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44 黒龍
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翌朝、朝もだいぶ遅い時間帯、僕は目が覚めた。
普段通り、明美は僕を敷布団替りにしている。
だが普段と違い、一糸も纏っていない。
僕が身体を起すと、明美も目覚めて大きな伸びをした。
「うーん、兄ちゃんお早う」
僕の胸に顔をゴシゴシと擦り付けて来た。
恥じらいも戸惑いもない、普段通りの元気な明美だったので、僕は胸を撫で下ろした。
「何処かへ飯食いにいくか」
「はーい、兄ちゃん、僕クリスタル公園へ行きたい」
聖都は古代遺跡の上に造られた街である。
クリスタル公園とは、民区にある水晶で作られた古代遺跡で、民区に住む人々が勝手にクルスタル公園と呼んでいる。
神殿跡とも祭場跡とも言われており、立ち並ぶ水晶柱が作り出す虹が幻想的で、民区の恋人達の良いデートスポットになっている。
「おーし、行くか」
「おー、デートだ」
取り敢えず身体を洗って、吟遊詩人風の服装に着替えてから出発した。
音の良く響くスポットがあって、そこで良い演奏をすれば、水晶が不思議な澄み切った音で応えてくれるらしいのだ。
吟遊詩人の腕試しの場とも言われている。
一応古代遺跡なので、国家連合の文化部の管理下にあり、中に店は無い。
なので、入口前にズラーっと並ぶ土産物屋の一画の甘味店で、朝飯を食う。
僕はすいとん汁の様なスープと海苔餅の様な食べ物を注文した。
明美は汁粉の様な甘いスープとおはぎの様な甘い食べ物を注文した。
「朝からそんなに甘い物、良く食えるな」
「美味しいよ、兄ちゃんも食う」
一応遺跡なので、入る時に係員のチェックがある。
入口で認識票と荷物を確認し、入場許可証を渡すのだ。
出る時にその入場許可証と荷物を確認し、水晶の持ち出しを防いでるいる様子だった。
僕等の認識票を確認した係員は驚いた様で、直立不動で入場許可証を渡してくれた。
「わー、兄ちゃん綺麗だよ」
「ああ、そうだな」
水晶自体よりも水晶を通った光りが作り出す光景が美しかった。
虹が重なり合い、奥行のある、立体的な不思議な映像を作っていた。
土産物屋で買った木札の地図には、それぞれの映像には名前が付けてあった。
音のスポットは直ぐに解った。
聴衆が大勢居て、奏者を取り囲んでいる。
背中にリュトルを背負った吟遊詩人風の人々が順番待ちをしており、僕等もその列に加わった。
アマチュアが数人混じっていたが、そのほとんどがプロだった。
それでも水晶は応えてくれず、皆肩を落として帰って行った。
僕等の番になった。
僕等は明美の独唱から始まる恋の賛歌を選曲した。
明美の独唱に水晶が音を奏で始め、僕の伴奏で反応する水晶の輪が広がって行く。
明美の合奏で更に広がり、僕の合唱で更に広がる。
聴衆全員が息を潜めて聞き入っている。
僕等はもう有頂天になっていた。
互いの音、声に全神経が集中していた。
だから発見が遅れてしまった。
蒼穹の中の小さな黒点が瞬く間に大きくなり、巨大な咢が迫って来た。
冗談の様に巨大な黒い竜、翼渡しが二キロは有りそうだった。
でもその全体像を魔素の目で把握したのは一瞬だった。
あっと言う間に、幅百メートは有りそうな咢に周辺ごと飲み込まれてしまったのだ。
飛び散る周囲の水晶を蔓が拾い集め、僕が土魔法で、僕等を覆う水晶の球を作り上げる。
竜の口の中に唾液が溢れ、周囲の人々を溶かし始める。
地獄絵を見ているようだった。
僕が水晶の回りを水魔法で覆い、その外を明美が風魔法で覆う。
風魔法で防ぎ切れなかった飛沫が、水魔法の水の被膜に飛び散ると、一瞬で水の被膜を蒸発させる。
必死で新しい水の被膜を作り続ける。
だが、物凄い勢いで押し流されたと思ったら、更なる地獄が待っていた。
強烈な酸の海の中へ放り込まれたのだ。
周囲のあらゆる物が泡を立てて溶けて行く。
風魔法と水魔法だけでは支えきれず、水晶の回りから泡が立ち始める。
土魔法を使い、必死で水晶の表面を補修する。
土魔法と水魔法を限界を超えて使い続け、頭がパンクしそうだった。
時間の感覚が無くなって来る。
周囲の様子は変化しているのは解るのだが、それを確認している余裕は無い。
明美が風魔法で水晶の中の空気を必死に浄化してくれているのだが、それもそろそろ限界に来ているようで、頭が朦朧として来た。
それでも周囲からの物凄い圧力でミシミシ言い始めた水晶を、蔓と協力して土魔法の補修を繰り返して支え続けた。
