26 / 73
Ⅲ 王都フルムル
9 兄妹王都で寛ぐ2
しおりを挟む
ーーーーー
ヒューロス国南部方面司令部本部長 ニコノス将軍
メルメス湿地帯、通称メルメス大沼に隕石が落ちたとの情報を得たのは二日前、検閲所の守備隊長から街道を逃げて来た商人達の情報として報告が有ったのだ。
深夜に無数の隕石が沼に落下し、物凄い衝撃音の後、泥の大波が発生したというのだ。
泥の波は街道まで押し寄せたそうだが、勢いは衰えており、被害は発生しなかったらしい。
だが、その後に沼から物凄い数の沼の生き物が湧き出る様に現れ、街道の人を襲い始めたと言うのだ。
ノーラ街道の幕営地にはライカノ伯の娘さんを副隊長として派遣してあった。
比較的安全な任務を命じて現場の経験を積ませようと思ったのだが、それがまさかこんな事態になるとは思っても見なかった。
ライカノ伯には言葉で言い尽くせない程の恩義がある、もし娘さんに万が一の事が有ったら、恩を仇で返すことになってしまう。
自ら大隊を率いて、私はノーラ街道の幕営地を目差した。
ノーラ街道は想像以上に酷い状況だった、石畳の道は沼の底泥に覆われ、底泥特有の硫黄臭い腐敗臭が漂っている。
噂どおり、普段は沼の中に潜んでいる筈の沼蜥蜴や大蜥蜴、泥人や大沼蜘蛛が陸上を徘徊している。
街道を徘徊している沼の化け物共を蹴散らしながら、昼夜休まず進軍を続けて二日半、ようやく防馬柵に囲まれた幕営地が見えて来た。
遠目にだが、防馬柵沿いで兵士達が沼蜥蜴を撃退している、幕営地が無事確保できている様子に胸を撫で下ろした。
隼だろうか、幕営地から黒い点が蒼穹の空高く飛び立った。
こちらの方向に近付いて来る、たぶん本部への隼便だろう。
「鳥便兵!」
「はっ、呼び寄せます」
鳥便兵が鳥笛を吹くと、隼が大きくUターンして戻って来る、我々の上空で大きく旋回を始めた。
”ピュイ、ピュイ”
鳥便兵が器用に笛を吹き鳴らすと、隼が降下を始め、鳥便兵の革籠手に降り立った。
「クレイク隊長から将軍への至急便です」
「うむ」
受け取った手紙には、飛んでもない事が書かれていた。
「王都へ飛べる奴はいるか」
「はい、大鷲を一羽連れて来ております」
「よし、王都に便を送る」
「はっ」
ーーーーー
ガイドブックを調べ、王都観光遊覧船の船着場を探す。
ちょうど一人金貨一枚のガイド付の二泊三日コースがあったので申し込むことにした。
観光船船着場脇の、乗船券売り場の受付で申し込む。
「新婚旅行ですか」
「はい、妻との二人分でお願いします」
カテゴリー的には間違った説明では無いのだが、改めて口に出して注文すると物凄くむず痒くなってくる。
マリアも同じ気持ちだった様で、顔を赤らめている。
停泊中の客船に案内され、ベランダ付きの個室に通された。
大きなベットが部屋の中の大半を占領し、ベランダと室内に小さなテーブルと椅子がある。
便器も室内に有るのだが、何故か窓際に間仕切りもカーテンも無く、ドンと置いてある。
便器の蓋を開けると水が流れだし、そのまま運河に放出する仕組みの様だ。
木彫りの妖精の裸像が室内にやたら飾ってある、しかも男女の妖精が縺れ合っている彫像がやたらに多い、結構リアルに作ってあるので、目のやり場に困ってしまう。
たぶんここは新婚用の部屋なのだろう。
「兄ちゃん、ここちょっとなんだね」
「ああ、そーだな」
部屋に用意されたお茶を飲んで二人で寛いでいると、係員が昼食を知らせに来た。
案内された場所は船内の食堂では無く、船着き場にあるレストランだった。
ガイドブックによると、川魚料理の有名人気店らしく、予約を取るのも困難と書かれていた。
鮭を三倍の大きさにしたような魚の料理がメインだった。
刺身は無かったが、炙り焼きや酢漬け、燻製の薄切りやステーキなども豊富に用意されていた。
魚以外にも、貝、蟹、海老、川海苔などの食材も豊富な様で、唐揚げや酒蒸し、クリーム煮などが楽しめた。
米は無かったが、パンやパスタも豊富な種類が用意されていた。
「兄ちゃん、さすがに有名店だな」
