つかぬことを伺いますが ~伯爵令嬢には当て馬されてる時間はない~

有沢楓花

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第4話 協力者

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「証拠は自力で集めるので、法廷で戦う方法を教えてくれる方を探していたんです。
 勿論、あの言葉でヘクターが反省して諦めてくれるならいいんですけど。
 少し相談したい程度だったので専門家に相談するほど大事にしたくもなく……そこで学生の論文を眺めていましたら、検事のお仕事について興味深い論文を発見しまして――それがレイモンド・ストウ様でした」

 その後は簡単だった。その論文を査読している教授に聞いて、平民であることや本人の顔立ちや図書館塔の最上階に出入りしていることを教えてもらったのである。
 幸いフランシスも図書館塔の利用許可証を持っていたから、出会うのは簡単だった。

「とても素敵な論文でした。起訴手順について、特に証拠からの論理の組み立て方が素晴らしくて……」
「検事になりたいってだけの学生だよ、しかもうちは爵位もなければ大した財産もない平々凡々な庶民だし」

 フランシスの瞳は一瞬輝いたようだったが、レイモンドは遠い目をしてから首を振った。

「……あれは貴族のやり方を知らない僕だから書けたんだろうって褒められたからね」
「法廷は倫理と論理とで運営されるべきです。
 他の論文……たとえば証言にかかる身分その他外見によるバイアスについての考察だって素晴らしいものでした。特にあの巷を騒がせたメアリーアン事件を、証言をもとに再構成した……」

 彼女は熱く語りそうになってから、自分が一方的に持論を繰り広げそうになっていることに気付いてトーンを落とした。

「すみません」
「ああ、いや。……評価されるのはまあ、悪い気分じゃない」
「それは勿論、法廷にだっていろいろあるのが現実です……私が特殊な背景をストウ様にお伺いしたのは、間違っても権力などによる圧力がかかるのは嫌だったからです。
 こちらに不利なのはもちろん、あちらに不利なのも。公正でないとヘクターに思って欲しくなかったからです。公正じゃないってなると妄想に拍車がかかりそうでもありますし。
 この件はヘクターのご両親にも相談していました」

 当然のことのようだが、ヘクターの両親も彼の暴走に手を焼いていて、婚約解消の方法についてはフランシスの意向を汲むと言ってくれていた。
 今までなあなあになっていたのは、幼馴染と家族ぐるみの付き合いという情によるものである。

「それに勝ち目はあります。……私、魔法医学部を選んだのは、元々事件において医学からの見地やその他証拠を役立てることについて興味があったからでもあるのですが……自分への濡れ衣を晴らすためというのもあるんです。
 まさかわざわざこのために、魔力痕跡の探知や足跡の保存法を考えたり、隠蔽されそうな指紋を採取したりすることになるとは思いませんでしたけど。
 それなりに証拠は集まっていますから、とにかくまとめて訴状のようにしてヘクターに一度叩きつけて……そこで、目が覚めればいいんですけど」

 話を黙って聞いていたかに見えたレイモンドは、いつの間にかはっきりとした興味を持ってフランシスを見つめていた。

「もしかして、今検察で取り入れてきているブロードベント式指紋採取法……あれ考えたの、君?」
「え? は、はい。魔法で覆い隠した指紋に対して、魔法の影響を拭い去るやり方ですね。魔法に適性がない方向けの採取用粉末って軽くって飛びやすいですし、散らかしたり吸い込みたくないので、試行錯誤しました」
「あれで付いた時間もある程度分かるようになったんだよね?」
「はい。それはオプション機材でお値段が高くなってしまうのが難点ですが」

 頷くフランシスは、思い出したように続ける。

「……そうでした、説明の続きですね。ヘクターには婚約解消をどうしてもしてもらえない時にはこちらから破棄しようと思っていたんですが、どうも揉めそうだったので。結婚してしまえば有責にはなっても接点がなくなると思って――それでストウ様に協力と一緒に結婚を申し込んだんです」
「それで結婚の方が婚約より強い、ね。確かに書面上だとそうだけど。君、結婚するより先に病院行った方がいいよ」

 至極当然のアドバイスだったが、そう言ったレイモンドはどこかうわの空のように見えた。

「そうかもしれないですね。せっかく教授とうまくやっていけそうなのに……転学も視野に入れます」

 リンゴジュースを飲み干して、また沈み込みそうになるフランシス。
 その頭に声がかかる。

「君は、本当は幼馴染が好きなの?」
「……恋愛対象では全くないです。幼馴染としては好きだったんですけど」
「そう。なら協力してもいいよ」
「そうですよね。断られても仕方のないことをしました――失礼いたします」

 ふらりと立ち上がるフランシスの腕を、今度はレイモンドが取った。

「話聞いてる? 協力してあげてもいいって言ってるんだよ」
「え……ええっ? 本気ですか!?」
「驚く必要ないだろ。被害者が転学する必要なんかない」

 目が合う。薄青の瞳が今までになく強く、射抜くようにフランシスの瞳を見ていた。

「決まったら今日は早退してゆっくり寝るんだね。明日から君の家の図書館に詰めるんだから」
「……そうします」

 ぱっと手を離されて、フランシスは熱くなる頬をごまかすようにごそごそと鞄の財布を探る。自分の味方がやっと得られたことへの嬉しさと、それと他の何かを自分でもごまかすために。
 ……が。――あれ、と気付いて、立ち上がっていたレイモンドの自身より少し高い背を見上げた。

「……家……家ですか?」

 栄養補給を終えたフランシスは、婚約者でもない男性を家に招くのはどうなんだろう、と常識的なことを考えられるようになっていた。

「当然だね。君があのブロードベント家の直系なら、法医学者の一族だろう。図書館は君が最初に交換条件に挙げた通り、その手の犯罪と医学の書物の宝庫のはずだ。
 何度も訴えるのは現実的じゃないから、言い逃れできない確かな証拠を固める必要がある」
「ええ、はい」
「君がヘクターの改心を望むのなら、ハッタリは徹底的にやった方がいい」

 そうしてレイモンドは、はじめてにっこりとフランシスに笑って見せたのだった。

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