全てが限界を超えている状態で、更に強い圧力が加わって来た。
もう限界と諦めた時に、突然その圧力が消えて無くなった。
朦朧としながら魔素の目で周囲を見ましたら、竜の体内から脱出できたようで、竜の巨体が遠ざかって行く。
水晶の上の方に、美しい星空が見えている。
僕は外の新鮮な空気を取り入れようと、水晶の上辺に穴を開けた。
「うわー」
「兄ちゃんクサー」
気を失うかと思った、新鮮な空気の替りに入って来たものは、強烈な悪臭だった。
明美が必死で浄化している。
良く考えれば、直ぐに解る話だった。
ここは竜の糞の中だった。
物凄く嫌がっている蔓に、必死で糞から水晶球を出してくれと頼み込む。
それでも蔓は頑張ってくれて、水晶の上辺に作った穴から外へ出て、水晶球を引っ張り出してくれた。
そこで精根尽き果てたのか、蔓はヘタッと動かなくなってしまう。
水晶球がゆっくりと転がり始め、そして段々と勢いが付き始め、中に居る僕等は目が回って、訳が解らなくなって来る。
”ドボーン”
物凄い勢いで落下したと思ったら、水に叩き付けられた。
球の動きが落ち着いたので、水晶の上辺に穴を開ける。
今度こそ、新鮮な空気が入って来た。
「兄ちゃん、空気って美味しんだね」
球は急流を物凄い勢いで下っていた。
魔素の目で見たら、球はお約束通り、物凄い落差の滝へと向かっていた。
物凄い勢いで球が落下し、滝の中央に突き出ていた岩にぶつかって跳ね上がり、そして砕け散った。
明美が風魔法で勢いを殺してくれたのだが、それでも凄い勢いで滝壺に突っ込んだ。
「はあ、はあ、はあ。何とか生き残れたな」
「兄ちゃん、臭い」
僕は周囲に生えていた泡立ち草を集め、感謝の意を込めて、まだクタッとしている蔓を洗ってあげた。
ーーーーー
第一群魔法学院中等部二年 勇女ハル
黒龍が民区の半分を削り取ってから三日、アキちゃんもタケさんもまだ見つかっていません。
一番被害が大きかった民区クリスタル遺跡の入場記録には、二人の名前が残っていました。
辛うじて生き残った人達の証言では、水晶を響かせた吟遊詩人のデゥオが竜に飲み込まれたそうで、その容姿が、完全に二人と一致します。
せめてもの救いは、アキちゃんが大好きなお兄ちゃんと一緒に天国へと旅立てたことでしょうか。
天国でまた仲良く暮らせるでしょう。
二人の冥福を祈りましょう。
普段通り、明美は僕を敷布団替りにしている。
だが普段と違い、一糸も纏っていない。
僕が身体を起すと、明美も目覚めて大きな伸びをした。
「うーん、兄ちゃんお早う」
僕の胸に顔をゴシゴシと擦り付けて来た。
恥じらいも戸惑いもない、普段通りの元気な明美だったので、僕は胸を撫で下ろした。
「何処かへ飯食いにいくか」
「はーい、兄ちゃん、僕クリスタル公園へ行きたい」
聖都は古代遺跡の上に造られた街である。
クリスタル公園とは、民区にある水晶で作られた古代遺跡で、民区に住む人々が勝手にクルスタル公園と呼んでいる。
神殿跡とも祭場跡とも言われており、立ち並ぶ水晶柱が作り出す虹が幻想的で、民区の恋人達の良いデートスポットになっている。
「おーし、行くか」
「おー、デートだ」
取り敢えず身体を洗って、吟遊詩人風の服装に着替えてから出発した。
音の良く響くスポットがあって、そこで良い演奏をすれば、水晶が不思議な澄み切った音で応えてくれるらしいのだ。
吟遊詩人の腕試しの場とも言われている。
一応古代遺跡なので、国家連合の文化部の管理下にあり、中に店は無い。
なので、入口前にズラーっと並ぶ土産物屋の一画の甘味店で、朝飯を食う。
僕はすいとん汁の様なスープと海苔餅の様な食べ物を注文した。
明美は汁粉の様な甘いスープとおはぎの様な甘い食べ物を注文した。
「朝からそんなに甘い物、良く食えるな」
「美味しいよ、兄ちゃんも食う」
一応遺跡なので、入る時に係員のチェックがある。
入口で認識票と荷物を確認し、入場許可証を渡すのだ。
出る時にその入場許可証と荷物を確認し、水晶の持ち出しを防いでるいる様子だった。
僕等の認識票を確認した係員は驚いた様で、直立不動で入場許可証を渡してくれた。
「わー、兄ちゃん綺麗だよ」
「ああ、そうだな」
水晶自体よりも水晶を通った光りが作り出す光景が美しかった。
虹が重なり合い、奥行のある、立体的な不思議な映像を作っていた。
土産物屋で買った木札の地図には、それぞれの映像には名前が付けてあった。
音のスポットは直ぐに解った。
聴衆が大勢居て、奏者を取り囲んでいる。
