神楽坂学院高等部祓通科

切粉立方体

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Ⅰ 第一学年

12 滅鬼術

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白い肢体と赤い唇、おじさんの研究室から出てもしばらくこのイメージが目の前から消えなかった。

「雷君、一緒に夕御飯食べようよ」
「嫌よ、ご飯が不味くなるわ」
「お姉ちゃん、何言ってるの、さっき助けて貰ったお礼だよ」
「うっ・・・、はー、仕方が無いわ、奢ってあげます」

赤い唇が二つ、何かを喋っている、義務感としてその唇に口を寄せそうになる、制服姿の二人の半裸に近いビキニ姿が目の前に浮かんで来るし、こりゃ不味い、色魔になってしまう。

「ごめん、これから滅鬼術の稽古が有るんだ」
『えー!』

少し引かれてしまった。

「雷君はマッチョ派目指すの、雷子暑苦しいのは嫌いだよ」
「まあ、てっきり頭脳派で行くのかと思ったら、武闘派路線で行くのね。ライバルが減って大歓迎ですわ」
「雷子貧乏生活は嫌いだからね」
「まあ、彼方なら肉体労働がお似合いかもね、精々貧乏神と仲良くなさい」

何か酷い言われ様を背に道場へ向かう。
確かに滅鬼術は武術だ、鬼を祓う時に黙って呪文を聞いているのは、動けない炬燵鬼ぐらいだ。
普通は当然鬼が襲って来る、だから戦いながら呪符で結界を張って相手を閉じ込める工夫が必要なのだ。

簡単なのが予め呪符で結界の枠組みを作って置き、戦いながらそこへ追い込む方法。
部屋の八隅に呪符を貼って置いて、その部屋へ誘い込むのはこの方法だ、ただこの方法は感の良い物怪や鬼には感付かれてしまい逃げられる。

こんな相手の時の呪符の罠の張り方は、地面に予め四角や三角の呪符の図形を作って置いて、相手がその図形の中に入って来たら、頭上に一枚護符を放り上げ、三角錐や四角錐の結界を構築する方法だ。
相手に気付かれ難いし、何よりも呪符の枚数が少なくて済むのでリーズナブルだ。
ただし、結界の強さは呪符の質や数や各辺の長さや等しさに関わるので、僕等初心者が簡単に出来る方法ではない。

更に上位者になると、戦いながら呪符を投げて、一瞬で三角錐の結界を構築することが出来る、先輩の稽古を見ていると何か恰好が良い。

結界の呪符は自分の適性に併せた札を使う、僕だった雷の呪符だし、火柱先輩だった火の呪符だ、ベースの術式の強さはそのまま結界の強さ関わって来る。

鬼との戦い方は、この道場では基本的には素手、ただし独鈷術や錫杖を使う杖術も教えて貰える。
部屋の隅にはウェートトレーニングの道具も揃っており、確かに雷子の言ったとおり先輩達はマッチョだった。

ただ初心者の僕は今日も受け身の練習をする、後ろ受身の練習を一時間程繰り返すと首の筋肉に力が入らなくなる、受身を取った時に顎を引く力が無くなるのだ。
先輩との乱取もひたすら投げられ役だ、稽古が終わると汗でビッショリ、やっと目の前から白い肢体の幻が消えた。

先輩達と一緒に夕飯を食う、大学生が多いので当然酒が入る。

「おい、雷夢も飲め」
「でも先輩、僕は高校生で未成年ですよ」
「これは酒じゃないから大丈夫だ」
「いやいやいや、それ日本酒ですよ先輩」
「違うぞ来夢、これは神酒だ、酒じゃない」
「神酒だって日本酒じゃないですか」
「違うぞ、本物の神酒は宗教行為で使われる水だから税が掛からん。だからこれは水だから大丈夫だ」

結局無茶苦茶な論理で水を飲まされて酔っ払ってしまった、千鳥足で寮に帰る。

「おう、雷夢ご機嫌だな」
「ええ、美味しい水でした先輩」
「あんまり水を飲み過ぎるなよ」
「はい、了解です」

部屋からタオルと手拭いを持って風呂に向かう。
丁度舞君も風呂に入る様で、何時見ても服の脱ぎ方が色っぽい。
タオルを縦にして胸と腰を押さえている。
悪戯心がムクムクと沸き立ち、背後からこっそり近づいてくすぐり倒してしまった。

「あっ、嫌、雷人君、あはははは、ちょっと待って、あはははは、恥ずか、あはははは、勘弁、あはははは、参った、あはははは、ギブアップ」

互いに背中を洗ってから湯船に浸かる、うん、やはり男同士の友情は良い物だ。

「もー、雷人君酔っ払ってるでしょ、高校生の癖にー」
「水飲んだだけだから酔っ払ってないぞー」
「本当にしょうがないんだから」

何か湯に浸かったら酔いが再び回って来た。
脇に白い肢体と赤い唇が有る、大変だ、早く意識を覚醒させなければ。

”ブチュ”

「んーん、んーん、んーん、はあ、はあ、はあ、雷人君?」

あれ?僕は今一体何をしたんだろうか、頭が良く回らない、まっ、いいか。
部屋に帰ってそのまま直ぐに眠ってしまった。

翌朝、目が覚めたら炬燵の中に居た、頭が痛いし何か物凄く寒くて炬燵から出たくない。
ん?慌てて炬燵の中を覗き込む、うん、居た、赤い目が俺を見つめている。
炬燵に入ったまま鞄を引き寄せ、雷の護符を炬燵の八隅に置く。

「真浄の中に清真を成し邪を退けて我意に答えて・・・」

炬燵板の中央に祓の呪符を置いて印を結んで、呪文を唱える。

「我意に答えて邪を清と化し常しえの御神に願い・・・・」
「この野郎、僕の炬燵を返せ、えい!」

祓の呪符が輝いて炬燵板の中に沈み込んで行った。

”ぎゃー”

くそー、六千円の炬燵の維持に既に一万二千円も使ってしまった、予備の呪符を後二組用意した方が良いかも知れない、雷子の言っていた”貧乏生活”の言葉が頭の中でリフレインする。

朝、乱動さんと舞君と僕の三人で寮を出て歩いて登校している間、舞君がなんか楽しそうにはしゃいでいた、どうしたんだろうか、うー、何かまだ頭が痛い。
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