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34 第四群1
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木箱に入った手続きの書類を渡され、第四群域の入口門へと向かう。
書類が布なので、結構嵩張るのだ。
基本的に第四群域への出入りのチェックは無いようで、ブロンズ製の門扉が大きく開かれたまま、人々が自由に出入りしてる。
煉瓦を積み上げた背の低い門柱には、”第四群”と書かれた木札が下がっており、その門柱の脇には、守備兵の詰所らしき煉瓦作りの建物が設けられていた。
その建物の受付窓口の前には、長蛇の列は出来ている。
緊張の面持ちで並んでいる若者達は、皆大きな荷物と僕と同じ様な木箱を抱えており、窓口脇には、追加入学者受付と書かれた看板が立っていた。
第四群は男爵以下の貴族が学ぶ学院と聞いていたのだが、並んでいる連中の身形がなんだか貧しい。
服は一応貴族用の服なのだが、よれよれで、継ぎ接ぎだらけだ。
「ねえ君、荷物は」
列に並んだら、後ろの奴が声を掛けて来た。
「これだけだよ」
僕は背負ったリュトルを叩く。
「出身は」
「うーん、一応メトロノ国かな」
「うわー、凄いね、大国じゃないか。だから金持ちなんだ」
「別に金持ちじゃないよ」
「謙遜するなよ、その服を見れば解るよ」
確かに、僕はマルカートから無理矢理渡された服を着ているので、妙に目立っている。
「僕なんかほら、父さんが爺さんから貰った服の御下がりを着てるんだぜ。布団なんか聖都は物価が高いって言われて、家で使ってた奴を持たされているんだぜ」
「君は貴族なんだろ」
「あっそうか、君は大国の貴族だから知らないのか、羨ましいな。小国の男爵なんて村長と一緒なんだぜ、僕なんか三男だから、ここで頑張って成績を残さないと、国の役人に推挙して貰えないから、小作人扱いなんだぜ。でも良かったよ、半年で入学できて」
「追加って書いて有るけど、こんなに辞める奴がいるのかい」
僕は長蛇の列に向かって顎をしゃくった。
「ふーん、それも知らないのか。これでも少ない方なんだぜ。ここは学費と食費が免除だろ、他の生活費なんてバイトで稼げるから天国なんだ、辞める奴なんていないさ」
「それじゃ何で」
「実地訓練で迷宮に入るだろ、戻って来ないんだよ。他の群なら護衛が付くけど、僕達には護衛が付かないんだ。第三群の一対一の護衛ならまだ解るけど、第一群なんて一人に五十人の熟練護衛が付くんだぜ、一人くらい分けて欲しいよな」
なるほど、貴族でも下っ端は命が安いらしい。
「僕はリーフ」
「スノウだ、宜しく」
「ふーん、僕の国は半年が雪精霊の季節なんだ。僕の国じゃ珍しい名前だよ」
リーフは僕と同歳だった。
寮の部屋は受付順に割り振っているようで、リーフと僕は同室だった。
寮の玄関に制服が用意してあったので、自分に合うサイズを持ち帰る。
「スノウ、着替えたら食堂へ行ってみないか」
「ああ、いいよ」
「お茶が用意してあるらしいよ。それにバイトの掲示板もあるらしいんだ」
「バイトするのか」
「ああ、自分で自由になるお金が欲しいだ。家じゃ自分のお金なんて貰えなかったからね。畑の草刈と牛の世話は得意なんだけど、街も大きいし、一杯あるかな」
「リーフ、悪いが全然無いと思うぞ」
ーーーーー
ハル
「ねえマルカート、勇者はどうしたのよ」
「陰謀よ、私から勇者様を引き離そうとする王国連合の陰謀よ。群域門を通して貰えなかったの」
「竜殺の勇者なんて、嘘だったんじゃない。どうせ、大蜥蜴を討伐した冒険者だったんでしょ。だからここへは入れなかった。図星でしょ」
「失礼ね、幼竜を追い返したくらいで大騒ぎしているあなたのお兄さんと一緒にしないで」
「まっ、まっ、まっ。お兄ちゃんは凄いのよ、馬鹿にしないで。お兄ちゃんが伝説の勇者よ」
メトロノ王国の王女とローズ王国の王女が言い争っています。
