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45 東大陸
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下から見上げると、滝は一キロ以上の落差がある。
我ながら良く生きていた思う。
地殻変動で出来たのだろう、巨大な断層が目の前に延々と聳えており、滝はその断層を一気に流れ落ちている。
滝は崖下の巨大な森へ注いでおり、巨大な岩が転がる河原の直ぐ脇には、黒々とした深い森が迫っている。
濡れた服は、明美が風魔法で乾かしてくれた。
土魔法で周囲の岩を加工し、小さな岩室を作り、その中で一寝入りした。
竜を警戒しながらの仮眠の積もりだったのだが、思っていた以上に疲れていたようで、ぐっすりと熟睡してしまった。
竜の中で必死に頑張っていた時間は、自分の思っていたより長かったのかも知れない。
夜明けと思っていた陽が、沈み始めてやっと夕方と気が付いたくらいだ。
「兄ちゃん、腹減ったー。凄く腹減ったー」
明美は僕を、お腹にポケットがある青い狸?と勘違いしているのだろうか。
駄々をこねれば、何とかしてくれると思っている。
仕方がないので、蔓も何とか気力を取戻したので、森の中を一走りして食材を集めることにした。
魔素の目を使えば、周囲が暗くても関係無い、それに逃亡生活のおかげで、この辺のサバイバルスキルは随分上がっている。
移動も兼ねたので、明美を背負って森へ入った。
「おー、兄ちゃん凄い」
僕が何故森の中を飛び回れるのかは、説明した。
説明している最中に、蔓が明美の尻を撫でに行ったのだが、明美はぴしゃりと叩いて撃退した。
その存在が意識出来れば、何となく気配で解るらしい。
能天気で馬鹿な妹だが、この辺の感は、物凄く優れている。
枝を飛び移りながら、果実や茸や兎や栗鼠など、食えそうな物を拾い集める。
普段見慣れている物と、形も大きさも少し違うのだが、取敢えず食ってみることにした。
兎や栗鼠は、明美が木の枝に風の刃を宿して捌いてくれた。
里芋の様な芋を潰し、水に晒してから焼いてみた。
お好み焼きの様な物が出来上がり、旨みがあって美味しかった。
「兄ちゃん、ここで生活出来ちゃうね」
「みんなが心配してるから、帰るぞ」
「ぶー」
川の流れに沿って森の中を移動した。
水は人の営みの必需品だ、必ず町か村が有る筈だ。
五日目、一日二百キロは移動している筈なので、だんだん焦りが生じて来た。
太陽の沈む方向は確認しており、断層も遠ざかって行くので間違いは無いと思いつつ、同じ場所をくるくると回っているんじゃないかと、心配になって来る。
「兄ちゃん、諦めてここで暮らそうか」
「駄目だ、帰るぞ」
「ちぇっ」
この五日間、竜や魔獣に襲われる心配があるので、もちろんエッチしている余裕なんて無い。
夜は交代で周囲を見張っている。
六日目、突然目の前に海が開け、大きな港町が現れた。
街全体が高い塀で囲まれており、塀沿いに歩いて見付けた唯一の陸側の門は、鮮やかな朱色の、注連縄が張られた、鳥居の様な門だった。
門の外には街道も無く、門から森に向かって、五十メートルくらい白い玉砂利が敷いた道が伸びているだけだった。
魔素の目で見ると、門の内側には大勢の人が居るのに、門の外には人が全くいなかった。
門から町の中へ入ってみる。
”うわっ!”
一歩門の中へ踏み込んだら、周囲の人々が大声を上げた。
そこに立っていた人達は、黒髪黒目の褐色の肌の人達で、顔の彫が浅い。
うん、日本人、近所のおじさんやおばさんにそっくりだった。
門脇の社務所の様な建物から、棒を持った、白装束の男達が飛び出して来た。
「○×△□$#▼×○○!」
「○$△□×#○▼×○!」
「○#△□×$▼×○○!」
「○▼△○□○$#××!」
物凄く怒っているのだが、何を言っているのか全然解らない。
でも僕は、これでもプロの吟遊詩人だ。
客からのリクエストがあれば、中央大陸語の歌であろうが、南大陸語の歌であろうが、西大陸語の歌であろうが、東大陸語の歌であろうが、歌って聞かせる。
言葉の感覚が、一番近い大陸の歌を選んで、フレーズを思い出して謝ってみる。
”許して欲しいの、私馬鹿なの愚かなの。あなたの言葉が聞き取れず、悲しい思いをさせてしまって”
ちゃんと通じたようだ、歌は東大陸の歌だ。
僕達は東大陸へ運ばれてしまったらしい。
ちゃんと通じた証拠に、皆押し黙っている。
なんか目が座っている様な気もするが、気の所為だろう。
いきなり棒で抑え付けられ、社務所へ引き摺って連れて行かれた。
「兄ちゃん、何か怒らせただろ」
「いや、知らん」
土間の上で正座させられ、尋問された。
言葉が解らないので、自分を指差して、北大陸という言葉を連呼して、北大陸から来た事を伝えようとした。
すると、鏡を突き出されて、そこに映った僕の髪の毛の生え際を指差して怒鳴られた。
「○×▼◆××××!」
僕は髪を染めているが、この数日はそんな状況じゃなかった。
だから毛の生え際は結構黒くなっている。
お前は東大陸人だろ、嘘を吐くな馬鹿野郎と言う事らしい。
異世界人であることを伝える為、歌の単語を思い出し、明美を指差して勇女、自分を指差して勇者と連呼してみた。
男達が苦虫を噛み潰した様な顔になり、大きなため息を吐いた。
