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27 風の都市
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二等船室の快適な船の旅が終わり、僕はトリネトス河の河口にある自由都市フーガに到着した。
自由都市とは、王達の支配下から逃れて、商人達が合議制で運営を行っている都市のことで、北大陸には十二都市存在する。
何れの都市も、内海と呼ばれる中央大陸との間に広がる海に面した場所にあり、中央大陸との貿易で、王国を上回る財と軍事力を得た商人達が中心となって都市の独立を王達から奪い取ったそうだ。
財で王達から街の経営権を委譲させ、その約束を力で反故にしようとする王達を、互いの都市が協力して、商人達が所有する軍船と傭兵部隊で圧倒し、独立の維持を固定化したと言われている。
船乗りの街とも呼ばれており、風の女神が厚く信仰されている。
フーガの街は河口の中州に建てられた大港と、トリネトス河の河口の岸を囲む様に造られた、広い範囲の小港とで形成されており、都市としての規模の大きさで比較すれば、王都の二十倍は十二分にあった。
港には大型で吃水の深い多くの海船が帆を休めており、荷を満載した河舟が上流の都市を目指して帆を膨らませて出航して行く。
明け方、河口を埋め尽くす様に海へと出て行く帆船群の白い帆は、空へと飛び立つ水鳥の様で美しかった。
夕刻、岸に並んだ河船のマストが、オレンジ色の空に黒く乱立する姿は、絵画の世界に入り込んだようだった。
僕は左岸の中程にある、フクトと呼ばれる港の芸人の宿で仁義を切った。
商売で出向く酒場には、僕の手配書がしっかりと貼ってあった。
芸人の宿で情報交換した限りでは、このフーガ都市だけで、気の毒なことに、十三人くらいの僕が逮捕されているらしい。
勇女・勇者の詩が一番人気なのは、ここでも同じだった。
風の信徒が多い町なので、祭船の争いが正確に伝わっていると思っていたのだが、ここでも風の祭船が悪者だった。
真実を知っていて、真実を歌って聞かせた吟遊詩人も居るそうなのだが、”媚びるな馬鹿野郎”と言われて、客から袋叩きにあったそうだ。
嘘も先に流布させてしまえば、それが真実に化けてしまうらしい。
僕の勇女・勇者の詩には、オリジナリティーのある風景描写を加えてある。
ストロベリの町へ観光で訪れた事がある者が多いこの都市では、評判が良かった。
僕は気を良くして、この街特有の、祭船の名前を伏せて歌う手法も流行っていたので、それを詩に取り入れて歌ってみた。
評判は上々で、他の港の芸人の宿から、有名酒場での演奏を依頼されるようになった。
中州の港、この都市の名の由来となっているフーガの港の高級酒場から依頼が来た時には、僕は有頂天となっていた。
ーーーーー
風の教会神官 カミス
ストロベリでの風の教会シスター勤務が無事終わり、フーガの議会局に戻りました。
「カミスや、このところ評判になっておる詩人がおってな、不思議な技法と祭船の描写が秀逸だそうじゃ。流木亭の特等席が取れたんじゃが、一緒にどうじゃ」
お爺ちゃんは議会の議長だ。
実家の商会の実務はパパに譲り渡しているが、現役時代は海賊と呼ばれて恐れられていたらしい。
吟遊詩人の話は、歓迎会の時にセリナから聞いている。
まだ少年なのだが、危険な香りがする色気があると、目をキラキラさせながら涎を垂らしていた。
私はセリナと違い、年下へはあまり食指が動かない。
やっぱり、お爺ちゃんの様に、渋くて重厚で包容力がある年上の男の人が大好きだ。
あーん、一度で良いから抱かれてみたい。
詩人には興味がないが、流木亭の料理は美味しいし、お爺ちゃんとお酒を一緒に呑める機会なんて滅多にない。
チャンスかもしれない。
「ありがとう、お爺ちゃん」
びっくりした、お酒の酔いが一篇で飛んでしまった。
当人なのだから、祭船の表現がリアルなのは当たり前だ。
そう、帳場の脇に貼ってある手配書の少年、祭りの祭船責任者会議で、腰布一枚で私の近くに座っていた少年だ。
確かに人相書きは似てないが、度胸が良いのか馬鹿なのか。
「お爺ちゃん、二人だけで相談があるの」
「何かなカミス」
「うん、とっても大事なお話」
「それじゃ個室を手配して貰おう」