メトロノ王国もローズ王国も北大陸で一、二を争う大国です。
ローズ王家のカリオペ王女がメトロノ王家のマルカート王女を尋問すると言い始めたの、面白そうなので付いてきました。
ここはメトロノ王家の聖都城の応接間です。
毎度の事らしく、私以外にも三十人近い王女様達が付いてきましたが、お茶を飲みながら傍観しています。
「ふーん、スノウ様は御一人で亜竜も地竜も倒されたのよ。ほっ、ほっ、ほっ、どちらが伝説の勇者様かしら」
「馬鹿な事を言わないで、あなた本物の竜を見たことないでしょ。一人で倒せる筈ないでしょ。嘘を吐かないで頂戴」
「ぷぷぷぷぷ、嘘?へー嘘。助けて頂いた本人が言ってるのよ。私を抱き締めて護って下さったの。子供の頃読んだ絵本と同じだったわ。剣を一杯空中に浮かべて輝かせながら、竜に襲い掛かった御姿。きゃー、今思い出してもドキドキするわ」
「マルカート、その勇者様とやらは、何時ここへ来るんだい」
「さあ、国家連合と話をすると仰ってたから、直ぐにいらっしゃるじゃないでしょうか」
「来たら教えてくれよ、一度手合せしてみたい」
リリー王国のランディーニ王女です。
背が高くスリムで、剣の達人だそうです。
ズボンを履いて剣を帯びた、男装の美人さんです。
「ねえ、お歳は」
「十五歳よ、だから直ぐに婚約したの」
「ねえ、勇者様なんだから私達も交際できるんでしょ」
「駄目、私だけの伝説の勇者様だから駄目よ」
『えー!マルカート、横暴よ』
「駄目な物は駄目よ」
王女様達は、伝説の勇者のお話で盛り上がっています。
「お茶の御代わりを下さい」
「はい、承知いたしました。勇女様」
伝説の勇者様のハーレムには興味がありませんが、ユウへの関心が治まってくれると嬉しいです。
窓の外の庭園の木々が、夏の日の強い光を受けて輝いています。
もう直ぐ光精霊の季節が終わり、風精霊の季節がやってきます。
私達がこの世界に呼び出され、もう直ぐ一年です。
梢を風が走り抜け、青い空に浮かぶ雲に秋色が漂っています。
この広い空の下、タケさんは何処にいるんでしょ。
書類が布なので、結構嵩張るのだ。
基本的に第四群域への出入りのチェックは無いようで、ブロンズ製の門扉が大きく開かれたまま、人々が自由に出入りしてる。
煉瓦を積み上げた背の低い門柱には、”第四群”と書かれた木札が下がっており、その門柱の脇には、守備兵の詰所らしき煉瓦作りの建物が設けられていた。
その建物の受付窓口の前には、長蛇の列は出来ている。
緊張の面持ちで並んでいる若者達は、皆大きな荷物と僕と同じ様な木箱を抱えており、窓口脇には、追加入学者受付と書かれた看板が立っていた。
第四群は男爵以下の貴族が学ぶ学院と聞いていたのだが、並んでいる連中の身形がなんだか貧しい。
服は一応貴族用の服なのだが、よれよれで、継ぎ接ぎだらけだ。
「ねえ君、荷物は」
列に並んだら、後ろの奴が声を掛けて来た。
「これだけだよ」
僕は背負ったリュトルを叩く。
「出身は」
「うーん、一応メトロノ国かな」
「うわー、凄いね、大国じゃないか。だから金持ちなんだ」
「別に金持ちじゃないよ」
「謙遜するなよ、その服を見れば解るよ」
確かに、僕はマルカートから無理矢理渡された服を着ているので、妙に目立っている。
「僕なんかほら、父さんが爺さんから貰った服の御下がりを着てるんだぜ。布団なんか聖都は物価が高いって言われて、家で使ってた奴を持たされているんだぜ」
「君は貴族なんだろ」
「あっそうか、君は大国の貴族だから知らないのか、羨ましいな。小国の男爵なんて村長と一緒なんだぜ、僕なんか三男だから、ここで頑張って成績を残さないと、国の役人に推挙して貰えないから、小作人扱いなんだぜ。でも良かったよ、半年で入学できて」
「追加って書いて有るけど、こんなに辞める奴がいるのかい」
僕は長蛇の列に向かって顎をしゃくった。
「ふーん、それも知らないのか。これでも少ない方なんだぜ。ここは学費と食費が免除だろ、他の生活費なんてバイトで稼げるから天国なんだ、辞める奴なんていないさ」
