欠陥品なんです、あなた達は・・・ネズミ捕りから始める異世界生活。

切粉立方体

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46 タツモリ

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 ここは、東大陸南部にあるタツモリという町だった。
 竜の聖森と呼ばれる竜の聖地とされる森の入り口に作られた町で、遠方に黒龍の舞い上がる姿を拝める町として、町は多くの観光客で賑わっている。
 竜の聖森は人の立入りが禁止されている。
 鳥居の外は既に聖域なので、巫女が祈りを捧げる時以外は、町の外へ出ること自体が禁止されている。
 本来聖地に立ち入る事は厳罰なのだが、”竜に呼ばれたから”と言って、自称竜王や魔王や勇者を名乗る中二病の少年少女がしょっちゅうノコノコと森へ入って行くらしい。
 竜に呼ばれたとの告白は、本来竜神殿に報告しなければならない重大案件なのだが、社務所に詰めている神官達はいい加減辟易しており、見なかった事、聞かなかった事にしているらしく、それで僕等も多目に見て貰えたらしい。

 だから、この町から出るには、船に乗って海へ出るしかない。
 北大陸行の船が有れば話は簡単だったのだが、そんな船は無かった。
 東西南北の四つの大陸は、中央大陸を中心としてその周囲を囲む様に位置するのだが、中央大陸の回りには物凄く早い海流が時計に巡っており、北大陸へ行くには、中央大陸を海路でグルッと回るか中央大陸へ渡ってから、陸路で中央大陸を横断する必要があるのだ。

 観光客は海流の影響を受けない近海航路でやって来て、近海航路で帰る。
 多くの船が港を出入りしているのだが、遠海航路に出る大船は、年三回しか寄港せず、しかも船賃が無茶苦茶高かった。

 この町に来てから一月が過ぎた。
 僕は観光客のマッサージ、明美は荷物の配達で生活費を稼いでいる。
 狩は無理なので、吟遊詩人で稼ごうと思ったのが、この町では吟遊詩人稼業は成立しなかった。
 見た目日本人なのだが、皆無茶苦茶陽気で、酔うと勝手に歌い出し、勝手に踊り始めるのだ。
 店の中で幾つものグループが別々の歌を歌って、別々の踊りを踊って盛り上がっている。
 吟遊詩人が根付く土壌なんか、これっぽちも無かった。
 明美はこの雰囲気が物凄く気に入っており、仕事が終わると、毎晩僕の手を引いて呑みに繰り出す。
 なので船賃が全然貯まらない。

「兄ちゃん、僕このままで良いや」
「駄目だ、帰るぞ」

 マッサージの仕事は結構大変だった。
 夜、”蔓君の参加は無し”と明美に宣言され、蔓が明美から拒否されてしまったので、蔓のガス抜きのために始めた仕事なのだが、女性客相手には積極的に手伝ってくれるものの、男性客相手には一切手助けしてくれいないのだ。
 しかも客の八割は男性客だし、女性客でも四十歳を超えると手を抜くのだ。

「旦那、背骨が少し歪んでますよ、首の当りから矯正しますね。それと腰骨が少し緩んでいるんで締めときますね」
「おー、気持ちいいよ。按摩さん若いのに上手いね」
「ありがとうございます」

 レントゲン写真で診断している様なもので、思わぬ所で魔素の目が役に立っている。
 腕力が必要な結構大変な仕事なのだが、評判も良く、僕は結構稼いでいる。
 明美に稼いだ額を教えると、全部お酒に変ってしまうので、僕は密かに貯蓄し始めている。
 
ーーーーー
メトロノ王国第二王女 マルカート

 少し聖都も落ち着きを取り戻して来ました。
 黒龍が削り取った遺跡後に慰霊塔が建てられ、勇者様と勇女様も含めた合同葬儀がしめやかに行われました。
 聖都に住む王子、王女の全員が列席したのは勿論のこと、勇者様と勇女様の死を悼んで、多くの国から女王様方が列席して下さいました。
 面識が無いにも関わらず、多くの女王様が、勇者様の死をとても悲しんで泣いて下さいました。
 カリオペとランディーニも、親子で抱き合って号泣してくれています。
 私の母様も、私の悲しみが解るのか、私以上に悲しんで泣いてくれました。
 私は何か、心の中に大きな穴がぽっかり開いてしまった様な感じです。

 勇女のハル様とは、アキちゃんと勇者様の二人を失った共通の悲しみを分かち合っています。
 ハル様は、勇者様に自分の気持ちを伝えられなかったことを、物凄く後悔されています。

 葬儀が無事終わり、気が張っていたのでしょうか、城に戻った途端、悲しくて涙が止まらなくなりました。
 母様が、膝枕して頭を撫でて下さいました。

「マルカート、何時までも悲しみに浸っていると、勇者様があの世で悲しまれますよ。急がなくても良いですから、少しずつ気持ちを切り替えなさい。それじゃ、元気が出るように、少し良いお知らせを聞かせるわ。来年あなたに弟か妹が出来ます」
「えっ、母様」
「ええ、神様から赤ちゃんを授かったの」
「おめでとうございます、母様。父様もお喜びでは」
「父さんにはまだ話してないの。あなたが最初・・・、さっき勇者様にお話したから、あなたが二人目かしら」
「早く父様に教えてあげて下さい。きっと喜びますよ」
「ええ、そうよね。あはははは」
  
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