「ああ、レベルが違うな。この毛蟹みたいな奴の蟹味噌も旨いぞ」
「兄ちゃん、これ伊勢海老みたいだよ」
「ああ、このイクラも丼で食いたいな」
食事が済むと再び船に案内された、船が動き出し王都観光のツアーが始まった。
最初は主水門へと案内された、直径五百ノトとガイドさんが説明していたから、直径五百メートルの岩盤に掘られた大トンネルの側道をガイドさんに付いて歩く、同行者は隠居生活入ったような年寄りばかりだった。
側道沿いには土産物屋が並び声を枯らして客を呼び込んでいる。
トンネル中程から出航待ちの船が並んでおり、船から伸びた縄を曳舟人夫達が曳いている。
「今日はまだ列が短い状態ですが、十日後に開催されます王女様の誕生会前後はこの十倍に列が伸びると予想されています」
街中に飾り付けが多かったので、何かの祭りが近いのかと思っていたのだが、王女の誕生会だったようだ。
トンネルの出口には検閲所が設けられていた、検閲が終わった船は、一斉に帆を張って河へと出て行く。
水夫たちがマストを駆け昇って帆を張る様は、素早い動きが爽快で見ていて飽きない、大勢の人達が船を見上げている。
帆を張り終わった船は、検閲所の魔術師が風術で送り出す。
「ここは水夫の優秀さを競う檜舞台とも言われております。各船主や船長は、ここからの出航が決まった段階から何度も出航の訓練を繰り返し練習を重ね、出航に備えるそうです」
検閲上の頭上には、船を圧する様に直径三メートルは有りそうな丸太で組まれた格子状の巨大な落し門が下がっている。
「ケラーロス山脈から伐り出したカラサイの巨木百本で作られた落し門です。門を吊り下げておりますのは、邪竜の革から作った丈夫な縄だそうです」
「邪竜ってのは勇者様が千年前に討伐した海竜かい」
「ええ、伝承ではそうだと言われてます」
この門が落下したら大参事だ、千年前の縄で大丈夫なのだろうか。
「それでは、船に戻ってください。次は王城見学に向かいます」
ヒューロス国南部方面司令部本部長 ニコノス将軍
メルメス湿地帯、通称メルメス大沼に隕石が落ちたとの情報を得たのは二日前、検閲所の守備隊長から街道を逃げて来た商人達の情報として報告が有ったのだ。
深夜に無数の隕石が沼に落下し、物凄い衝撃音の後、泥の大波が発生したというのだ。
泥の波は街道まで押し寄せたそうだが、勢いは衰えており、被害は発生しなかったらしい。
だが、その後に沼から物凄い数の沼の生き物が湧き出る様に現れ、街道の人を襲い始めたと言うのだ。
ノーラ街道の幕営地にはライカノ伯の娘さんを副隊長として派遣してあった。
比較的安全な任務を命じて現場の経験を積ませようと思ったのだが、それがまさかこんな事態になるとは思っても見なかった。
ライカノ伯には言葉で言い尽くせない程の恩義がある、もし娘さんに万が一の事が有ったら、恩を仇で返すことになってしまう。
自ら大隊を率いて、私はノーラ街道の幕営地を目差した。
ノーラ街道は想像以上に酷い状況だった、石畳の道は沼の底泥に覆われ、底泥特有の硫黄臭い腐敗臭が漂っている。
噂どおり、普段は沼の中に潜んでいる筈の沼蜥蜴や大蜥蜴、泥人や大沼蜘蛛が陸上を徘徊している。
街道を徘徊している沼の化け物共を蹴散らしながら、昼夜休まず進軍を続けて二日半、ようやく防馬柵に囲まれた幕営地が見えて来た。
遠目にだが、防馬柵沿いで兵士達が沼蜥蜴を撃退している、幕営地が無事確保できている様子に胸を撫で下ろした。
隼だろうか、幕営地から黒い点が蒼穹の空高く飛び立った。
こちらの方向に近付いて来る、たぶん本部への隼便だろう。
「鳥便兵!」
「はっ、呼び寄せます」
鳥便兵が鳥笛を吹くと、隼が大きくUターンして戻って来る、我々の上空で大きく旋回を始めた。
”ピュイ、ピュイ”
鳥便兵が器用に笛を吹き鳴らすと、隼が降下を始め、鳥便兵の革籠手に降り立った。
「クレイク隊長から将軍への至急便です」
「うむ」
受け取った手紙には、飛んでもない事が書かれていた。
「王都へ飛べる奴はいるか」