「それじゃ何で」
「実地訓練で迷宮に入るだろ、戻って来ないんだよ。他の群なら護衛が付くけど、僕達には護衛が付かないんだ。第三群の一対一の護衛ならまだ解るけど、第一群なんて一人に五十人の熟練護衛が付くんだぜ、一人くらい分けて欲しいよな」
なるほど、貴族でも下っ端は命が安いらしい。
「僕はリーフ」
「スノウだ、宜しく」
「ふーん、僕の国は半年が雪精霊の季節なんだ。僕の国じゃ珍しい名前だよ」
リーフは僕と同歳だった。
寮の部屋は受付順に割り振っているようで、リーフと僕は同室だった。
寮の玄関に制服が用意してあったので、自分に合うサイズを持ち帰る。
「スノウ、着替えたら食堂へ行ってみないか」
「ああ、いいよ」
「お茶が用意してあるらしいよ。それにバイトの掲示板もあるらしいんだ」
「バイトするのか」
「ああ、自分で自由になるお金が欲しいだ。家じゃ自分のお金なんて貰えなかったからね。畑の草刈と牛の世話は得意なんだけど、街も大きいし、一杯あるかな」
「リーフ、悪いが全然無いと思うぞ」
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ハル
「ねえマルカート、勇者はどうしたのよ」
「陰謀よ、私から勇者様を引き離そうとする王国連合の陰謀よ。群域門を通して貰えなかったの」
「竜殺の勇者なんて、嘘だったんじゃない。どうせ、大蜥蜴を討伐した冒険者だったんでしょ。だからここへは入れなかった。図星でしょ」
「失礼ね、幼竜を追い返したくらいで大騒ぎしているあなたのお兄さんと一緒にしないで」
「まっ、まっ、まっ。お兄ちゃんは凄いのよ、馬鹿にしないで。お兄ちゃんが伝説の勇者よ」
メトロノ王国の王女とローズ王国の王女が言い争っています。
メトロノ王国もローズ王国も北大陸で一、二を争う大国です。
ローズ王家のカリオペ王女がメトロノ王家のマルカート王女を尋問すると言い始めたの、面白そうなので付いてきました。
ここはメトロノ王家の聖都城の応接間です。
毎度の事らしく、私以外にも三十人近い王女様達が付いてきましたが、お茶を飲みながら傍観しています。
「ふーん、スノウ様は御一人で亜竜も地竜も倒されたのよ。ほっ、ほっ、ほっ、どちらが伝説の勇者様かしら」
「馬鹿な事を言わないで、あなた本物の竜を見たことないでしょ。一人で倒せる筈ないでしょ。嘘を吐かないで頂戴」
「ぷぷぷぷぷ、嘘?へー嘘。助けて頂いた本人が言ってるのよ。私を抱き締めて護って下さったの。子供の頃読んだ絵本と同じだったわ。剣を一杯空中に浮かべて輝かせながら、竜に襲い掛かった御姿。きゃー、今思い出してもドキドキするわ」
「マルカート、その勇者様とやらは、何時ここへ来るんだい」
「さあ、国家連合と話をすると仰ってたから、直ぐにいらっしゃるじゃないでしょうか」
「来たら教えてくれよ、一度手合せしてみたい」
リリー王国のランディーニ王女です。
背が高くスリムで、剣の達人だそうです。
ズボンを履いて剣を帯びた、男装の美人さんです。
「ねえ、お歳は」
「十五歳よ、だから直ぐに婚約したの」
「ねえ、勇者様なんだから私達も交際できるんでしょ」
「駄目、私だけの伝説の勇者様だから駄目よ」
『えー!マルカート、横暴よ』
「駄目な物は駄目よ」
王女様達は、伝説の勇者のお話で盛り上がっています。
「お茶の御代わりを下さい」
「はい、承知いたしました。勇女様」
伝説の勇者様のハーレムには興味がありませんが、ユウへの関心が治まってくれると嬉しいです。
窓の外の庭園の木々が、夏の日の強い光を受けて輝いています。
もう直ぐ光精霊の季節が終わり、風精霊の季節がやってきます。
私達がこの世界に呼び出され、もう直ぐ一年です。
梢を風が走り抜け、青い空に浮かぶ雲に秋色が漂っています。
この広い空の下、タケさんは何処にいるんでしょ。
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