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 王女達が開催する舞踏会や晩餐会へ出席しない丁度良い言い訳ができた。
 メトロノ国聖都城での惨状は、広く知れ渡っている。
 ”勇女達との関係が思わしくなく、命の危険がある”と言って断るのだ。
 カリオペとかランディーニとか触手の動く王女は結構いるのだが、後腐れが有りそうなので、最後の一線は超えない様に我慢していた。
 やっぱり、グリグリと押し込んで、朝まで徹底的に堪能しないと面白くない。
 なんだか妙に危ない黒いストレスが溜まってしまう。

 なので、国家連合に申し入れて、第四群の学院へ再び移して貰った。
 最初は渋っていた国家連合だったが、”命の危険”というフレーズを切り札にしたら、諦めて認めてくれた。
 元に戻すという要求だったのだが、中等部への復帰ではなく、高等部への編入だった。

 一学年四百人、その半分が女子だ。
 四学年では八百人も居る。
 クラスメートだけでも百人だ。
 その全員が僕に興味を持って近付いて来る。
 僕との結婚は最初から考えていないようで、手を付けても問題が無さそうだった。

 店から毎週一日の休みが貰えるようになったので、一から仕込んでみるのも面白いかもしれない。

ーーーーー
第一群魔法学院中等部二年 勇女ハル
 
 カリオペさんとランディーニさんが寮に来て、タケさんと和解して欲しいと泣いて頼まれました。
 物凄く心外なのですが、私達は、勇者を敵視する偏執的で危険な存在と見られているようです。

 確かに最初は腐りきった男への憎悪でした、でもタケさんの顔を見た途端、何かがクルリと剥けて、裏と表が入れ替わった気がしました。
 後から考えると、たぶん嫉妬だったと思います。
 凄まじい嫉妬、殺意を伴った頭が真っ白になる程の凄まじい嫉妬。

「少し考えさせて下さい」

 二人が肩を落として帰って行きました。
 あの二人には、私の心は解らないでしょう。
 私は勇女という立場に置かれて、誰かに頼りたかったのでしょう。
 タケさんはやっぱりタケさんでした。
 私の理不尽な暴力を、全て淡々と受け入れてくれました。
 そして思い知らされました、私が物凄くタケさんを愛していたと言う事を。
 そして独占しようとした私から、タケさんが逃げ出してしまいました。
 タケさんに会いたいです、物凄くタケさんに会いたいです、涙が止まりません。

ーーーーー
 闇曜日の夕刻、部屋に戻ろうとしたら、二階の階段で明美が待っていた。
 僕の服の裾を掴んで離そうとしない。

「ハルさんには黙ってろよ」
「うん」

 物凄く嬉しそうな顔をして抱き付いて来た。

「おー、凄い」

 三階に上がった時に物凄く驚いていた。
 こうも驚いて貰えるとなんか嬉しい。
 三階の通路でも、首をブンブンと振って左右を見回していた。

「兄ちゃん、あれ何」
「水晶に封じ込めた悪霊だ、あそこは呪術屋だ」
「兄ちゃん、あれは」
「怨念を蒸留して邪念を取り除く装置だ」
「兄ちゃん、犬が剣で刺されてるよ」
「呪いの剣の手入れをしてるんだ、ああやって定期的に命を吸わせるんだ」
「へー、兄ちゃん何でも知ってるね」

 本当に明美は変わらない、好奇心旺盛で目をキラキラさせている。
 四階へ上がった。

「へー、眺めが良いんだ」

 部屋の中を、両手を広げて走り回っている。
 昔家族旅行で、ホテルの部屋に着いた時と一緒だ。

「わー、綺麗な庭」
「ここが俺の職場だよ。あそこのコテージでエッチなことをしてるんだ」
「ぶー」

 なんか明美には隠したく無かった、鼻の上に皺を寄せて僕を睨んでいる。

「飯を食いに行くか」
「うん」

 良かった、あんまり怒っていない様だ。
 外は暗くなっていたので、明美を脇に抱えて窓から屋根の上を飛ぶ。

「キャッホー」

 こじんまりとして落ち着いた雰囲気の店へ連れて行った。
 明日が休みの職場も多く、店はカップルで溢れていた。

「へへへへへ、兄ちゃん、デートだね」

 明美は嬉しそうにずっと喋っていた。
 僕はそれをうんうんと言って聞いていた。

「俺はこれから仕事だけど、帰るか」
「明日休みだから、兄ちゃんのところに泊まる」

 屋根へ飛び移って、明美を部屋へ運んだ。

「兄ちゃん、恰好いい」

 今日の夜の客はキャンセルになった。
 国で謀反が起きたらしく、弟が旦那を刺殺したらしいのだ。
 将軍と一緒に弟を殺すか、弟を王にして夫婦になるか選ばなければならないのだそうだ。

「今日は歌までで帰って良いよ。それとも私とずっぽり良い事するかい」
「はははは、店長のさえずり声も聞きたいけど、部屋で妹が待ってるんです」
「それじゃ仕方がないね。兄妹は一味違うらしいから、たっぷり可愛がってあげな」

 貴族や王族が多い所為か、聖都では姉弟、兄妹の仕切りは低く、けっこう夫婦として暮らしている。
 だから勘違いするのも仕方がない。

「ええ、たっぷりと可愛がってやりますよ」

 部屋に戻ったら、明美は庭園を眺めて何かを考え込んでいた。

「ただいま」
「えっ、兄ちゃん仕事は」
「キャンセルが入った。だから酒場へ歌いに行くか」
「うん、いくいく」

 明美と二人、リュトルを背負って夜の街へと繰り出した。
 合奏も合唱も、踊りながらの合奏も大いに受けた。
 ついつい飲み過ぎて、部屋へ戻ったのは、夜半もだいぶ過ぎていた。
 料理店は明かりが消えて真っ暗で、無人の店へ入り、探検するように歩くのは面白かった。
 魔素の目で見ても、肉眼で見ても、真っ暗な三階で薄く光る怪しげな品々は幻想的で美しかった。

「あー、面白かった。うーん」

 明美が、僕のベットの上で大の字になって伸びをしている。

「明美、先に風呂入るか」
「兄ちゃんと一緒に入りたい」

 うーん、明美はまだまだ子供だ。
 背中を洗って、髪も洗ってやる。
 何時もどおり浴槽の中で、明美は僕の腿の上に腰掛けた。

「兄ちゃん、僕兄ちゃんが大好きなんだ」
「ああ、俺も明美のことは大好きだぞ」
「うーん、そんなんじゃなくて、この間、兄ちゃんが他の人といちゃいちゃしてるの見て物凄く腹が立ったんだ。だから兄ちゃんのことボコッたんだけど、その後、兄ちゃんが居なくなったら悲しくて悲しくて泣いちゃったんだ。そしたらね、僕は前から兄ちゃんの恋人になりたいって思ってたことに気が付いたんだ」

 明美がクルリと振り向いた。

「だからね、僕の大好きは愛してるの大好きなんだ。恋人としての大好きなんだ、兄ちゃんキスして」

 明美が目の前で目を閉じた、酔いが回っていた所為か、急に明美が愛おしくなって、抱き寄せて唇を重ねた。
 そしてうんと大人用のキスをしてあげた。 
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