背中にリュトルを背負った吟遊詩人風の人々が順番待ちをしており、僕等もその列に加わった。
アマチュアが数人混じっていたが、そのほとんどがプロだった。
それでも水晶は応えてくれず、皆肩を落として帰って行った。
僕等の番になった。
僕等は明美の独唱から始まる恋の賛歌を選曲した。
明美の独唱に水晶が音を奏で始め、僕の伴奏で反応する水晶の輪が広がって行く。
明美の合奏で更に広がり、僕の合唱で更に広がる。
聴衆全員が息を潜めて聞き入っている。
僕等はもう有頂天になっていた。
互いの音、声に全神経が集中していた。
だから発見が遅れてしまった。
蒼穹の中の小さな黒点が瞬く間に大きくなり、巨大な咢が迫って来た。
冗談の様に巨大な黒い竜、翼渡しが二キロは有りそうだった。
でもその全体像を魔素の目で把握したのは一瞬だった。
あっと言う間に、幅百メートは有りそうな咢に周辺ごと飲み込まれてしまったのだ。
飛び散る周囲の水晶を蔓が拾い集め、僕が土魔法で、僕等を覆う水晶の球を作り上げる。
竜の口の中に唾液が溢れ、周囲の人々を溶かし始める。
地獄絵を見ているようだった。
僕が水晶の回りを水魔法で覆い、その外を明美が風魔法で覆う。
風魔法で防ぎ切れなかった飛沫が、水魔法の水の被膜に飛び散ると、一瞬で水の被膜を蒸発させる。
必死で新しい水の被膜を作り続ける。
だが、物凄い勢いで押し流されたと思ったら、更なる地獄が待っていた。
強烈な酸の海の中へ放り込まれたのだ。
周囲のあらゆる物が泡を立てて溶けて行く。
風魔法と水魔法だけでは支えきれず、水晶の回りから泡が立ち始める。
土魔法を使い、必死で水晶の表面を補修する。
土魔法と水魔法を限界を超えて使い続け、頭がパンクしそうだった。
時間の感覚が無くなって来る。
周囲の様子は変化しているのは解るのだが、それを確認している余裕は無い。
明美が風魔法で水晶の中の空気を必死に浄化してくれているのだが、それもそろそろ限界に来ているようで、頭が朦朧として来た。
それでも周囲からの物凄い圧力でミシミシ言い始めた水晶を、蔓と協力して土魔法の補修を繰り返して支え続けた。
全てが限界を超えている状態で、更に強い圧力が加わって来た。
もう限界と諦めた時に、突然その圧力が消えて無くなった。
朦朧としながら魔素の目で周囲を見ましたら、竜の体内から脱出できたようで、竜の巨体が遠ざかって行く。
水晶の上の方に、美しい星空が見えている。
僕は外の新鮮な空気を取り入れようと、水晶の上辺に穴を開けた。
「うわー」
「兄ちゃんクサー」
気を失うかと思った、新鮮な空気の替りに入って来たものは、強烈な悪臭だった。
明美が必死で浄化している。
良く考えれば、直ぐに解る話だった。
ここは竜の糞の中だった。
物凄く嫌がっている蔓に、必死で糞から水晶球を出してくれと頼み込む。
それでも蔓は頑張ってくれて、水晶の上辺に作った穴から外へ出て、水晶球を引っ張り出してくれた。
そこで精根尽き果てたのか、蔓はヘタッと動かなくなってしまう。
水晶球がゆっくりと転がり始め、そして段々と勢いが付き始め、中に居る僕等は目が回って、訳が解らなくなって来る。
”ドボーン”
物凄い勢いで落下したと思ったら、水に叩き付けられた。
球の動きが落ち着いたので、水晶の上辺に穴を開ける。
今度こそ、新鮮な空気が入って来た。
「兄ちゃん、空気って美味しんだね」
球は急流を物凄い勢いで下っていた。
魔素の目で見たら、球はお約束通り、物凄い落差の滝へと向かっていた。
物凄い勢いで球が落下し、滝の中央に突き出ていた岩にぶつかって跳ね上がり、そして砕け散った。
明美が風魔法で勢いを殺してくれたのだが、それでも凄い勢いで滝壺に突っ込んだ。
「はあ、はあ、はあ。何とか生き残れたな」
「兄ちゃん、臭い」
僕は周囲に生えていた泡立ち草を集め、感謝の意を込めて、まだクタッとしている蔓を洗ってあげた。
ーーーーー
第一群魔法学院中等部二年 勇女ハル
黒龍が民区の半分を削り取ってから三日、アキちゃんもタケさんもまだ見つかっていません。
一番被害が大きかった民区クリスタル遺跡の入場記録には、二人の名前が残っていました。
辛うじて生き残った人達の証言では、水晶を響かせた吟遊詩人のデゥオが竜に飲み込まれたそうで、その容姿が、完全に二人と一致します。
せめてもの救いは、アキちゃんが大好きなお兄ちゃんと一緒に天国へと旅立てたことでしょうか。
天国でまた仲良く暮らせるでしょう。
二人の冥福を祈りましょう。
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