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26 王都
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船から板を渡って河岸に降りる。
河岸で係員に銀貨二枚を渡し、タブレットの様な板で認識票を確認して貰う。
河岸には市が立っており、仲買人が船から降ろした荷を捌いていた。
岸には雪が残っておらず、市の周りで商人達がカーペットを広げて商品を並べていた。
初めて見る果物も多く、凄く興味はあったのだが、男達の組織に顔を出す必要があったので、後髪を引かれる思いで河岸を後にした。
周囲の店が商店から怪しげな看板の並ぶ歓楽街に変り、何となく家に戻った気分になった。
まだ、昼前の朝に近い時間だ。
看板に描かれた裸の女の笑みが、明るい光の中で寂しげに見える。
細い路地を抜けると、客の食い残しが腐臭を放つ、勝手口が並ぶ裏通りへと出た。
髪の毛を乱した半裸の女が歩き回り、鼠が残飯を漁っている。
通りの奥に男二人が警戒して立っているドアがあった。
魔素の目で見ると、物陰に数人の男が潜んでいる。
「先生こちらです」
船で一緒になった男が、ドアを開けた。
僕を案内して来た男達が奥へ通され、僕は暫く若い男達がたむろする待合室の様な場所で待たされた。
狂犬の様な目付きの男達が、僕をねめつける。
これもまあ、見慣れた光景だ。
蔓が好戦的に、僕の目の前をユラユラしている。
応接室に案内された。
部屋の中央に豪華な応接セットが置いて有り、僕を案内してきた男達が壁際に並んでいる。
これから組織のボスの面接があるようだ。
僕がソファーに深く腰掛けると、正面のドアが開いて、ボスが入って来た。
そのボスの姿を見た瞬間、僕は凄く不味いと思った。
三十代前半、赤い髪の化粧の濃い美人だった。
その女性は、僕を冷たい瞳で見つめ、口を開いた。
「なんだ、餓鬼じゃ、わっ」
案の定、蔓が凄い勢いで伸びて行き、その女性を抱き寄せようとした。
その女性は蔓のどストライクだった。
女性が隠し持ったナイフを物凄い素早さで投げ付けて来た。
魔素の目で見えてなかったら、危なかっただろう。
僕は必死にソファーから飛び上がり、ソファーの後ろに着地した。
ナイフがソファーに突き刺さり、僕の動きに引き摺られて、女性が頭からソファーに突っ込む。
その女性は足首まである長いスカートを履いていた。
今そのスカートが大きく捲れ、下半身がお臍近くまで露出している。
僕の立ち位置からすると、逆立ちしている様な姿勢で、目の前に女性の形良い両足と可愛いパンティーがユラユラしている。
無意識に手が伸びて、女性の太腿を撫で廻してしまった。
そして僕のその行動に何か勘違いしたのか、蔓が物凄い勢いで女性をくすぐり始めてしまった。
「ぎゃははははは」
・・・・・失禁するほど笑わせてしまった。
僕は土下座して謝った。
「ごめんなさい」
「まあ、私にも餓鬼だと思ってた油断があったさ」
女性の名前はゾフィさんと言う。
「でもあんた、随分と変わった挨拶じゃないか。あたいを舐めてるのかい」
「ごめんなさい」
殴られてしまった。
それでも実力?は認めてくれて、用心棒として雇われた。
何度か他の組織との出入りに動員され、それなりに実力を発揮した。
僕にとっては、蔓との連携を確認する良い機会だった。
何度かに一回、僕の意思と蔓が重なる時があるのだ。
無意識に行動している時に、蔓と意識が偶然重なる。
周囲全体に意識が広がり、蔓が指の様な感覚になる。
手の平を広げる様に十本の指が伸びて行き、相手の足に絡みついて地面に叩き付ける。
組織同士の争いは、相手を殺す事を好まない。
遺恨を残すし、勢力を拡大する時に相手の組織を吸収することが難しくなるためだ。
皆殺しの選択しか無くなると、自分の組織の消耗も大きくなるのだ。
だから抗争は、力比べの様な感じになる。
僕の、いや、蔓の能力は、こんな抗争に適していた。
花精霊の季祭りが終わり、光精霊の季祭りが近づいて来ると、最後に残った三つの組織で手締めが行われた。
ゾフィさんの組織の縄張りは、歓楽街の中部と商店街の東部で確定した。
構成員も二百人から一万人に増え、他の組織の優秀な頭達が幹部となり、組織の構成もしっかりした物となった。
僕は、気が付いたら、ゾフィさんの情夫的な立場になっていた。
抗争が無くなると、武闘派達の居場所が減って行き、武闘派達は自分の生き場所を求めて、他の都市へと旅立って行った。
僕の用心棒としての必要性も無くなった。
「ゾフィ、来週旅に出ようと思う」
「寂しいけど、別れ時かもしれないわ。行く当ては有るの」
「俺は吟遊詩人だ、風が教えてくれるさ」
「ふっ、ふっ、ふっ。それじゃもう一回」
僕は突然海が見たくなった。
トリネトス河を下って、自由都市へ向かおうと思う。
