶対正義なので、僕なんかゴキブリのように踏んづけられてお終いだろう。

 とっとと逃げ出すことにした。 
 取敢えず、船を農業組合に返し、メアリーさんに別れを告げる。

「馬鹿タケ、だからふしだらな生活してると、こんな事が起こるって言ってたのよ」

 いやいや、それとこれとは違うだろ。

 夜明け前の暗闇の中、人気ひとけの無い落陽門の通用口から町の外へ出る。
 今まで、裏組織の配達を請け負っていたので、合鍵が支給されている。

 落陽門から伸びる無人の広い街道を暫く歩き、適当な場所で、一人脇の森の中へと踏み込む。
 普通なら、闇が支配している雪の森の中を一人で歩くのは自殺行為だ。
 勿論、魔素の目が使える僕でもそれは一緒だ。
 街道沿いの野犬は、群で行動するので、襲われたら一溜まりもない。

 でも勝算が有って、僕は森の中へ入って来た。
 手近な木によじ登り、梢近くまで登って行く。
 木の枝の上に立ち上がり、方向を確かめてから、右手を突き出して、闇の中へ思い切って飛び込んだ。

 身体が落ち始めた時、突き出した右手から蔓が伸びて、五メートル先の枝に絡み付く。
 その枝を中心に、僕の身体は振り子の様に弧を描き、更に先の枝へと飛んで行く。
 左手を突き出して、勢いを殺さぬよう、思い切りその枝を後方に蹴って、闇の中へ身を躍らせる。
 左手から延び蔓が、再び五メートル先の枝に絡み、僕の身体が弧を描く。

 そう、僕には森の中を飛んで進む手段があるので、あえて森の中へ入ったのだ。
 枝に着地などせずに、蔓の力だけで飛んだ方が早いのは解っている。
 でも、厄介な事に、僕も全力で跳ばないと、蔓は臍を曲げて手伝ってくれないのだ。
 
 目指しているのは、サラワというトリネトス大河沿いの町だ。
 通常のルートで行くのなら、河口近くまで支川を一月程下り、本河を二月程遡らなければならない。
 ストロベリからならば、直線ならば歩いて十日程の距離なのだが、深い森や深い谷が間を遮り、迂回せざるを得ないのだ。
 僕の能力でショートパスして、追手の目を誤魔化そうと考えたのだ。

 途中、発情した雄の大猿に追い駆けられた肝をひやしたが、森の中の急流や、深い谷を何度も飛び越え、僕は二日でサラワに到着した。

 芸人の宿に仁義を切り、吟遊詩人としての仕事を割り振って貰う。
 歓楽街で吟遊詩人の真似事をしていた僕は、裏組織側の人間として、この辺の細かい仕来りは良く知っている。
 銀貨一枚を払って、地元の吟遊詩人に流行りの詩を歌って貰う。
 吟遊詩人とは、新しいニュースを人々へ伝えて料金を貰う、放送局の様な存在なのだ。

 驚いた事に、一番の流行詩は、ストロベリに出現した勇女と勇者の詩だった。
 雪精霊の祭りの、風の教会と沈黙の教会との争に絡めて脚色されていた。

 だが実際の出来事と大幅に中身が違う。
 風の祭船が勇女、勇者の祭船に襲い掛かり、沈黙の祭船が勇女、勇者と協力して風の祭船を退けるという内容になっているのだ。
 沈黙の教会は王侯貴族が信仰する教会、たぶん、権力者の意向で歪んだのだろう。
 歌の中で、勇女、勇者を一人一人美句麗句で飾り立てて歌う。
 たぶんハルさんが聞いたら、恥ずかしくて転げ回るだろう。

 悲しい事に、僕の存在は綺麗さっぱり葬り去られていた。
 
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