憐れむような目付きになり、肩をポンポンと叩かれてから解放された。
我ながら良く生きていた思う。
地殻変動で出来たのだろう、巨大な断層が目の前に延々と聳えており、滝はその断層を一気に流れ落ちている。
滝は崖下の巨大な森へ注いでおり、巨大な岩が転がる河原の直ぐ脇には、黒々とした深い森が迫っている。
濡れた服は、明美が風魔法で乾かしてくれた。
土魔法で周囲の岩を加工し、小さな岩室を作り、その中で一寝入りした。
竜を警戒しながらの仮眠の積もりだったのだが、思っていた以上に疲れていたようで、ぐっすりと熟睡してしまった。
竜の中で必死に頑張っていた時間は、自分の思っていたより長かったのかも知れない。
夜明けと思っていた陽が、沈み始めてやっと夕方と気が付いたくらいだ。
「兄ちゃん、腹減ったー。凄く腹減ったー」
明美は僕を、お腹にポケットがある青い狸?と勘違いしているのだろうか。
駄々をこねれば、何とかしてくれると思っている。
仕方がないので、蔓も何とか気力を取戻したので、森の中を一走りして食材を集めることにした。
魔素の目を使えば、周囲が暗くても関係無い、それに逃亡生活のおかげで、この辺のサバイバルスキルは随分上がっている。
移動も兼ねたので、明美を背負って森へ入った。
「おー、兄ちゃん凄い」
僕が何故森の中を飛び回れるのかは、説明した。
説明している最中に、蔓が明美の尻を撫でに行ったのだが、明美はぴしゃりと叩いて撃退した。
その存在が意識出来れば、何となく気配で解るらしい。
能天気で馬鹿な妹だが、この辺の感は、物凄く優れている。
枝を飛び移りながら、果実や茸や兎や栗鼠など、食えそうな物を拾い集める。
普段見慣れている物と、形も大きさも少し違うのだが、取敢えず食ってみることにした。
兎や栗鼠は、明美が木の枝に風の刃を宿して捌いてくれた。
里芋の様な芋を潰し、水に晒してから焼いてみた。
お好み焼きの様な物が出来上がり、旨みがあって美味しかった。
「兄ちゃん、ここで生活出来ちゃうね」
「みんなが心配してるから、帰るぞ」
「ぶー」
川の流れに沿って森の中を移動した。
水は人の営みの必需品だ、必ず町か村が有る筈だ。
五日目、一日二百キロは移動している筈なので、だんだん焦りが生じて来た。
太陽の沈む方向は確認しており、断層も遠ざかって行くので間違いは無いと思いつつ、同じ場所をくるくると回っているんじゃないかと、心配になって来る。
「兄ちゃん、諦めてここで暮らそうか」
「駄目だ、帰るぞ」
「ちぇっ」
この五日間、竜や魔獣に襲われる心配があるので、もちろんエッチしている余裕なんて無い。
夜は交代で周囲を見張っている。
六日目、突然目の前に海が開け、大きな港町が現れた。
街全体が高い塀で囲まれており、塀沿いに歩いて見付けた唯一の陸側の門は、鮮やかな朱色の、注連縄が張られた、鳥居の様な門だった。
門の外には街道も無く、門から森に向かって、五十メートルくらい白い玉砂利が敷いた道が伸びているだけだった。
魔素の目で見ると、門の内側には大勢の人が居るのに、門の外には人が全くいなかった。
門から町の中へ入ってみる。
”うわっ!”
一歩門の中へ踏み込んだら、周囲の人々が大声を上げた。
そこに立っていた人達は、黒髪黒目の褐色の肌の人達で、顔の彫が浅い。
うん、日本人、近所のおじさんやおばさんにそっくりだった。
門脇の社務所の様な建物から、棒を持った、白装束の男達が飛び出して来た。
「○×△□$#▼×○○!」
「○$△□×#○▼×○!」
「○#△□×$▼×○○!」
「○▼△○□○$#××!」
物凄く怒っているのだが、何を言っているのか全然解らない。
でも僕は、これでもプロの吟遊詩人だ。
客からのリクエストがあれば、中央大陸語の歌であろうが、南大陸語の歌であろうが、西大陸語の歌であろうが、東大陸語の歌であろうが、歌って聞かせる。
言葉の感覚が、一番近い大陸の歌を選んで、フレーズを思い出して謝ってみる。
”許して欲しいの、私馬鹿なの愚かなの。あなたの言葉が聞き取れず、悲しい思いをさせてしまって”
ちゃんと通じたようだ、歌は東大陸の歌だ。
僕達は東大陸へ運ばれてしまったらしい。
ちゃんと通じた証拠に、皆押し黙っている。
なんか目が座っている様な気もするが、気の所為だろう。
いきなり棒で抑え付けられ、社務所へ引き摺って連れて行かれた。
「兄ちゃん、何か怒らせただろ」
「いや、知らん」
土間の上で正座させられ、尋問された。
言葉が解らないので、自分を指差して、北大陸という言葉を連呼して、北大陸から来た事を伝えようとした。
すると、鏡を突き出されて、そこに映った僕の髪の毛の生え際を指差して怒鳴られた。
「○×▼◆××××!」
僕は髪を染めているが、この数日はそんな状況じゃなかった。
だから毛の生え際は結構黒くなっている。
お前は東大陸人だろ、嘘を吐くな馬鹿野郎と言う事らしい。
異世界人であることを伝える為、歌の単語を思い出し、明美を指差して勇女、自分を指差して勇者と連呼してみた。
男達が苦虫を噛み潰した様な顔になり、大きなため息を吐いた。
憐れむような目付きになり、肩をポンポンと叩かれてから解放された。
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