ゾフィさんから餞別をたっぷり貰ったので、今度は二等船室を使ってみる。
河岸で係員に銀貨二枚を渡し、タブレットの様な板で認識票を確認して貰う。
河岸には市が立っており、仲買人が船から降ろした荷を捌いていた。
岸には雪が残っておらず、市の周りで商人達がカーペットを広げて商品を並べていた。
初めて見る果物も多く、凄く興味はあったのだが、男達の組織に顔を出す必要があったので、後髪を引かれる思いで河岸を後にした。
周囲の店が商店から怪しげな看板の並ぶ歓楽街に変り、何となく家に戻った気分になった。
まだ、昼前の朝に近い時間だ。
看板に描かれた裸の女の笑みが、明るい光の中で寂しげに見える。
細い路地を抜けると、客の食い残しが腐臭を放つ、勝手口が並ぶ裏通りへと出た。
髪の毛を乱した半裸の女が歩き回り、鼠が残飯を漁っている。
通りの奥に男二人が警戒して立っているドアがあった。
魔素の目で見ると、物陰に数人の男が潜んでいる。
「先生こちらです」
船で一緒になった男が、ドアを開けた。
僕を案内して来た男達が奥へ通され、僕は暫く若い男達がたむろする待合室の様な場所で待たされた。
狂犬の様な目付きの男達が、僕をねめつける。
これもまあ、見慣れた光景だ。
蔓が好戦的に、僕の目の前をユラユラしている。
応接室に案内された。
部屋の中央に豪華な応接セットが置いて有り、僕を案内してきた男達が壁際に並んでいる。
これから組織のボスの面接があるようだ。
僕がソファーに深く腰掛けると、正面のドアが開いて、ボスが入って来た。
そのボスの姿を見た瞬間、僕は凄く不味いと思った。
三十代前半、赤い髪の化粧の濃い美人だった。
その女性は、僕を冷たい瞳で見つめ、口を開いた。
「なんだ、餓鬼じゃ、わっ」
案の定、蔓が凄い勢いで伸びて行き、その女性を抱き寄せようとした。
その女性は蔓のどストライクだった。
女性が隠し持ったナイフを物凄い素早さで投げ付けて来た。
魔素の目で見えてなかったら、危なかっただろう。
僕は必死にソファーから飛び上がり、ソファーの後ろに着地した。
ナイフがソファーに突き刺さり、僕の動きに引き摺られて、女性が頭からソファーに突っ込む。
その女性は足首まである長いスカートを履いていた。
今そのスカートが大きく捲れ、下半身がお臍近くまで露出している。
僕の立ち位置からすると、逆立ちしている様な姿勢で、目の前に女性の形良い両足と可愛いパンティーがユラユラしている。
無意識に手が伸びて、女性の太腿を撫で廻してしまった。
そして僕のその行動に何か勘違いしたのか、蔓が物凄い勢いで女性をくすぐり始めてしまった。
「ぎゃははははは」
・・・・・失禁するほど笑わせてしまった。
僕は土下座して謝った。
「ごめんなさい」
「まあ、私にも餓鬼だと思ってた油断があったさ」
女性の名前はゾフィさんと言う。
「でもあんた、随分と変わった挨拶じゃないか。あたいを舐めてるのかい」
「ごめんなさい」
殴られてしまった。
それでも実力?は認めてくれて、用心棒として雇われた。
何度か他の組織との出入りに動員され、それなりに実力を発揮した。
僕にとっては、蔓との連携を確認する良い機会だった。
何度かに一回、僕の意思と蔓が重なる時があるのだ。
無意識に行動している時に、蔓と意識が偶然重なる。
周囲全体に意識が広がり、蔓が指の様な感覚になる。
手の平を広げる様に十本の指が伸びて行き、相手の足に絡みついて地面に叩き付ける。
組織同士の争いは、相手を殺す事を好まない。
遺恨を残すし、勢力を拡大する時に相手の組織を吸収することが難しくなるためだ。
皆殺しの選択しか無くなると、自分の組織の消耗も大きくなるのだ。
だから抗争は、力比べの様な感じになる。
僕の、いや、蔓の能力は、こんな抗争に適していた。
花精霊の季祭りが終わり、光精霊の季祭りが近づいて来ると、最後に残った三つの組織で手締めが行われた。
ゾフィさんの組織の縄張りは、歓楽街の中部と商店街の東部で確定した。
構成員も二百人から一万人に増え、他の組織の優秀な頭達が幹部となり、組織の構成もしっかりした物となった。
僕は、気が付いたら、ゾフィさんの情夫的な立場になっていた。
抗争が無くなると、武闘派達の居場所が減って行き、武闘派達は自分の生き場所を求めて、他の都市へと旅立って行った。
僕の用心棒としての必要性も無くなった。
「ゾフィ、来週旅に出ようと思う」
「寂しいけど、別れ時かもしれないわ。行く当ては有るの」
「俺は吟遊詩人だ、風が教えてくれるさ」
「ふっ、ふっ、ふっ。それじゃもう一回」
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ゾフィさんから餞別をたっぷり貰ったので、今度は二等船室を使ってみる。
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