へへへへ、お爺ちゃんに褒めて貰おう。
「良い子だカミス。国家連合相手の良いカードになりそうじゃ」
お爺ちゃんがハグしてから頭を撫でてくれました。
「儂はこれから手配をしてくる。カミスは料理を楽しんでから帰りなさい」
えっ、お爺ちゃん、待って。
ーーーーー
フーガの里忍者 イカズチ
フーガの議会から依頼が届いた。
国家連合からの依頼として懸命に捜し回っていた男が、こんな近くに潜んでいたなんて。
もちろん、フーガの議会からの依頼が優先だ。
さあ、急いで出発しよう。
「ちょっとイカズチ、何で私に黙ってたの」
うっ、姫だ、これを恐れて、箝口令を厳重に敷いた筈なのに。
「私も一緒に行くわよ」
ーーーーー
気が付いたら、二十人以上の敵に包囲されていた。
「あはははは、今日は油断しないわよ」
この間の侵入者の餓鬼が、目の前で僕を指差して吠えている。
蔓と意思疎通してから、僕は跳びあがった。
蔓が屋根の上の煙突へと伸び、僕を屋根の上に運んでくれた。
煙突から煙突へと蔓が伸び、僕は屋根の上を飛んで港へ向かう。
敵を完全に振り切った様なので、右岸へ向かう船を何艘か探し、船のマストを使って、蔓が僕を右岸の港へと運んでくれる。
魔素の目で振り返ると、敵は何故か大混乱に陥っているようで、中州の街の屋根の上で僕を探して跳び回っている。
これなら大丈夫だろう、逃亡前に少し寝ようと思い、宿を捜した。
「お二人様ですので、銀貨六枚になります」
えっ、蔓が餓鬼をお持ち帰りしていることに、初めて気が付いた。
蔓の意思は物凄く堅そうなので、諦めて部屋へ連れて行った。
武装解除(裸に?)して、納得行くまで蔓にくすぐらせて、僕は寝ることにした。
翌朝、夜明け前に目を覚ましたら、餓鬼が口から泡を吹いて、僕の脇で気絶していた。
布団を掛けてやってから、僕は宿を後にした。
ーーーーー
フーガの里忍者 イカズチ
気が付いたら、姫の姿が無かった。
人質として攫われたのだろう、思っていた以上に狡猾な男だった。
明け方近くまで街中を捜し回ったが、見つからなかった。
フクロウで里に応援を依頼し、裸に剥かれた姫が右岸の港の宿で発見されたのは、朝の遅い時間だった。
自由都市とは、王達の支配下から逃れて、商人達が合議制で運営を行っている都市のことで、北大陸には十二都市存在する。
何れの都市も、内海と呼ばれる中央大陸との間に広がる海に面した場所にあり、中央大陸との貿易で、王国を上回る財と軍事力を得た商人達が中心となって都市の独立を王達から奪い取ったそうだ。
財で王達から街の経営権を委譲させ、その約束を力で反故にしようとする王達を、互いの都市が協力して、商人達が所有する軍船と傭兵部隊で圧倒し、独立の維持を固定化したと言われている。
船乗りの街とも呼ばれており、風の女神が厚く信仰されている。
フーガの街は河口の中州に建てられた大港と、トリネトス河の河口の岸を囲む様に造られた、広い範囲の小港とで形成されており、都市としての規模の大きさで比較すれば、王都の二十倍は十二分にあった。
港には大型で吃水の深い多くの海船が帆を休めており、荷を満載した河舟が上流の都市を目指して帆を膨らませて出航して行く。
明け方、河口を埋め尽くす様に海へと出て行く帆船群の白い帆は、空へと飛び立つ水鳥の様で美しかった。
夕刻、岸に並んだ河船のマストが、オレンジ色の空に黒く乱立する姿は、絵画の世界に入り込んだようだった。
僕は左岸の中程にある、フクトと呼ばれる港の芸人の宿で仁義を切った。
商売で出向く酒場には、僕の手配書がしっかりと貼ってあった。
芸人の宿で情報交換した限りでは、このフーガ都市だけで、気の毒なことに、十三人くらいの僕が逮捕されているらしい。
勇女・勇者の詩が一番人気なのは、ここでも同じだった。
風の信徒が多い町なので、祭船の争いが正確に伝わっていると思っていたのだが、ここでも風の祭船が悪者だった。
真実を知っていて、真実を歌って聞かせた吟遊詩人も居るそうなのだが、”媚びるな馬鹿野郎”と言われて、客から袋叩きにあったそうだ。
嘘も先に流布させてしまえば、それが真実に化けてしまうらしい。
僕の勇女・勇者の詩には、オリジナリティーのある風景描写を加えてある。
ストロベリの町へ観光で訪れた事がある者が多いこの都市では、評判が良かった。
