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Ⅵ クシュナ古代遺跡

2 兄妹崖を降りる

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クシュナ古代遺跡 鑑定術師兼迷宮探索補助員 ナナ

寝不足の頭とまだ墨の香りが残る地図を抱えて宿に走る。

「お早うございます。はい、お約束の地図です」

海賊さんは朝食を食べ終わったばかりで、ちょうどお茶を飲んでいるところでした。

「確認させて貰うぞ」

海賊さんがテーブルの上に地図を広げ、舐めるように確認しています。

「腕の良い職人だな」
「えっ、判るんですか」
「当たり前だ、あんたも手配師なら覚えておけ、ほれ、線の太さが安定しているだろ。それにトラップを示す字を見やすい場所に目立つように書いてくれている」
「でもそれって原図を写しているだけじゃ」
「それは駆け出しのやる事だ、原図は情報にしか過ぎん。その情報をいかに判り易く地図に落とすか、それが職人の腕だ」
「ほれ、これは弟子が書いた地図だと思うが違いが一目瞭然だぞ」

いいえ、私には全然解りません。

「うむ、何だかこの墨の色は素人臭いな」
「うわー、ごめんなさい」

「ふわー、おはよー」

レンさん、綺麗な女性の方です、パジャマ姿のまま欠伸をしながら階段を下りてきました。

「此奴と地図の話してると陽が暮れちゃうよ」
「えっ?」
「此奴地図お宅なんだ。講釈ばっかり長くてさー。マスター、朝御飯頂戴」
「へい」
「命が掛かってるんだから、詳しくて当然だろ。それより、ウィルとアニーはまだ寝てるのか」
「うん、アニーは床に転がしておいたから直ぐに起きて来ると思うよ」
「あの二人は」
「あはは、当分起きて来ないと思うよ。若いって良いよねー、明け方までギシギシやってたよ。それよりモニカは」
「まだ寝かせてある」
「ふーーん」
「少し不安がっている様なんでな」
「愛してるって言ってあげなよ」
「そんな恥ずかしい事言えるか」
「ふーん」

「あのー私、籠の確認へ行ってきます」

「こらー、レン」

アニーさんと言う女性が怒って階段を下りて来ました。
私は慌てて宿を逃げ出しました、ええ、彼氏いない歴数十年の私には耳に毒です。

ーーーーー
なんかこの数日、精神的な安定を欠いた時にマリアが同調しているような気がする。
怒った時にマリアが二人になってハモるのもそうなのだが、昨晩は快感が高まって来ると声がハモり始めたのだ。
声だけじゃない、銀髪の中に混じった黒髪が点滅するように現れたり消えたりするのだ。
二人を同時に相手している気分になり、夜明け過ぎまでがんばり過ぎてしまった。

この事実は怖くてマリアには言えない、もちろんジョージもマリアに言えないでいる。

朝食後、降籠場に向かうとナナさんが勢い良く手を振って出迎えてくれた。
一般客の長蛇の列を尻目に、冒険者用の待合室に案内された。

待っている間も、ナナさんがちょこまかと走り回ってお茶や菓子などを用意してくれた、本当に良く気が回る子だ。

これから夕方まで、三回程の乗り換えはあるが、ずっと籠に乗ってひたすら下る。
それでも今日の目的地は中間地点、蟻の巣と呼ばれる崖の中腹の掘られた穴の町だ。
寝不足の俺には丁度良い休憩時間だ。

ーーーーー
クシュナ古代遺跡 鑑定術師兼迷宮探索補助員 ナナ

全員無事籠に乗り込み蟻の巣に向けて出発。
冒険者用の籠には初めて乗りましたが、ゆったりとした大きなソファーが配置され、小さな厨房と補助員用の控室、トイレも用意されています。
全員が立ったまま寿司詰めにされる一般客用とは大違いです。

急いで厨房でお湯を沸かし、今朝買っておいた御菓子を添えて、全員にお茶を振舞います。
勿論私も控室で椅子に座ってお茶と御菓子を堪能します。
こんな優雅な降籠なんて夢みたいです。

皆さんが静かになったので覗いてみると、海賊さんはモニカと寄り添い、レンさんとアニーさんはウィルさんに足を絡める様に抱き着き、そしてマリアさんはジョージさんの腕の中のすっぽり納まる様に寝ています。

皆さん幸せそうです、あーん、私も早く彼氏が欲しい。
犬の砂時計を抱えて、私も少しお休みさせて頂きましょう。

”ワン、ワン”

砂時計の吠える声で目を覚ましました。
一瞬自分が何処にいるのか判らなくなりましたが、思い出して慌てて窓から下を覗き込みます。
風が強く上へ吹き抜けて行きます、思っている以上に籠の降下速度は早い様です。