「はい、大鷲を一羽連れて来ております」
「よし、王都に便を送る」
「はっ」
ーーーーー
ガイドブックを調べ、王都観光遊覧船の船着場を探す。
ちょうど一人金貨一枚のガイド付の二泊三日コースがあったので申し込むことにした。
観光船船着場脇の、乗船券売り場の受付で申し込む。
「新婚旅行ですか」
「はい、妻との二人分でお願いします」
カテゴリー的には間違った説明では無いのだが、改めて口に出して注文すると物凄くむず痒くなってくる。
マリアも同じ気持ちだった様で、顔を赤らめている。
停泊中の客船に案内され、ベランダ付きの個室に通された。
大きなベットが部屋の中の大半を占領し、ベランダと室内に小さなテーブルと椅子がある。
便器も室内に有るのだが、何故か窓際に間仕切りもカーテンも無く、ドンと置いてある。
便器の蓋を開けると水が流れだし、そのまま運河に放出する仕組みの様だ。
木彫りの妖精の裸像が室内にやたら飾ってある、しかも男女の妖精が縺れ合っている彫像がやたらに多い、結構リアルに作ってあるので、目のやり場に困ってしまう。
たぶんここは新婚用の部屋なのだろう。
「兄ちゃん、ここちょっとなんだね」
「ああ、そーだな」
部屋に用意されたお茶を飲んで二人で寛いでいると、係員が昼食を知らせに来た。
案内された場所は船内の食堂では無く、船着き場にあるレストランだった。
ガイドブックによると、川魚料理の有名人気店らしく、予約を取るのも困難と書かれていた。
鮭を三倍の大きさにしたような魚の料理がメインだった。
刺身は無かったが、炙り焼きや酢漬け、燻製の薄切りやステーキなども豊富に用意されていた。
魚以外にも、貝、蟹、海老、川海苔などの食材も豊富な様で、唐揚げや酒蒸し、クリーム煮などが楽しめた。
米は無かったが、パンやパスタも豊富な種類が用意されていた。
「兄ちゃん、さすがに有名店だな」
「ああ、レベルが違うな。この毛蟹みたいな奴の蟹味噌も旨いぞ」
「兄ちゃん、これ伊勢海老みたいだよ」
「ああ、このイクラも丼で食いたいな」
食事が済むと再び船に案内された、船が動き出し王都観光のツアーが始まった。
最初は主水門へと案内された、直径五百ノトとガイドさんが説明していたから、直径五百メートルの岩盤に掘られた大トンネルの側道をガイドさんに付いて歩く、同行者は隠居生活入ったような年寄りばかりだった。
側道沿いには土産物屋が並び声を枯らして客を呼び込んでいる。
トンネル中程から出航待ちの船が並んでおり、船から伸びた縄を曳舟人夫達が曳いている。
「今日はまだ列が短い状態ですが、十日後に開催されます王女様の誕生会前後はこの十倍に列が伸びると予想されています」
街中に飾り付けが多かったので、何かの祭りが近いのかと思っていたのだが、王女の誕生会だったようだ。
トンネルの出口には検閲所が設けられていた、検閲が終わった船は、一斉に帆を張って河へと出て行く。
水夫たちがマストを駆け昇って帆を張る様は、素早い動きが爽快で見ていて飽きない、大勢の人達が船を見上げている。
帆を張り終わった船は、検閲所の魔術師が風術で送り出す。
「ここは水夫の優秀さを競う檜舞台とも言われております。各船主や船長は、ここからの出航が決まった段階から何度も出航の訓練を繰り返し練習を重ね、出航に備えるそうです」
検閲上の頭上には、船を圧する様に直径三メートルは有りそうな丸太で組まれた格子状の巨大な落し門が下がっている。
「ケラーロス山脈から伐り出したカラサイの巨木百本で作られた落し門です。門を吊り下げておりますのは、邪竜の革から作った丈夫な縄だそうです」
「邪竜ってのは勇者様が千年前に討伐した海竜かい」
「ええ、伝承ではそうだと言われてます」
この門が落下したら大参事だ、千年前の縄で大丈夫なのだろうか。
「それでは、船に戻ってください。次は王城見学に向かいます」
20
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる