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Ⅰ 王都へ

21 盗賊

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翔・・・主人公、高1十五歳
彩音・・主人公の妹、中1十三歳
ニケノス・・・カルナの荷車の御者
メル(メルトス)・・・翔達の荷車の同乗者、小学生に見える少年。
ファラ(ファラデーナ)・・・メルの連れ合い、こちらも小学生に見える少女
カルメナ・・・翔達の荷車の同乗者、一番大人びた少女。
ユーナ・・・翔達の荷車の同乗者、カルメラと同郷の少女
カーナ・・・翔達の荷車の同乗者、カルメラと同郷の少女
カルロ・・・翔達の荷車の同乗者、カルメラと同郷の少年
カヤン・・・翔達の荷車の同乗者、カルメラと同郷の少年

マッフル・・・カルナの荷車隊の護衛隊長
ガロン・・・・カルナの荷車隊の護衛副長
グルコス・・・翔達の荷車の護衛
アケミ・・・荷車隊の護衛の一人
リット・・・荷車隊の護衛の一人
カエデ・・・荷車隊の護衛の一人
ゲント・・・荒野で合流した他の荷車の護衛
ケスラ・・・荷車隊の治療師、彩音の治療魔法の師匠
キャル(キャロライン)・・・スノートの王族に近い貴族の娘、金髪の妖精の様な超絶美少女
アミ(アルミナス)・・・スノートの王族に近い貴族の娘、銀髪でキャルと同じく妖精の様な超絶美少女。二人はスノートの少女達のリーダー的存在で、キャルよりやや思慮深い。
マーニャ・・・スノートの貴族の娘、武官の家系で普段から兵士達との交流が有り、口調が荒い。
グリス・・・クムの町の守備隊の小隊長

カミーラ・・・盗賊団の頭
カルラ・・・盗賊団の一人

カルナ・・・王命による地方から送られる少年少女の半強制移住者の呼び名、疫病の影響で減ってしまった都市部の少年少女を補充し、文化や技術を継承することを目的にしている。
ユニコ・・・眉間に輝く角を持つポニーくらいの馬。
メメ草・・・石鹸や消毒薬替わりの便利な草
グルノ草・・・傷薬になる薬草

タト・・・白金貨の単位
チト・・・金貨の単位
ツト・・・大銀貨の単位
テト・・・小銀貨の単位
トト・・・銅貨の単位

1タト=10チト=100ツト=1000テト=10000トト
1トトは日本円で100円位

ーーーーーーーーーー

カケルは護衛達を互いが見える間隔で並べると、足下の焚き火を消した。

「あんちゃん、焚火消したら暗くて周りが見えんぞ。それに野犬が寄ってきて不用心だろう」
「相手は人ですよ。弓の的になりたかったら止めませんが」

対戦ゲームで痛い目を見たことがある、現実世界ではごめんだ。

「判ったよ、俺が悪かった」
「それと皆さん何か異変が有ったら口笛を吹いて直ぐに伏せて下さいね。矢が飛んで来る前に」

荷車の後ろから楽しそうな話し声と歌が聞こえて来る。
そんな様子に気が緩んだのか焚き火を囲んで談笑している護衛隊もいる。
だが、翔の隊は脅しが利いたのか皆真剣に闇へ目を凝らしている。

何事も無く時が過ぎ、闇は静まり返っている。
翔はその静けさに漠然とした不安を感じていた。
マッフルが見回りに来た。

「ほう、何故焚き火を消した」
「弓の的になりたくないですから」
「カケル、お前軍隊経験が有るのか」
「いえ、有りませんよ」
「ふーん、ピュー」

マッフルがいきなり口笛を吹いた。全員が素早く身を伏せる。

「おい、カケル。これは」

何か言い掛けたマッフルを手で制して翔は短く口笛を二度吹いた。
伏せ続けろとの合図だ。

「隊長、あの藪が動きました」

翔は足下の焚き火の燃え差しを拾い上げ、藪に向かって投げる。
手を離れる直前に袖に隠し持ったライターで火種を宿らせ、藪に落ちる直前で燃え差しを燃え上がらせる。
藪に火を着けて周囲を照らそうと考えたのだ。

盗賊団の長カミーラは久々の大仕事に舌舐めずりしていた。
昨日の朝、商人達が大金を抱えて町を出たとの情報があったので後を追わせ、蜘蛛討伐の情報を掴んだのだ。

有り難かった、女を喰う女蜘蛛がクムの荒野に住み着いたと聞いてこの町のアジトの放棄も考えていたのだ。
蜘蛛を倒したのは驚くほど小さいカルナの荷車隊、その荷車隊が大金を抱えてクムの町に向かっているのだ。
見逃す手は無い。
仲間を集めて網を張って待ち伏せていた。
既に包囲している、荷車が少々増えて護衛も増えたが問題はない。
ゆっくりと弓で護衛の数を減らしてから、明け方に一気に襲えば良いだけだ。
幸い良い的になってくれている連中が多い。