僕は気を良くして、この街特有の、祭船の名前を伏せて歌う手法も流行っていたので、それを詩に取り入れて歌ってみた。
評判は上々で、他の港の芸人の宿から、有名酒場での演奏を依頼されるようになった。
中州の港、この都市の名の由来となっているフーガの港の高級酒場から依頼が来た時には、僕は有頂天となっていた。
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風の教会神官 カミス
ストロベリでの風の教会シスター勤務が無事終わり、フーガの議会局に戻りました。
「カミスや、このところ評判になっておる詩人がおってな、不思議な技法と祭船の描写が秀逸だそうじゃ。流木亭の特等席が取れたんじゃが、一緒にどうじゃ」
お爺ちゃんは議会の議長だ。
実家の商会の実務はパパに譲り渡しているが、現役時代は海賊と呼ばれて恐れられていたらしい。
吟遊詩人の話は、歓迎会の時にセリナから聞いている。
まだ少年なのだが、危険な香りがする色気があると、目をキラキラさせながら涎を垂らしていた。
私はセリナと違い、年下へはあまり食指が動かない。
やっぱり、お爺ちゃんの様に、渋くて重厚で包容力がある年上の男の人が大好きだ。
あーん、一度で良いから抱かれてみたい。
詩人には興味がないが、流木亭の料理は美味しいし、お爺ちゃんとお酒を一緒に呑める機会なんて滅多にない。
チャンスかもしれない。
「ありがとう、お爺ちゃん」
びっくりした、お酒の酔いが一篇で飛んでしまった。
当人なのだから、祭船の表現がリアルなのは当たり前だ。
そう、帳場の脇に貼ってある手配書の少年、祭りの祭船責任者会議で、腰布一枚で私の近くに座っていた少年だ。
確かに人相書きは似てないが、度胸が良いのか馬鹿なのか。
「お爺ちゃん、二人だけで相談があるの」
「何かなカミス」
「うん、とっても大事なお話」
「それじゃ個室を手配して貰おう」
へへへへ、お爺ちゃんに褒めて貰おう。
「良い子だカミス。国家連合相手の良いカードになりそうじゃ」
お爺ちゃんがハグしてから頭を撫でてくれました。
「儂はこれから手配をしてくる。カミスは料理を楽しんでから帰りなさい」
えっ、お爺ちゃん、待って。
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フーガの里忍者 イカズチ
フーガの議会から依頼が届いた。
国家連合からの依頼として懸命に捜し回っていた男が、こんな近くに潜んでいたなんて。
もちろん、フーガの議会からの依頼が優先だ。
さあ、急いで出発しよう。
「ちょっとイカズチ、何で私に黙ってたの」
うっ、姫だ、これを恐れて、箝口令を厳重に敷いた筈なのに。
「私も一緒に行くわよ」
ーーーーー
気が付いたら、二十人以上の敵に包囲されていた。
「あはははは、今日は油断しないわよ」
この間の侵入者の餓鬼が、目の前で僕を指差して吠えている。
蔓と意思疎通してから、僕は跳びあがった。
蔓が屋根の上の煙突へと伸び、僕を屋根の上に運んでくれた。
煙突から煙突へと蔓が伸び、僕は屋根の上を飛んで港へ向かう。
敵を完全に振り切った様なので、右岸へ向かう船を何艘か探し、船のマストを使って、蔓が僕を右岸の港へと運んでくれる。
魔素の目で振り返ると、敵は何故か大混乱に陥っているようで、中州の街の屋根の上で僕を探して跳び回っている。
これなら大丈夫だろう、逃亡前に少し寝ようと思い、宿を捜した。
「お二人様ですので、銀貨六枚になります」
えっ、蔓が餓鬼をお持ち帰りしていることに、初めて気が付いた。
蔓の意思は物凄く堅そうなので、諦めて部屋へ連れて行った。
武装解除(裸に?)して、納得行くまで蔓にくすぐらせて、僕は寝ることにした。
翌朝、夜明け前に目を覚ましたら、餓鬼が口から泡を吹いて、僕の脇で気絶していた。
布団を掛けてやってから、僕は宿を後にした。
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フーガの里忍者 イカズチ
気が付いたら、姫の姿が無かった。
人質として攫われたのだろう、思っていた以上に狡猾な男だった。
明け方近くまで街中を捜し回ったが、見つからなかった。
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