下の方の次の降籠見えています、まだ時間の余裕は有りそうですが、準備は早い方が良いでしょう。
皆さんを起こして回って、乗り換えの準備して貰います。
厨房の火の始末を確認して、控室の忘れ物を確認。
次の降籠が脇に並び、降下速度が同じになっている事を確認してから隣の籠と自分の籠を固定してドアを開きます。

「さあ皆さん、移動して下さい」

全員が移動した後は、客室に忘れ物が無いか確認。
確認終了後に私も隣の籠に移動しそれぞれのドアを閉める。
最後に籠間の固定を外して操作完了。
暫くすると隣の籠がゆっくりと離れて行きます。
全て完璧、マニュアル通り、自分で自分を褒めてあげたい。
でもそんな暇は有りません、急いで厨房に向かい、皆さんのお茶の準備を始めます。

ーーーーー
無事蟻の巣と呼ばれる崖の中間地点の町に到着。
篭の脇寄せて来た木の筏の上に乗ると、筏は滑る様に崖に掘られた大穴に吸い込まれた。
大穴の回りの崖には、無数の明かりの灯った窓や通路の入口が浮かび上がり、そしてそれらを結ぶ木の吊り橋の様な通路や階段が闇の中に浮いていた。

ナナさんが案内してくれた宿は崖に面した宿で、壁に掘られた窓から対岸の崖が眺められた。
ちょうど夕暮れ時で、対岸の壁が真っ赤に染まっている。
窓の下の木の通路では、アベックが大勢寄り添ってそのロマンチックな光景を眺めている。
俺達は特等席だ、手配してくれたナナさんに感謝しよう。

闇が徐々に谷底から這い登って対岸を覆って行く。
崖を染める赤が悲鳴を上げる様に、そして最後の命を謳歌する様にその色を深く濃く変えて行く。
そして大地溝が闇に覆われた。

「綺麗だったね、皆でお酒を飲みに行こうか」
「はい、今行きます」

レンさんが誘いに来た、俺達はナナさんも誘って大穴の飲み屋街に繰り出した。

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クシュナ古代遺跡 鑑定術師兼迷宮探索補助員 ナナ

海賊さん達を宿に案内した後、急いで明日の降籠の確認に向かいます。
宿は父さんの伝手を使って眺めの良い部屋を用意して貰いました。
降籠の時間を確認して、宿の戻ります。
宿の御主人に挨拶してから自分の部屋に入ります。
私の部屋は勿論外の見えない奥の部屋です。

今頃崖は真っ赤でしょう、でも表の通路はアベックが一杯で行っても惨めな気持ちになるだけです。
部屋で本を読んでいたら、ドアがノックされました。

「はーい、開いてます」
「ナナさん、僕達飲みに行くんだけど一緒にどう。奢るよ」
「あっ、それなら良いお店知ってます」

「ほーい、おじさんまた来たよ。今日は御客さん連れだよ」
「いらっしゃませ。ナナ、また鑑定の仕事が入ったのか」
「ぶっぶー、違いまーす。今日は補助員としての初仕事でーす」
「ほう、資格を取ったとは聞いてたがな。まあ、頑張ってるみたいだな」

おじさんは私の連れて来た海族さん達を見て、一瞬眉を曇らせました。
ふっ、ふっ、ふっ、たぶんおじさんは海賊さん達を荷運びさんと思ったのでしょう。

「おじさん、この人達を荷運びさんと思ったでしょ。失礼だよ、この人達資格を持った冒険者さんだよ」
「えっ!これは失礼しました」
「おじさん、お詫びにおいしい名物料理を安く食べさせて」
「ああ、ちょうど大土竜もぐらの肉が入ったところだ。土竜も一通り揃えてあるぞ」
「じゃっ、最初に土竜鍋お願い」

「これ美味しいね」
「それはヒメヒミズです。これが西部モグラでこれが東部モグラ」

「此の辺じゃ土竜は良く食べるの」
「ええ、この辺の名物料理ですよ。ミミズ鍋も有名なんですが外の人は嫌がるんですよね」
「うん、ミミズはちょっとハードルが高いよね」
「あたいもちょっと無理かな」
「私は全然無理」
「そうかな、僕は少し興味があるな」
「レン、あっちに行け」

御客さん達もここの名物料理を気に入ってくれた様です。

「おじさん、何か面白い話ない」
「これはちょっと小耳に挟んだ噂話なんだが」
「なに」
「王都で勇者が王権を奪ったらしい」

”ぶー”

「あれ?ジョージさんどうされたんですか」
「いや、何でも無い」
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