「様子はどうだい、カルラ」

カミーラは伏せて荷車隊を監視している手下の脇に並ぶ。
頭には藪に見せ掛けるための葉や蔦の付いた枯れ枝を被っている。

「あっ、お頭。あたいの正面はちと手強いかもよ。火を消して隙をみせねえんだ」
「まっ、夜は長いんだ。気長に待つさ」

”ピュー”

「ん?、なんだろ」

カルラが顔を上げる。
 
”ピュー、ピュー”

カミーラも音のした方向を凝視する。
すると突然頭上に火の玉が現れ、頭に被った藪が燃え上がった。

「ギャー」

カミーラは悲鳴を上げながら燃え上がった藪を地面に放り投げた。
火の粉が散り、周りの手下の被った藪に火が生き物の様に物凄い勢いで走った。

カミーラは確信した、魔導士が護衛に混じっている。
噂では、火の蛇を使役して周囲を火の海に変える魔導士も存在するらしい。
良く考えれば、普通の護衛隊にあの蜘蛛が倒される筈は無かったのだ。

火は正確に襲って来た。
カミールは唇を噛んだ。
油断だ、網を張って誘き寄せた積もりが魔導士の罠に嵌まっていたのだ。
このままでは確実に焼き殺される、カミールは絶叫した。

「逃げろ!」

盗賊達が蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。

翔は驚いた。
藪が奇声を発して暴れ出したのだ。
急いでその姿を視認しようと飛び散る火の粉で周囲の藪に火を広げる。
そしてさらに驚いた、周囲の大きな藪が一斉に動き出したのだ。
藪が大きく燃え上がり、その炎の明かりの中に頭に藪を被った大勢の人間達が動き回っているのだ。
何か炎の中から叫び声が上がり、荷車隊の周囲の藪と思っていた物が全て動き出した。

「敵襲だ、戦闘態勢に入れ。囲まれているぞ。敵は多い、防御を優先しろ」

荷車隊の輪の中は、蜂の巣を突ついた様な大騒ぎになった。
護衛達は荷車を横倒し、盾替わりにして身構える。
荷車に水を掛けて回り、焼き討ちに備える。
小さな子供達は箱に隠れて縮こまり、母親達は鍋の蓋片手に包丁を身構える。

翔は周囲の藪全てを燃え上がらせるため走り回った。
怒号が飛び交う喧噪の時間が終わり、荷車キャラバンに静寂の瞬間が訪れた。
人々は息を殺して身構え、遠くで藪が燃え上がる音だけが微かに聞こえて来る。

何も起こらない、だが息を殺して全員が身構える。
旅の人間は死が常に身近に転がっている事を良く知っている。
そして荒野が夜明けを迎えた。

「奴ら藪に偽装してたようだな」

無人の荒野に転がる無数の根の無い藪の焼け残りを蹴飛ばしながらマッフルが呟く。

「隊長、何で奴ら消えちまったんでしょうか」
「さーな、良く分からんが相当慌ててた様だな」

弓や矢、サンダルの片方が燃え残って燻っている。

「俺達に恐れを成して逃げ出したとか」
「それは無いな、それなら最初から襲おうなんて考えん、それにこの数だ」

 根の無い藪の燃え残りは荷車隊の輪の周囲を囲んでいた。

「お化けでも出たんでしょうか、ふぁー」

原因者が最も的外れで適当な予想を立てて欠伸をしている。

「皆、眠いだろうが直ぐに出発だ。準備しろ」
「へい、了解」

翔は眠気を振り払いながら自分の荷車に向かった。
横倒しになった荷車を立て直し、散乱している荷物を積み込んで行く。

「カヤン、彩は何処に行ってるんだ」
「ニケノスさんとユニコ引き取りに行ったよ」

ニケノスがユニコを引き連れて戻って来た。
彩音はだらりとユニコの背に抱き付いている。
何故かズボンを履いて無い。
彩音が翔を認めると、ユニコの背からずるりと降りてよたよたと歩いて来る。

「お兄ちゃん、頭痛い」

声も涸れてるし、息も酒臭い。

「おい彩、ズボンはどうした」

彩音が上着の裾をちょこんと持ち上げ、自分の足を見つめて首を傾げる。

「判んない、お兄ちゃん抱っこ」

両手を伸ばして抱き付いて来た。
翔が抱き上げると肩に顔を擦り付けた後、寝入ってしまった。
仕方ないので、絨毯に包んで荷台に転がしておく。
 
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